やって来たのは (12月11日15:40)
文字数 8,251文字
第二ロックドアが開錠され、開く。
入ってきた倉木(
――よりにもよって
コイツ
かよ!!焔とザックも警戒する。
晴野が後ろ手でハンドサインを出す。
その様子を見た
「こんにちは。――おや?人が多いようだね。晴野さんが帰ってきたと連絡があって――って、晴野さんだけじゃなく
――やっぱり、連絡手段があったのか!!
どうやら総務に内通者が居るようだ。
晴野が帰ってきたことを倉木に伝え、それを聞いた倉木が急いでここに来たのだろう。
入館時のロックは晴野と
雨宮の荷物は公安が持っていたからというのもあるが、雨宮が帰ってきたと判明したらまずいというのが主な理由だった。
入館記録以外にも、監視カメラ対策として1課2係7班の第一ロックを通るまで、帽子とサングラスとマスクで雨宮の顔が見えないようにしていた。
……雨宮の存在がバレていなかったことで良しとするか。
倉木が話している間、お付きの人は電子ロックのリーダー付近に陣取る。
ポケットから何かを出し、電子ロックの下部に――
ガッ!!
「――それは良くないんじゃないかなぁ?」
腕を掴み、止めたのは
その隙に晴野とザックがお付きの人に肉迫し、各々がスマートフォンを奪った。
晴野は胸ポケットから、ザックは臀部のポケットから拝借した。
「――!!な――返せ!!」
晴野とザックはスマートフォンを奪った後、すぐにお付きの人から距離を取り、デスク方向へ数歩駆ける。
お付きの人は取り返そうとするが、
「ぐっ……放せ!体重をかけるな!!というか、お前は何者だ!?」
「は?なぜ私の腕を掴むんだ??……放してくれないか。」
お付きの人も倉木も腕を振りほどこうとするが、一向に振りほどくことができない。
2人は鍛えてる
「頼む!!」
「頼んだ!!」
走りながら、晴野は
「わわっ……と。りょ、了解!!――ネフィリム!!」
「いよっと。ナイスパスですぞ!!――行きますぞヴォイド氏!!」
「――返せ!!ふざけるな!」
「え!?ちょ、ちょっと!?君たちは一体何をしているんだ!?」
バカ2人がほざいているが、当然無視する。
晴野はすぐさま班員にハンドサインを送り、
班員はそれに倣い、周囲を囲む。
さらに晴野は、
本来ならば晴野がボディーチェックを行うが、相手は男性。セクハラで訴えられる可能性もあるため、
……まぁ、ジジィやオッサンの身体を触る趣味もないし、逆に助かった気持ちではある。触りたくねぇよ。
結果、
小型受信機はその場で壊しておく。
現在進行形で連絡が外に漏れている訳ではなかったため、少し安心する。
そうでなくとも腕を掴んでいるのは鍛え抜かれた自衛隊員なので、お付きの人の逃走は絶望的だった。
晴野は床に落ちた盗聴器を拾い、中を開けて回線を切り、壊した。
恐らくこちらはこれで安全になっただろう。
一方、資料室に入った2人は即座に鍵をかける。
ただ、この鍵はそこまでセキュリティーが高いとはいえない。
時間がないが念のため、簡易的なウイルススキャンを行っておく。
ネフィリムは持ってきたノートパソコンに、
スキャンが完了し、ロック解除のための暗証番号の解析を始める。
資料室は
仕事で必要なものは室内にすべて揃えている。
そのため、スマートフォンを含む電子機器のロックを解除するための機材も揃っていた。
資料室は内側から鍵がかかるので、時間稼ぎにもなる。
そのため、2人は資料室に駆け込み、
番号が判明したので、その通りにスマートフォンに打ち込んでロックを解除する。
スマートフォンが2つあるということは、どちらかが仕事用で、どちらかがプライベート用だろう。
果たしてどちらが当たりを引くか。
最初に発言したのはネフィリムだった。
《拙者の方は仕事用でござるな。……お。メッセージにてやり取りが残っているでござる!!特捜の
「……違う……
ただの仕事
。……総務の子、悪くない……ただの、上司命令
。……怒らないであげて……。」ネフィリムはその主張を受け、桜に返答する。
《その話が本当なら、仕方ないことでござるなぁ……。ふぅむ。他も見てみるっすかぁ。》
次に言葉を発したのは
《僕の方はプライベート端末みたい。あ!
絶対にそいつ逃がさないで
ね。裏切り者だから。何なら手足折っといて!》待て、
班の仲間に手を出されたことが根底にあるからなのか、寝不足からなのか、東雲の怒りの沸点がかなり低くなっている気がする。
もちろん逃がすつもりはないとでもいうように。
お付きの人は強く握られて痛そうだ。だが、仕方がないのだろう。
倉木は驚き、お付きの人を見る。
お付きの人は半分焦り、半分困惑していた。
晴野が動き、電子モニターの電源を入れた。
ほどなくして、モニターにスマートフォンの画面が転送される。
《文面は日本語だね。〔オペレーターは先ほど帰還した。外部からの緊急案件が絡んでいるようだ。確認しに行く。〕ねぇ、これ、どういうこと?内通者――警察のくせに日本を裏切ったスパイさん?》
「――は?国を裏切ってなんかいない。変なことを言うのはやめてくれ。というか、放せ。スマホも返してくれ。」
お付きの人は弁明した。
倉木と天道は、このスマートフォンの画面が
何を意味するのか
が解っていないようだった。疑問の表情を浮かべ、首をひねる。その後、キョロキョロと周囲の様子を見渡した。
桜は予測できていたのだろう。口元に手を当て、あくびをしていた。
特に興味はなさそうだ。またサラダ
だが、班員とネフィリム、ザック、
宛先
に視線がいってしまった。彼らは驚き、固まってしまう。
真っ先に我に戻った霧島が叫んだ。
「これ――この宛先、
R国スパイのアレクセイ
じゃないか!!」そう、このアカウントは1月前の裏作戦にてハッキングした際、アレクセイがメッセージを送信する際に使用していたアカウントだった。
「――は!?マジで!?……てか、何であんさんら宛先のアカウントの人物知っとんねん。やっぱ俺に言ってないこと、たくさんあるんちゃうん??」
天道は驚いた後、死んだ瞳になった。
「――
倉木は驚いている。――おや?どうやら本当に知らなかったらしい。
倉木は無関係の可能性が高いと思えた。
《十分裏切ってると思うんだけどねぇ?仕掛けようとした盗聴器は、捜査情報を漏らすためなんでしょ?》
天道の発言を完全
「――は??
この宛先
が、R国スパイ
……??このアカウントは新田さん
だ。俺は断じてスパイではない。言いがかりはやめてくれ!!」お付きの人は慌てて弁明する。
その発言を聞き、晴野の目がすぅっと細くなる。
晴野がお付きの人に声をかける。
「へぇー?新田ねぇ……?送り先、
「そうだ。内事課の新田さんだ。俺は裏切り者――内通者なんかじゃない!」
「えぇー?お前も一緒に
慌てて否定するお付きの人に、晴野は告げた。
そう――彼は班の中に監視カメラを仕掛けた犯人の1人だった。
晴野の一言で、班員は騒然とする。
「えっ!?彼が侵入者の1人なんですか!?倉木さんの部下が!?」
「へぇ?――コイツが侵入していたの?裏で糸を引いていたのは倉木かしらぁ??」
《ファーッwwww証拠揃っていても
ネフィリムはお付きの人のメンタルを笑った。
証拠があるんだからさっさと吐いちまえ、というように。
「コイツが、犯人!?ということは、倉木が裏切り者に繋がっているってことか!!?」
「――!!晴野、本当なのか!?」
霧島は同時に倉木も疑い、注意深く倉木とお付きの人の様子を観察する。
「おえおえおえおえ、よぉ俺らの前に顔出せたなぁ?あ゛??」
天道はブチギレていた。
裏切り者というだけでなく、特捜オフィスの仮眠室に拘束されている原因でもあるため、怒り具合は凄まじい。
《へぇ?――この前はよくも僕のパソコンに侵入してくれたね……?――覚悟は出来てるよね?
お付きの人がやったかは分からないが、仲間なら同罪だろう。
その他もろもろもあり、ブチギレている。
「残りの2人のうちの1人は、コイツでしたのね……!?よくもまぁ、顔を出せたもので。」
雨宮もキレていた。
班に侵入されただけでなく、怖い思いをした拉致にも関わっている可能性が高いため、目が笑っていなかった。
一気に視線がお付きの人に集まる。
「まさか――君が!?本当なのかね……!?」
倉木も知らなかったようで、驚いていた。
――倉木は本当に無関係なのか!?直属の部下が
これだけ
関与しているのに!!?だが、お付きの人は晴野にバレていることに驚いていた。
お付きの人は晴野に反論する。
「――!!何で、それを……。――仕事だ。仕方ないだろう。」
「その新田さんがRスパイのアレクセイと繋がっていて、この班の情報を集めてアレクセイに献上しようとしたことも、全て知っていてやったんでしょ?」
「新田さんが裏切り者!?――でたらめを言うな!新田さんは裏切り者なんかじゃない!!国を守る公安だ!」
「何だコイツうるせぇな。スタンガン欲しいわ。」
「晴野
リーダー
、さすがに晴野がキレたのを、ザックが緩やかに抑える。
怖いし、口調も変わっている。
晴野の情報量、動き、やり方から見て、やはり晴野は暗部で仕事をしているようである。
お兄さんは別班確定だろう。
同じことを思ったのか、霧島と天道の目が険しくなる。
追っている案件は、
いつも説明の最後がぼかされているのも気になる。
というか、晴野は
同じリーダーとして、これからは困ったら晴野に聞いてみるのも手かもしれない。
ザックの説得もあり、一旦怒りの炎は収まったかのように思えた。
だが、雨宮が積極的に火に油を
雨宮がポケットからUSB型スタンガンを取り出し、晴野に歩み寄る。
「晴野、貸しますわよ。――ついでに
彼ら
のせいで怖い目に遭いましたし、私にも報復の権利、ありますわよね?」雨宮は真っ黒な笑みで品よく微笑んでいる。
目が笑っていない。とても怖い。
「お!さすが
「アホか。人目につくところで、しかもカメラがあるところで使おうとすんな!庇いきれないだろ。――雨宮ちゃんも、気持ちわかるけど主犯じゃないし、勘弁な?」
雨宮に対しては目線を合わせて優しく説いた。
「態度がちげぇ……。クソ兄貴……。」
「保護対象を傷つけるわけにはいかねぇだろうが。」
「えっ!?兄妹……!?」
倉木は晴野と
お付きの人も倉木と同じように視線を彷徨わせていた。
両者共に状況が呑み込めていないのだろう。
だが、それ以外の――恐らくこの場に居る全員の心はこうなっただろう。
――お兄様?怒るポイント、
そこ
ですか……?多分、誰も居なかったら殴ったり蹴ったりしてそうだった。そんな感じがする。
天道は同業者確定だと思ったのだろう。焔に複雑そうな視線を向けていた。
静まり返った室内で、我関せずを貫き、嬉しそうにお菓子を食べていた桜が口を開く。
「……ソレは、ただの馬鹿。……責めても……意味がない……。もう一人も……早めに……捕らえて……夜が来る、前に……。……次の流出は……夜……。」
「忠告ありがとう。予定より早めてこのあと片すわ。……ありがとね。」
晴野が桜に返答する。
言葉の最後は桜のほうを向き、軽く微笑んだ。
「……。」
桜はこくこく、と2回頷いた。
お茶を飲み干し、上着の中からポーチを取り出しソファへと置く。――そして、雪平のほうを向く。
「……お菓子美味しかった……ありがとう……。
桜は微笑み、何事もなかったかのように1課2係7班オフィスから退室した。
――
退室した
!?「んえっ!?ちょ、今出ていくの!!??えっ!???ちょっと!??マジで!??」
晴野は焦り、追いかけた。
一気に現場はカオスとなった。
第二ロックドアの左右を固めていた天道と霧島も、桜を止めることができなかった。
本当に、気付いたら退室していた――そんな感じだった。
2人は焦っていた。顔色も悪い。
これが実際の現場だったら、犯人を――国家の敵を取り逃がしていたからだ。
――天道と霧島ですら止められないとは――。
《じ……自由すぎる……。》
「何なんだあの子……。情報がもらえただけ良しとするしかないか。」
オフィスに居た面々は驚き、呆れた。
……桜は自由すぎた。
この場でいくつか聞いておきたかった。――丁度その時。
周囲が呆然としている、その隙を突いて
退室しようと
――って、ちょっと待て!?慌てて
「……まじかー。行けると思ったのに。」
「……あのな?あんさん
自衛隊
やろ??――置いていきぃ
?」「えー……
俺も興味あるんだけど
。なにせ、かわいい倉木はただただ困惑している。――それ以外の反応、何かないのか?まさか、本当に無関係なのか!?
「うーん……
知り合いの秘匿班
に任せてみようかなって思ったんだけど……。まぁ、碌な情報持ってなさそうだし、いいか。」天道は微妙な顔でお付きの人を受け取り、舌打ちした。
《
スピーカーから
どうやら、ミーティングルームで起こった出来事は完全
「お!ありがとー!!ヴォイド君、超助かるわ!!」
「カレーの差し入れありがと。……美味しかったです。」
「……へ?差し入れ?前々から関わりあったん??――てか、簡単に情報渡そうとすなやゴラ。コイツ
部外者
やぞ。」「それは良かった。また手が空いたら何か持ってくるわー!
天道が突っ込みを入れる。が、
《ども。これからもよろしくおねがいします。》
「拙者も礼を言いたいでござるー!!
ネフィリムは資料室のドアを開け、顔を出して手を振り、礼を言った。
「おー、よろしくなー!」
「無視すんなや!おえ!!コイツ外部やろが!!――
「えー。身内がこの班に居るんだけどなぁー?居るんだけどなぁー???」
晴野が第二ロックドアを開けて、オフィスに戻ってきた。
「……ゆっきー……あの子、マジで何者??――既に廊下に居なかったんだけど。
追いかけたが、すでにフロアには居なかったようだ。
晴野の目は死んでいた。
どうやら何もかもが予想外すぎたらしい。
ちなみに、
というより、眼中にないようだった。
「嬉しい……会話ができた……!美味しかったって言ってくれた……!う、うう嬉しい……!!……あああまた来てほしい……毎日でも……!!!――これからはいつ来ても良いように、小麦や麦が入っていない米菓子をたくさん揃えておかないと……!お菓子のローリングストックを、今日から実践しなければ……!!」
「へ……!?……あのー……ゆっきー??ど、どうした……??」
晴野は雪平との会話が通じないことに焦った。
雪平の様子がおかしい。
雨宮も驚き、視線をさまよわせている。
……そういえば、桜に関して雪平に教えて貰ったとき、晴野たちは居なかったか。
《あー……推し活で限界突破したみたい。ごめん、僕にも対応方法わからないや……。》
「えええ。……何それ……。」
秒で晴野の目が死んだ。
《あー……えっと。桜のことは、雪平には【光輝く純白】に見えるんだって。汚い上司陣の【色】を見た後にあの子に会えると、心が浄化されるって、前言ってた。》
雪平の【色】の見え方については、恐らく本人から教えて貰っていたのだろう。
晴野はあっさりと納得した様子だ。
「はー……。そんな子、実在するんだ……。すっげ。――いや、やっぱ
晴野は第二ロックドアに向かってひとりごちた。
《まぁ、晴野が居なくなってから色々とおかしかったんだけどね……。》
「へ?私が居ない間に何かあったんすか!?どうしたゆっきー!?」
班を見回すが、みんな疲れ切った顔をしていた。
晴野は混乱した。
晴野が再度問うも、班員は力なく首を横に振るだけで、誰も何も言わなかった。
《……ノーコメントで。後よろしく。》
「えええ!?そんな意味不明な丸投げとか、ある!?意味不明なんだけど!?」
晴野の叫びだけが室内にこだました。