思惑の渦中で (8月30日20:48~8月3?日??:??)
文字数 4,800文字
班では再度情報を詰めていた。
テロは明日。
時間がない。
~♪
ズボンの後ろポケットに入れていた、
「ん?」
渦雷は書き込むことができるタイプの液晶ボードに、専用のペンで文字を記入していた。
ペンを置き、スマホを手に取り、ロックを解除する。
すると、天道からメッセージが届いていた。
〔単独2230点検消毒要。班員以外には知られるな。読んだら削除ヨロ。https://www.goggle.co.jp/maps/@xxxxxxxxxx〕
「…みんな来てくれ。何かしら動きがあったようだが、少し妙だ。」
「なんだこれ。」
今までこんなメールは1度も受け取ったことが無い。
――何かがおかしい。
「…東雲、頼めるか?」
「ん。周辺のネットにつながっている防犯カメラをハッキングして、指定時刻付近の記録が残らないようにするよ。ただ、個人所有とかのオフラインは無理だから気を付けてね。あとで安全なルート送ります。」
「ありがとう。」
「…嘘や罠の【色】は感じません。ですが、ここに来ない時点でおかしいです。…気を付けてください。」
「わかった。ありがとう。」
その時、
「
そういえば、昼ご飯以降、おやつも何も食べていない。
――根を詰めすぎたか。
それに、食後に向かえばちょうどいい時間になるかもしれない。
なぜか急かしてくる
「ありがとう。行ってくる。みんなもご飯行ってきてくれ。」
班員に言い、オフィスから出る。
――気分転換も兼ねて、ラーメンでも食べに行こう。
そう思い、指定された場所に行く道中にある、ここからは離れたラーメン屋さんに行くことにした。
「今回は最初から奇妙なことばかり。その理由がわかるといいんだけど。」
他の班員も浮かない顔だ。
「よし、僕らも片づけたら行こうぜ!あ、
東雲に夕飯の希望を聞いた、その時だった。
《んー。僕はいつもの店の――……あれ?》
監視カメラを確認し、すぐさまオフィスにいる班員に伝える。
《7班入り口のカメラに来客あり。大人が4人居るんだけど。どういうこと?》
…カチャン。
廊下に面した、第一ドアのロックが解除された。
班の部外者の癖に、
ノックの一つもなかった
。危機感を覚え、身構える。
中に入ってくる足音がする。
「あ?こんな時間に誰だ?…21時前だぞ。」
先頭の男の顔に見覚えがあった。
入ってきたのは、公安部の国内を担当する部署、
耳にはインカム、ワイシャツの衿や服の衿にピンマイクを付け、腰に無線の機械を下げていた。いかにも仕事中であることが窺えた。
首からは社員証よろしく、来客用のカードタイプの電子ロックキーを下げている。
「失礼する。……
地毛だろうか。
限りなく黒に近い茶髪のセンター分けショートヘアの男性が、室内にいる全員に問いかける。
これに霧島が、班員を代表して答える。
「…?
「天道が
「はぁ!?」
今いる班員全員の声が揃う。
晴天の霹靂である。
「現在、
「いや、むしろこっちが知りたいです。朝から連絡がつかなくて困っていたので…。」
「なるほど。」
男はそれを見て、納得したようだった。
「……
「
「いや、いい。君たちがテロと無関係であると、見当はついている…天道から何か連絡があったらここに。」
差し出されたものは、名刺だった。
〔 内事1課 斎藤 慎 070-XXXX-XXXX 〕
と書いてあった。
――公安の名刺って、高確率で偽名なんだよな…。本名何なんだろ。
そんなことを思いながら、名刺に手を伸ばす。
まぁ、自分たちも天道も、特捜に関わる者は全員コードネームなんだが。
「わかりました。何か動きがあれば連絡します。」
名刺を受け取り返答すると、もう用はないと言わんばかりに
退室後、部屋の中を掃除(盗聴器などの確認)する。
短時間だったが相手は
万が一のこともある。
1課2係7班のルールで奇数日は男子が、偶数日は女子が最初に
今日は30日なので、
終わったら
結果、盗聴器などは仕掛けられていないと判断し、ため息をついた。
しばらくして
「oh…楽しくなってきたじゃねぇの…」
言葉とは裏腹に、表情はなかった。
もはや絶望である。
「いや、本当、どうなってんだこれ……とりあえず渦雷に連絡。んで、ご飯行こう。そうしよう。もう、どうにもならん。」
霧島も目が死んでいた。
――最初から全てが怪しい案件だったよな…。
軽く現実逃避をしつつ、東雲が録画した内事とのやり取りのデータを添えて、
――20XX年8月30日 22時30分 都内某所 大きな川沿い 橋の下
点検(尾行の確認)と消毒(追手を撒くための動き)を終え、他から見えにくい場所に身を隠すと、
天道と向き合う。
「天道さん…俺だけを秘密裏に呼び出した理由は何ですか。」
録音されるよう、わざと口に出した。
自衛は必要である。
「
ありがとう
。」「…?」
――今、この人、お礼を言った??
ダメな大人の典型例でもあるが、今回は薄気味が悪かった。
何せ、状況が状況である。
予想はしていたが、ものすごく嫌な予感しかしない。
「先に言っとく。
――場に似つかない笑顔で、特大級の爆弾を落としやがった…。
正直、
問題は、証拠があるのかどうか。
確かに結果は出しているが【テロに関わった人が指揮していた班】として、阿久津と共に天道を含む1課2係7班が潰される可能性もある。
今回はかなり後手に回っており、上手く回避する方法を考えないといけない。
ここにきて本当に厄介である。
「俺が阿久津さんから与えられた任務は、今回のテロに関する情報提供者との接触。そこまでは良かったんやけど…指定されたネクタイの色やベスト、スーツのボタンの留め方が、敵さんへの暗号だった。」
「!!」
班を持つ上司は、班員とは色が違うネクタイピンかカードキーを選ぶことができる。
天道はカードキータイプを選んでおり、社員証よろしく首から下げていた。
クールビズで楽できるのに、
何でネクタイをつけているんだろう
。普段着ないベストを
何で身に着けているんだろう
。いつも思っていた。
その答えがコレである。
「最初から俺をスケープゴートにする計画やった。クソが。」
舌打ちし、忌々しく吐き捨てる。
証言は大事。
聞かなければならない。
だが、悪手にしかならない感じがひしひしと伝わってくる。
「……天道さんは…テロリスト側じゃないんだな?」
天道の気迫に押されながら、確認を取ってみる。
すると、食い気味で答えが返ってきた。
「あ゛!?あっったり前や!!SAT上がりの公安
ガチギレだ。
声にドスが効いてる。
本物の殺気を食らい、背筋が凍る。
「…ただの確認です。怒らないでください。」
渦雷は無になるしかなかった。
「まぁ…俺はこの通り罪を擦り付けられて処罰…まぁ、裏でこっそり処刑されるかもしれへんなぁ。」
煙を吐き出し、遠い目をする。
どこか現実逃避味がある。
班の安全と、天道さんの行く末は真っ暗かもしれない。
あと、いつも思うが、20歳未満の人の前で吸わないでほしい。
「せやから、この情報をお前らにくれてやる。ワンチャン俺の手先として処罰されへんように…上手く立ち回りぃ。」
手渡されたのは、
「中に入っとるメモに詳細が書いとる。」
天道は最後の悪あがきとして、自分の無実の証拠と31日のテロの詳細を渦雷に渡した。
渦雷は驚き、困惑しつつ、受け取った。
「…何故、俺らに?」
天道は
以前、わざと情報を止めていたこともあるくらいに。
半年前だったか。
「はぁ?そんなん、お前らなら上の追求から逃げるついでに、阿久津に一撃かましてくれはるやろ?――っは!ざまぁ見晒せぇ!!」
なるほど。復讐心だったか。
最後は特にドス黒い。
逆に安心した。
「…天道さんはどうするつもりですか。」
「ん?俺?それ、今、聞きはるぅ?いけずやのぉ…ほな、さいなら。」
天道は答えなかった。
背を向け、渦雷から遠ざかる。
天道は街に消えていった。
勝手に動かれるのは困るが、いつまでも逃げて居られるほど日本の公安は甘くない。
恐らく、この帰りがけに拘束されることになるだろう。
――班のみんなは無事か?
――このまま帰って、大丈夫か?
班員しか知らない、緊急時の分室に集合することも考えたが、上司2名がテロリストとテロリスト疑惑という状態である。
ここで姿を消すと、自分も仲間だと言うようなものだ。
よって、使えるのはいつものオフィスのみ。
――20XX年8月30日 ??時??分 深夜の街(???)
だが、渦雷の予想通り、割とすぐに
相手の方が上手だった。
気付いたら追い込まれ、囲まれていた。
もちろん、人数の差もあるだろうが。
「…天道だな。内乱罪およびテロ等準備罪の疑いで拘束する。」
現れたのは、7班オフィスに来た
天道は両手を上げ、降参の意を示す。
斎藤は仲間とともに天道を車に押し込み、公安の取調室に連行する。
――拘束される前に、
乗せられた車の中で、天道は現状に思いをはせる。
天道は無策だった。