師弟の連携 (12月10日10:30~13:55)
文字数 3,539文字
今朝はとある人から申し送りを受けていた。
情報共有を受けて、他に挨拶に行ったらこんな時間になってしまった。
デスクの一番下の引き出しに鞄をしまい仕事をしていたが、ふとお手洗いに行きたくなる。
人に会うたびにコーヒーを口にしていたため、飲みすぎたせいだろうか。
だが、このまま席を立つのはまずい。
鞄の中には、
午後に必要な資料とUSB
が入った茶封筒を入れているのだ。新田は引き出しを開けて鞄を出し、自分のロッカーがある場所へと移動する。
ここなら鍵がかかるし、多少人通りもある。
開けられることは無いだろう。
新田はロッカーの中に鞄をしまい、鍵をかけ、席を立った。
その様子を4名の男性が見ていたが――新田は気付いてすら居なかったのだった。
4名の男性はアイコンタクトを取り、散開する。
1名は男性トイレへ、2名は周囲の見張りを。
残りの1名は新田のロッカーに近付き、ロッカーをピッキングツールを使って強制的に開錠した。
茶封筒を取り出し、中を確認する。
報告あった通り、特捜の名簿と上司の情報をプリントアウトしたものと、そのデータが入ったUSBメモリが入っていた。
男は新田が持っていた
本物の茶封筒
を懐にしまい、偽物の茶封筒
を鞄に同じようにしまい込んだ。――寸分の狂いもなく、違和感のないように。再度ピッキングツールを使って鍵をかけ直し、その場から即刻離脱する。
見張りの2名は行動監視の為に残しておく。
男性トイレへ向かった1人は自班オフィスで合流予定だ。
懐に入れた本物のデータ入りの茶封筒を落とさないよう注意を払いながら、男は自班オフィスへ帰還した。
偽の茶封筒にすり替えた男――ラムダは、公安0課に務める警察官だ。
そして――
彼はサイバー犯罪対策課と接触した際、面白半分でハッキングを教えて貰ったらハマり、以降ハッカーとしても頭角を現した結果、
公安0課とは言えないので、所属が必要な時はサイバー犯罪対策課所属ということにしていた。
この案件を頼まれたのは昨晩のことだった。
突然、
彼の素性は詳しくは知らないが、恐らく他組織の同業者――
ナンバー1~3は全員が外部――特捜所員ではないからだ。
コサインさんが【ナンバー2】は自衛隊員だと言っていたし、状況説明や、引き受けると答えた際の【謝礼として提供された情報】の詳しさから見て、恐らく間違いはないだろう。
今までも招集時の班チャットで仲良くさせてもらっていたが、ぜひ今後の為にも個人的に仲良くなっておきたいところだ。
……後で
偽の個人情報データは【ナンバー5】【ナンバー6】【ナンバー7】が万が一の時のために遊び半分で創っていた物らしい。……何やってんだあいつら。
個人の写真画像はAIで生成し、名前は有名人の姓名をランダムに組み合わせたもので、コードネームはアニメやゲームのキャラクター名を充てていた。
中々クオリティーが高く、軽く中身を見た際騙されそうになった。
……何者なんだあいつら。こちらも後で
また、USBには
もちろん、カメラがやマイクがついている場合は、その情報もリアルタイムで手に入るというから恐ろしい。
これらの用意は
朝8時にコサインさんを通して偽のデータが入った茶封筒が俺――【ナンバー1】ことラムダに渡されたのだった。
オフィスへ戻り、印刷されていた個人情報を証拠品として厳重に保管する。
新田哲哉を捕らえた後で尋問にかけるために必要となる。
〔任務完了。残るは14時の逮捕です。どうぞよろしくお願いいたします。〕
〔ありがとうございます。次も頼みます。今後ともよろしくお願いいたします。〕
〔こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。〕
すぐに返信が届いたので、ラムダも返信をしておいた。
すると、男性トイレで見張りをしていた部下がオフィスへと戻ってきた。
「お疲れ様です。ラムダさん、
「ありがとう。俺らは14時に備えよう。」
「はい。」
本来なら俺らだけで捕まえたい。だが、この案件には公安の【表】も関わっている。
独り占めすると後が厄介なうえに、敵の監視がついていることも考えられたため、逮捕は【表】の班に任せ、取り調べを双方ですることになった。
さぁ、次は取り調べだ。
あいつ
なら絶対にやり遂げてくれるはずだ。ラムダは頭の中で状況の整理をしつつ、新田から聞き出す事をまとめることにした。
――20XX年12月10日 13時55分 都内某所 某ショッピングセンター
スパイとのやり取りは人通りの多いところで行われることが多く、その際はすれ違いざまにものを渡す【フラッシュコンタクト】という手法が取られることが多かった。
今回も例にもれず、フラッシュコンタクトを行う予定だ。
事前に公安0課がUSBと資料をすり替えていたが、新田は気付かずに情報を持って行っていた。
よしよし。気付かれていないようだ。それでいい。
逮捕の為に動かしたのは公安の表――
斎藤はラムダが普通の公安に所属していたころの後輩にあたり、新人時代にラムダに技術を仕込まれていた。
数年ぶりに声をかけてきたと思ったら、逮捕の依頼で驚いた。
「
斎藤たちは変装を済ませ散開し、周囲に溶け込む。
清掃スタッフ、販売員、買い物に来ていた夫婦、買い物した食材が入ったエコバッグと共にベンチに座り休憩する主婦、近くの店の客として商品を眺めている人の合計6名の配役で挑んだ。
斎藤の班員は受け渡しを360度から撮影する予定だ。
公安の「絶対逃さない」という執念を感じる動きだった。
ちなみに、主婦役が持っているエコバッグに入った食材は、後程1課2係7班に差し入れする予定だった。
斎藤は1度デレたら相手にとことん優しかった。
14時になり、アレクセイが歩いてくる。
新田もアレクセイに向かって歩き出した。
そして――
茶封筒をアレクセイに受け渡した
のだった。録画は出来た。
顔も手元もしっかり映っている。
――成功だ。
アレクセイ、新田はそれぞれ立ち去る。
買い物に来ていた夫婦役だった捜査員と、近くの店の客役の捜査員が新田を追尾する。
バレないよう、それぞれが時間差で距離を開けながら追尾する。
衣装を着ていた者はしばらく演技を続けた後、トイレで着替え、駐車場に停めていた車へと向かう。
主婦役は荷物を持ち、新田を視界に入れながら、そのまま駐車場へと向かい、車内で衣装組を待機する予定だ。
新田は駐車場へと向かっていた。
新田は車でこのショッピングセンターに来ていた。
駐車場で自分の車を探し、スマートキーで車の鍵を開ける。
捜査員が距離を詰め、車に乗り込もうとする新田の腕を掴み、後ろ手で拘束する。
とりあえず今は、機密情報保護法違反での逮捕だ。
叫ばれないよう、喉の声帯周辺を押えながら後部座席に押し込み、新田の両脇を男性の捜査員でガードする。
万が一暴れられた時に抑えるための措置だった。抑えるのは同性のほうが良いだろう。
夫婦の夫役の捜査員が、新田のポケットの中からスマートキーを奪う。
その後、身体検査をしてスマートフォンを回収し、通信を遮断するポーチに入れた。
夫婦の嫁役の捜査員が運転席に乗り込み、後部座席に乗り込んだ捜査員から車の鍵を受け取った。
本当は警視庁の公安用の取調室が良いのだが、どんな邪魔が入るかわからない。
夫婦の嫁役の捜査員は、