天道への説明 (12月9日15:10~15:30)
文字数 6,249文字
班の上司が天笠に代わった後。
倉木(
班を利用しようと動いていたのだ。
当時、
晴野は
そして、
口止めはしたが、情報班員くらいならリーダーに選ばせてやろう、という天道なりの配慮でもあった。
だが、晴野はオペレーターへの移動が不服だったようだ。
一応晴野の
今までは放置していたが、これからは倉木(天笠)が絡んでくる。
班の中に裏切り者が作られては困る。
天道は監視が解除され、情報が他者に渡らなくなったタイミングで、晴野に正直に配置換えのことを話し、
天道は阿久津に渡された書類と実際に会ってみた感覚から、晴野のことを【
すぐ手を抜く癖は、性分というよりかは
だが――天道は本日、お偉いさんとの会話にて【阿久津さんに班員の情報共有を止められていた】可能性が高いことを知ってしまった。
天道は班結成時に【阿久津の
天道は晴野の能力を知らなかったこと、能力を見抜けなかったことを悔いた。
また、晴野が訓練や仕事に求められている最低限しかしないのも、編成時に信用が失墜していることが関係している可能性が高かった。
ここ最近の晴野は、天道が居ない時は頑張っていると聞いていたため、この読みは正解だろう。
阿久津に腹が立ったが、怒りをぶつけることは出来ない。
阿久津は今は獄中だ。もう関わることも無いだろう。
ひとまず、情報を集めなければ。
わからないだらけの班を上手く運営なんてできない。
班員の情報が隠されていた可能性が高いため、他の班員の動向にも気を配らないといけなくなった。
もう一度相手を知りに動かねばならない。
本当に面倒なことをしてくれる。
天道は
他にも阿久津が何かやらかしていないこと
を祈った。そうこう考えを巡らせていると、特捜オフィスに着いた。
前回は見張られながらの宿泊だったが、今回は命の危険があるようだ。
はたして俺に情報は共有されるのだろうか。
正直、班の管理者として情報共有が無いのはまずい。
上にあげる情報は当然吟味するが、
IQ の高い奴らが集まっているため、情報が上手に隠される危険性がある。
――隠された場合、上手く裏側を見抜けるかが鍵になりますやろなぁ。
天道はエレベーターに乗り、1課2係7班オフィスがあるフロアを目指した。
――20XX年12月9日 15時10分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス
天道が1課2係7班オフィスに戻ってくると、
どうやら、事情を説明してくれる気になったようだ。
攫われた
現時点では情報が無さ過ぎて絶望的だが、初動対応が肝心なのだ。
また、他にも誘拐が起きていると聞いた。
関係がある可能性は低いかもしれないが、攫われた時刻がほぼ同じため、そちらから当たることもできるだろう。ただし、まだ情報はこちらに降りてきてはいなかった。
天道は仮眠室に荷物を置かず、オフィスの開いている所に鞄を置く。
――さて、どれだけ明かしてくれはるんやろぉなぁ?
拉致の件もある。
天道は今回、できるだけ班の味方でいるよう決めていた。
倉木(天笠)が嫌いというのもあるが、前回のPNGの邪魔にかなり腹が立っていたのだ。
公安としてスパイは許さない。裏切者も同様だ。
心の中で、PNGしてやると息まいていた。
一方、
――天道さん、今日は圧、低めだな。
疑問に思ったが、気にせず説明をすることにした。
「では、現時点でわかっていることをまとめましたので、説明します。実は――」
味方と見られるか、敵と見られるか。
開示される情報で見極めよう。――天道はそう思っていた。
だが、早速話を聞いていると疑問点ばかりが出てくる。
この事件、意味が解らない。
――情報量が多すぎる。
それに重要な部分を隠しているものもあるだろうが、詳細が判明していない可能性が高いと思われた。
素直なのはありがたい。
だが、情報過多だ。意味が解らない。
ゆえに、天道は混乱していた。
「……ちょ、ちょっと待て?」
天道は話し終えた
「えーと、つまり…?…雨宮に関してはご家庭の事情で狙われて?晴野は俺の車で雨宮を奪還しとって?ただ、
天道は話しの内容を、ほぼそのまま口に出した。
割と情報は開示してくれているように思う。
だが、突っ込みどころがありすぎて、意味が解らないのだ。
天道は1つ1つ聞いてみることにした。
「えーと。…雨宮の
ご家庭の事情
って、何や?…どゆこと?俺知らんのんやけど。」「詳細は
秘匿班経由
だから言えません。」「おうおう、初っ端からかい……。」
本当は
個人情報
なんだが、天道が気付くまでは教えないほうが良いと思い、実際、
それに、拉致に特捜が絡んでいるのであれば、自衛手段がある雨宮だけ違う攫われ方になっていただろう。
「…晴野は俺の車
「恐らくウエストポーチの中に、銃以外は入っていたと考えています。…詳細は
まるで全てを知っているかのような
「いや、そう考えるに至った根拠があるやろ…。」
「…詳細は
「えぇ……。逆に何で発覚したんや。おかしかろうが……。普通、
「……天道さんが無理やり連れて行った時の、晴野の凡ミスからの推察です。あとは、最近の晴野の行動の怪しさも含まれます。そう考えると筋が通るんです。」
「待て。晴野、アイツ
何した
ん??」「雨宮に過度に絡んでいました。」
「……は?…過度に、絡む…??」
意味が解らない。
過度に絡んでいて、なぜそう判断できるのだろうか。
……女子同士、仲良くなっただけちゃうん?知らんけど。
「班で協議した結果、関係しているだろうという発想に至りました。」
「えぇ……??意味わからん……。あー…これ以上聞いても無駄か…次やな。」
天道はため息をつき、再度口を開く。
「あー……。拉致は、阿久津の一件で関わっていたテロリストの犯行の可能性が高くて、R国スパイも関わりがあるって、どゆこと??何でわかった?」
「詳細は
「えぇ……。てか、さっきから
「はい。合ってます。」
「んで、雨宮の拉致が成功するよう動いた敵さんも居るってマジ…?相当ヤバいやん!?
「スマートフォンが入ったカバンを公安に預けたこと、晴野の邪魔をするかのように
「上が一切信用できひんのも同じ理由か?」
「はい。明らかに異常です。できれば晴野に
「それはできん。せやけど、恐らく味方や。――晴野に頼んだのは、裏切り者の調査や。…これ以上は言えへん。」
「そう、ですか……。」
まさか、上司の氏名の代わりに
班員は驚いた。
対して、天道は真剣な表情を向けてくる。
「なぁ、俺の情報が敵に漏れてるって、
マジ
?」天道にとっては恐ろしいだろう。
表であれば、敵に面が割れることはさほど問題ではない。
むしろ外事の表では顔を出して、スパイを国外に追い出すのが仕事なため、時にはスパイに
だが、裏は違う。
顔がバレてはいけないのだ。安全確保と機密保持の為、名前も偽名を使う。
顔が割れた場合、もう裏の世界には居られない。
特に、今回はテロリストが関わっている。
今後の移動先は公安の表か一般的な警察職務になるだろう。
「阿久津の一件で接触役だったからです。恐らく漏れているし、調べられているでしょう。」
阿久津の一件のような場合、接触する相手は【公安が獲得した協力者】――いわゆる敵サイドを裏切って、警察についた人だ。
本来なら顔バレは気にしなくていいのだが、阿久津が裏切っていたため、会っていた人物は敵確定だろう。
天道はまだ【裏】に居る。
調査の結果、情報が漏れていないからそのまま所属していると思っていたようだが、渦雷たちは違うと思っている。
この班には関係者が多すぎるのだ。
天道にとっては汚名返上にもなるが、裏側がかなり込み入ってそうだ。
「だから、次は俺が攫われて?……その後はあんさんらなん??」
「詳細は
「外交官……そんなやり方される可能性もあるんか……。」
ありとあらゆるシチュエーションを考えなければ、実際にやられた時に詰む。
天道にとっては想定外だったようだ。
「俺らはそう思っています。そして、その時に俺らの情報も漏れると考えています。」
「あ?俺が
おっと。どうやら天道の逆鱗に触れてしまったようだ。
「雨宮誘拐の件で分かったと思うのですが、
確実に内部班が居る
んです。それも、味方であるはずの公安内部に
。…俺らは天道誘拐の数日前に一緒に情報を渡される可能性が高いと読んでいます。」「……マジか。そういえば班の情報を流そうとしとるヤツも――」
「――え。既に漏洩未遂が……?」
「ん!?情報漏洩の兆しがあったのか!?なぁ、おい、天道さん!!?」
「は!?どゆこと!?
「ええ!?だ、誰ですか!?僕らと関りが深い人ですか!?」
「なっ……そいつどうなったのよ!!教えなさいよ天道!?どうなったの!?」
天道の失言に、班員が突っ込む。
「……いや、何でもない。忘れぇ。ただ、知る範囲ではまだ漏れてへん……。」
……気が気ではないのだが?
開示を要求しようとしたら、話を止められてしまった。
「えーと、最後に、なぜか霧島も狙われる可能性があるん??」
「詳細は
秘匿班経由
だから言えません。」これも本当は個人情報だからだが、天道が気付くまでは教えないほうが良いと思い、
バレた経緯は
「……何やこれ。情報量が多いうえに、断片的にしか分からんことが多い……。何かほぼ同時刻に別の拉致もあったみたいやし……関連性あるんか??あー、情報降りて来ぉへんわからへん……。あ、あと誘拐誘拐言うけど、誘拐は言葉に騙されてついていくことで、拉致は有無を言わせず連れていくことやから、この場合は拉致が正しいで……。」
天道は頭を抱え、俯きため息をつく。
……どうやら言葉を間違えていたらしい。気を付けよう。
また、雨宮の兄たちの拉致についても調べているようだ。
雨宮の個人情報に気付く日は近いかもしれない。
今は放っておこう。俺らが班員の個人情報を把握していることがバレたら厄介だ。
「安心してください。判明しているのは氷山の一角で、さらに裏ではえげつないことになっているはずなので。」
「まだ何か絡んでそうなん!?」
「確証はありませんが……恐らくそうなっているだろうと。」
天道は絶句し、何なんコレ、と呟いた。
そう――恐らくこれは氷山の一角。
晴野が追っているのも、もっと複雑な案件のはず。
「あ……すまない。そろそろ時間だ。俺は
「お、いてらー。頑張れよー。」
時計を確認し、
その時、
「――あ、僕も
「僕と嵐山さん、霧島サブリーダー、天道さんはオフィスに残りますので安心してください。」
「ありがとう。行ってくる。」
「ありがと。行ってくるよ。」
第二ドアロックを出て、第一ドアロックへ向かう。
「……今回、完全秘匿ではないから……
「ああ。一緒に行こう。俺も完全秘匿じゃない。」
「ん。」