第2話 プロローグ (11月3日7:20~8:40)

文字数 3,272文字

――20XX年11月3日 7時20分 東京某所

季節は秋の終わり。
もうすぐ冬に突入する頃。

渦雷(からい)は特捜オフィスに向かっていた。

今日は祝日で学校が休み。
なので、9時に間に合うよう、支度をして家を出た。
通勤時は私服でいいので、適当に外出用の長袖長ズボンを履いて出かける。
防寒対策として、手にはトレンチコートを持っていた。

「…寒…。」

先月の頭まで暑かったのに、なぜこうも早く秋の気候が逃げていくのだろうか。
冷たい風を受けながら、春秋用のトレンチコート(黒色)を着て、足早にオフィスを目指す。

駅に着き、電車に乗る。

目的の駅で電車を降り、駅から出て歩いていると、後ろから声をかけられた。

渦雷(からい)リーダー、おはよう。あーさっむ!もう秋も終わりだな。」
声の主は霧島(きりしま)だった。
霧島(きりしま)も春秋用のトレンチコート(ベージュ)を着ていた。
コートの中は相変わらずスーツを着ているようである。

「霧島サブリーダー、おはようございます。」
「そういえば、教習所どんな感じ?上手くいってる?」
「ペーパーは問題なく満点取れましたが…その、実技が…。」
「ははは。ペーパーは心配すらしてなかったけど、実技引っかかってんのか。大丈夫、すぐ慣れるって。免許取ったら僕に助手席乗らせてくれよな?」

――言えない…。
――S字クランクで脱輪を繰り返しているなんて…。
――さらに、駐車すらままならなくて、教官に「うーん。何回か同じ講習をしようか。筆記試験(ペーパーテスト)は問題なかったし、何とかなるよ。」と言われていることを…。

実技でミスしても良いように、追加料金が安く済むプランで申し込んでいたため金銭的損害はさほどないが、前に進めない実技は精神的に来るものがある。

渦雷(からい)は車の運転が苦手だと、実技に入った時点で気付いてしまっていた。

晴れやかな笑みで聞いてくる霧島に、渦雷は必死に言葉を返す。

「あ…ああ…。免許が取れて、…無事に、道路が走れるように…なったら…な…。」
「おー!よろしくな!楽しみにしてる!」

霧島は、自らDEATH(デス)ドライブの被害者に立候補していた。




――20XX年11月3日 8時40分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス

渦雷(からい)霧島(きりしま)は裏口に回り、電子ロックを解除し、特捜の建物に入る。
エレベーターに乗り、自分たちのオフィスに向かった。

自オフィスの入り口のロックを2つとも開錠し、中に入る。
オフィスのデスクには既に雨宮(あまみや)晴野(はれの)が座っていた。
2人とも、まだ制服には着替えていなかった。

渦雷(からい)と霧島は同時に挨拶をする。
「おはようございます。」
「あら。リーダー、サブリーダー。おはようございます。」
「あ、渦雷リーダー、霧島サブ、おっはよー!」

雨宮と晴野がそれぞれ挨拶を返す。
渦雷(からい)は状況を聞いてみた。

「今日の仕事はどんな感じだ?」
「あー、いつも通りっす。…もう帰っていー?ぜんっぜん微塵もやる気出ねぇ。」
「いや、来たばっかだろ。」
「チッ。」

晴野(はれの)霧島(きりしま)になだめられ、舌打ちをした。
雨宮(あまみや)が口を開く。

「それもこれも天道(てんどう)のせいですわよ!絶対!!あの時追放(リコール)しておけば…!」
「僕だって、渦雷(からい)がリーダーじゃなかったら速攻辞めてるわ。こんなん。」
禿同(はげどう)禿同(はげどう)。」

霧島(きりしま)が肯定し、晴野(はれの)がネットスラングを使って同意を示した。
渦雷(からい)も同意だが、これは仕事だ。
薄給でも国から給料を貰っている以上、きちんとやらねば。

渦雷(からい)は3人に対して口を開く。

「…気持ちはわからなくもないが…とりあえず、着替えて業務に取り掛かろう。」
「はーい。」
「承知いたしましたわ。」
「了解ー。」



――今から2ヶ月ほど前の、8月31日。
俺らは当時この班を管理していた阿久津(あくつ)を逮捕、送検した。
阿久津はテロリストと繋がって、自分の利益のためにテロを起こそうとしたのだ。


俺らが阿久津を捕まえたことは正しかったし、むしろやるべきだったと自負している。
だが、そのせいもあってか風当たりが強く、それ以降の仕事とはいうと――



「まるで窓際ね。(ろく)な仕事が無いわ。多分、1時間あったら終わるんだけど。コレ。」

嵐山(あらしやま)が自分に割り振られた仕事を手に取り、見解を述べる。
雪平(ゆきひら)も同じように自分の仕事について発言をした。

「僕も同じ感じですね。空いた時間で調査部のお手伝いをしているので、終業時間までは持ちますが…。」

「…僕らは【高IQ保持者で構成し、その優れた頭脳をフル活用しながら、現場にも出て犯罪者を捕まえる】っていうコンセプトで集められて、1年間みっちり訓練されてたんだよな?」

霧島(きりしま)は1課2係の活動コンセプトを口に出し、班の現状と比較した。



――そう。この2ヶ月間、(ろく)な仕事が無いのである。

不景気を理由にリストラが流行った頃、退職させたい人間を特定の部屋に移し、まともな仕事を与えず、自主退職するように促す企業が流行ったように思う。
それとほぼ変わらないのではないか、というくらいに仕事が回ってこないのだ。


着替えが終わり、デスクに集合した班員は各々不満を口にした。


《交通整理の手伝い、警視庁捜査1課の手伝いで監視カメラの確認作業…ここまではまだ分かるけど、問題はこの後。どぶさらい、ゴミあさり、交通量調査で人数のカウント、プールの監視員、更には猫探しって正気の沙汰じゃないよね。てか、ゴミあさりとか犯罪なんだけど。草。》
禿同(はげどう)ー。犯罪の片棒担がせんなや。こちとらまだうら若き19歳だっての。」
「臭うし、地味だし、頭脳も必要ないし、散々でしたわ。」

東雲(しののめ)の発言に、晴野(はれの)雨宮(あまみや)が各々の感想を述べる。

渦雷(からい)も同意見だったし、いっそのこと辞めてしまおうかとも思った。
だが、班員と話し合った結果、数か月間だけ様子を見ることにしたのだ。
班の上司(天道と天笠)が公安所属のため、もしかしたら裏で何か動いている可能性が高いと感じたからだった。
その為、ここ2ヶ月間はひたすら地味な作業と少なすぎる仕事に耐えていた。

そして、仕事が明らかに減らされており、しばらくは戻る気配がないと悟った時点で、各々は各自有給休暇を取るようにした。
また、定時に上がれるからこそ、資格取得や技術の向上、趣味に精を出した。

渦雷(からい)の場合は忙しくて行けていなかった自動車教習所だった。
既に18歳になっていたので、時間に余裕がある今のうちに運転免許を取ることにした。
…実技はかなり難航しているが。



そんな話をしていると、第一ドアロックが解除される音が響いた。
オフィスに来客である。

第二ドアのロックも解除される。
入ってきたのは、班の上司である天笠(あまがさ)天道(てんどう)だった。


「おはようございます。みなさん、次の仕事です。」
デスク側に来た天笠(あまがさ)が口を開く。

《あー…次はインコとか探す感じっすか?それとも害虫駆除?蝙蝠(こうもり?)
「違うが…天道(てんどう)から聞いていないのか?」

東雲(しののめ)の問いに、天笠(あまがさ)は想定外の答えを返してきた。
もちろん、班員は何も聞いていない。

――天道、お前、またやりやがったな。


こっちの混乱を察してか、天笠(あまがさ)が口を開く。

「まぁいい…今回の仕事はスパイを出国させることだ。――君たちには今日より現場に復帰してもらう。」




----------------------------------------------------------------------------

皆さま、いつもご愛読いただき誠にありがとうございます。
2話から5話までVSスパイ編となります。(予定では…。)

スパイに関しての参考文献は以下の2冊です。
【参考文献】
『諜・無法地帯 暗躍するスパイたち』 著者:勝丸円覚 出版:株式会社実業之日本社
『警視庁公安部外事課』 著者:勝丸円覚 出版:株式会社光文社

海外の人名に関しては、以下のサイトを参考にして作成しています。
https://www.worldsys.org/europe/

警察に関しては、全て趣味嗜好の範囲…勤めたことすらない【みりしら】なので、多少の変な部分はご都合主義と見逃して頂ければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

-----------------------------------------------------------------------------

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

本編主人公の渦雷(からい)です。

1課2係7班のリーダーです。

皆さまどうぞよろしくお願いいたします。


雪平、すまないがこの書類も頼む。総務から雪平宛だ。

1課2係7班、サブリーダーの霧島(きりしま)です!

よろしくな!


あ、雪平!

僕、1時間後に用事で出るから、総務の書類終わったらついでに持って行ってやるよ!

あ、ども!晴野(はれの)っすー!

1課2係7班でオペレーターやってるよー!

よろよろ!!


って、ちょ……ゆっきー(雪平)!!!?無事かー!!?

皆さま初めまして。

1課2係7班の雪平(ゆきひら)です。

事件が無い時は、事務や情報整理、書類整理をメインにしています。

共感覚を持っていて、僕の場合は【色】が見えます。

どうぞよろしくお願い致します。


さて、この書類を…あっ!

(バッサー。書類を床に雪崩のように落とす。)

――うわあああぁ!すみませんんん!!

皆さまごきげんよう。

1課2係7班、雨宮(あまみや)ですわ。


雪平、こちらに来た書類はまとめましたわよ。

1課2係7班、嵐山(あらしやま)よ。

よろしく。


雪平。こっちが処理済、こっちが未処理のものよ。

量もあるし、天道に返す分は空きデスクに積んでおくわね。

1課2係7班、情報班員の東雲(しののめ)だよ。

基本、引きこもっているけど…よろしく。


あれ。ネフィリムからチャット入ってる…。

…了解。〔また出たヤバ案件ww面白そうだし、緊急案件RTA参加するので詳細キボンヌw〕…っと。

いつもネフィリム達には手伝ってもらってるしね。

――さて、頑張りますか。

あ、どうも。公安部外事課、天道(てんどう)どす。

警視庁に勤務しながら、青少年特殊捜査本部の1課2係7班の上司をさせてもらっとりますぅ。

ホンマは古巣に戻るか、1課1係に行きたいんやけど…まぁ、よろしゅう頼んます。

警視庁の阿久津(あくつ)だ。

天道の上司だ。どうぞよろしく。

警視庁公安部所属の天笠(あまがさ)です。

1話のエピローグから本編に関わらせていただきます。

読者、そして1課2係7班の皆さん、どうぞよろしくお願いします。

うぽつwww

拙者はネフィリム!

3課1係4班のリーダーでござるwww

いやぁ、何卒どうぞどうぞよろしくでござるww

あ。上から緊急案件RTA入ったんで離脱シャース!ノシ

ホント人使い荒いwwブフォww

者ども!!調査(ハッキング)と工作(クラッキング)の時間ですぞ!!各自開始オナシャス!!

警視庁公安部内事課の斎藤だ。

…一応名乗ったが…俺の自己紹介、本当に必要か??

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み