厄日 (11月4日9:50)
文字数 2,337文字
特捜の班員と同様にスパイに狙われている可能性は高いが、気にすることなく通常通り任務を果たしていた。
エレベーターに乗り込み、会議室のある階のボタンを押す。
フロアにつくと、会議室のある方向に歩き出した。
本日は公安系の秘匿された会議に参加することになっている。
目的の会議室に入り、周囲を見回す。
既に会議室には人が集まっており、静かに着席していた。
今回は
だが、派閥の解体と共に倉木(特捜では
もちろん、この2ヶ月間の監視で何も出てこなかったことや、受け持っている班のメンバーにも問題が無かったことを考慮したうえでの判断だった。
優秀な捜査員が集まっているとは言えど、無作法をするバカは一定数居る。
公安は情報戦であり諜報戦。
不躾な視線を向けてくる捜査員の目を見て微笑んでおく。
相手は即座に目をそらした。
わざわざ喧嘩を買う必要は無かったが、降りかかる火の粉は自分で払わなくては気が済まないという性格のせいかもしれない。
入り口のドアが開き、人が入ってくる。
鍵を閉め、会議のトップが口を開いた。
「予定時刻になった。――会議を始める。」
議題はもちろんR国のスパイ。
件のR国スパイ――アレクセイに対するPNG発行へ向けての情報共有も兼ねている。
本来なら
自分が情報を持って帰るしかないなと思い、内容に耳を傾ける。
会議開始からおよそ50分後。
あらかた片付き、質疑応答に入る。
「――では、質問がある者は居るか?」
なので、他人の質疑応答を聞いておこうと思っていた。
――その時の事だった。
《~♪》
《…君が好き~(せーのっ!)》
《胸キュン♡(きゅん♡)ずっきゅん♡(きゅん♡)大好きなんだよ!》
《胸キュン♡(きゅん♡)ずっきゅん♡(きゅん♡)愛してるんだよ!》
《フリルのカチューシャつけて~愛いっぱいご奉仕よ♡(あ・な・た・の・メイドちゃん~!)》
《胸キュン♡(きゅん♡)ずっきゅん♡(きゅん♡)大好きなんだよ!》
《胸キュン♡(きゅん♡)ずっきゅん♡(きゅん♡)愛してるんだよ!》
《笑顔になった君と~いつまでも~》
《ばっきゅんキュン♡(キュン♡)》
《~♪》
大音量で流れる電波系萌えソングに会議室が困惑する。
だが、一番困惑していたのは天道だった。
――なぜ
自分のスマホ
から意味不明な音楽が爆音で流れている!?慌ててスマホを取り出すと、ホーム画面にはなぜか2次元のメイドが映っていた。
それも2体。
しかも、なぜか画面の中で動いている。
天道は慌ててスマートフォンを操作するが、曲は流れっぱなしだ。
2次元の2人のメイドも画面の中で動き回っている。
というか、スマホ本体の横についている電源ボタンや音量調整ボタン、もはやメイドの背景と化しているホーム画面のアイコンを連打しても一切反応しない。
相変わらずおかしな楽曲が流れ続けている。
――何なんだ、これは。
スマホを床に叩きつけて壊そうとした時、画面の中のメイドと
目が合う
。――
目が
、合った
?《ご主人様ぁ♡萌え萌えきゅーん♡》
《あなたのメイド、ももにゃだよ~♡》
《ご主人様ぁ、朝ごはんはもう食べましたか?》
《ももにゃ、ご主人様のために、ガンマラカントゥスキトデルモガンマルス・ロリカトバイカレンシスのホットサンドを作りましたぁ♡》
《コーヒーと合わせてめ・し・あ・が・れ♡》
《…あ!ご主人様ぁ♡一緒にもっと美味しくなる魔法をかけてくださぁい♡》
《…せーのっ!美味しくなーれっ♡萌え萌えきゅーん♡》
ピンク色の髪と緑色の瞳をした、兎耳が頭から生えているロリ系のツインテールのメイド(ももにゃと名乗っている)がよくわからない呪文?を唱えつつ、少々焦げたホットサンドを勧めてきた。
――まて、そのホットサンドの中身は何だ。本当に食べられるのか、それ?
《さっさと起きろ、この
《アイリ様が来てあげたわよ。》
《え?なに?まだ顔を洗ってない?》
《なら、このモップで拭いてあげるから感謝しなさい?》
《べ、別にご主人様の洗顔のためにわざわざ用意したわけじゃないんだからねっ!?》
藍色の髪と赤色の瞳のロングヘアで、虎耳が頭から生えているお姉さん系メイド(アイリ様と名乗っている)が、ディスった後にツンデレしながらモップをこちらに向けてきた。
――お前…モップで他人様の顔面を拭こうとか正気の沙汰ではない。というか、まず胸のサイズがおかしいだろ。中に風船でも入れてんのか?
――意味がわからない。何だこれは。
ただ、心当たりはあった。
昨晩
そのメッセージのURLを開くと感染するタイプのコンピューターウイルスだったのだろう。
ご主人様、と甘ったるいアニメ声が聞こえてくるが、
破壊した
。静まりかえった会議室で、
「すみません。どうやら、特捜のガキが自分のスマートフォンに何かしたようです。では、自分はこれで。」
挨拶をした後、即会議室を飛び出し駐車場へと向かう。