DVDの中身と聞きたいこと (12月9日18:30)
文字数 7,781文字
第二ロックドアを開け、
キッチンから何かを炒めている匂いがする。
色々ありすぎて忘れていたが、もう夕飯前だった。
「ただいま。」
「お、おかえりー。
「おかえりなさい。」
デスクから
「そうか。全員揃っているか?」
「おかえりぃ。――何かあったんか?」
《
天道と
「
《了解。そっち行く――あ、僕がいきますね!…ありがと。》
資料室の扉があき、雪平が出てきた。
「
雪平は
《……動画のようだね。ウイルスは――うん、大丈夫そう。雪平と一緒に、そっち行くね。》
「ありがとう。よろしく頼む。」
「
「はいはい計量しましたよっと。」
「夕飯を作ってくれてありがとうございます。いいタイミングで来てください。」
「了解。」
資料室のスライドドアが開き、雪平と
霧島も同じようなタイミングで、ミーティングルームにやってきた。
映像の読み込みが始まり、再生が開始されたため一時停止にしておく。
どうやらどこかの駐車場の映像のようだ。何の映像だろうか。
天道と嵐山は一区切りついたのだろう。
少ししてからミーティングルームにやってきた。
全員が席に着いたので、再生ボタンを押し、上映を始めた。
「これ、監視カメラの映像?えーと、本日の12時25分の映像だね。」
「駐車場だな。どこだろう――地下か?」
「今のところ、ただの駐車場の映像だけど……何に関係があるのかしら……?」
「……何の変哲もない、駐車場の映像ですね……特に怪しい動きをしている人物は映ってませんね。ナンバープレートが関係しているのでしょうか……?」
「……これ、30秒とかスキップしたほうが良いんちゃう……?1分経ったけど、画面、何も変わらへんで……。」
確かに、画面に映っているのは駐車場の車だけだ。
だが、渡されたからには何か意味があるはず。
「――いや、このまま様子を見よう。きっと、何か動きがあるだろうから……。」
車が使われているなら、雨宮拉致に関する情報かもしれない。
霧島が想定したような最悪のケースも考えられる。
だとすれば、1つも見落としたくはなかった。
12時27分に一人の男が車から降り、自車のそばで待機しているようだ。
12時28分ごろ、1台の車が、先ほどの男のいる車の近くに停車した。
縦の通路を挟んで横の位置だ。
バックで駐車し、ライトを消す。
両方の車が通路側が頭になるように停められていた。
運転席から1人の男が降りてきた。
特に問題はなさそうだ――と思った次の瞬間。
後部座席から降りてきたのは3名の男女と――
「
目隠しと、腕を後ろ手に縛られた雨宮が映っていた。
運転手の2名の男と、腕を掴んでいた男は比較的普通の恰好だが、少し離れている男女は非行に走っていそうな見た目だった。
単なる不良というより、半グレだろうか。
運転手の男から金銭が入っているであろう封筒を受け取り、中身を確認していた。
彼らはここでお役御免になるらしい。
雨宮は男に片腕を掴まれ、歩かされている。
平衡感覚が取れないのか、前が見えないからかはわからないが、雨宮はおぼつかない後取でゆっくり歩いていた。
――まさか、拉致犯が車を乗り換える時の映像だったとは。
班員たちも不安そうな雰囲気が漂っている。
なぜなら、迎えに行ったはずの晴野が、まだ画面に現れていないからだ。
この映像には音声が無いため、何を話しているのかはわからない。
だが、恐らく男は「おい、さっさと歩け。」のように急かしているのだろう。
雨宮はゆっくり歩きながら、後ろ手に縛られている手を動かしている。
数秒後、縄抜けに成功した。
雨宮は目隠しを取り、腕を掴んでいた男を蹴りつけて距離を取った。
即座にしゃがみ込み、右足に履いているベルト付きの革靴の靴底部分をスライドさせ、小さなナイフを取り出し、構えた。
――靴底にナイフをしまっていたのか!!?
武器があってよかったと思った半面、ある種の衝撃のシーンだった。
いったいどこに武器を隠しているんだ。
銃刀法違反に引っかかるぞ……。
半グレの男女は雨宮を見て笑っている様子だ。
運転手が半グレに車の鍵を投げ渡す。
半グレの男は受け取りポケットにしまい、ニヤつきながら雨宮に近付く。
雨宮は近付いてきた半グレの男を倒す――が。
駐車場で待機していた運転手の男が、雨宮に銃を突き付けていた。
観念したのだろう。
雨宮はナイフを地面に捨てる。
「――
「天道が邪魔したから、遅くなってるんだよ……でも、突っ込んでくるなら今でしょ……!!!?」
銃を持った男と拉致車の運転手が雨宮に近づこうとしたとき、ハイビームを付けた車がものすごいスピードで駐車場に突っ込んできた。
「あらぁ、暴走車両やん――って、
俺の車やんけ
!!!おぇ、晴野!!?俺の車や丁寧に扱え!!?高かったんやぞ!!!!」「晴野!!?――良かった。間に合ったのね!!!」
「神展開キターーー!!」
晴野の登場に班員は喜んだ。
急ブレーキをかけ、通路の真ん中あたり(拉致犯の両方の車の間らへん)に停車し、窓から拉致犯に向かって何かを投げた。
雨宮は体勢を崩したのか、地面に倒れ込む。
次の瞬間。拉致犯の周辺で光が炸裂した。
――
雨宮は急いで【晴野が運転する天道の車】の助手席に回り、乗り込む。
晴野は拉致犯の銃を撃って強制的に武装解除させ、ついでに利き腕と片足を撃ちぬいた。
他の犯人の足も同様に撃ちぬいていく。
「――すごい。やり口がプロだ。」
晴野はとてもスムーズに、犯人を殺さないよう撃ちぬいている。
霧島と嵐山の考察は、あながち間違ってはいないだろう。
もしかしたら、霧島と似たような育てられ方なのかもしれない。
他の班員も晴野の登場と、その手腕に盛り上がった。
「拉致時に
「
「晴野さん!頑張れー!!もっと撃ってー!!」
「あー、やっぱ何発か外してんなぁ。銃はあまり得意じゃないのは
決定っぽい
な。というか――なぁ……晴野、何で銃を持っているんだ……?特捜からは持ち出せていないはず――あ。」「――へ!?銃の出所に心当たり、あるん??」
霧島は気付いたようだ。
対して、天道は気付いていない。
渦雷が会話を引き継いだ。
「……天道さん、まさか……いつも通り、助手席のダッシュボードに銃、しまいました?」
「――……あ!!!!!?」
使われたのは天道の愛銃だった。
映像では、晴野が拉致犯の車のエンジン部分を撃ちぬく。
2台とも綺麗に撃ちぬけたようで、ガソリンに引火し、爆発炎上した。
「銃を持っていたのは、そういうことでしたか。――わぁ。拉致犯の車が2台とも爆発しました!!たーまやー!!」
「なるほどなー。晴野ナイス機転!!……ってか、何となく嵐山の予測が当たってそうだな。……上が日本ならいいけど……。どっかの国のスパイが特捜に入ってきてるとかはやめてくれよ……?」
「晴野の実力が、想像以上に高い……。俺も頑張らないと……。天道さんの車が、AT限定でも運転できるタイプのセミオートマだったのも良かったな。」
「あらぁ。やるじゃない!意趣返しに、奪還に、足止めまで……最高よ!!雨宮と帰ってきたら、思いっきり褒めてあげなくちゃ!!茶菓子はケーキがいいかしらね?それとも、和菓子のほうが良いかしら。」
「ふふ。さすがだね。――何かすっきりした!!ここ最近で一番楽しかったかも!!わぁ、ネフィリムに動画送りたいー!!秘密なんだろうけど……!!!でも、この感動と楽しみをすぐにでも共有したい!!!」
「……気持ちはわかるが、ネフィリムへの共有は情報を持ってオフィスに訪ねてきた時か、事件が片付いた後にしてくれ。」
「はーい。わかったよ。――あー楽しかった。……ふふ。」
班員は雨宮の無事に喜び一色だ。
だが、天道は素直に喜ぶことができなかった。
「……雨宮を無事奪還できてて良かったけど…最悪な事態にはなっとらんくて、安心した…けんど…嘘やろ……!?確実に始末書やん……。いったい、晴野、何発撃っとんねん…!?…どないしよ……。てか、俺の車、結局どこ行ったんや――!?」
天道の叫びがむなしく室内に響いた。
本当に、どこにあるんだろうな。天道の車。
……案外近くに乗り捨てられてたりして。……まさかな?
「さて、DVDも見終えて、雨宮と晴野の無事がわかったからこそ、みんなに聞きたいことがある。」
「何やー。なにかあったんー……?」
やめろ……30代後半の男性が拗ねても可愛くないぞ……。
「実は、先ほど行ってた
「助言ー?……誰にぃー?」
「…
「え、誰?あんさんら知っとる??」
天道は彼女を知らないようだ。
他の班員に話題を振った。
「いや……知らない。」
霧島の答えに、
霧島は特捜に就職(正規雇用/フルタイム)しているため、どこかで見かけていてもおかしくはないはず。
「あれ?有名じゃないのか?……その、独特だし…白髪赤目だからかなり目立つと思うんだが……。」
「聞いたこと無いわね。」
同じく特捜に就職(正規雇用/フルタイム)している嵐山が否定した。
……桜はステルス機能でも持っているのだろうか??
「うーん……?…あ!いわゆる【白蛇ちゃん】――あの、【光輝く純白】の子ですね!!ちょっと変わってるっていう噂を耳にしたこともあります。
「【光輝く純白】……雪平にはそう見えているのか。」
「はい!とても綺麗なんですよ!!上司陣のあの汚い【色】を見た後に彼女に出会えたら、心が浄化されます。……まぁ、滅多に会えませんが。」
雪平は知っているようだった。見かけたこともあるらしい。
どうやら、特捜内ではちょっとしたレアキャラになっているようだった。
見えた【色】がきっかけでファンになったのだろうか。雪平は桜に対して心酔している様子だ。
「雪平がそう言うなら、悪い子ではなさそうだね。ちょっと会ってみたいかも。」
「白蛇……?そう呼ばれているのか?…凄いあだ名だな……。というか、シロウサギとかじゃないのか。一般的にはそっちが出てきそうだが……。」
「白兎っつったら
「あら。なんか、神社に居そうなあだ名ね。ご神木の上、祠の陰から見守ってくれそうね。見た目も神秘的だし。」
「彼女の所属は不明ですが、特捜の制服とネクタイピンを持っているので、身内ですよ。本当、綺麗ですよねー!」
「雪平、私たちは【色】が見えないのよ……。ごめんなさいね。でも、確かに神秘的で綺麗だと思うわ。」
「そうだな――って、はぁ!?所属不明!!?……なんだそりゃ。」
「ええ……。普通、所属、言うくない??……変わってるって、そういうことなの??」
「――まさか……【
「え、何それ。ネーミングだっさ。」
あまりの中二病漂うネーミングに
ノーインフォとは、ノーインフォメーション(No Information)の略だろう。
ホテル業界などで、外部からの問い合わせに答えないことを指す言葉だ。
つまり、5課は5課で独立しており、関係者以外立ち入り禁止になっているのだろう。
「俺が言い始めたんやない。……いや、だとしたらなぜ
天道は桜の所属している課に心当たりがあるようだ。
「5課って何している所?そういえば、噂や仕事内容、一切聞かないんだけど……?」
「5課の仕事内容は公開されてへん。正直、わからん。そのうえ
急に
確定したわけではないが、どうやら5課と関わるのは相当大変なことらしい。
「……そう言われましても…普通の公安の人です。」
「――普通、のぉ……?普通なら5課と関わること無いはずなんやけどなぁ……?」
――黒沢さん……あなた、本当に何者なんですか。
話が脱線したため、一旦戻すことにする。
「――えーと、話を戻すと……桜から【
「
繋がってる
?……違う案件だとは思うが……。」不思議そうに霧島が返答してくる。
「一応聞いておきたい。あ、あと桜が
「……その情報、信じていいのね?」
「あ、大丈夫です!白蛇ちゃんは嘘は言いませんよ。人を騙すことも出来ないはずです。なにせ【純白】ですから。しかも【光輝いて】いますし!!」
嵐山の確認に、雪平が返答する。
雪平のテンションが高い。
……よくわからないが、これが「推し活」というものなんだろうか。
雪平が再度口を開いた。
「あ、なら僕から言いますね!僕は最近入国してきたテロリストを追いかけたり、情報を調べてまとめています。調査部系ですね。調査対象は……今一番盛んなのはアラブ系、とだけにさせてください。……他は今は動いていません。」
雪平の情報を聞き、東雲が口を開いた。
「……雪平がそんなに信用するなら……。えっと。僕の1つめの秘匿班は、みんなに言った通り、スマートフォンのGPSを利用した雨宮の監視。……こんなことになって、調査解除になってしまったけど……。…今日行ってきたのは、特許技術申請前の大事なデータをハッキングしようとしたバカを追いかけることかな。とあるエネルギー系だよ。……他は今は動いていないから、この2つだね。」
嵐山も口を開いた。
「私は……。そうね、最近は海外出稼ぎについてね。国内外の売春――パパ活の
霧島も疑問に思いながら口を開いた。
「僕は…不法入国者への対応や、その調査の一部のお手伝いがメインだな。…別件で日本国内に入ってきた、外交官として入国していないマフィアと繋がっているスパイの捜査もしてはいるが。……他は今は動いていない。」
天道は言わないつもりだったが、今は信用スコアを少しでも稼いでおきたかった。
それに、班員が何ができるかをあらためて知るいい機会でもあった。
天道も口を開き、案件を軽く説明する。
「……俺は国際犯罪の疑いがある案件を抱えとって、明日別の秘匿班にて発表するつもりやった。K国C国関係や。…まぁ、基本は阿久津系の残党狩りと、霧島が
確かに、聞いてみたがバラバラだ。
「
「俺は……少し前に起こった刑事事件の犯人を、裏から追いかけている。犯人は
霧島に聞かれ、
「晴野は恐らく雨宮の奪還と、その後の護衛だよなぁ?……あー、あと天道経由の
「雨宮さんの秘匿班については、一切情報がありませんね……。まぁ、普通、秘匿班のことは他人に明かしませんが。」
「だよなぁ。」
霧島と雪平が居ない班員の秘匿班について推測する。
「……んで?これ、本当に繋がっとるん??」
「……これ、実は裏で繋がってるってマジ?バラバラにしか見えないんだけど。」
天道と東雲が死んだ目で聞いてくる。
「桜は……渡されたDVDを見て、中身を知らない状態で【大丈夫】って、【ぐっすり寝てる】って言ってたんだよな……。」
「……ええ…。何じゃそりゃ……。」
天道は更に混乱してるようだ。
他の班員も疑問の表情を浮かべている。――雪平以外は。
雪平は桜を疑うことすらせず信じているようだ。
2つ新情報があったのだ。
「あ。忘れるところだった。……雨宮と言えば、拉致に関して捜査本部が立っていないらしい。」
「へ!?何で何で!?おかしいやろ!?」
「俺は、晴野の居る秘匿班が、拉致犯もろとも秘密裏に処理した可能性が高いと思っている。また、怪しい動きをしている公安がいるらしいから、十分に気を付けて欲しい。」
渦雷は班員に向けて忠告した。
「裏がエグい、裏がエグい……。」
「関係者しか知らないってことですか……。」
「やっぱり、ダークな感じねぇ……?」
「マジかー……ぐっちゃぐちゃだな……。」
「……何や、この案件……。」
「俺も思うよ……ただ、アレクセイをPNGしたいだけなのにって……。」
「
「まぁ、とりあえず……今後関係してそうな情報もらったら、言える範囲で共有するってことで良いか?」
「そうだな……みんなが賛成してくれるなら、それで行こう。」
全員の賛同を得た。
だが、依然として案件の内容の複雑さに混乱している。
とりあえず晩御飯を食べよう――そう思った
――DVDを渡しに来た晴野兄(