敗北の末路 (12月15日??:??)
文字数 2,220文字
飛行機で本国に降り立ったアレクセイとウラジーミルは、組織へと向かう。
その顔色は優れなかった。
空港に向かう前、組織からの
問い正される内容は分かっていた。
アレクセイとウラジーミルは添付資料を思い起こし、どこで何があったのか正確に説明しようと必死だった。
自分たちはもう日本からは外されるが、後続が困ってはいけないし、何より弁明の機会が欲しかった。
飛行機の中で頭を回し、自国の空港に着きタクシーに乗り込んでも考えて、言葉を組み立てていた。
タクシーを降り、組織の建物へと入る。
プロトコール・オフィスへの通報だけでなく、PNGまでも食らったため、かなり気まずい。
すれ違う同僚や先輩後輩からの視線が冷ややかだ。
仲が良かった人にも目をそらされる。
睨んできたり、「お前らのせいで」と罵声を浴びせて去る者、舌打ちしてくる者もいた。
アレクセイたちは国の為に働いた。
自国の利益になるよう、各方面と連携し、後ろ暗いことをやりつつ同時進行で協力者の運用もしていた。かなりのハードスケジュールをこなしていた。
だが、相手国に退路を断たれたうえで諸々暴かれてしまったのだ。
こちらの計画の確信にも気付かれている可能性が高かった。
――失敗したうえに、更なる叱責とは笑えない。きちんと説明責任は果たさなければ。……だが、ここまで罵声を浴びせられる程だっただろうか?
廊下を歩き、1つの部屋の前に辿り着く。
「失礼いたします。アレクセイ・アレクサンドロヴィチ・アルチェミエフ、ルドルフ・ペトローヴィチ・バルバショフ、2名入ります。」
「入れ。」
アレクセイたちは呼び出された部屋にノックし、入室した。
「おまえたち、何てことをしてくれたんだ!!」
上官からの叱責が飛ぶ。
弁明しようと思ったら、話しは違う方向へと飛んだ。
アレクセイたちは、叱責はPNGの件だけだと思っていた。
だが、どうやら違ったらしい。
PNGの後、アレクセイとウラジーミルのスマートフォンを発端として、R国スパイ組織のパソコン内のデータが荒らされていたのだ。
侵入した証拠はアレクセイとウラジーミルのスマートフォンの中に残っている。
そう――アレクセイとウラジーミルは【R国スパイ組織の裏切り者】に
仕立て上げられていた
のだ。アレクセイたちは一気に青ざめる。
「ハッキング――!?我々の端末から、ですか!?」
「そんな……!肌身離さず持ち歩いていたのに!?一体いつ乗っ取られたんだ!?」
各自スマートフォンを確認し、更に青ざめる。
というか、真っ青を通り越して真っ白になっている。血の気が引いているのだ。
冷汗が滝のように流れ、息がしづらくなる。
軽くめまいがするが、何とか二本の足で立つ。
――考えなければ。
だが、考えれば考えるほど、アレクセイとウラジーミルは困惑する。――原因となる心当たりがまるでないのだ。
他者に【R国スパイ組織の裏切り者】と言われようとも、自分たちは決して【R国スパイ組織の裏切り者】ではない。
一生懸命弁明しようと思った――が「何も聞きたくない。」と一蹴されてしまう。
まずい。
まずいまずいまずいまずい。このままでは――!!
「我々は裏切ってなんかいません!何かの間違いです!!」
「アクセス地点になった事はわかりました。ですが、本当に心当たりが――」
アレクセイたちの言葉を遮り、上官は告げる。
「君達が持って帰ってきた情報も偽物、もしくは対外的に用意されたものの可能性が浮上した。」
「――!!」
「そんな……。」
――この状況で唯一の功績とも取れるものですら「偽物」だなんて……!
アレクセイたちは絶望する。
希望なんて1ミリも残されていなかった。
「オペレーションが潰されるのはよくあることだ。現に日本でも何回も潰された。だが――ここまでなることは、今までなかったんだよ。……残念だよ。」
「そん、な……。」
「嘘……だろ……。」
「入れ。」
入り口からスーツ姿の男たちが入ってきた。
アレクセイとウラジーミルを囲むようにして立つ。
男たちが放つ空気感に、アレクセイたちは気圧された。
もう、反論する気力も残っていなかった。
「君達の移動先は倉庫整理――閑職だ。連れていけ。」
結果、2名は閑職に追いやられることになった。
男たちに連れられ、退室し、廊下を歩く。
かなりの握力で腕を掴まれているため、抜け出すことができない。
仮に抜け出せても、アレクセイたちが組織に与えた損害は甚大だ。裏切り者として始末される可能性があった。
アレクセイたちは絶望し、上手く回らない頭で考えたが、上の指示に大人しく従うほかなかった。
石造りの建物を地下へと進んでいく。
かなり冷える。
――きっと、これから行く先は……もっと寒いのだろう。
白い息を吐きながら、歩いていく。
地下室の扉が開けられ、男たちに連れられて入る。
――悔しい。苦しい。怖い。
だが、祖国のために、本国のために仕事をしたのは偽りではない。
それが自分たちに残された唯一の誇りだった。
例え、茨の冠を被せられ――最後は
そして、地下室の扉は閉じられるのであった。
アレクセイたちの行き先は閑職。
だが、本当に文字通り「閑職」で合っているのだろうか。
R国には今でも暗殺を生業にした、秘匿された国営組織があると言われている。
アレクセイとウラジーミルを連れて行った男たちが、果たしてどこに所属していたのかは――知る由もない。