それぞれの考察 (12月6日12:00~13:00)
文字数 5,267文字
もうじき昼食が出来上がる。
今日は
メニューはミネストローネと卵サンド、ハムサンドだ。
デザートは雨宮が持ってきた贈答用のりんごだ。8分の1サイズに切られて、テーブル中央に置いてある。
今日はオフィスに居ても冷えるため、温かいスープがあるのはありがたい。
ミーティングルームの席に着き、一斉に食べ始める。
おいしい、あったまるー、など各々言いながら食べていると、
「はい!皆さま!!私と
「同じく。あの、実はメンバー揃ってたうえに晴野のお兄さん居たやつだね。」
どうやら晴野と
「おうおう。また兄貴に会ってくるっすー。完全秘匿なチャットでな?」
「ふふ。僕もネフィリムと完全秘匿チャットで、他にバレない程度に話してくるよ。」
「あ、やべ。忘れてた。オフィスに誰かは残るよな?大丈夫そ?」
晴野に聞かれ、
「ああ、今のところ霧島サブリーダーと嵐山、
「どうしても誰もいなくなる場合は、防犯ブザーを使った罠とか非殺傷のブービートラップを仕掛けて置くといいかもな。…いくつか作ってみるか。」
霧島が提案した内容に、班員は驚く。
――霧島さん、なんでそんな謎スキルを習得しているんだ…!?
「良いですね!って、何で作り方知ってるんですか…。」
「ええ、頼もしいですわね。…ですが、霧島?あなたはいったい、どの方向に進んでらっしゃいますの…?」
雪平と雨宮に突っ込まれる。
「……僕もよくわからない…。文句なら
霧島は2人に切り返す。
どうやら天道に教え込まれたようだった。
「嘘だろwwww近い将来、
「やっぱり、霧島サブ…あなた、天道に弟子のように教育されてるわよ。その為に
晴野は爆笑し、嵐山は霧島の育成方針について前々から思っていたことを伝えた。
嵐山は霧島が【天道が特捜内に入れ込んだ、自身のスパイ】でないなら、弟子なのではないかと暴露大会以降、疑っていたのだ。
「嫌だ……。もう2度と行きたくねぇよ…あんな銃弾飛び交う激戦地…。ただの海外旅行ならまだしも、時々
変なところ
に連れていかれるのもマジ勘弁なんだが。命いくつあっても足りねぇよ…。」霧島は嵐山の言葉を聞き、絶望した。
自身でも嫌な予感はしていたのだろう。
なるべく考えないようにしていた現実を突きつけられ、霧島はうなだれる。
「霧島サブってさ、数年後は公安
「あー。」
「行きそうですね…。」
「
「……やめろ、心を抉ってくるな。天道とのことは、言えないことが多すぎてマジでストレスなんだよ…そのうえ同じ方向性で別班とか笑えない……僕は
どうやら、天道式性格矯正ブートキャンプは相当トラウマらしかった。
それ以降も何度か天道の仕事に連れていかれることがあるようだ。
霧島は特捜に来る前は海外を飛び回っていたため、海外の文化に詳しい。
また、会社員時代に交渉を行っていた経験があり、複数の言語が使える。
天道との仕事では死線を潜り抜けていて、度胸もある。
特捜の所属が1課のため、他の課より逮捕術や護身術などの訓練は多く、今でも定期的に指導を受けている。
社交的で知識も多く、頭の回転も速い。
そのうえ
確かに、将来的には諜報分野に引き抜かれてもおかしくはない人材だった。
公安
霧島は優秀なのだ。
…ただ、プライドがエベレストよりも高いだけで。だいぶマイルドにはなったが。
「僕の人生、どうしてこうなった…。」
そう呟く霧島に、他の班員はつい笑ってしまった。
――20XX年12月6日 13時00分 青少年特殊捜査本部 会議室
受付を済ませ、6番の防音室の中に入る。
鍵をかけ、パソコンを起動する。
――そういえば。ナンバー5がネフィリムなんだっけ。友達が隣の防音室に居るのは…なんか、心強いな。
この班は完全秘匿型なため、個人を特定することができない。
だが、この前の天道への
入室順はいつもアトランダム。
何だろう。少しワクワクしてきた。
いつものやり取りも楽しかったが、今思うとモノクロみたいで、今は色がついたかのように思えてくる。
だが、上司にメンバーを一部把握していることを気付かれたらまずいので、いつものように全体に向けて挨拶をした。
〔
チャット欄に返信が返ってくる。
〔乙乙wwみんなー、昼ごはんちゃんと食べたー??腹減り
〔乙カレーライスwwハンバーガー食べてきたわww〕
〔乙ww今日のトップはタンジェントさんだってー。〕
〔乙カレーうどん!今日は何の件だろうなー?〕
〔乙カレーチャーハァアアァアァンww〕
〔待って草wwww〕
〔乙ww言葉のノリなのはわかるけどカレーしか居ないのジワるwww〕
〔乙カレーパン!ちなみに昼食リアルにカレーパンだったよwwちなコンビニなw〕
〔乙カレーシリーズは草wwww今日の晩飯カレーにしよwww〕
〔こwwこwwでww晩ww飯wwをww決wwめwwるwwなww〕
〔買い物時に夕飯のメニューに迷う主婦かwwwwwみんな乙ww〕
〔それならカレーシリーズにはサイドメニューにコールスロー付けてもろてwww〕
〔ここは主婦or主夫または独り暮らし民応援の献立スレかwww〕
〔乙ww入室したら
〔乙wwいらっさいww〕
〔乙乙ww今日もよろしくなー〕
〔おk、わかったよ。乙カレイの煮つけ。これでいいか?〕
〔まさかの和食www草wwwwww〕
〔和食ならほうれん草のおひたしとだし巻き卵、味噌汁も追加してもろてwwww〕
〔白米とお漬物も足そうぜwwwwどうだ、健康的だろう??〕
〔和洋で晩飯メニュー決まったなwww良かったなww草wwww〕
〔居るかわからないけど主婦or主夫か独身は今晩の参考にしてクレメンスwwww〕
〔草ぁwwwww〕
チャット欄は相変わらず盛り上がっており、楽しみながら適宜返信していく。
開始時間になり、上司たちが入室してきた。
「集まったな。これより
今回の案件のリーダーはタンジェントさん、サブはサインさん、書記はコサインさんが担当していた。
「喜べ。前回の天道のスマホのハッキングは小言免除だ。その代わり、テロリストのスマホとパソコンをハッキングしろ。手段は問わないが、秘密裏に頼む。いいか、
秘密裏
に、だ。『あなたのメイドちゃん』…?だったか?天道の時みたいに、キャラクターや音楽を使った遊び心込みでハッキングしたりするな。相手にばれない様に、秘密裏に、やれ。…いいな
?」上司――タンジェントさんはものすごく念押しをしてきた。
前回は遊びすぎたらしい。
天道の性格を把握したうえで「
現に、面白いほど上手くいったし。
今回はいつも通り秘密裏に事を遂行しろとのことだ。
チャットにて、判明しているテロリストの携帯番号やメールアドレスが送られてきた。
ターゲットが重なるとよろしくないため、それぞれ担当が割り振りされている。
チャット欄は承諾しつつ、笑いに満ちていた。
タンジェントさんが続ける。
「また、1課2係7班の
その説明を、コサインさんが引き継いだ。
「アレクセイがテロリストと接触していることから、以前と違い、誘拐の可能性は低いかもしれない。だが、内部に居た協力者が捕まったことにより、新たにスパイが用意した協力者が接触してくる可能性もある。これ以上の情報流出は避けなければならない。もちろん公安も張るが、念のため位置情報を見張っていてくれ。」
〔承知〕
〔ちょい気になるんだけど。西園寺グループもいいけどさ、狙われるの
〔あと、1-2-7もやばくね?大丈夫そ?情報は漏れてないっていうけどさ?〕
〔禿同。俺も天道ヤバいと思う。ハッキングしてGPS拾う?あ、今度はちゃんと秘密裏にwww〕
〔確か、緊急連絡先として総務に電話番号とメアド登録されてたよね?総務行って照会してくる??
〔天道のメアドと番号だよね?番号は前と変わってないって聞いた。〕
〔マジ?スパムで釣って位置情報把握ろかな。次は電気料金とかの案内で。〕
〔ナイスアイディアww〕
「…おい、天道が心配?なのはわかるが、再度ハッキングを試みようとするんじゃない。」
チャット欄を見たタンジェントが突っ込む。
だが、チャット欄は気にせず書き込みを続ける。
〔あ、アンケ取りまーすww狙われるのは?予想せよww1、天道 2、雨宮 3、社長 4、社長妻 5、息子(兄) 6、息子(弟) 7、1課2係7班 8、その他(自由記述でオナシャス)〕
〔1278(阿久津脱獄ルートあるんじゃね?)〕
〔126〕
〔127〕
〔125 社長よりかは子どもが狙われそうな
〔128(阿久津殺害ルート推し)〕
〔127〕
〔123〕
〔ワイ、1267 【集計結果】天道と雨宮やばそげww保護せよwwww〕
〔阿久津脱獄
〔脱獄しなくても、殺害ルートてwwヤバすぎ辞めてクレメンスww〕
〔だけど、阿久津が絡んでる件だから、阿久津も狙われるのありそうじゃない?〕
「あー。確かにな。牢屋だから大丈夫かと思ったが、阿久津にも監視を入れておくか。」
サインさんが納得したように呟く。
〔1課2係7班は誰かに侵入されて盗聴器とカメラ仕掛けられたから、別の意味で危ない希ガス〕
〔あー、全体連絡来てたね。即座に休みの人も呼び出されて、全ての班でオフィス内を掃除するというおまけつき。自分の班は無事だったけど、他の班は無事そう??〕
〔え?また倉木が何かしたってこと?班員メンタル大丈夫そ?息してる??〕
〔うちは大丈夫でした。共用スペースや、2~5課共用の仮眠室も掃除しに行ったけど平気だったよね。〕
〔こっちも平気だった。狙いは
〔上に同じく〕
〔倉木以外に
〔またクソ上司がはびこってるよ(引き〕
〔ゴミすぎ〕
〔現実クソじゃん(遠い目)〕
〔このタイミングで1-2-7に忍び込んだとヤツいるとかマジ?ドン引きだわ〕
「その件もこちらで調べているが、廊下の監視カメラの映像も持って行かれていたんだ。別で調査チームを作っているが、あまり期待しないでくれ。そして、侵入があったということは特捜にとって、多大なる損害だ。全力は尽くすが、証拠が抹消されていてはこちらも打てる手が少ない。…君たちも身の回りに気を付けてほしい。」
コサインが発言した。
どうやら特捜の安全管理にコサインさんが関わっているようだった。
「以上で会議を終了する。コサインも言ったが、全員身の回りに気を付けてほしい。次回は12月9日の18時から会議を行う。では、各自頑張ってくれ。」
タンジェントが宣言し、各々はUSBにデータを写し、帰る準備をするのだった。