オフィスの異変 (12月5日17:30~21:30)
文字数 4,474文字
班員はそれぞれ公安の運転する車で帰宅し、荷物をまとめ、オフィスに戻ってきているところだ。
雨宮は
今回も長期化しそうなため、冷蔵庫の中身や余っているものを持参した。
そうすると、
雪平の様子がおかしい。
雪平は共感覚の持ち主で、その中でも見える【色】で様々なものを判別することができる。
恐らく今回も警戒すべき【色】が見えたのだろう。
渦雷が話しかけようとすると、雪平は「注意」と「
掃除
」のハンドサインを送ってきた。掃除
とは「盗聴器や盗撮用小型カメラなどの確認」を指す、特捜で使われる用語だ。雪平は再度オフィス内に入り、既に到着していた
今、オフィスに戻っているのは
今のうちに今いる通路を
掃除
しておく。通路からは何も見つからなかった。
なるべく話さないようにし、班員が揃うのを待つ。
緊迫した空気が漂う。
公安によると、あと5分程度で雨宮が戻ってくるとのことだ。
不安障害を持っている
第一ロックの開錠音が響き、雨宮が入ってくる。
「戻りました――わ。」
第一ロックと第二ロックの間の通路に班員が集まっているのを見て、雨宮が一瞬止まる。
雪平のハンドサインを見て、すぐに状況を察してくれたようだ。
全員が揃ったところで部屋の
掃除
に入る。ミーティングルームを女子が、デスクを男子が
掃除
し、逆転して2重チェックを。その後、武器や備品を置いている部屋を女子が、キッチンを男子が
掃除
し、同じように逆転して2重チェックをする。最後に男女各々で仮眠室を
掃除
し、東雲は資料室を掃除
する流れだ。いつもは男女わかれて終わり次第2重チェックをしているが、雪平がかなり警戒しているため、今回は男女一斉に細かい所まで調べることにした。
荷物を第一ロックと第二ロックの間の通路にまとめ、男女でわかれる。
棚や観葉植物を動かし、裏側を目視で確認する。
コンセントカバーを外す。
椅子やソファー、テーブルの裏も見る。
棚の中身を一度出し、確認後元に戻す。
数名で冷蔵庫も動かした。
いつもは簡易的に盗聴器発見器などで済ませる場所も、1つずつ丁寧に見ていく。
最後にオフィス内全体を盗聴器発見器を使って確認した。
結果、室内から盗聴器が4つ見つかった。
設置場所はミーティングルーム、更衣室兼仮眠室(男女それぞれ1つずつ)、デスクだった。すべて電力供給に困らないよう、コンセント内部や延長コードの中に仕掛けられていた。
恐らくこれで全てだろう。
盗聴器を回収し、無力化したが――嫌な予感がする。
「…僕、急いでパソコン確認してくる!」
だが、どうやらパソコンに侵入された上に、カメラのデータが無くなっているようだ。
雪平は
「…ゆっきー、他に何かおかしな【色】見えたりする?」
「1つだけ…。資料室の、東雲君の生活スペースの反対側にある手前の棚、上から2段目の段ボールが変な感じがします。」
「おっけ。バラすよ。」
晴野と雪平が声を潜めて会話をし、デスクルームに該当する段ボールを持ち出す。
段ボールを開け、中身を出す。
まるで雑多に詰め込まれた資料の中に埋めこむかのように、バッテリーに繋がった小型カメラが設置されていた。
よく見ると段ボールに小さな穴が開いており、そこから室内を監視する気だったのだろう。
資料室を
掃除
したのは人数が増えると不安障害持ちの東雲はその場に居られないため、
「……セキュリティ、相当高めていたはずなんだけど…?どうやって侵入したの?これ、ウイルスとか大丈夫な感じ??買い直さなきゃダメなパターン??」
パソコン内部を確認し終えた
「…ちょっと私の席も確認してみるわー…。オペ席、色々機材繋がってるし、心配だわ。」
東雲と同じくアプリ容量が増えてないか、重いファイルや知らないデータがインストールされていないかを確認していく。
ファイルの確認後、ウイルススキャンもダメ元で行ってみる。
「…みんなのパソコンも見てもいい?
「同じく。ちょい見させて。不安だわ。」
2人とも
この2人が確認してくれるのは心強い。
「あぁ、どうぞ。頼む。」
「平気ですわ。頼みます。」
「困るものはない。頼む。」
「大丈夫です。よろしくお願いします。」
「大丈夫よ。お願いするわ。私、機械苦手なのよ…。」
確認したところ、全て中身に問題はなさそうだった。
次に、
中に変なメモリが増やされていないかを確認していく。
結果、東雲のカメラの映像ディスク以外は問題はなさそうだった。
「…ということは、目的はカメラのデータと班内の盗聴、
「…カメラデータを外付けディスクに入れていたんだけど、それが新しいのに変わってるし、録画状態が切られていた。侵入したところを見られたくなかったんだろうね。データまるごと持って行かれたんじゃあ復元はできない。多分、総務に保管されている開閉錠のログデータも消されていると思う。あのシステム自体、
恐らく犯人はわからずじまいになるだろう。
カメラの映像まで抜き取っているということは、変装して侵入したことも考えられる。
個人のIDではなく、特定されないようゲストカードを秘密裏に持ち出して侵入している可能性が高い。
前回もかなり
今回もPNGなどを邪魔するために、何者かが手をまわしたのだろう。
また、必ず1〜2人はオフィスに人を残すようにすることにした。
今回のようにオフィス内を空にしたら、何が起こるかわからない為だ。
ひとまず、持ってきた食材を冷蔵庫にしまい、荷物を仮眠室に持って行くことにした。
――20XX年12月5日 21時30分
夕食を済ませ、ミーティングルームに集まる。
掃除
に時間をかけたため、夕食は簡単に食べられるもので済ませた。その後、斎藤さんの持ってきた資料を各自読み込んでいたら、こんな時間になってしまった。
今日のミーティングに参加する気のようだ。
ミーティングルームを整え、ホワイトボード代わりの電子モニターを起動する。
ミーティングの準備が整った。
「これよりミーティングを始める。その前に天道さんに共有したいことが。実は荷物を取ってオフィスに戻ってきたら、盗聴器とカメラが仕掛けられていた。」
「は!?このタイミングで!?」
天道は驚いていた。鳩が豆鉄砲を
――やはり、天道さんは
「あぁ。ちなみにオフィス内のカメラデータは持ち出されていて、犯人の特定はできなかった。また、入退室データも綺麗に抹消されていて、3課に頼んでも復元できなかった。」
「…まさか、また倉木か?……いや、あいつはこの前、厳重注意食らっとったし…さすがにそんな短期間に何度もリスク犯さへんやろ…。じゃぁ、誰が……?」
天道は疑心暗鬼になっているようだった。
確かに前回、倉木(コードネーム:
もう2度としないと言っていたが、秘密裏に監視をしようとした線もある。
だが――渦雷たちは、倉木(天笠)はシロだと思っている。
倉木(天笠)は
前回は「どこまでなら直接関与ができるか」の境界線を探っていたように思えた。
次、似たようなことをしたら、厳重注意では済まされないはずだし、倉木が今まで積み上げてきたキャリアが台無しになる。
やってはいけないボーダーが明確化されたのに、ここで出世を棒に振る選択をするはずがない。
ならば――斎藤さんがくれた差し入れの、紙袋の中に入ってたメモに書いてあった『円滑な情報運用反対派に気を付けろ』が関係しているはずだ。
スパイの狙いがわからない上に、組織は内部で足を引っ張りあっている。
本当にめんどくさい。
俺たちを巻き込まないで欲しい。
ひとまず、天道に情報を共有したので、身の回りには気を付けてくれるだろう。
「今回も前回同様、R国スパイの
「はい」
班員全員が渦雷の言葉に返答した。
既に資料は読み込んでいるため、それ以外の情報があればここで共有しておきたい。
そう思い、天道さんに聞こうと思ったら、霧島が発言した。
「…天道さん、阿久津の周囲についての新情報って持ってたりします?」
霧島が(自身から見て)左隣に座っている天道のほうを向き、質問を投げかける。
天道は霧島に視線を向け、発言する。
「前回、監視が解けたあと探ってみたけどわからんこと多かってん。…今度こそ尻尾掴んだる。」
天道は阿久津や阿久津関係者を調べる気満々だ。
だが、班員は不安だった。
天道は阿久津によってテロリストとの接触役に使われていた。
その為、テロリストに顔が割れている――ゆえに、スパイに天道の情報が渡っている可能性が高いのだ。
「天道さん、くれぐれも無理はしないでください。逃げるのも戦略の1つです。」
「天道さんの野生の勘と経験値は嫌というほど知っているから、引き際は大丈夫だと思いますが…。」
その為、
「…え、どしたん、急に…怖いわ。確かに班内に侵入されて、カメラまで止められたんは危機的やけど…。俺、公安外事の【裏】担当やし、いつもと動き変わらへんで?」
天道はあまり気にしていない様子だ。
元特殊部隊員なため、危機的状況でもある程度は対応可能だろう。
だが――本当に大丈夫なのだろうか。