戦績と決意 (12月26日21:40~23:30)
文字数 4,145文字
「ありがとうございました。」
ボーイと
1階につき、
タクシーに乗り、適当な駅で降りる。特捜の最寄り駅だ。
駅で多少配役に沿った話をしつつ歩いていると、天道が指を動かし、霧島に指示を出す。
ハンドサインを出し、点検消毒を要求する。
行き先は――特捜だ。
恐らく今日の採点と、今後の方針だろう。
特捜へと向かいつつ、点検消毒をしっかりとした。
尾けられてはいなかった。
天道と霧島は特捜の1階にある会議室へと向かい、いつも通りロックを解除して部屋に入った。
即座に
掃除
を開始し、何もないことを確認して椅子にかける。最初に切り出したのは天道だ。
「まずは今日の接触、お疲れ様でした。――で、はじめての潜入はどやった?」
「戦績はいいほうだろ。相手は勧誘する気あるようだし、次回の入店時にそれとなく話題振るわ。」
「場内見送った判断はさすがやで。……昨日行ったときは居らんかったからなぁ…。まさか、あれ程とは。」
天道はため息をついた。
その様子を見て霧島は思う。……やはり、キャバクラを利用したことがある天道から見ても、
「ああ。本当にな。あと離席中に声かけたら、アフターの誘いが来た。断ったが。」
「――へ!?アフター誘われたん!?何で行かんかったん!?
トイレに席を立った時、偶然にも
そうしたら潜入用のスマートフォンに、
「行くわけねぇだろ。…
霧島の目は秒で死んだ。
よっぽど嫌だったらしい。
「えー…。そうでなくとも美人やったやん。逆に何で行かへんかったんや…。まぁ、会話は退屈かもやけど。」
裏引きの可能性もあるが、勧誘だってされただろうに。
天道は少し不思議に思っていた。
また、霧島の女性関係も気になっていたため、探りを入れることも含めての質問だった。
霧島が簡単に足元を掬われるとは思わないが、今後の仕事のことを考えても把握しておきたかった。
霧島は天道の意図を的確に読みぬいたのだろう。小さくため息をつく。
「……あのな?天道さん。よく考えてみろ。――
地雷
だろ。下手したら逆恨みで殺されるわ。色恋なしであっさり勧誘されて、宗教施設に行くのが正解だろうが。」「あー……まぁ、そりゃそうか。」
「ああ。念のため
霧島は言葉を濁したが、雪平からの返信には〔わぁ。霧島サブリーダー…惚れられましたね。愛人というのも、もしかしたらパパ活の一環での契約なのかもしれません。断るのは正解です。お店の中だけで会って、勧誘されるのが賢明かと。〕と書かれていた。
胸糞悪すぎて口に出したくなかった。
そんな霧島の内心を知ってか知らずか、天道はのんきに答える。
「あー……。勧誘っぽくないなら賢明やわな。」
マジで裏引きっぽかったんかいな。
てか、惚れられたんかい。百合香、おっ前教祖の愛人やないんかいな。結局はパパ活かい!!
……どいつもこいつも。まぁ、
教祖と
教祖はハーレムを持っている。
たとえ愛人が取られても、相手を恨むほど器が小さい男なのだろうか。…小さい男なのかもしれない。
……確かに面倒臭いな。
「……後な?確かに僕は次男だから爵位は受け継ぐことはできない。だけどな…――血筋も、家柄も、実力もない。そんな金目当ての
「へ!?
爵位
!?」天道は思いもよらない言葉が飛び出てきたことに驚いた。
霧島は天道を真っすぐ見て、背筋を伸ばし、左手を胸に当てて発言する。
「僕の父の家は、歴史ある英国貴族だ。青い血も入ってる。」
霧島の雰囲気、印象はこの一瞬でがらりと変わった。
指先の揃え方、発声、雰囲気全てがそれが正しい情報であることを物語っていた。
天道は本物の貴族をはじめて見た。
というか「やたら品があるのが2名班に居る」くらいの認識だったのだ。
そのうちの1人がガチの貴族とか、誰が思う。
そりゃ、金銭感覚バグるはずやて!!!
湯水のように金使えるやろうて!!
ヴィンテージの、ウン千万の!きらきらしい時計付けとったはずやで!!…海水で死んだけど!!
そら……俺が渡した【20万くらいの時計】なんか、安っぽく感じたやろうな……。未だに身に着けてくれとるみたいやけど。
霧島の発言に、天道は今まで自身が感じていた違和感や疑問点が解消された。
「それと、あの女を『上品っぽい』って言うな――不愉快だ。」
対して霧島は貴族モードを辞め、いつものように多少荒く振舞った。
「あんな下品な女、乗らねぇよ。僕に釣り合うのは、品位を持った常識的な女性だけだ。」
「ええー……。」
本物の上流階級の付き合う人の選び方を目の当たりにし、天道はギャップに苦しんだ。
「じゃあ――大人になった
天道はおちゃらけた感じで霧島に聞いてみる。
お酒の席で霧島について把握しきれなかった分も、ここで把握しておきたかった。
霧島は冷えた瞳で天道を一瞥し、間をおいて口を開く。
「…。――さすがに血縁関係ある身内には手ぇ出さねぇよ。」
「――は!?」
天道は固まった。
え、身内!?身内なん!?
雨宮、どっかの華族の血を引くってだけの、小規模の社長令嬢とかやないん!?
大企業のお嬢様の可能性、あるってこと!?は!?
「――いや、待て!?それなら
「高いIQが認められたとか、そんな所じゃねぇの?だから、初期はオペレーターの設定だったんだろうよ。」
霧島は足を組み、腕を組み不服そうに言葉を吐いた。
天道の顔は引きつる。
「なんでやねん!!
天道は上の采配に絶叫した。
拳を机にたたきつけ、俯いている。
雨宮は温室育ちで知らないことが多い。
恐らく蝶よ花よと育てられ、汚いものは必要なもの以外は見せないようにしていたのだろう。
事件に関わることで汚いものが露見すると、精神的にダメージを受けることも多かった。
そのたびに強くなれ、と。世界は甘くないと厳しく接していたのは間違いだったようだ。
「――天道さん。」
霧島の冷え切った声が聞こえてくる。
…待て。霧島、お前、そんな声出せたんか??
「雨宮は絶対に教祖の視界に入れるんじゃねぇ。もし関わりを持たせたとしたら――僕が使える全ての権力を使って、お前を社会的に殺す。」
普段の霧島からは考えられないほどの冷たい瞳で睨まれ、天道はひるむ。
……お前、そんな表情できたんかい。
感じる圧は、数々の修羅場に放り込んだ結果…乗り越えたからこその圧なのだろうが。
――てか、ご実家の権力大きそうやな。本気出せば、
天道は息をのみ、大きく吐き出す。
「……関わらせる気はない。てか、血縁関係あったんかい。――まさか、雰囲気的に旧華族の上級国民とか大富豪かなんかか?」
「これ以上は探るな。個人情報だ。――
処す
ぞ。」霧島は冷え切った瞳と圧で、探りを入れた天道をばっさりと切り捨てる。
雨宮は人形のような和風美少女だ。
外国の血が入っているように見えないため、恐らく霧島の母親の血縁関係にあたるのだろう。
霧島の父親の家格と釣り合うならば、伊集院家や西園寺家、土御門家などの名家の旧華族の血を引く大富豪なのだろう。
そりゃあ、言葉遣いもお上品になりますがな……。
…何で
「……後方に引かせて正解やったな。前に出て行かんよう、見張っとくわ。」
「頼んだ。……血縁関係については、雨宮はまだ知らないから絶対に言うんじゃねぇ。」
「……ええ……。こっわい
霧島は息を吐き、圧を解除する。
天道もそれを見てこれ以上探らないようにすることにした。
――20XX年12月26日 23時30分 天道 自宅マンション
天道は風呂から上がり、ベッドに倒れ込んだ。
やることが多い。
天道はかなりのオーバーワークを強いられていた。
最近、班員の裏側を聞く機会が多い。
始めはあの告白の時。次がこれだ。――ラムダさんの読みは正しかったということだ。
恐らく霧島たちは今後のことを考えて、言える範囲で情報を出してくれているのだろう。
――バレとるなぁ。絶対。
だからこそ、知らんふりして付き合ってくれてるんやろな。アイツら頭ええし。
【いい加減、信用して欲しいなら、信用を見せてよ。班を利用するだけじゃなく、守る姿勢も見せてよ。】
そうやろうな。俺も同じだって思ったわ。
全てが権力争いで。ミスしたら足を引っ張られる。
誰かを頼ろうとも常に裏切りの可能性があり、信用なんてできない。
常にギリギリの中で、部下の――特捜内の自班に入ろうとするスパイを潰してって…。
誰も信用なんてできなかったのだ。
協力なんて出来なかった。ただただ利用するしかなかったのだ。
だが、この後は一蓮托生になるのだろう。
天道は沈みゆく意識の中で、ラムダとの話し合いの後に決めた決意を反芻する。
俺は
だから――
信用を見せよう。
班を、班員を守る姿勢を示そう。
1課2係7班は――俺の班や。
これが……俺の仕事だ!