Don’t let me down ! (12月12日19:30)
文字数 3,860文字
「もうすぐ着くぞ~。寝てる奴起きろ~。……ほい。お疲れ様!みんなのお陰で目標達成できたわ。今日はありがとな。…ゆっくり休めよ~。」
「はい。お疲れ様でした。」
特捜の駐車場へと車を停め、班員を降ろす。
「――
「…?はい。」
焔は霧島を呼び止めた。
――何だろう?
霧島は焔の下へと向かう。
特捜の建物に併設されている立体駐車場に居るのは、
2人は向き合う。
話を切り出したのは
「今日はどうだった?得られるものはあったか?」
「――はい。天道と2人で…荒事上等で乗り込むことは、今までに何度かありました。ですが、こうして班で乗り込むのは初めてで新鮮でしたし、動き方が参考になりました。晴野や
「お!そうかそうか勉強になったか!よかったわ~。」
「お誘いいただきありがとうございました。」
霧島は姿勢を正し、一礼する。
焔と霧島の目が合う。
「なぁ、霧島君。――うちの秘匿班に来ないか?」
秘匿班とは、上司が各自で選定した班員をスカウトして回す班である。
様々な基準をクリアし、特捜内に入ることができる者であれば班を持つことが可能だ。
交渉は基本的に1対1で行われ、双方の利害が一致すれば班員として運用することができる。
焔が1名を、
事実、今回の霧島の同行は入班試験を兼ねており、焔は霧島を合格と見た。
霧島は晴野に完璧に合わせ、その他の動きも問題なかった。
即戦力だった。
「――!!」
霧島は驚き、目を見開いた。
実力を認められたのは素直に嬉しかった。
確かにこの1度だけで終わるとは思ってはいなかった。
恐らくこの後も続くのだろうと思って、生半可な気持ちではなく、覚悟を決めてから同行することにした。
だが、まさか今ここで交渉になるとは……。
こんなに情報漏洩しそうな場所で声をかけられるとは思っていなかったのだ。
「俺は君を……霧島君をスカウトしたい。君には
リーダーの素質がある
。」――待て。
リーダーの素質
とは何だ!?どういうことだ!?僕はリーダーになれないはず。
リーダーシップしか持っていない
んだ。事実、
自分はせいぜいサブリーダーが良いところであるという現実に直面したばかりなのに?
霧島は戸惑ってしまった。
「霧島君、何か勘違いしてるみたいだけど……。うちでは全員がリーダーであり班員だ。リーダーシップをもつリーダーになれる奴しかスカウトしていない。てか、それ以外不要だわ。めんどくさい。」
「――え。」
霧島は再度驚いた。
混乱する霧島に、
「前はどうだったか知らねぇが、今日見た感じでは素質は十分だ。それに、能力もかなり高い。……もっかい言うが、リーダーシップをもつリーダーとしての資格が無い奴は、たとえどんなに優秀だったとしてもうちの班には入れねぇよ。…これからよろしくな。Don't let me down ! いっぱい勉強していってくれ!」
「――!はい。よろしくお願いします!!」
“Don't let me down.”は直訳すると「私を失望させないで」になるが、英語圏では期待や信頼を込めて他人に使うフレーズだ。
ニュアンスとしては励ましに近く、意訳すると「(君に)期待しているよ」という感じになる。
「詳細は追って連絡するわ。チャットこれで良かったよな?」
「はい。合ってます。」
「お!了解。よろしくな。」
「はい、よろしくお願いします。」
霧島は一礼してから建物に入っていった。
――あと1名はどんな奴が入ってくるんだろうな。
だが、すぐに表情を消し、スマートフォンをしまう。
焔はもう1つやるべきことがあった。
というか、つい先ほど発生してしまった。
「――んで?
盗み聞き
ぃ?」すると、柱の陰から気配を消すのをやめた男が出てきた。
「Don't let me down ! のちょい前からね。いやぁ、バレてましたか。」
出てきたのはラムダだった。
ラムダは下の駐車場に車を停め、降りると上から話声が聞こえてきたから、気配と足音を消して階段で登ってきたようだ。
苦笑しながら姿を現し、発言した。
「もー心臓に悪いなぁ。
知っている気配
で良かったけどー。」「けっこう上手く消せてたはずなんだけどなぁ?あ、スカウト成功おめでとうございます。」
「どうもー!……で?何か用がある訳?」
その眼光は鋭い。
ラムダは飄々とした感じで切り返す。
「天道の今後を
少々
。」かなり意味深な発言だった。
……今後に関わりそうだな。
「――
1階
、行く?」「あ、助かります。」
その後、廊下を進んで主にスカウトで使われる、防音設備が完璧な会議室へと向かう。
両者ともにカードキーをかざしてロックを開け、表示を【使用中】に変える。
テーブルと椅子があるだけの、無機質な室内の灯りがつく。
その後、2人で室内を
掃除
した。何も無かったので、そのまま椅子に座り、2人は対面する。
「さて、聞かせていただけますか?」
ラムダも焔と同じ動作を取り、ニヤリと笑い、発言する。
「天道の拉致予定の件だけど、わざと拉致されてもらうことになった。この後奥歯に発信機を埋める予定だよ。」
――マジ!?協力得られたの!?
ラムダの言葉に焔は驚いた。
「おー…。よく了承取れましたね。上司命令にしたんですか?」
「んー?まぁ、色々と餌はぶら下げてみたけど……多分、狙われていることを事前に知っていたのが大きいんじゃないかなって思ったよ。倉木もかなり比重大きいようだけどさ。」
「1課2係7班で――ですか。」
「多分。あいつら頭良いからねー。」
「いやぁ、うちの妹優秀ですし。」
「ねぇ、君やっぱりシスコンなの?自分の秘匿班に引き入れたのって、まさかそういう理由なの?危険なのに??」
「え?秘密♡」
本心が読めないため、ラムダは追及を諦めた。
「――……そう。ガード硬いね。」
「えー?それはお互い様でしょう?」
妖しく笑うオッサン2名の視線が合い、火花が散る。
ラムダは静かに息を吐き、言葉を発することにした。
「……明日
君たち
が動き次第、天道が動かしている救出班を止めるつもりだ。その時はまた連絡してくれ。タイミングを合わせる。」「そうですか。では、こちらも1つだけ。……先ほどで1課2係7班に侵入した3名全てを拘束しました。最後の1名はこちらで預かっています。ちょっとこちらで聞きたいことが多かったので、お渡しは出来ませんが。その代わり、22時の【R国スパイの協力者】は持って行ってください。」
「わかった。では、これにて情報流出は全て防げた、ということだな?」
「はい。間違いありません。」
「わかった。」
ラムダはゆっくりと息を吐き、目を閉じた。
「ラムダさん……天道は警察官です。拉致の救助に関しては全てお任せして良いと、思っても
大丈夫
ですか?」要は、捨て駒として使わねぇだろうな?ちゃんと五体満足で生きたまま回収すんだよな?という確認である。
「もちろんですとも。それに、彼は
異動
が決まっています。生きたまま回収しますよ。――絶対にね。」焔の質問を受け、ラムダもガチトーンで同じように切り返す。
茶化しやごまかしは一切ない。
生命の保証はするらしい。
……もしかしたら拷問で手足が無くなっている可能性はあるようだが。
多分、誤差なのだろう。
「まさか……なるほどね。それなら良いんだ。――さすがに見殺しにはしたく無かったから、上が見捨てるというなら手を貸そうと思っていたんだ。」
「必要ないよ。気にしてくれてありがとう。」
「どういたしましてー。」
「話は以上だ。また何か有ったら連絡してくれ。」
ラムダは軽く笑み、椅子から立ち上がる。
「あ、ありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。」
ラムダはこの後1課2係7班へ赴き、天道を拾って知り合いの歯医者へと向かうらしい。
停めている車の車体下やエンジンを確認後、運転席へ入った。
スマートフォンで不知火にメッセージを打ち、送信する。