接触に向けて (12月26日13:30)
文字数 1,803文字
机と椅子だけの殺風景な部屋に、天道と霧島は会議室にて対面で座った。
「設定は覚えたか?」
「僕は
霧島は26歳なのだが、潜入に合わせて年齢が変化していた。
また、霧島がダブル(旧称:ハーフ)なことを活かし、名前を海外でも通じる響きに設定されていた。
霧島にとっては、自分の名前にミドルネームが無いのが新鮮だった。
覚えてきた内容を暗唱し、天道を見る。
だが、少し不満そうだ。…間違っていないはずなのだが。
「……一人称を変えろ。【俺】にせぇ。」
頬杖をついた天道は、一人称の変更を強制してきた。
霧島は驚いた。
「えっ。何か変なのか?」
…間違ってはいないはずなんだが。
不思議に思っていると、天道はそのままの体勢で言葉を返してくる。
「違う。切り替えのスイッチのようなもんや。…『僕』は
「…わかった。俺は平田理亜夢。25歳。株式会社R-Srv.ITの社長だ。」
「俺は
「…天道さんは一人称を替えなくても良いんですか?」
「深く潜るわけではないからなぁ。必要あらへんよ。」
なるほど。深く潜る際にはいくつか【日常を守る措置】が必要なのだろう。
霧島は素直に受け入れ、潜入が終わるまでは【俺】を使うことにした。
「……ええか?あんさんは今、というかこの1ヶ月間はそんなにお金に余裕があるわけではない、駆け出し自営業の男性や。ええな?お金の使い方、金銭感覚、
合わせろ
よ?設定に合わせるんやで??ええな??」天道は耳にタコができるんじゃないかというくらい、霧島に念を押す。
霧島は多少うんざりしながらも、天道の進言を素直に受け入れる。
霧島は部屋の様子を見た後、スマートフォンを使って一般的な社会人の生活をかなり調べた。
最初の天道との任務の後にも調べていたが、その時は簡単に目を通して出来る部分のみ参考にした感じだ。「そんな生活をしてるんだな」くらいの感覚だったのだ。
だが、今回は完全に擬態しなければならない。そのためかなり調べ、まねた。
1日で詰め込めるだけは詰め込んだが、正直怪しい部分がある。
教団潜入開始日までには感覚を落とし込んでおかないといけないため、動画サイトの1人暮らし生活系Vlogなどを漁る生活をする事に決めていた。
「ほな、いくで??今日は仕事で、接待うけて、キャバクラ行きます。…予算は2人で5~10万程度や。」
「
シャンパンの金額は大衆店では1万~2万が相場のようだが、高級店だと5万~10万に跳ね上がる。
今回の設定は接待だが、今後霧島1人で接触する際の練習も兼ねている。霧島の配役設定での予算だと、シャンパンは厳しいのだ。
「合っとるで。ク〇ュッグやレ〇―、ドン・ペ〇ニョン、…間違ってもリ〇ャ―ルやブ〇ックパールなんかは入れるなよ??」
「……わかった。潜入任務が片付いたら自宅で飲むわ。」
「……そうしてくれ。」
天道は頭を抱えた。本当にうまくいくのか不安だ。
霧島はリ〇ャ―ルやブ〇ックパールという高級なお酒に反応を示していた。…金銭感覚が違いすぎる。
「……生臭カルト坊主のせいで、そこそこ高級店になるからなぁ……。あと、キープボトルも遠慮しぃ。目的考えたら、初回から置いていくのはあからさますぎるし、すぐ
「マジか……。」
霧島はショックを受けた様子だ。
ウイスキーやブランデーといった、基本的にボトルで提供されるタイプの酒が好きなのだろう。
飲むな。今回の任務ではマジで飲まんといてくれ。…ボロ出るで。
「……カクテルとかショットとか…2,000円程度のもんにしぃ…。そして、一人で行く時は、女の子にカクテル飲ませつつ、ハウスボトル飲んどきぃ……。心配や……。」
天道は再度頭を抱えた。