それぞれの秘匿班 (12月9日16:30~16:55)

文字数 4,547文字

――20XX年12月9日 16時30分 都内某所 マンションの一室

晴野(はれの)はとあるマンションの一室で、ペットボトルのお茶を飲んでいた。
用意されていたパソコンを開き、電源を入れる。

もう1つの緊急案件(エマージェンシー)を早めに片付けておきたかった。
USBを差し、テキストファイルを開く。
元々作っていたウイルスをほとんどそのまま使用する為、そんなに時間はかからない。
最後に、少しクリプターをいじればいいだけだ。

ウイルスが完成した。
メールアプリを立ち上げる。

1課2係7班の情報を横流ししようとするゴミ以下の下等生物(裏切り者)に送りつける文章を考えていると、扉がノックされる。

入ってきたのは男性だった。
ガタイが良く、なぜか




ぞ。……良かったのか。」
「…心配してるでしょ。無事がわかれば無茶しないはずだし。」
「そうか。……ああ、相変わらず

らしいぞ。一向に起きてこない。」
「めっちゃ寝るなぁ……。私も他も、多くは盛ってないはずなんだけど。」
「俺はこの後、ザックたちと寝室で見張る。晴野――

はどうする?」
(ほむら)さ――

が見張るなら大丈夫かな。私はここで天道(てんどう)経由で舞い込んだ緊急案件(エマージェンシー)をしたら、何か買ってきて食べるよ。昼食べてないから、さすがにおなかすいたわ。」
「だと思って。食え。」

(ほむら)と呼ばれた男――晴野の実兄は、晴野に弁当を差し出した。
温かい。
ほぼ作りたてを、お弁当屋さんでテイクアウトしてくれたようだった。
さすが兄貴。相変わらず優しいわ。

「ありがと。食べるわ。」
「じゃぁ、俺はこれで――」

まって、と晴野は立ち去ろうとする兄を呼び止める。
心臓が早鐘を打つように鳴るが、どうしても晴野は聞いておきたかった。

「――なぁ、

。……何者?…本当に

で良いんだよな?」
「合ってるよ。俺の所属は

。」
「今まで聞けなかったけどさ……何で私を誘っ(スカウトし)たの?」
「面白そうだったから。」
「おい。」

そんな理由で妹を

に引きずり込むなや。
優しい兄貴だと思っていたが、一瞬にしてクソ兄貴に変わった気がする。
…いつか処す。(シメ)てやる。覚えてろクソ兄貴。

「それと――会えなくなるのが嫌だったから。…

これからもよろしく。」

寂しそうに微笑んだ兄を見て、理由と

がわかってしまった。
もうこれ以上は聞いてはいけない。
晴野は笑顔を作り、返答する。

「そっか……これからもよろしく。

。」

(ほむら)は部屋を出ていった。

晴野は残りの文章を速攻で仕上げ、裏切り者に送りつける。
マルウェア感染を狙っているので、クリックしてくればそれでいい。
また、仕込んだウイルスが自動的にこのパソコンに情報を転送してくれるよう製作(プログラム)しているため、挙動を見張る必要もない。

メッセージは数パターン作成し、2通目以降は違う角度から時間を空けて送信する予定だ。


ノートパソコンをシャットダウンし、机の上から足元におろす。
開いた机の上には兄が買ってきてくれた弁当を広げた。

中身はのり弁だった。
いただきますと言い、一口食べる。

――うん、おいしい。温かい。白身魚のフライとタルタル最高!!

隠れ家への移動や、雨宮に必要なものを揃えるのに時間がかかったこともあり、昼食の時間が取れていなかったのだ。
おなかがすいていたから本当に助かった。


あっという間に食べ終わってしまった。
ごちそうさまでしたと言い、晴野は息をつく。

今にも泣きそうだった。

兄貴め。
これからはITの時代だって言ってたくせに。
パソコンが使えるようになったほうが良いって、出た給料でノートパソコン買ってくれて、帰省したらその度にいろんなこと教えてくれたくせに。
自衛隊に転職して、情報部隊に所属したくせに。

そのはずだったのに。

最初は会えないのは、ただ自衛隊の仕事が忙しかったんだと思っていた。
でも、違った。

裏に所属すれば所属するほど、交友関係は断つ必要がある。
それは親族でも例外ではなく、一時期兄と連絡が取れなくなっていた時期があった。
家族の中で唯一まともなうえ、優しくしてもらっていたから、当時は凄くさみしかったことを覚えている。
味方が欲しくて、仲間が欲しくて、ネフィリムたちと遊んで補導されたのもこの時期だ。

だけど、私が特捜に入った数か月後、なぜか兄が特捜に来ていて再会ができた。

その後、秘匿班(スカウト)先の上司陣に居たのと、降りてくる仕事内容で何となく察してはいた。
だけど、気付かないふりをしていた。


兄は――別班になっていたんだ。


私は1課2係7班員。上司は公安外事の天道。
言ってしまえば、私も浅い階層で似たようなことしてるし、仕事内容に不満はない。

さみしかったし、秘匿班で他人のように接せられて不安もあったけど――今は誇らしいや。


弁当のごみをまとめ、折り畳み式の机の上にパソコンを置き直す。

とりあえず、今できることを頑張ろう。
ここから数日が勝負だ。
1課2係7班のためにも、兄のためにも負けるわけにはいかない。


晴野は弁当のごみを捨てに、キッチンへと足を運んだ。



――20XX年12月9日 16時55分 青少年特殊捜査本部 会議室

階段で上がったのと、天道への説明に時間がかかったのもあり、会議室にたどり着いたのは5分前だった。

入室し、メンバーに挨拶をする。

「お疲れ様。渦雷(からい)君――ちょっといいかな?」
「……?はい。お疲れ様です。」

席につこうとすると、この秘匿班(スカウト)の上司である黒沢(くろさわ)さんに声をかけられた。
手招きされ、廊下までついていく。

「これを君に。」
「…DVDディスク…ですか……?」

差し出されたのは透明なケースに入ったDVDだった。
DVDにも画像や文字が印刷されておらず、片面が白いだけだった。

中身は何だろう?

疑問に思っていると、黒沢さんが説明してくれた。

「実は、私も中身を知らないんだ。」
「え?」
秘匿班(スカウト)の上司が集まる交流会みたいなのがあってね?そこで会った人から渦雷(からい)くんに渡すよう頼まれたんだ。――どうやって私が【渦雷(からい)君を含む秘匿班(スカウト)の招集をかけていること】を知ったのかは不明だけど。」
「そうですか。ありがとうございます。後で開いてみます。」
「――雨宮さんの連絡は、まだない感じかな?今のところ犯行声明などは出ていないようだけど、人身売買や臓器売買の可能性もある。…刑事1課の捜査本部すら立っていないようなんだよ。もしかして、もう戻ってきてたりする?」


――黒沢さんは、雨宮の行方だけわかっていない感じか?

どう切り返せばいいだろうか。
黒沢さんは裏に隠されていたとしても、必ずどこからか情報を取ってきてしまう。
隠しても無駄だろう……少しだけ正直に言ってみるか。

「はい。まだ見つかっていません。ですが――複数の秘匿班(スカウト)が……雨宮の拉致が起こる前から、雨宮を守るために動いていたみたいなんです。だから、無事だと考えています。」
「!?待って、まさか

ってこと!?」

――あの黒沢さんが、内情を把握できていない!?

「……俺が知っているのはここまでです。…黒沢さん、俺は

を疑っています――

?」

渦雷(からい)は念のため、黒沢に聞いてみた。
違うとは思うがこの人が敵だった場合、最悪だ。

「――私ではない。断じて特捜や渦雷(からい)君たちの敵には回っていないよ。」

嘘はついていないだろう。
だが、黒沢さんが一切把握できていないのは異常だ。
闇が深そうだな。この案件。
……俺たちはただ、R国スパイのアレクセイにPNGを出したいだけなのに……。

少しへこんでいると、考え込んでいた黒沢さんが声をかけてくる。

「……渦雷(からい)君。拉致のことについては情報はないけど、別件で少し

があるのは知っているから、この秘匿班(スカウト)の会議が終わったら少し時間を貰ってもいいかな?」
「!……ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「ああ。ではまた会議後に。」

黒沢さんは会議室に戻っていった。
渦雷(からい)はため息をつき、会議室に戻ろうとした――ら、目の前に1人の女の子がいた。
真っすぐ、目を見て見つめてくる。


彼女の名は(さくら)
腰まである長い白髪に、ルビーのような赤色をした瞳の女の子だ。
雨宮と同じくらいの年頃だろうか。高校生くらいに見える。
髪型はコロコロ変わり、前回は三つ編みで、今日はハーフツインにしていた。
恐らくアルビノなのだが、日本人のアルビノの場合は色素の関係上大半がヘーゼル色の瞳、薄くなっても青色になるため、かなり珍しい。
特捜の制服(ネクタイと6ボックススカート)を着用しているため特捜メンバーだとはわかるが、彼女はいつも


そのため、渦雷(からい)は桜の所属を未だに知らなかった。

いつも急に気配なく現れては、こちらをじっと見つめて一言告げ、立ち去っていく。
独特な感性を持っているのか、急に縄跳びを始めたり、ペンデュラムを揺らしてみてはホワイトボードに落書きしたり、会議中に砂時計の落ちる砂を眺めてみたり、ブツブツ独りごとを言って動き回ったりと行動が全く読めない。
この前は床にホワイトボードマーカーで落書きをして、黒沢さんにやんわりと止められていた。

奇行が多い謎多き女子なので、あまり近づく人はいない様子だ。
ただ、黒沢さんとは波長が合うのか、よく一緒に居るところを見かける。

渦雷(からい)としては「少し変わってはいるが、東雲(しののめ)みたいに人付き合いが得意ではないのだろう」と思っており、嫌うわけでもなく普通に接していた。
ただ、急に目の前に現れられるのが心臓に悪いだけで。
それ以外は特に何も思ってはいなかった。


桜は渦雷(からい)を見つめ終わったのか、言葉を発した。

「大丈夫。ぐっすり寝てる。……安全。」
「え?」
「班のモニターに…流せば……わかる。」

どうやらDVDのことを言っているようだ。

「戻り次第、班で流すことにする。ありがとう。」
「……秘匿班(スカウト)……聞いたほうが、いい。」
「え?」

。……みんな。…嵐も、雪も。雲も、霧も、天も。……全て。」

桜は渦雷(からい)の瞳を真っすぐ見ながら言葉を紡ぐ。
嵐は嵐山、雪は雪平。雲は東雲で、霧は霧島。天は天道を指すのだろう。
…天道は「自分の秘匿班(スカウト)で降ろしている案件」という意味なのだろうか?

というか、今日はいつもに増して良く喋っている様子だ。
この子、長文の会話、できたのか……。

考えていると、桜は更に口を開く。

渦雷(からい)リーダーたちの……情報漏洩…ずっと、

…から……今は心配なし……。」
「!!本当か!?……助かる。ありがとう。」

ついつい大きな声になってしまい、桜がびっくりしてしまった。
ビクッと体が震えた後、まん丸な目で固まっていた。

「あ……すまない。つい。かなりの懸念事項でもあったから……本当にすまない。」

桜はまん丸の瞳をしたまま、こくこく、と頷いた。
どうやら気分を害したわけでなく、ただ驚いていただけらしい。許してくれるようだ。
東雲のように聴覚過敏持ちではないようで良かった。

「……。」
「……。」

どうしよう。桜が無言になった。
渦雷(からい)も発言できず、無言になってしなった。

「えーと……。あのー、お2人さん?お話しが済んだなら、会議をはじめても、いいかな?」

黒沢さんが会議室から廊下に出てきて、渦雷(からい)と桜に告げた。

「……。」

桜は無言で会議室に戻っていった。
完全に置いてけぼりである。

「…え。あ、戻ります……?」

渦雷(からい)も追いかけるように会議室に戻るしかなかった。
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登場人物紹介

本編主人公の渦雷(からい)です。

1課2係7班のリーダーです。

皆さまどうぞよろしくお願いいたします。


雪平、すまないがこの書類も頼む。総務から雪平宛だ。

1課2係7班、サブリーダーの霧島(きりしま)です!

よろしくな!


あ、雪平!

僕、1時間後に用事で出るから、総務の書類終わったらついでに持って行ってやるよ!

あ、ども!晴野(はれの)っすー!

1課2係7班でオペレーターやってるよー!

よろよろ!!


って、ちょ……ゆっきー(雪平)!!!?無事かー!!?

皆さま初めまして。

1課2係7班の雪平(ゆきひら)です。

事件が無い時は、事務や情報整理、書類整理をメインにしています。

共感覚を持っていて、僕の場合は【色】が見えます。

どうぞよろしくお願い致します。


さて、この書類を…あっ!

(バッサー。書類を床に雪崩のように落とす。)

――うわあああぁ!すみませんんん!!

皆さまごきげんよう。

1課2係7班、雨宮(あまみや)ですわ。


雪平、こちらに来た書類はまとめましたわよ。

1課2係7班、嵐山(あらしやま)よ。

よろしく。


雪平。こっちが処理済、こっちが未処理のものよ。

量もあるし、天道に返す分は空きデスクに積んでおくわね。

1課2係7班、情報班員の東雲(しののめ)だよ。

基本、引きこもっているけど…よろしく。


あれ。ネフィリムからチャット入ってる…。

…了解。〔また出たヤバ案件ww面白そうだし、緊急案件RTA参加するので詳細キボンヌw〕…っと。

いつもネフィリム達には手伝ってもらってるしね。

――さて、頑張りますか。

あ、どうも。公安部外事課、天道(てんどう)どす。

警視庁に勤務しながら、青少年特殊捜査本部の1課2係7班の上司をさせてもらっとりますぅ。

ホンマは古巣に戻るか、1課1係に行きたいんやけど…まぁ、よろしゅう頼んます。

警視庁の阿久津(あくつ)だ。

天道の上司だ。どうぞよろしく。

警視庁公安部所属の天笠(あまがさ)です。

1話のエピローグから本編に関わらせていただきます。

読者、そして1課2係7班の皆さん、どうぞよろしくお願いします。

うぽつwww

拙者はネフィリム!

3課1係4班のリーダーでござるwww

いやぁ、何卒どうぞどうぞよろしくでござるww

あ。上から緊急案件RTA入ったんで離脱シャース!ノシ

ホント人使い荒いwwブフォww

者ども!!調査(ハッキング)と工作(クラッキング)の時間ですぞ!!各自開始オナシャス!!

警視庁公安部内事課の斎藤だ。

…一応名乗ったが…俺の自己紹介、本当に必要か??

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