長期宿泊準備 (11月3日12:00~15:00)
文字数 5,331文字
「――必要なのは…あ、寝巻と防寒具も入れておかないと…。」
オフィスに1ヶ月ほど泊まり込んでほしいとのことだった。
この期間は事後処理を含めた期間だ。
呼び出されていた班員が帰還後、各自公安が運転する車に乗り、自宅に荷物を取りに帰った。
衣類は1週間分パッキングする。
特捜の建物内にランドリーがあるので、長丁場になったとしても衣類を多く用意しなくて良いのは助かる。基本、制服だし。
その他個人で必要なもの…常備薬やサプリメントなどがある場合はもちろん1月分用意する。
空いたスペースに自分用のお菓子や教科書、ノート、筆記用具、
赤本
を詰め込んでいく。忘れがちだが、渦雷は18歳――リアルに受験生なのである。
自室の荷物を詰め終わり、自室を出る。
洗面所で歯ブラシなど回収し、キッチンへ向かう。
キッチンのパントリーを開け、物色する。
「母さんに許可取ったカップ麺と…コンソメとかだしの素とか、冷蔵庫の中の卵1パック貰っていって…あ、野菜室の中にあるキャベツときんぴらも良いって書いてある。…持って行くか。」
母とのメッセージを確認しながらキッチンを物色し、許可が出たものをエコバッグに入れる。
――これで、忘れ物はないはず。
戻ってくることは出来ないため、自室を再度確認した。
荷物がまとまったところで公安に連絡を入れ、車を裏手に回してもらう。
玄関に鍵をかけ、迎えに来た公安の人とともに車に乗り込む。
他の班員も、今頃同様に帰宅して荷物をまとめているはずだ。
ひとまず、オフィスに戻るまでの間に現状を聞いておきたかった。
「言える範囲で構いません。俺や他の班員にスパイの見張りはついていますか。」
「いいえ。今のところ無いようですが、油断はしないでください。」
公安の人によると、今のところ見張られている様子はなく、静かなものらしい。
俺ら班員が狙われているなら、諸々付いてきていてもおかしくないはず。
――もしかして、
まだはっきりしないが、油断大敵だ。
気を引き締めて任務に当たろうと思う
――20XX年11月3日 15時00分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス
荷物を取りに自宅に戻っていた面々は、再度オフィスのミーティングルームに集合していた。
部屋の掃除(盗聴器や発信機の確認と排除)を終え、
「さて、恒例の冷蔵庫の中身大公開だな。僕はーー和牛肉ステーキ用、ラム肉、エシャロット、紫玉ねぎ、じゃがいも、アボカド、バゲット、オリーブオイル、エビ、アンチョビ、グリーンピース、生ハムの原木、メロン、チーズ各種、未開封の牛乳1リットル、紅茶、トマト、バジル、岩塩、有塩バター、無塩バター、レモン、ライム、シュガーシロップ、ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ジン、ベルモット、スウィートベルモット、梅酒、ラム酒、スパークリングワイン。未成年用に貰いものだがーーオレンジの種類か?…ポ〇ジュース、とリンゴジュースがあるぞ。」
ラベルを見ると、購入したスーパーは成〇石井だった。お高い。
なんというか、食材からかなり優雅な生活をしているのが窺える。
生ハムの原木なんてはじめて見た。大きい。
そして、酒の種類が豊富である。
長期間家を空ける時は冷蔵庫の中身が心配になる。
特に1人暮らしだと帰宅する頃には腐ってしまうことが多い。
そのため1課2係7班では、長期で泊まり込む際は各自冷蔵庫の中身を持ち寄るようにしている。
今回も帰宅したら腐っていそうなものや、家族と暮らしている場合はご家庭で消費しきれないものを持ち寄っていた。
1課2係7班のオフィスの中にある給湯室は、キッチンとして改装されている。
炊飯器、オーブン、冷蔵庫、電気ポットはもちろん、鍋などその他調理器具も揃えている。
ストレスなく泊まり込むための策でもあった。
「私はきゅうり、パプリカ、じゃがいも、玉ねぎ、トマト、ごぼう、にんじん、冷凍枝豆、ブロッコリー、卵2つ、白身魚、コンビニの白ワイン、スパークリングロゼ、炭酸水、100%オレンジジュース、塩、コショウ、ビネガー、ハーブ各種とドライパセリ。あと、一昨日作った茹でた鶏ハム、茹でキャベツ、キャロットラペ、寒天ね。」
味覚過敏もあるのだろうが、塩コショウとビネガー、ハーブが味付けのメインらしい。
基本的にいつも自炊している。
「僕は大根、にんじん、もやし、長ネギ、白菜、キノコ類、冷凍のつみれ、豚肉、豆腐、鍋のもと、高菜、明太子、冷凍の焼き鳥セット、賞味期限間近のトマトソース(業務用)、賞味期限間近のホワイトソース(業務用)パスタ、ベーコン、コーヒー豆、コーヒーフィルター、マヨネーズ、鰹節、ミックスナッツ、するめ、お好みソース、中濃ソース、塩、砂糖を持ってきました。明日買出しに行く予定だったので、あまり碌なものがありませんね…。あと、ビールと日本酒、焼酎です。」
どうやら
その他に、ストックしていたが賞味期限間近になってしまったソース類も持ってきてくれていた。
公安の人に頼み代理で買い物してもらうこともできるが、彼らの仕事を増やしてしまう。
なるべく買出しの回数を減らしたいため、賞味期限間近の食品の供出はありがたかった。
「お、いいな。ミキシンググラスとかアイスピックも持ってきたし、楽しもうぜ。」
「ええ。またおつまみ作りましょうね。」
「はい!楽しみにしています!」
「成人組はまた酒盛りする気かw羨ましい限りで。」
「ジュースもあるから、未成年も一緒に飲もうな。」
「次、私ね。よいしょー。…えーと納豆8パック、豆腐2丁、千切りキャベツ、鶏むね肉(40%引き)、にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、賞味期限ギリギリの素麵、カレールゥ2箱、豆苗食べた後に
ラベルを見るとスーパーは統一されておらず、色々な格安スーパーに買いに行っているようだ。
「
「おうおう1人暮らしの庶民なめんなよ英国貴族サマ。こちとら給料は全て生活費、
――
「…悪かった。その、…
「んえ?ああ、たんまりもらえていますよ。本当に。消え方が半端ないだけで。あ、あと花火。」
「なぜ。」
「なんか家にあったから。多分、学祭でやったどっかのサークルのビンゴの景品だった気がする。気分転換に季節感無視してみんなで屋上で凍えながらやろーぜ。いえぁ。」
花火か。
確か、防災用にロウソクが入っていたはずだ。火は何とかなりそうだ。
コートさえ着れば、季節感なくても意外と楽しいかもしれない。
「俺は卵1パック、キャベツ、小麦粉、だしの素、カップ麺、米酢、みりん、コンソメ、スナック菓子、母さん作のきんぴらごぼうだな。」
きんぴらごぼうは作り置きしてあったもので、かなり大量にある。
自分を含めて食べたい人が食べればいい。
「
特に果物は高そうだ。流石はお嬢様である。
やっぱり古くから続く有名な家柄の子なんだろうか。
「僕は米10キロ貰ってきたよ。梨1箱と醤油も。アイスは既に冷凍庫に入れたよ。…その、お母さんが、みんなによろしくって…。」
「お、よっしゃ米来た!主食じゃー!!」
「そういえば、誰もお米を持ってきていませんでしたね。
「ども。渡してきたの、お母さんだし…。伝えとくよ。」
「とりあえず、お米洗って給水しておきませんか?」
「その前に、まず生ものを冷蔵庫にしまわない?食材が痛むわ。」
「あ。確かに。しまいましょう。」
「果物は常温で大丈夫ですし、こちらにまとめませんこと?」
「そうだな。動かすぞ。」
まとめ次第、要冷蔵以外の食材をキッチンに移動させる。
食材をしまいつつ、
「今日の夕飯のメニュー、どうするよ。」
「自作のものと、
「腐りそうなものから食べていこうぜー!祭りだいえぁ!あ、私、
「いっぱいあるから好きに食べてくれ。」
「そういえば、卵とにんじんとじゃがいも多くない?」
「卵はスクランブルエッグにしたら速攻消えるだろ。牛乳もバターもあるし、いける。」
「…僕、スクランブルエッグよりオムレツが良い。…ごめん、ちょっとここから離れるね。」
「あ、悪い。人数が多かったか。資料室で休んでいてくれ。」
「うん…ありがと。」
「そうね。どのみち卵料理だし、明日の朝ごはんにしましょうか。大量のディナーロールと共に。」
「まぁ、素敵ですわね!楽しみですわ。」
なぜか朝食がすんなり決まり、夕飯の献立は方向性は定まったものの、手作りのもの以外は未定だった。
「コ〇トコ…これがコ〇トコですのね…はじめて見ましたわ。」
「コ〇トコ行ったことないけど、本当に量多いんだな。数日は持ちそうだ。てかよく買ったな、これ…36個入りだぞ。消費予定あったのか?どう見ても1人じゃ食べきれないだろ…。」
驚く
「全部冷凍するに決まってんじゃないっすか、やだー。余ったものやすぐに食べないものは即冷凍!これ、庶民の処世術なりー。
「へー。今度パン余ったらやってみよ…。いや、都市伝説じゃないから。普通に存在してるから。」
「あ、忘れるところだった。
「どういたしまして。あっても使いませんから、有効活用ができてこちらも嬉しいですわ。」
ランドリーの粉洗剤は、各自が持って行かなければいけない。
班の在庫を切らしていて、公安に買い出しを頼むか悩んでいたのでとても助かった。
こんな感じに、みんなわいわい話しながら冷蔵庫の中などに食材をしまい込んでいったのだった。
片付いたところで再びミーティングルームに着席する。
ミーティングの再開だ。