How much am I worth now?【後編】
文字数 3,933文字
入った部屋はツインタイプだった。
霧島は部屋に入るなり盗聴器や監視カメラの
その後、任務について切り出された。
「ええか?今回の任務はこの国に住んでいる協力者と接触して、情報を貰うことや。ご自慢の英語力、期待しとるで。」
納得がいかない。
「なんや、その顔。あんさんの好きな海外やで?喜びぃ。滞在期間は1週間やで。」
――喜べるわけないだろうが。
「なぜ、この僕がお前の仕事を手伝わないといけないんだ?」
「手伝うんやない。エリートなお前にぴったりの研修や。ほれ、喜びぃ。」
「…それなら事前に連絡とか――」
「出勤せんかったお前が悪い。」
「いや、メールとか手段あるだろうがっ!?」
「ほれほれ支度せぇ。早速仕事や。あ、言うとくけんど…現場では私語厳禁な。俺が紹介したときだけ喋れ。
危険やから
。」「え」
危険
?世界を転々としていた僕が、危険だと
?「必ず俺の指示に従え。ここは外国。
命の保証はない
。」「いや、俺も海外長いし外国での生活くらい――」
危険なところを避ければいいと、そう言おうとしたら、別の言葉が返ってきた。
「あー言い方変えるわ。単なる営業やあらへんで、これ。
諜報活動
や。ちょ・う・ほ・う。スパイや。”Spy”それか”secret agent”。接触する2名の協力者は某テロ組織の人間…過激派に潜んでいる、某国の諜報員や。――ミスったら命無いで
。マジで。」「――
「あー、りありー、リアリー。大マジで。ま、勝手な行動をせん限り大丈夫やろ。
多分
。」「ぜ、絶対それ大丈夫じゃねぇ――!!」
「こら、ご近所迷惑や。声抑えぇ…。」
こうして、天道との1週間の海外出張が幕を開けた。
ああ…この後?
散々だったとも!!!
本当に禄でもない1週間だった。
【1日目】
さっきも書いた通り、入国してホテルへ。そこで仕事内容を説明される。
その後、ホテルから出たんだが、変な奴に尾けられた。
天道に追尾点検(備考の有無の確認方法)と消毒(尾行者を撒く方法)を叩きこまれた。
ホテルに戻って1泊した。
【2日目】
宿泊していたホテルの1室が爆発した。
幸い、貴重品は常に携行していたため、衣類が入ったスーツケースが犠牲になっただけで済んだ。いや、良くない。僕のスーツがっ!!
ちなみに、天道は「やっぱこうなるか。尾けられとったし、しゃーない。ほな、次行きまひょ。点検消毒しっかりなー。」と言い、何事もなかったかのように新しいホテルを探しに行った。
もちろん付いていったが、天道の切り替えの早さに困惑した。
夜。寝るのが怖かったが、無理やり寝かされた。
【3日目】
睡眠不足。
天道に気配の消し方を叩きこまれた。
「まだまだやのぅ。まぁ、
…絶対、日本に帰るまでにマスターしてやる…。
その後、協力者Aと接触した。
英語だったので聞き取れたが、不穏な会話しかしていなかった。
おい、天道。お前マジで何の仕事してやがる。
【4日目】
昨日は帰りがけに尾けられなかったので、熟睡できた。
案外順応したのかと思ったら、少し安心できた。
朝食を取り、外に出る。
とあるカフェで協力者Bを待っていた。
すると突然、天道に「あ、やべっ。伏せろ!」と言われた。
――
カフェが爆発した
。即座にカフェから離れ、身を隠す。
幸いにも目立つ怪我はなかったが、心が折れた。
【5日目】
眠れない。
というか、怖い。
昨日のカフェで起こった爆発で、狙われたのは協力者Bだった。
協力者Bは生きていたため、明日夜に再度落ち合うことになった。
裏の世界の怖さを知った。
ていうか、明日が来るのが怖い。
本当に大丈夫なんだろうな。
というか、こんな状況でも熟睡する天道が憎い。何なんだお前は。
【6日目】
昼までは良かった。
――そう、
昼までは
。夕方。いつでも出国できる準備を整え、服などの荷物を預け、協力者Bに会いに行った。
場所は寂れた海沿いの
協力者Bと落ち合うことができ、情報ももらった。
さて、帰るか…と思ったら襲撃された。
乱入してきたのは3人の男。
「うわぁあぁああぁぁあ!!!」
逃げ回ったが、海まで追いやられる。
結果、飛んでくる銃弾から逃げる寒中水泳となった。
――死ぬ。
この旅で何度死ぬかと思ったか。
だが、今日がダントツでヤバかった。
「撃たれんよう、体低ぅして、潜りながら泳げ!!」
「そんなっ…無理だろ…うぼぁゲホッ」
恐怖のあまり、海水を飲みながら必死に泳ぐ。
一心不乱に天道について泳いでいく。
やっとのことで安全な陸地に着いたとき、協力者Bが居ないことに気付いた。
協力者Bは撃たれて亡くなっていた。
その為、途中で海の中に沈んだらしい。
――泳いでる横で人が死んでいた。
ただただ恐怖である。
戦慄する霧島に天道が声をかけた。
「まぁ…残念やけど、もうこれは
天道も霧島もずぶ濡れだ。
磯臭い。おまけに銃弾がかすめており、命に別状はないが軽く怪我をしていた。
時間を確認してみる。
19時43分か。
夜間列車か何かでさっさと隣国に出れたらいいなと思いつつ、天道に付いていった。
荷物を受け取り、体を拭き、着替える。
パスポートや財布を所持していることを再度確認する。
――よかった。ちゃんとある。それに、浸水もしていなさそうだ。
天道に言われて防水処置をしていたのが功を奏した。
ジ〇ロックは偉大であった。
…役に立つんだな、これ。
天道がおもむろに口を開いた。
「のぉ、霧島。
今何時や
?」「自分で確認しろよ…今は19時43分――え?」
「あ、やっぱ、壊れとるな。今は21時16分やさかい。まぁええ。この後XX行きの列車で国外脱出するで。隣国から日本に帰りまひょ。」
「――僕の…時計…嘘だろ…。」
「はいはい、行くでー。」
絶望した霧島は、天道に引きずられるようにして国外に脱出し、その後日本に帰国した。
――成田空港にて
「あー帰ってきたー!!やっぱ日本はええなぁー♪」
「…ソウデスネ。」
散々なことがありすぎて、霧島は疲弊していた。
「あ、明日は休んでええけど、明後日からは
ちゃぁんと出勤するように
。」「…ワカリマシタ。」
そう話していると、スーツを着た男が声をかけてきた。
「天道さん、お疲れ様です。」
「おぉ。時間ぴったりやで。」
「頼まれていたものです。」
「ん。」
部下なのだろうか。
小さめの紙袋を天道に渡していた。
――あの紙袋…時計店か?
僕も時計買い替えなきゃな。
そう思っていたら、急に天道がこちらに紙袋を投げ渡してきた。
「えっ。ちょ、何…。」
「ほれ。やる。今回の任務に同行した報酬や。まぁ、Gsh●ckとかでもええねんけど、あんさんにはこれが合いますやろ。」
「…時計…?って僕の持っていたものに比べてとんでもなく安物じゃないか。」
「…安物て…。これでも20万以上はしはるけど…。お前、金銭感覚どないなっとんねん、マジで。」
渡された時計は、セ〇コーアストロンのSBXC063。カラーはホワイトだ。
「価格が高いものこそ素晴らしいんだろ。便利だし。」
「いや、防水性能もGPSもない、ソーラーでも電波でもない。ただ高いだけやん。現に今回の任務で壊れたやろ。役に立たへんかったやろ、そのごっつうお高い腕時計。」
「う…。それは…。」
「ブランドが悪いとは言わんけんど、俺らの仕事は犯人確保がメインや。これなら日付もわかるし便利やで。俺と
霧島は何も言えなかった。
確かに価格が良いからと言って、必ずしも使えるわけではない。
有名な陶芸家が作るとある花瓶が、見た目を重視しすぎて、花と水が入れづらくなってしまったように。
現に天道は服も持ち物も、基本的に汎用性が高い物や利便性で決めていた。
ブランド、1点モノにこだわり続けるのがいかに愚かか、今回の任務で思い知った。
「これからは、今回の任務のような激しさは無いかもしれへん。けんど…犯罪者の確保をするのに
確かに、海水と弾丸がかすった事により、オーダーメイドのスーツは捨てざるを得なくなった。
他の服も2日目にスーツケースに入ったまま、ホテルの1室ごと爆発したし。
とんだ災難である。
「…まぁ、色も気に入ったし…貰っとく。…ありがとう。」
「ちなみに、俺とお揃いの色違いやで♪」
天道は左腕の黒色の腕時計を見せてくる。
天道はブラックモデルを愛用していた。こちらはおおよそ30万である。
「やっぱいらねぇ。」
「あ゛?んだとゴラァ。」
こうして天道との海外出張は終了した。
――時は流れ、天道との海外出張から1年半。
あれから、僕は一般的な感覚を探すようになった。
持ち物を価格が高いもの、有名なブランドものから、利便性の良いものに変えていった。
様々なランクを落としていったが、部屋の広さだけは譲れなかった。
引っ越しをして、以前より家賃を落としつつ、広めの部屋で生活していた。
料理もするようになった。
まぁ、僕は優秀だから、慣れれば何でも完璧にできるが。
霧島にとって天道とのあの一件は、思い出したくもない壮絶な案件であり、自分の生活、ひいては自分自身を変える転換期でもあった。
右腕に装着している、天道に貰った腕時計を見つめ、思考する。
――僕はだいぶ変わったと思う。
だけど、あともう少し。
もう少し変化が出来たなら。
その時、
――|How much am I worth now《今の僕の価値はどれくらいか》?ってな!