班への帰還 (12月11日8:00~14:40)
文字数 7,743文字
朝食後、
いつものように護衛担当2名を残し、他が集結する。
本日もみな私服だった。
「では、ミーティングを始める。」
一呼吸置き、不知火が続ける。
「昨日は各自が任務にあたっていた。緊急案件が入ったやつもいたな。本当にお疲れ様でした。集まった情報から、
残りの2人
はオフィスへ戻ってからの方が捕まえやすいと判断した。よって、本日昼食後に「本日
「基本、男子はこのまま明日の夜まで保護任務続行だ。雨宮は
「はい。」
班員は返答した。
「あ。帰宅時期については明かしてくれて構わない。その方が向こうも安心するだろう。女子は早めに荷物もまとめなきゃだしな。……と、いうわけで。ラストスパート頑張っていきましょう!!」
「はい!」
班員は返答した。
「これにて終了!解散!……
「はい。呼んできます。」
晴野はリビングへと向かった。
――20XX年12月11日 13時20分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス
少し寒いが、外の空気を吸いたかった。
ぼんやりと街並みを眺め、現実から目を背ける。
さて、皆さまは雪はお好きだろうか。
部屋の中から外を見ている分には綺麗だろう。
ふわふわ舞い降りてくる雪はどこか神秘的で、
それか、かまくらを作って、のんびりしてみたいものだ。
雪だるまや雪うさぎを作るのも楽しいだろう。
だが、雪は過ぎれば道が塞がり、家屋は重みでつぶれる。
山間部では雪崩になることもあるだろう。
適度な雪かきが必要となるのだ。
中途半端または強烈な太陽光はあまりよろしくない。
雪の上に積もった新しい雪の部分だけが
そのため、春の気温と太陽光でなるべく緩やかに融雪し、最後は土壌や人々に恵みを与える
なぜ今こんなことを思ったのか?
――答えは、班が
崩壊しかけている
からだ。……これ以上はどうにもならなかったのだ。
――晴野が居ないと、雪平が運用できない。
班は晴野の不在で由々しき事態に直面していた。
雪平の通常業務は見た【色】をまとめて送る感じらしい。
そのため晴野が残していたチャート図を使いつつ、来たものを片っ端から処理していく方法でよかった。
得意なことや好きなことに関しては注意力は持続する為、今までは特に目立ったミスは起こらなかった。
だが、今回は班員2名が抜け、連絡があっちこっちから届き、各自が対応に追われている。
状況がいつもと違い、雪平はパンクした。
恐らく、雪平はADHDや高機能自閉症の特性を持っているように思う。
何かをしたら何かを忘れるため、作業が滞るのだ。
しかも、意識はあちらこちらへ向いていく。
だが、
霧島と天道は顔を引きつらせながらも一生懸命雪平に向き合っていた。
だが、霧島にも緊急案件が入り、班からいなくなったことで状況が更に悪化した。
結果、天道が匙を投げてしまい、
何かの連絡が入るたびに、雪平の意識がそっちに行ってしまい、
……一体、晴野はいつも、どんな方法で、あの雪平を動かしていたんだ……。
現在、
頼むから余計なことをしないでくれという心の叫びも届かない。
雪平は普段だったら、相手の気持ちを読むのが苦手でも【色】で判別し、分からないなりに相手に寄せて回答してくれる。
だが、今は意思疎通が出来ないし、こっちの意見も通じない。
雪平が天道より手こずるなんて思ったこと無かったのに……。晴野の
晴野は過去にパンクした雪平も上手くいなして運用していた。
だが、今回は晴野が居ない。
以前晴野がやっていたことを真似てみたが、
班の崩壊は秒読みだった。
というかもう崩壊して……いや、まだギリギリ大丈夫なはず。
まだ班員全員が見限ったわけではない。
本当に、この場に
幸いなことに、昨日の夕方に
霧島はかなりシビアな側面がある。
霧島と天道は使えない者は切り捨てるという価値観を持っているため、今頃雪平の傍に居たら、雪平に見切りを付けていた可能性が高い。
本当に、霧島に
終わり
だ。天道は班の
自分の受け持っている班だろ。部下だろ。
諦めるな。匙を投げるな。頼むからもっと頑張ってくれ。お前、
班の上司だろ
!!ただ、天道がなぜ晴野を秘書のようにし、雪平の補佐をさせたのかが……この3日間でとても、よく、理解できた。
――早く晴野、帰ってこないかな……。
――そろそろ戻るか。
確かにリーダーをやる決心はした。
だが、雪平を制御できないことで、本当に自分はリーダーとしてやっていけるのか不安になる。
エレベーターに乗る気になれなかった
足取りが重い気がするが、きっと気のせいだろう。うん、気のせいだ。
階段を降り切り、廊下を歩く。
第一ドアロックを開錠し、第二ドアロックへ向かって進む。
第二ロックドアを開けてオフィスに戻ると、死んだ顔の天道と嵐山が居た。
床には大量の紙が――追加で来た資料か?が散らばっている。
雪平と3人で拾い集めていた。
…また、何かが起こったらしい。
……班のことだ。聞いたほうが良いのだろうか。
本音を言うと、聞きたくはないが。
というか、天道のネクタイが
異様によれている
のは何でだろう。俺が出て行くまでは、少し緩めてはいたが綺麗だったはずなんだが。
――もしかして、
キレた
!?だから俺を外に出したのか!?ネクタイ掴んで天道に怒鳴ったりしたのか!?本当に「天道が大人しく書類を拾うのを手伝っているということは、
これ以上班の崩壊は必要なかった。というか、もう何も起こって欲しくなかった。
書類を拾うのを手伝おうと1歩踏み出そうとしたとき、第二ロックドアが解除された。
「――
入ってきたのは桜だった。
桜は白髪赤目という神秘的な見た目をしているため、会ったことがある人からは「白蛇ちゃん」と呼ばれているらしい。ただ、奇っ怪……特異な行動が目立つ、不思議ちゃんではあるが。
今日の髪型はツーサイドアップにしていた。
結び目に着けた長い深紅のリボンがゆらゆら揺れている。
桜は無言で歩き出す。
3名掛けのソファの前まで移動し、そして――
ソファに横になった。
――え?
すよすよと安らかな寝息を立てている。――
他所の班のソファの上で
。……桜は突然、
もう、訳がわからないのは雪平だけで十分だった。
天道は頭を抱え、しゃがみ込んだ。
だが、1人だけ様子が違う班員が居た。
雪平だ。
声にならない叫びを静かにあげ、喜んでいた。
これは、ヤバい。止めなければ……!!!!
「お財布……ある!ぼ、ぼぼ僕、お菓子買ってきます!!」
そう言い、走ってオフィスから出て行こうとする雪平の腕を
簡潔に
、雪平に分かりやすいように
説得を試みる。「待て雪平!!危険だから
外には出るな
!!!頼むから、この建物から出ないでくれ
!!」「あ、確かに外は
頼ま
なきゃ……!!」「ん!?」
――頼む……
頼む
!??俺はお願いだから
建物から出るなと言ったんだが!?「えっと、
危ないのは公安
だから、そうだ、公安に頼み
ましょう!!――あ、もしもし1課2係7班の雪平です!」「――え。いや……は!?」
雪平はデスクに戻り、流れるような動作で公安に電話をかけ始めた。
次々と要望を伝えていく。
――待て!雪平!?公安の捜査員を私利私欲で使うんじゃない!!!!
だが、雪平は止まらない。
もう止められない。
「これで
良し
。雪平は
何も良くない。
取り残された
もう、無理だった。
雪平が出て行ったことで自分たちの心の安寧が保たれた……そう思うしかないだろう。
すると、第二ロックドアが解除され、人が入ってくる。
「お邪魔するでござるーwww徹夜明けFooooo!!!ハイ・テン・ション!!!www」
「ただいまぁ。いやぁ、やっと終わった……ふわぁ、あ―……れ??えっと、僕たち資料室で情報をまとめようと思ったんだけど……?何、この状況??」
足元に散らばる大量の書類。
見知らぬ班員がソファで爆睡。
表情が死んでいる班員。
天道は床にしゃがみ込み、頭を抱えている状態。
なぜか1万円札を持っている
なぜか居ない雪平。
2人は足を止めて、異様な光景を見回した。
「……ネフィリムリーダー、いらっしゃい。
「
「あんさんらは資料室行っとれ……。
嵐山、
「へ、あ、うん……そうする、よ……??」
「アッハイ。お邪魔する、で、ござるぅ……??」
――20XX年12月11日 14時30分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス
「ただいま……。――は??」
だが、室内に入ってすぐ目に入ったのは、なぜかソファで寝ている
見知らぬ班員
とミーティングルームの机の上にある大量の和洋のお菓子
。そして、
雪平
だった。何度か瞬きをし、目をこするが夢ではない様だ。
――何だこの状況。てか、その大量の菓子はなんだ。……全く持って意味がわからない。
視線を感じてデスク側を向くと、人差し指を立てて手招きする嵐山が居た。
雪平の様子をちらっと見て、嵐山の方へと向かう。
嵐山は霧島の手を掴み、武器庫へと入った。
困惑しつつ、霧島が聞いた。
「嵐山……あの、一体何が起こってる??」
「聞かないで……私にも
わからない
わ。」「え。」
異様に疲れ切った嵐山に【わからない】と言われ、更に困惑する。
何なんだよ一体。
状況がおかし過ぎる。何が起こってんだ……!?
嵐山は霧島の両肩を掴み、霧島の目を見て口を開く。
――待て!!何か異様に怖いんだが!!?
「ただ、
雪平の邪魔はしないで頂戴
。今、すごく落ち着いているのよ。……【触らぬ神に祟りなし】よ。」……嵐山の圧が怖い……。
絶対にやめろ、という圧をこれでもかというくらい感じる。
「……わ、わかった。」
霧島は頷くしか出来なかった。
こんな嵐山、はじめて見た。すごく怖い。
霧島が了承すると、嵐山は霧島の両肩から手を放し、圧もなくなる。
疲れ切った嵐山に戻った。
――おい、雪平。お前一体
何したんだ
……!?霧島は震えた。
嵐山は頭を押さえ、ため息をつく。
その後、嵐山は発言した。
「あと、あの子、やっぱり5課の可能性が高いみたい。勝手に追い出すとまずいから、あの子の邪魔もしないで
「そうか……。5課って何なんだろうな。」
「知らないわよ……。ただ、あの子が来て雪平が落ち着いたのは事実。お陰様で今は仕事がやりやすいわ。とても。」
「そ、そうか……。えーと、雪平は一体
何を
――」「知らなくていい!!あなたは本当に知らなくていいから……!!!今後一切!誰に対しても!聞かないで頂戴!!!」
嵐山の圧に押され、頷くことしかできない霧島だった。
「話は以上よ。……戻りましょう。」
「……わかった。…ありがとう。」
「どういたしまして。」
嵐山が武器庫のドアを開け、外に出る。
霧島も嵐山の後を追って、デスクへと向かった。
――20XX年12月11日 14時40分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス
桜が来て約1時間後。
目が覚めた桜に雪平が日本茶を出した。
雪平はにこにこ嬉しそうに桜を見つめ、桜は嬉しそうにお菓子を食べている。
ミーティングルームは穏やかな空気に包まれていた。
……デスクとは対照的だった。
遡ること数分前。
起きた桜に雪平がお菓子をすすめ、飲み物の注文を取った。
桜は小麦を含む麦類全般が食べられない体質(アレルギーとグルテン不耐症の併発)らしい。
調味料に含まれるのもダメなようで、食べられる市販品はかなり少ないようだった。
なので、食べるものは小麦やオートミールが入っていない国産のチョコレート――外国産のチョコレートだと、極まれに小麦由来の香料やモルトシロップが入っていることがあるため、注意が必要だ。――か、小麦や醤油を使っていない和菓子になる。
ケーキやエクレアは完全に小麦だし、和菓子やおせんべいの中には原材料に小麦が入っているものもあるため、雪平が揃えたものの約9割は食べられないようだった。
桜は机に広がったお菓子の中から、
和のものが多かったため、雪平は日本茶を淹れ、桜に持って行った。
和菓子は上等なものだ。
雪平の頼みで、美味しいと有名な老舗和菓子店で購入されていた。
どうやらすごく美味しかったらしく、桜はきらきらした瞳でとても嬉しそうに食べていた。
様子を見に行った天道が、桜のそばに近づき、発言する。
「あんさん、ホンマにどこの
桜は無言で煎餅の袋を開け、文句を言ってくる天道の口に突っ込み、物理的にふさいだ。
黙れという事らしい。
天道はブチギレたかった。
だが、本当に5課所属なら言いがかりをつけられて大問題に発展する可能性がある。
天道はこらえることにした。
ジト目で桜を見ながら、無言で口に突っ込まれた煎餅を咀嚼した。
桜はふと何かに気付いたように顔を上げ、近くに居た雪平に指示を出した。
「お茶……4つ……。」
「はい!入れてきます!!」
雪平は速攻でお茶を入れにキッチンへ向かう。
どうしよう。雪平が完全な
お茶の数がおかしいのだ。人数と合わない。
ミーティングルームへと向かい、桜の近くに座る。
「桜はお茶が【4つ】と言ったが……4つの理由を聞いてもいいか?」
「……帰ってくる、から。」
「え……?」
その言葉を聞いた天道が思いっきり顔をゆがめ、様子を見に来た霧島も眉間にしわを寄せている。
2人とも言葉の理解に苦しんでいるのだろう。
嵐山も来ていたようで、首をかしげている。
資料室から出てきた
この状況で帰ってくるとなると、
姿を隠している2人の班員
しかいないのだが……。……2人護衛が付いてくるということか?――まさかな。
桜は湯呑を手に取り、お茶を飲む。
また机へと手を伸ばし、煎餅を手に取り、食すのだった。
数分後。
足音と共に、第二ロックドアの開錠音がした。
振り向くとそこには――
「たっだいまー!!あー久々のオフィスだわーww……んえ?何か真っ白な子居る。もしかしてアルビノ!?すげぇはじめて見た。キレー!!」
「只今戻りましたわ。……あら、とても神秘的な方ですわね。どちらの班の方でしょうか?」
「おじゃましまーす!!デリバリーでーすwwwこいつら2人をお届けに参りましたーwwうぇーいwwwwうおっ!めっちゃ真っ白な子居る!!誰誰!?てか俺が知ってるより数人多くね?人数増えたの!?」
「
晴野と雨宮、そして――なぜか
晴野によく似た
ガタイのいい男性がオフィスに入ってきた。……どちら様でしょうか??
「アストライアー!雨宮!おかえり……!!無事で良かっ――ひぃっ!?し、知らない人!!??陽キャオーラが……!?ぐあっ!!」
「
「――へ?……あれ?本当だ。似てる……!?もしかして……。」
「お茶入りましたー!!」
周囲が見えていない雪平がテーブルの上にお茶を4つ乗せたのトレーを置く。
「……3つ……。」
桜は入り口に居る3人を指さし、雪平を見て告げた。
雪平はきょとんとし、入り口――第二ロックドアの方を振り向いた。
「――え?……わぁ!!おかえりなさい!!お元気そうで何よりです!!よかったぁ……あれ?後ろの方はどちら様でしょうか。」
視線が一気に男の人へと向く。
男の人は満面の笑みを浮かべ――
「対面でははじめまして!!