車内にて (12月11日17:00)
文字数 1,671文字
「ターゲットは1課2係7班に侵入した最後の1人である【ハッカー】だ。こいつは一般人だから、捕らえて
俺の仲間
に渡して尋問してもらう。拘束後は後部座席に放り込んで、仲間と合流し次第引き渡す予定だ。また、R国スパイの協力者以外にも情報を渡す予定の可能性が高い。情報を渡した奴を発見次第、こちらも捕らえて同じように連れ帰ってくれ。」「本当はな?夜になるべく危険度が低い状況で相手を捕らえようと思っていたんだが、事情が変わった。武器持って荒事上等で突っ込むぞ。全員、死ぬなよ。」
「はい。」
班員の返事が返ってくる。
今回はかなり物騒な案件だった。
……まぁ、時々こんなことになるのだが。
情報流出の――1課2係7班に侵入した最後の一人は【ハッカー】だった。
ハッカーとして裏社会で名をはせている人物でもある。
本来なら特捜の建物内に侵入できないはずだが、ロックを強制的に開錠し、他の裏切り者2名と一緒に乗り込んだようだった。
その後、記録媒体に入れて持ち帰って、解析を進めていたという情報が入っていた。
ハッカーは本日の夜にR国スパイの協力者と会い、解析したデータをUSBかDVDに入れた状態で渡す予定だ。
データ量が多く、ファイルがかなり重くなるため、手渡しすることにしたようだ。
こちらからすれば不幸中の幸いだ。会合を潰し、流出を止めてしまえばいい。
現に【ハッカー】のメインマシンやスマートフォンへのハッキングは完了しており、現在進行形で不知火に動きを観察して貰っている。
予定も動きも把握した。ウイルスのトラップも仕掛けた。
オリジナルを書き換えなかったのは、【ハッカー】にバレるリスクを減らすためだった。
接触の証拠を押さえつつ、両方の身分が一般人のため、22時にまとめて拘束しようと動く予定だった。――が、
――次の流出は、夜……。
冬はすぐ暗くなる。……もう「夜」なのだ。
なので【最後の一人のハッカー】と【R国スパイの協力者】の密会の前の予定である、アングラな会合に突撃しに行く事にした。
この会合で【ハッカー】は、【R国スパイの協力者】以外の第三者にもデータを渡す可能性が高いと見ていた。
この会合は定期的に行われており、半グレやその彼女、薬物の密売人などが集まっていた。
だいたいいつもメンバーは同じで、時々お客さんが混じるようである。
ザックが探りを入れた感じ、外交特権を持った人間は出入りしていないので、多少暴れても問題ないだろう。
絶対に拘束してやる。情報流出も防いでやる。
目的地はとある寂れた廃ビル。
ここ周辺は不法滞在者だの、海外のマフィアだの、薬物中毒者だの、半グレの巣窟だのと危険には事欠かない無法地帯だった。
ここでは銃や刃物を向けられるのは日常茶飯事なので、こっちも銃や防弾チョッキが必要になる。
特に不法移民と海外マフィアは銃を持ち歩いており危険極まりない。
歩くだけでも危険で、もはやスラム街だった。
おい、担当者。とりあえず不法滞在者をマジで強制送還しろ。放置するんじゃない。
今回動くのは
晴野と橘は女子だ。
本当はこんなところに女の子を連れて行きたくないが、緊急時だから仕方ない。
それに、あんまり言ったら男女平等とかぬかす奴も出てきてめんどくさい。
男女で危険度が違うことだってあるのに……。
この辺りのボーダーラインが中々難しいといつも思う。
管理職は辛いよ。
駐車場に着き、車を停める。
ここはまだ治安がいいので、車上荒らしに合う確率は低いだろう。
「行くぞ。」
「はい!」