天道を【裏作戦】に引き込め (11月4日12:00~13:00)
文字数 7,003文字
「……あの、視線がうるさいんですが…。」
「気にしないでください。気配は消しておきますので。」
「…いや、そういう問題では無いんですが…。」
「仕事ですので。」
公安の人はホワイトボード代わりの大きなディスプレイの横に立ち、渦雷たちを監視する。
お話し
して、東雲の事情を考慮し、中に監視カメラを1台仕掛けるという条件で、なんとか資料室に引きこもる許可をもぎ取った。ちなみに、東雲の分の食事は既に運んでいる。
今日のお昼はカレーとコールスロー、梨だ。
カレーには霧島の持参した、分厚いステーキ用の高級牛肉が入っていて最高に美味しい。
居たたまれなくなり、
「あの…パンならありますけど、食べられますか…?」
「交代の時に食べに行くので、気にしないでください。」
ミーティングルームのテーブルの霧島の横、元々は
なんというか、とても気まずかった。
この後、
だが、この警戒っぷりを見ると、同じ
食事が終わり、片付ける際に公安に見えない角度でハンドサインを送る。
「――
天道は少し驚いたが、霧島に従うことにした。
――
これは、作戦の第三段階だ。
その後、
――どうか、上手くいきますように。
ばれてはいけない。ここからが正念場だ。
――20XX年11月4日 12時50分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス
「
「あ、はい。」
あえてそのまま
オフィスを出ていこうとした。霧島は
一瞬だけ
公安の人に視線を向けるが、天道は視線すら向けない。公安の人はその様子を見てぎょっとする。
「え、ちょっと待ってください!あなた方が外に出る時は呼んで頂かないと。人を呼びますのでお待ちください。」
「あ?必要あらへん。――…俺が持っている
焦って止める公安の人に、天道は近づいていき、
2人のやり取りに少し戸惑う
。「――!…ざっくりとでいいので、内容を口頭で言うことは出来ますか。」
公安の人は苦い顔をしながら、少しでも情報を得ようとしてきた。
「……翻訳の仕事や。コイツが海外を転々としとったのは経歴見れば分かるやろ?――1階の
「待ってください。…わかりました。1階までお見送りします。少々お待ちください。」
天道は嫌悪感を隠さない様子で、公安の人に対して仕事内容の一部を耳打ちした。
公安の人はそれ以上聞くことができず、素直に応援を呼ぶしかなかった。
相手もそれがわかっているからこそ、手が出せない。
やはり、接触役は霧島で正解だったらしい。
さぁ――作戦第三段階の開始だ。
――20XX年11月4日 13時00分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス
天道はカードキーを、霧島はネクタイピンをかざし、個室のロックを解除する。
個室のミーティングルームに天道と霧島が入り、ドアに鍵をかける。
室内に入った天道と霧島は、念入りに掃除(盗聴器などを確認)する。
結果、なにも見つからなかった。
天道が椅子に座り、霧島もそれに倣った。
「――で。命令口調で俺の事呼び出したんや。
ごっつう素敵な情報
なんやろなぁ?え?」天道はご機嫌斜めだった。
脚を組み、背もたれに背を預け、腕を組んだ状態で凄んでくる。
不機嫌オーラがダダ漏れである。
――
こんなん
と交渉やりあってんのかよ。やっぱ凄いわ。「提案にのってくださりありがとうございます。
「…あ?なんや急に。朝のハッキングの件で何か知っとるん?ええ?」
「いや、知らねーよ。どうせ、怪しいサイトに入って変なリンク踏んだだけだろうが。」
「あ゛?」
僕に八つ当たりするんじゃねぇよ。クソ天道。
いい年こいた大人なんだから、自分の機嫌くらい自分でとりやがれ。
「僕が言いたいことは今回の班の案件の話だ。――3課と手を組みたい。」
「3課ぁ?…なんでまたそんな急に……。俺に頼んでくるってことは規模でかなるんか?てか、ホンマ何で?今回は警察の捜査本部みたいな活動やろ?必要ないやん。」
「本当は
誰かさんが変なウイルスを拾ったせいでね
。」「チッ。」
霧島に言われ、天道は舌打ちした。
――よし、いける。やってやる。
「…あんさんらは何やろうとしてはるん?」
「話すには条件がある。――
霧島は1枚目のカードを切りだした。
不機嫌な上に気怠そうだった天道の態度が一気に変わった。
天道は真顔になり、背もたれから背を離し、机の上に腕を置き前のめりになる。
「――…ほぉ?理由は?」
「覚えているか?班員が
「あー。何かドン引きしとったように思うわ。俺が戻ってきたんが嫌だったご様子で。」
天道はどうやら勘違いをしているらしい。
せっかくの機会だし、説得材料にもなるのできちんと訂正する。
「違うぞ。」
「あ?」
「忘れていないか?雪平が共感覚――雪平の場合は【色】が見えることを。原因は天笠さんだ。見てはいけないような【色】を見てしまった様子だっただろ?」
「…まさか。」
「疑うなら本人に聞いてみろよ…同じこと答えるからさ。僕だって雪平から聞いたし。」
「……。」
天笠――倉木の
本性
に見当はついているらしい。敵対してたしな。派閥。
霧島はたたみかける。
「僕らは天笠さんが阿久津と同じ部類だと疑っている。想定外の早さだったが、やはり班を管理してきた。つまり、
本当は班の管理は想定内だし、そのためにわざわざこんな作戦を進めているんだが。
この班には本当に碌な上司が着かねぇわ。ざっけんな。
天道は思案し、霧島に質問を投げかける。
「…のぉ。それやったら
――興味を持ったな。だが、まだ弱い。
「成功すれば、な?ただ、かなり大掛かりになる。どうする?乗るか?乗らないなら僕ら班員は動くことができない。天笠さんの管理で、
100%失敗する
方法をやるしかないな。」恐らく「100%失敗する」という意味が解らないのだろう。
天道は現状を整理することにした。
「…なぁ、今回の仕事はPNG(ペルソナノングラータ:国外追放と以後入国の禁止措置)に向けての情報集めと作戦の提案やろ?わざわざ動く意味、あるん?しかも3課やろ?ハッキングか?何のために?」
「スパイにわたった情報の量。天道さんも違和感を感じませんでしたか?それと、この作戦。――
端からスパイにばれていますよね
。」霧島は3枚目のカードを切る。
「――は?
ばれとる
…??どういうことや?」「阿久津は既に檻の中。警戒しないスパイがどこにいるんです。……って、本当に取引先に来ると思ってんのかマジで。お花畑だろ、頭の中。」
霧島は天道のお花畑っぷりに驚いた。
頼むからもっと頭使ってくれよ!!?
「いや、前回は来とったし、疑ってすらなかったで!?そっちこそ変な言いがかり付けんでくれへん!?」
天道は事実を言った。――そう、前回までは成功した。
前回までは
。「来たとしても恐らくUSBは受け取ったりしねぇよ。だって、絶対
「――な。」
絶句する天道に続けるぞ、と言い再び話し出す。
「んで、恐らく何か裏で糸引いてるやつが
「…。」
霧島は更にたたみかける。
「どうしますか。天道さん。…公安の人は
今しかない
。恐らくこの後は何かと理由を付けてこの個室内にも入ってくんぞ。多分…いや、班の中に監視置いてきたんだから、絶対やるはずだ。」霧島の言葉に天道は何も言えない。
霧島は自身の見解を伝え、最後のカードを切る。
「これは僕の個人的な見解だが。天笠は班の支配のために、この2ヶ月間わざと現場から離しつつ、仕事を減らさせていたように思う。勘を鈍らせ、飢えていたところに
リーダーの交代を迫ってくる
気がしますよ。――それは困る。
確かに最近の
だが、
リーダーとは「他社が主体」で「周囲に動いてもらう」能力が必要とされる。
特に良いリーダーは「メンバーの状況を把握」して「信頼関係を構築できる」人を指す。
現に
代表例はネフィリムの班だろう。いつも何かにつけて助けてくれる。
リーダーは、よくリーダーシップと混同されるが、役割が180度違う。
ちなみに、リーダーシップの適性は
リーダーシップとは「自分が主体」となって「周囲を動かす」能力が必要とされる。
個人的な能力は高い方がより良いのだ。
リーダーとリーダーシップを兼任しているリーダーも世の中には居る。
だが、殆どの場合では自分の考えを押し付けてしまい、チームの意見要望を上手くくみ取ることが出来ずに破綻する。
特に1課2係7班のような、高IQ保持者な上にいろんな方向性の癖の強さばかり持つ集団では、
一歩下がる
その上、班を――班員を守るために全力で頭を使い、動き、必要なことは交渉してくる。
多少厄介ではあるが、利害関係が一致すればこれほどまでに心強い存在はいない。
俺がいる間に
昇進や【望んでいる係への移動】に必要となる「成果」が手に入らなくなる。
天道は成果を上げるためには
天道と
だからこそ、渦雷はよく自分を人質にして天道に交渉しに行っていた。
霧島の最後の一言は、
作戦を受け入れ、裏から手を回すしかなかった。
「――俺は何をすればいい。」
「では、作戦の詳細をお話しします。表作戦は絶対失敗すると思うので、
「なるほどな。
「ああ。あと、しばらく僕はリーダーの座を狙うことにするからよろしく。」
「ああ゛!?やっぱりお前はまた――」
「――天笠さんの目をそらしておきたいんだ。この行動は昨晩、
「――は…?」
「ちょうどいいことに、僕は天道の
「――なぁ、そんなにヤバそうなんか。まぁ、今でもかなり横暴やけど…これ以上があるってことやろ…?」
「ああ。恐らく。
班員が少し妙な動きをしても
目をつぶってくれると助かる。」「……やたら天笠さん…倉木さんに絡んでるのはそういうことか。」
「あとは…まぁ、個人的にちょっと興味があるんだ。天道のスパイに見える僕と、扱いずらいけど優秀な
「……呼び方変えたのもその一環か?」
「ノーコメント。」
「わかった。乗ろう。実は明日、特捜班の直属の上司の定期会、
「天道さん、ありがとうございます。よろしくおねがいします。」
こうして霧島は第三段階――天道を引き込むことに成功した。
話がまとまり、席を立つ。
その時、ふと思い出したように天道に聞かれた。
「なぁ…がまらか…もが、ま…ろり、なんちゃられんしすって知っとる?…実際、よく聞き取れへんかったんやけど。」
「――は?がまらか…??れんしす??」
なんだそれは。何かの呪文か?
「なんか、画面の中の奴が言いよったんねん。がまらか…もが、ま…ろり、なんちゃられんしす??なんか、むっちゃ長い呪文のような…がまらかがどうのこうの…。」
霧島は不思議に思い、複雑な表情を浮かべ、天道に言われた音を何度も呟く。
何回か繰り返していると、思い当たるものがあった。
「――もしかして、Gammaracan-thuskytodermogammarus loricatobaical-ensis――ガンマラカントゥスキトデルモガンマルス・ロリカトバイカレンシスか?甲殻類…ヨコエビの仲間の学名だな。」
「えび…エビ…え、海老ぃ??」
「ああ。エビだな。ポーランド人が命名して、論文でも使っているんだが、長すぎるため学名としては認められなかったものだ。よく世界の長い名前の例に挙げられているぞ。…てか、これ、世界の有名な雑学の必須知識だが…天道さん、外事なのに知らないんだな。へー。意外。」
困惑する天道に、霧島は補足した。
ちなみに、雑学の必須知識というのはでたらめである。
普段の仕返しも込めて、少々話しを盛ってみた。
「…エビかい!!!……なんやねん。あほらし…。悩んで損したわ…。」
天道は呆れ、脱力した。
ヲイ、
天道、
全く気付いてないぞ
。――天道には難しすぎたか?「ところで――ふふっ。いったいスマホにどんな女性が映ったんです?天道さん…どんなご趣味をお持ちで?」
何となくは察しているが、
答えを知らない霧島
は、にやけながら天道に質問した。この数秒後。
霧島は、舌打ちした天道に頭を一発殴られた。
――だって、普通、何が起こったか気になるだろうが!!!
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【補足】
リーダーとリーダーシップに関しては、けっこう端折ってざっくり定義としています。
おおよそこんな感じかなーと。
詳しく知りたい場合は各自検索していただけると幸いです。