【表作戦】の開示 (11月4日19:30~20:00)

文字数 3,839文字

――20XX年11月4日 19時30分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス

渦雷(からい)たちは晩御飯を食べ終わり、キッチンで洗い物をしていた。

晴野(はれの)が洗剤を付けたスポンジで洗い、渦雷(からい)が水で流していく。
雨宮(あまみや)嵐山(あらしやま)は洗い終わった食器を片っ端から拭いていく。

雪平(ゆきひら)はデスクに戻って新着情報が無いか確認をし、霧島(きりしま)はミーティングルームのテーブルを拭き、天道(てんどう)は床に掃除機をかけている。
東雲(しののめ)は資料室で秘匿班(スカウト)にて割り振られた仕事をしているようだ。

公安の人はミーティングルームの隅に立っていた。


食器を棚に片付けていると、室内に天笠(あまがさ)が入ってきた。
「こんばんは。聞きたいことがあるんだが、みんな集まってくれるかな?」

ミーティングルームに居た霧島が、班員に伝わるよう大きな声で呼びかける。

「おーい!天笠(あまがさ)さん来てるぞー。集まれってさ。」
「え、あ、はい!お、お疲れ様です。」
雪平は慌ててパソコンの画面をスリープモードにして、デスクからミーティングルームに移動する。

渦雷(からい)たちもキッチンからミーティングルームに移動する。
ミーティングルームに班員と天道、天笠、公安の人が集結した。

「お疲れ様です。何かありましたか?」
渦雷(からい)が質問する。


「いや、ね?昼間に天道(てんどう)霧島(きりしま)くんが2人でどこかに行ったって聞いて。僕が上司なんだからこっちにも報告してくれないと困るんだよね。だから、そのことを聞きに来たんだ。」
天笠(あまがさ)は言う。――隠し事をせずに言え、と。その為の監視だと。

霧島は天道に一瞬だけ視線を向ける。
渦雷(からい)は少しだけ疑問の表情を浮かべ、霧島を見る。

天道は霧島を見ずに呆れながら言う。

「いや…

(天笠)はん?そりゃ横暴やで。ちゃぁんと公安の人には秘匿班(スカウト)での仕事と伝えましたやろ…。内容も簡単に開示したで。文句ありませんやん。それとも

さんにはちゃぁんと内容、伝わってないん?」


お前の手下は報告すらまともに上げられないのか、と暗に言ってみる。
天道は出ていく際、公安の人に「秘匿班(スカウト)での仕事」と伝えている。
文句を言われる筋合いはない。

だが、天笠(あまがさ)は「自分に報告せずに班で勝手に動きやがった」と捉えているようだ。
――まぁ、正解なんだが。


天笠は言う。
「困るんだけどね。そういうことをされると。」
天道は切り返す。
「いや、だから、秘匿班(スカウト)での仕事って()うたやん。なんやねん。もう。」
「次からは僕も連れて行ってもらおうか。天道の受け持つ

にも興味があるし。」
()んでくれへん?というか、ご法度やで?特捜――カラスのルール守る気あらへんのならさっさと上司降りて、話が分かる人に交代してくれへん?迷惑やわ。」
「おや、私は君の上司だよ?知る権利がある。」

天笠は天道に「何もかもすべて自分に従え。」と言い、天道は天笠に「誰が従うか。さっさと辞めるか追放(リコール)されろ。」と切り返す。
いつも通り険悪であるが、今日は殊更酷い。
しかも、特捜の管理につく前の名前(倉木)で呼んでいるし。


――おいおいおい。それはダメだろうが。

渦雷(からい)も他の班員もドン引きしていた。


霧島の予想通り、天道と接触する際は例え秘匿班(スカウト)であっても付いてくる気満々だった。
天道があの段階で動いてくれて良かった。

というか、設立の際に警察や自衛隊などの上層部が集まって決めた、青少年特殊捜査本部のルールを本当に無視しようとするとは…。
越権行為が酷すぎるし、特捜設立関係者に真っ向から喧嘩を売っている。

予想通り、天笠(あまがさ)(本名:倉木(くらき))はこの班を支配する気満々だった。


ひとまず、渦雷(からい)が話の流れを遮るように発言することにした。

天笠(あまがさ)さん、来ていただきありがとうございます。実は班で話し合った結果、今後の計画について明日にでもお話ししたいと思っていましたので助かります。本当は昨晩考えていたのですが、粗があったため本日ブラッシュアップしていました。」
「計画?……何かあったのかい?話してごらん。」

天笠は詳細を促してきた。


現在、天笠は【天道が霧島と結託して秘密裏に何かしようとしている】と思っているはず。
また、【霧島は天道が飼っている、自班に対してのスパイ】で【渦雷(からい)と霧島が対立している可能性がある】とも思ったはず。

この班のリーダーは渦雷(からい)。霧島ではない。
通常なら渦雷(からい)が上司に報告を上げるべきだからだ。


この班は元々中身に亀裂を多く抱えており、歪だった。
わだかまりが溶けたのは昨晩のこと。

そう。

のである。

だからこそ、あえて上司陣の前では以前と同じようにふるまうし、ミスリードも誘う。
まだ班にわだかまりがあるかのように。



――さぁ、作戦の第四段階の開始だ。



――20XX年11月4日 20時00分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス

「協力者が渡すUSBにあらかじめコンピューターウイルスを仕込んでおいて、インターネットに接続された瞬間にハッキングを開始する――なるほど…それは――ふむ。確かにやってみる価値はあるだろうね。」
「…。」

天笠(あまがさ)は顎の下に手を当てて小さく頷いた。
天道(てんどう)はあえて何も言わない。

「ウイルスの作成やハッキングは東雲(しののめ)君かな?」

東雲(しののめ)天笠(あまがさ)の質問に一瞬ためらった。
なので、咄嗟に

をした。

《…うん。晴野(はれの)にも手伝ってもらう予定。》
「え?晴野君が?」

天笠は驚いた。

――まずい。天笠は晴野(はれの)について調べてなかったのか!?

渦雷(からい)は焦った。
てっきり、晴野のことはばれていると思っていたからこの作戦に組み込んだのだ。
判断ミスにより、こちらのカード1枚をドブに捨ててしまった。

「は?晴野(はれの)ぉ?お前そんなスキルないやろ。簡単に研修受けてたみたいやけど、どうせ3課3係の下の方やろが。」

天道にバカにするような感じに言われ、晴野が俯く。
だが直前に、静かに額に青筋を浮かべるのが見て取れた。――あ、やべ。キレてる。

天笠(あまがさ)東雲(しののめ)――眼球のような形をしたスピーカー機能付きのカメラに視線を向け、驚いた後に晴野(はれの)に視線を向けた。
公安の人も天笠と同じ行動をしていたため、晴野の怒りの表情は見ていないようだった。
ギリギリセーフ。

…いや、まて。
天道は晴野の実力を知らないのか?
それとも知っていてあえてそう言ったのか??
とりあえず、後で調べることにしよう。


「――…僕がハッキングするに決まってるじゃん。晴野(はれの)は3課3係と同じように、機材のサポートだよ。カメラ潰したり、音声機能壊したり、いたずら(ハッキング)用のルーターとか借りてきてもらわないと…。晴野はオペレーターだし、機材やパソコンの準備にも詳しいでしょ?」

東雲(しののめ)がアドリブで晴野の実力を誤魔化した。
晴野の過去は知らない、あくまでオペレーターとして頼んでいます、という体だ。

天笠、天道、公安の人は納得したような表情を浮かべた。
東雲(しののめ)グッジョブ。ファインプレーだった。


天笠(あまがさ)東雲(しののめ)に質問した。

「…あれ?君のパソコンでハッキングすればいいんじゃないかい?色々使いやすいようにしているんだろう?」
《――は?それ、本気で言っているの?……相手はスパイだよ?負ける気はないけど、万が一逆にハッキングされ返されることになった場合、特捜内(こっち)のシステム情報全部持って行かれるじゃん…。システムから切り離したパソコンを使うのは常識だよ…。万が一ハッキングされても、新しいパソコンなら見られて困るものはないし、カメラも音声機能も潰していたらこちらの正体もばれないでしょ?

??……あのさぁ。本当に、天笠(あまがさ)さんって上司?知識、かなり足りてなくない?特捜内(ここ)のルールも無視しようとするし、今だってかなりギリギリなことやってるし。今日限りで辞めたほうが良いんじゃないの?》

東雲(しののめ)がブチギレた。最後に煽る煽る。
古くからの友人である晴野(はれの)――アストライアーをバカにされたことが耐えられなかったようだ。
オフィス内に監視を付けられた件や、天道と霧島の秘匿班(スカウト)に付いていこうとした件も相まってブチギレている。

晴野(はれの)が聞き取れないくらいの小さな声でぼそっと禿同(はげどう)(ネットスラングで「激しく同意」の意味)、と呟く。
こっちもキレていた。
晴野は表情が読み取れないように、少し俯いている。まだ怒りが収まらないのだろう。

他の班員の雰囲気も最悪だ。天笠(あまがさ)さんのやり方に納得がいかない。
天道は東雲(しののめ)の煽りに噴き出していた。

「ホンマ、辞退して(もろ)ぉてええんやで?

さん?

。」
天道も煽った。笑顔だった。

公安の人は空気になっている。
天笠(あまがさ)さんの部下だから何も言えないのだろう。

天笠は一瞬顔がひくついたが、すぐにいつもの一見穏やかそうな表情へと戻す。

「……いや、無知ですまなかったね。東雲(しののめ)君、教えてくれてありがとう。これからみなさんと勉強させてもらいます。」
《……ウイルスは引き渡しの前日までに渡せるようにしておくよ。それでいいよね?渦雷(からい)リーダー?》

天笠(あまがさ)の言葉を無視し、東雲(しののめ)渦雷(からい)に語りかける。

「ああ。…俺に渡してくれたら、天笠さんに持って行くよ。」
「あ、引き渡すだけなら僕でもいいぞ?渦雷(からい)が席外していたりしたら、こっちに声かけてくれ。」
《わかった。2人に任せるよ。》

渦雷(からい)の返答の後に霧島も返事をする。
東雲(しののめ)も2人に対して言葉を返した。


渦雷(からい)が口を開く。
「俺からは以上だが、他に天笠(あまがさ)さんに伝えたいことや議題に上げたいことはないか?――ないな。では、本日のミーティングはこれにて終了。各自シャワーとランドリーに行ってきてくれ。解散。」


これにて作戦の【表】である第四段階が完了した。
残るはあと1つ――第五段階のみだ。

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登場人物紹介

本編主人公の渦雷(からい)です。

1課2係7班のリーダーです。

皆さまどうぞよろしくお願いいたします。


雪平、すまないがこの書類も頼む。総務から雪平宛だ。

1課2係7班、サブリーダーの霧島(きりしま)です!

よろしくな!


あ、雪平!

僕、1時間後に用事で出るから、総務の書類終わったらついでに持って行ってやるよ!

あ、ども!晴野(はれの)っすー!

1課2係7班でオペレーターやってるよー!

よろよろ!!


って、ちょ……ゆっきー(雪平)!!!?無事かー!!?

皆さま初めまして。

1課2係7班の雪平(ゆきひら)です。

事件が無い時は、事務や情報整理、書類整理をメインにしています。

共感覚を持っていて、僕の場合は【色】が見えます。

どうぞよろしくお願い致します。


さて、この書類を…あっ!

(バッサー。書類を床に雪崩のように落とす。)

――うわあああぁ!すみませんんん!!

皆さまごきげんよう。

1課2係7班、雨宮(あまみや)ですわ。


雪平、こちらに来た書類はまとめましたわよ。

1課2係7班、嵐山(あらしやま)よ。

よろしく。


雪平。こっちが処理済、こっちが未処理のものよ。

量もあるし、天道に返す分は空きデスクに積んでおくわね。

1課2係7班、情報班員の東雲(しののめ)だよ。

基本、引きこもっているけど…よろしく。


あれ。ネフィリムからチャット入ってる…。

…了解。〔また出たヤバ案件ww面白そうだし、緊急案件RTA参加するので詳細キボンヌw〕…っと。

いつもネフィリム達には手伝ってもらってるしね。

――さて、頑張りますか。

あ、どうも。公安部外事課、天道(てんどう)どす。

警視庁に勤務しながら、青少年特殊捜査本部の1課2係7班の上司をさせてもらっとりますぅ。

ホンマは古巣に戻るか、1課1係に行きたいんやけど…まぁ、よろしゅう頼んます。

警視庁の阿久津(あくつ)だ。

天道の上司だ。どうぞよろしく。

警視庁公安部所属の天笠(あまがさ)です。

1話のエピローグから本編に関わらせていただきます。

読者、そして1課2係7班の皆さん、どうぞよろしくお願いします。

うぽつwww

拙者はネフィリム!

3課1係4班のリーダーでござるwww

いやぁ、何卒どうぞどうぞよろしくでござるww

あ。上から緊急案件RTA入ったんで離脱シャース!ノシ

ホント人使い荒いwwブフォww

者ども!!調査(ハッキング)と工作(クラッキング)の時間ですぞ!!各自開始オナシャス!!

警視庁公安部内事課の斎藤だ。

…一応名乗ったが…俺の自己紹介、本当に必要か??

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