東雲とネフィリムの緊急案件 (12月10日12:40~16:00)
文字数 7,262文字
「……ノートパソコン、充電ケーブル、Wi-Fiは向こうにあるから要らなくて。盗聴器とかを確認するやつも入れて。……えーと、お菓子はこれとこれと……あ、未開封のグミがあったからこれも……。ジュースと水と……。筆記用具とメモする為のノート、スマホ、DVDデッキと接続ケーブル、あと
お楽しみ
のD・V・D!!ふふふwwwネフィリムと2人っきりだしねwwwww」楽しそうに荷物をまとめあげ、
周囲を見回し、忘れ物が無いかを確認する。
「えーと、スマホを忘れないように……。よし、これで大丈夫かな?……あ、自分に発信機付けたほうがいいのかな??
カララ。
あ、いた。
「
「
渦雷は手を止め、東雲のほうを向いて答えた。
「朝の段階で、僕、この後
今朝、
担当するのは【
ハッキングは1人で出来ることではあるが、その後の情報精査などもあり、今回は2名であたることになった。
本来なら完全秘匿の為会わないはずなのだが、今回関わっている案件は複雑だ。
1課2係7班で追っている案件に関わっているため、こちらにも回してくれたのだろう。
正直助かる。
【
「1人で行くのか?」
「送迎は
班の情報は渡っていないとされているが、万が一のこともある。
付けておいたほうが良いだろう。
信号だけなら、素人でも追うことは出来る。
「そうだな。念のため、付けておいてくれ。」
「えーと、付けるのはこれでいい?できれば音声機能ないヤツにしてほしいな。」
「もちろんだ。このパソコンで同期するから、品番教えてくれ。」
「えーと、AXX-0085だね。」
「よし、できた。」
これで、有事の際はいつでも追うことができる。
「落とさないように、上着のフードの裏にピンで固定しておくね。」
「頼む。ありがとう。」
すると、キッチンから出てきた
「
霧島は東雲に洋菓子のアソートと、海外のお菓子を渡した。
洋菓子のアソートは、
お菓子、カップ麺、ペットボトル飲料、缶入り飲料、アイスクリーム、プロテイン、文房具、本、護身用品、第2類医薬品、第3類医薬品など多種多様なものを24時間好きな時に購入することができる。
この売店の管理は
本は予約すれば取り寄せてもらうことも可能だ。
ただし、管理上の問題から、弁当など日持ちしないものは置かれてはいなかった。
日持ちするものだけが置かれたコンビニだと思えばイメージが付きやすいと思う。
海外のお菓子は、よく霧島がデスクで食べているものだ。
少し甘そうだった。
……どうしてお菓子を渡してくれたんだろう??
「え?お菓子??」
「さっき、ネフィリムと任務に当たるって言っていただろ。ハッキングは待機時間が長いって聞いたし、何か摘まめるもの必要だろ。糖分とか。」
「ありがと……。待機中にネフィリムと食べるよ。」
すると、他の班員も集まってきた。
「あら、もう行くの??――私からはコレね。」
嵐山も同じことを思っていたらしく、デスクから健康志向のお菓子を取り出して東雲に渡した。
アーモンドチョコだったが、チョコレートの部分が薄く、アーモンドを楽しむ為の物のような感じだった。
アールグレイ味らしい。
とても健康的でお洒落なお菓子だ。
「僕からはこれです!!いつも飲んでましたよね?」
相手によっては
「俺からはカップ飯だな。――どうやら、みんな同じことを考えてたみたいだな。」
夕飯と夜食用に2種類を2つずつ購入していた。
麵ではなく飯なのは、分室の流しを汚さずに済むほうが良いと思っての配慮だった。
もちろん、忘れずにプラスチック製の使い捨てスプーンも渡しておく。
「みんな、ありがとう。嬉しいよ。……エコバッグ取ってくる!」
準備はばっちりだった。
第二ロックドアが解除される。
入ってきたのはネフィリムだった。
やたらテンションが高い。
「
「ネフィリム!!お迎えありがと。あれ?コサインさんは……?」
「コサインさんは廊下で出待ちしてますぞwwさぁ、行きましょうぞw楽しみますぞぉwwww」
「なるほど。」
東雲は班員のほうを振り向く。
「じゃぁ、行ってきます。」
班員に見送られ、東雲とネフィリムは
――20XX年12月10日 13時30分 都内某所 マンションの一室
「よし、
掃除
は終わったね」「バッチリでござるぅwwwwいやぁ、快適快適ww」
荷物をバラし、キッチンへと向かう。
「あ、これらはうちの班のみんなから。好きに食べて。」
「拙者も同じくでござるwwいやぁ、皆さま優しいでござるなぁwwww感謝感激雨あられwwww」
「ふふwwお互い、いい班員に恵まれたよね。」
キッチンに差し入れを置いていく。
飲み物は冷蔵庫の電源を入れ、中にしまった。
お菓子と飲み物を手に取り、それぞれの配置につく。
デスクトップ型のパソコンの電源を入れ、必要なツールを開き、スタンバイしておく。
時刻は13時40分。
受け渡しが14時00分予定なので、あと20分は時間があった。
「ねぇ、ネフィリム?まだ始めるには早すぎるよね??まだ時間、あるよね??」
「おっ??ヴォイド氏……何かありましたかな??楽しそうですな??」
「この空いているモニター、使っていいよね??いいよね!?」
とても楽しそうだ。
「……DVD、ですかな??アニメか何かですかな??」
「ううん!!
もっと面白いもの
だよ!!!あのねあのね!?ネフィリムにね!?ずっとずっと見て欲しかったけどね!?状況が状況だから、上映会出来なくて……!!」「ほうほう。それはそれは。何が出てくるか楽しみですなwwww」
「とにかく見て!!見てクレメンス!!!」
ネフィリムは内容を知らないため困惑したが、東雲の表情を見て面白いものだと直感した。
DVDの読み込みが終わり、再生が開始される。
「……駐車場ですかな??猫でも映っているんですかな??」
「猫じゃないよ。」
「へあ??」
何御映像化わからないネフィリムは困惑する。
「――え、何か犯行現場の臭いがプンプンしますぞ!?あ、降りてきた。人――へあぁ!?あ、
そう、上映しているのは
ネフィリムの感想に、東雲が場面場面で補足していく。
「今は、ね?もうちょっと後に面白いものが見えるよ。」
「え、えええいや、戦闘し始めた!!強!!てか、銃刀法違反――って、負けたーーーー!!!?ピンチじゃないっすか!!!!ちょ、ちょちょちょちょ……アア゛ーーーーー!!!」
「大丈夫だよ。この後何とかなるから。」
「いやいやいやいや笑えないっすよ!?雨宮氏ああ雨宮氏ピンチですぞ!!!!????」
「大丈夫大丈夫。」
「いやいやいやいや――って、暴走車両ー!?んぁ?これ、
「
「んを!?うおおおお!?うおおおおおおおおお!!!!!!!」
東雲が状況の補足を入れる。
「
「ファーーーーーッ!!!草ww!!草不可避ww!!大ww草ww原wwwwざまぁーーーー!!wwwwwwwwwwww」
「ね?ね!?楽しいでしょ!?見て良かったでしょ!?」
「待ってもっかいもっかい再生するでござる!!いやぁ、楽しいっすなぁ!!!これは何度も見るべき秀逸なビデオwwwwwアストライアー氏、最強伝説幕開けですかな!?……キターーーーーッ!!!」
ネフィリムはこの後、晴野の救出シーンまで巻き戻し再生するのを、14時になるまで繰り返すのであった。
――20XX年12月10日 16時00分 R国大使館
アレクセイは大使館に戻り、執務室のパソコンの電源を入れた。
今回の取引ではとても素敵な情報が貰えたのだ。
今から5年前に日本に新しくできた組織――「青少年特殊捜査本部」。
探りを入れたことは今までに何度もあった。
だが、そのたびに阻止され、青少年特殊捜査本部の詳しい内情を知ることは出来なかった。
唯一知れたのは「構想自体は8年前からあった」ということのみ。
調べても雲をつかむようで、詳細不明のまま今日に至っていた。
本国に渡すための情報を、本日やっと手に入れることができたのだ。
アレクセイは目的の達成に喜んでいた。
最初は特捜の建物の周辺を張ることも考えたのだが、あの辺りは学生が多く、人通りも多いため区別が付きづらい。
また、普段の仕事もあるため、無駄な労力をかけたくなかった。
協力者を作り、情報を流してもらうという【スパイらしいやり口】で手に入れることにした。
そのほうが多くの情報を得られるのだ。
アレクセイはUSBをパソコンに差し、念のためウイルス検査をする。
異常は見つからなかった
。PDFファイルを開き、手元にある紙ベースの資料と見比べていく。
どうやら同じもののようだ。
これにて、アレクセイが日本に来ていたメインの目的は終了となった。
残る仕事はテロリストの扇動のみ。
――さぁ、我が国の目的達成の1手になってもらおう。
アレクセイは不敵に微笑んだ。
すると、ノックが響いた。
入ってきたのはウラジーミル先輩だった。
「やぁ、
「お疲れ様です。ウラジーミル先輩、やりましたよ。――青少年特殊捜査本部の名簿です。」
「ついにか!!やったじゃないか!!!ああ、今日はなんと素敵な日なんだ!!!」
「ええ、本当に!!残すはテロリストの扇動のみ。これが終わったら本国で多少ゆっくりできます……。バカンスが待ちどおしいですね。」
「じゃぁ、残りも気合を入れていかないとね。おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「あ、そうだ。そのUSB、私も見て良いかい?頭に叩き込んでおきたい。」
「はい。どうぞ。中身はコピーしたので、この後本国に送信します。」
アレクセイはウラジーミルにUSBを渡した。
「わかった。お疲れ様。」
ウラジーミルはアレクセイにウインクし、自分のデスクへと向かう。
デスクのパソコンにUSBを差し、ファイルを展開する。
そして、特捜の名簿の暗記を始めるのだった。
――この様子を大爆笑しながら、これ幸いとハッキングを仕掛けている2名が居ることを、アレクセイたちは知る由が無かった。
――20XX年12月10日 16時00分 都内某所 マンションの一室
DVD鑑賞会にて、晴野の救出シーンを十数回繰り返し見たネフィリム達は、DVDの感想を言い合ったり情報共有をしたりしながらお菓子を食べていた。
パソコンの画面を眺めつつ、アレクセイがUSBを接続するのを今か今かと待ちわびていた。
「おっ?おっ?おっ?おっ?キターーーーーー!!!!」
「わ。見事に引っかかってくれたね。あー楽し。ボッコボコにしてやんよw」
「根こそぎ頂くでござるぅwwww草ぁwwwww」
「あれ?……待って、これ……日常的に有線LANで繋がってる――デスクトップパソコンじゃね!?アクセスポイントも、端末情報も、どうみてもメインマシンに思えるんだけどさ!?」
「ファーーーーーッ!!!草ぁwwwwwwwwww」
「腹ww筋ww崩ww壊ww」
「うわ、放っといても自動で情報入ってくるwwwwしかも機密情報っぽいのがわんさかwwwwハッキング要らぬぅwwww拙者たち、お払い箱なゴミ箱行でござるぅううwwwwww」
「待ってwww待って待ってもうこれ、ただ爆笑していたら
「草不可避wwwww今日はいい日ですなぁwwwww」
「その代わり、まとめるデータ量は多くなりそうだけどねwwww」
「いやwwもう、この
「確かにwwwww」
「wwwwwwwwwwwwwwwwww」
「wwwwwwwwwwwwwwwwww」
2人とも片手で腹を抱えてうずくまり、床を片手で叩きまくっていた。
こんな自信満々な、達成感のある外国人のオッサンの表情を見ることになるとは。
息も絶え絶えになる。
すると、1人の外国人が声をかけた。
仕事仲間だろう。
――あー……。外国語、わかんないんだよな……。僕、英語も苦手だし。
画面の録画はしているので、分かる人に送ろう――あ。霧島!!
「ネフィリム!この映像、霧島に送ってもいいかな!?霧島は世界中飛び回ってたんだ。もしかしたら、翻訳してくれるかも……!!」
「確かに、これ
ネフィリムが速攻電話でコサインさんに確認をとる。
「ヴォイド氏ー!許可出ましたぞww霧島氏が無理だった場合は別の人に回すんで、コサインさんへ転送オナシャスww」
「ネフィリムありがと!聞いてみる。録画データは会話が切れたら、編集して送ってみるよ。」
「あざますww」
ネフィリムに礼を言い、東雲は霧島宛のメッセージを作成する。
〔乙。霧島サブはR国語って聞き取って翻訳できる??緊急案件なんだけど、会話が全くわからなくて無理ゲー。上司の許可は貰い済。〕
これでいいだろう。送信する。
さて。続きを見よう――
「ファーーーーーッ!!!大草原wwwwwwwwww」
急にネフィリムが笑い始めた。
どうしたんだろう。
「【吉報】別のR国スパイ、恐らくデスクのメインマシンに疑いもなくUSBを差すwwwwww」
「ちょ――!?え、マジ!?マ!?」
「尚、こちらも機密情報っぽいのがわんさかな模様wwwwwww」
「草wwwwwwwwwwww」
「しかも、これ、偽情報を暗記しようとしている模様wwwwwwww」
「無駄な努力ううううwwwwww待ってwww無理www死ぬwwww」
「顔出ししてる広報の子に似せたAI生成画像も紛れさせてるから、恐らく偽物と気付かれない希ガスwww」
「作っててよかった偽情報wwwww」
再び笑い転げていると、霧島から返信が届いた。
〔送って。翻訳するわ。〕
さすが霧島サブ。助かる。
マルチリンガルは心強かった。
〔ありがとう。現在会話シーン抽出中。切り取れたら送ります。〕
〔了解。〕
すぐに返信が返ってきた。
東雲は動画を切り取って、ノートパソコンへ転送し、編集後霧島に送信した。
このウイルスはパソコン内で増殖し、すべてのファイルに感染する。
そのため、感染したパソコンがメールなどでファイルを送ると、受け取った相手も感染するようになっている。
ネットワークに乗じて感染が拡大していく算段だ。
ただ、このハッキングをしているパソコンが感染してはいけないため、効果を打ち消すワクチンプログラムを事前に仕込んでいる。
動画を送っても、霧島のスマホデータを拾ってくる結果にはならないだろう。
一度ノートパソコンを介在させてから、編集して送ったから大丈夫なはず。
そうこうしていると、引っこ抜いたファイルを確認していたネフィリムが呟く。
「あー……やっぱり、ファイルにロックかかってますなぁww拙者たちの出番ですなぁww」
「ふふwwじゃあ、僕はアレクセイの、このファイルから侵入していくね?」
「では、拙者は新たなR国スパイの、このファイルから侵入をしていくでござるww」
「了解ww」
「検討を祈るww」
2名は真面目にハッキングを開始した。