出国日 (11月15日10:20~11:30)
文字数 2,526文字
病院を退院したアレクセイは、空港にて保安検査を終え、免税店へ向かっていた。
免税店でお土産を買いつつ、思考する。
上手く避けつつ軽く横腹を刺されただけだったというのと、アレクセイ自身が鍛えていた上に治癒が早い体質のため、5日程度の入院でほとんど日常生活に支障がないくらいに回復し、昨日退院した。
このあと飛行機で本国に帰り、1週間ほど療養を兼ねてゆっくり羽を伸ばす予定だ。
日本の警察の外交官担当(公館連絡担当班:通称リエゾン班)が大使館側にやってきたときのことだ。
上司と何やら協議していたのだが、少々様子が違っていた。
テロリストの末端は捕まり、
恐らく、あちらで何らかのトラブルがあるのではないだろうか。
付け入る隙はありそうだ。
1週間休んだ後、また仕事に動き出すことになるだろう。
その時に情報を利用させてもらおう。
お土産を買い、スーツケースに詰める。
日本のお土産は美味しく、面白いものも多いため、少々買いすぎてしまった。
搭乗手続きを済ませ、コーヒーを飲む。
スマートフォンを確認し、トイレに向かう。
アレクセイはトイレで
協力者
からすれ違いざまにメモを受け取った。個室に入り、内容を確認する。
――なるほどね。
メモは詰まらないよう細かく破り、流して破棄した。
搭乗時間になり、アレクセイは飛行機に乗り込む。
――さぁ、久々の故郷だ。…首都までは少し遠いけれど。
11時15分の飛行機に乗り、アレクセイは国へ帰ったのだった。
――20XX年11月15日 11時30分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス
オフィス内は怒りで満ちていた。
天笠は無表情に近いだろうか。表情が読み取れなかった。
「だーかーらー!!接触させるなって言っただろうがー!!脳みそ希ガスかよ!!」
「忠告無視してんじゃねぇよクソがぁ!!なんなんだよ一体!!」
「…まんまと逃げられましたわね。」
「しかも、痛み分けみたいな提案なんて。完全に舐められてるわね。」
当然だろう。
PNGすら打てず、簡単な抗議だけでこの一件は終了したのだから。
《接触させた…というか、警備に穴をあけたバカは?警察の威信にかけて見つけたんだよね?どうなったの?まさか何もしてないとか言わないよね?》
「いえ……今も調査中です。」
「は!?」
班員全員が聞き返す。
いや、あり得ないだろ!?
公安の人は申し訳なさそうに話しだした。
「確かに、当初の予定では
――つまり。
「警察を頼ったのに、捨てられた……か。」
説明に来た公安の人も少し申し訳なさそうにしている。
確かに、スパイに情報を渡していたのは許されることではない。
会社としては情報漏洩だし、国としては最先端の医療技術などが流れているため、技術や大切な情報が盗まれるという甚大な被害を受ける。
だが、安在にはせめてもの救いとして飼い殺しの道も用意されていた。
きっと、自殺に見せかけて留置所かどこかで殺されるのだろう。
そうならなかったとしても、もう2度と日の当たる
甘い考えだが、
《――それで?
もう、
視線が天笠に集まる。
天笠は右手を左胸の少し下に当てながら口を開く。
「…確かにやりすぎてしまったね。もう、監視も付いていくこともしないと誓おう。私はただ、君たちのことを知りたかったんだ。これからはゆっくり君たちに歩み寄るようにしますね。」
天笠は最初は申し訳なさそうに、最後の方は満面の笑みで宣った。
――は?
あれだけのことをしておいて?
というか、
もしかして厳重注意という名の簡単なお叱りで済んだということだろうか。
斎藤さんから聞いた話では、今回のPNG失敗は公安としてかなりヤバい状況らしい。
天笠は敵で、監視しながら横やりを入れていたのか?
それとも天笠は味方で、監視しながら横やりを入れた人を探していたのか?
わからない。
それに…この件は、あえて阿久津の件でごちゃついている1課2係7班を選んでいた可能性が高い。
普通なら2課1係に仕事を回して、
阿久津の一件以降、この班を取り巻く環境や動きがおかしい。
上はいったい何を考えている!?
「Oh…まさかのポジティブ
全員が唖然としている。
…おい、倉木。
味方のはずの公安の人ですら引いているぞ。いいのか。
どうやら、彼は何も知らないらしい。シロか。
「あー…倉木はん?この班の上司はあんさんやない。
俺やさかい
。そこんとこ、よろしゅう頼んますわ。…ホンマ、よろしゅう頼んます
わ……。」天道も呆れすぎて、自分が上司であるとの主張くらいしか出来なかった。
…一応この班の味方はしてくれているようだが…天道も天道なんだよな…。
……うん。もうダメだろこの班の上司。
班の中はいいが、外がヤバすぎる。