やられたらやり返す!ε流でな!! (12月14日10:30~11:10)
文字数 3,036文字
アレクセイたちの上司、ルドルフ・ペトローヴィチ・バルバショフはため息をついた。
バルバショフは、先ほどまで日本の警察とやり取りをしていた。
こちらで自主的に帰国させる前にプロトコール・オフィスへの通達とPNGが出されることになり、面目は丸つぶれだった。
「見事にやられたね。」
PNGの通達を見ながら、問題となった2人に視線を向ける。
アレクセイ、ウラジーミル共に悔しそうな表情を浮かべていた。
「はい……申し訳ありませんでした。」
「バルバショフさん、申し訳ありません。」
「君達は本国へと帰還だ。すぐに荷物をまとめなさい。」
「はい。」
書かれていたのはスパイ活動の内容だけではない。
資料にはテロリストとの共謀、拷問、違法薬物所持にも触れられていた。
日本では違法薬物の所持は禁止だ。いくら外交特権があるとはいえ、見つかったのは非常にまずかった。
単なる記載だけでなく、事細かな証拠資料も添付されており、言い逃れは出来なかった。
――一体、どうやってここまで調べたんだ。細かすぎる。
そして、本国にも同じものが送られていると思うとゾッとする。
資料は分厚い。
これだけのことが纏められていたのだ。今後の日本での活動の目は厳しくなることが予想されたため、スパイ活動には今まで以上に細心の注意を払わなければならなくなった。
バルバショフは、は唇を噛み、拳を強く握りしめる。
完全なる敗北だ。
バルバショフの心とは裏腹に、窓の外は晴れている。
窓の外を見てため息をつき、デスクへと向かう。
――今後の対応に当たらなければ。
バルバショフは部下2人に、せめて挽回のチャンスが巡ってくるようにと神に祈った。
――20XX年12月14日 10時50分 都内某所 マンションの一室
炬燵の机には複数のモニターとデスクトップパソコン、キーボード、マウスが置かれ、メモリ不足時の時の為に記憶媒体も複数用意されていた。
左側にはお菓子や飲み物が、右側には
「準備はいい?」
《いやぁ、楽しみっすなぁww》
《
《うぇーい!よろしくなー!》
《いやぁー、俺も混ぜてくれてありがとうね。楽しもう!》
グループ通話のメンバーは
各自パソコンの電源を入れて準備を進めながら、通話していた。
メンバーは完全秘匿制の
都内のマンションあちこちから、各自単独でハッキングに挑む。
もちろん、居場所がばれないよう海外のサーバーは多数経由する。
以前本国のサーバーに行きついてはいたが、引き出したあと上手く開けられなかったものも多く、また適当なところで一旦手を引いたため、今回はそのリベンジも兼ねていた。
《ここで会ったのも何かの縁でござるよww》
《そっそ!それに、連携したほうが有益な情報、片っ端から分担して引き出せるっしょ?より沢山ダメージ食らわせられるじゃんね!》
「やるならより多くの情報取りたいし。重ならないよう、都度スマホからチャットで報告っていうけど、そんな時間惜しいじゃん?」
《わかる~。みんな手ぇ動かしてるしね。結果、
《だよなぁ。助かるわ。みんなありがとう!》
和気あいあいと話していると、予定時刻が近付いてきた。
コードを確認し、スタンバイしておく。
さぁ、ハッキングの開始だ。
みんなでボッコボコにしてやろう。
――やられたらやり返す!
――20XX年12月14日 11時10分 都内某所 マンションの一室
《こちらは晴れなり。本国のパソコン内に侵入成功しました。人事関連ファイル漁ります。》
《こちら
《こちらラムダ。侵入成功。協力者資料漁ります。》
《こちらネフィリム。侵入成功。機密情報ファイルに特攻かけますぞ!》
「こちらは曇りなり。侵入成功。共有ファイル漁ります。僕が最後だったから、分担まとめてチャットに流すね。」
《ざす!》
《あざます!》
《ありがっとう!》
《感謝感激
着々と侵入成功が届き、安心しながら作業を進める。
ついでに他の人のハッキング先も聞いておく。
お、【ナンバー3】から返信がきた。
「こちらは曇りなり。他の人からの侵入成功の返信が来たから口頭で言うよ。現在経理、仕入れ、裏帳簿、武器薬物関連は漁られてるから迂回してクレメンス。」
《よっしゃ見事にばらけたな。》
《向こうは帳簿関係多いな。てか、【ナンバー3】も同じことしてんじゃね?》
《だろうなー。》
《
《禿同ですなぁ。》
「僕もそう思ったよ。」
ラムダの意見に各々が同意する。
効率よく進めるには分担が正解だ。
恐らくあちら側でも通話しているのだろう。きっと、律儀にボイスチェンジャーを通しているのだろうが。
《まぁ、何より効率よく進められるのはありがたい。……やるぞ。》
《あいあいさー!》
晴野の返答を皮切りに、一斉にキーボードのタップ音が響く。
しばらくは無言で作業して、必要な時だけ喋る感じで進めていく。
スマホが鳴った。
開こうとすると、晴野から通信が入る。
《へい!皆さま!人事データより、アクセス権限を豊富に持つ【上層部とみられる人物】のIDとパスワードを複数ゲットできましたので、秘匿班共有チャットにて流してます。あっちの文字入ってるから読めねぇけど!》
晴野はどうやら人事ファイルから、現在社内システムにアクセスしている人に飛び、IDとパスワードを抜き取っていたようだった。
アレクセイとウラジーミルのIDとパスワードでは権限が足りず、いくつかハッキングするのに躓いていたため助かる。
セキュリティがかなり高いものが多く、トラップも仕掛けられていたため、強制的に開けるのに苦労していた。
社内システムに迂回しようとしたら、既に晴野がやってくれていた。
《うお!助かる!!さすが妹!よくやった!!》
「アストライアー、助かる。ありがとう。……あ。【ナンバー3】から〔7!お前が神か!ファイルのトラップ付きロックを突破できたわ!
どうやら【
同じく、社内システムに迂回を試みていたのだと思えた。
《うぇーいwww神ですwwww
《あ、こっちも開きましたぞ!アストライアー氏、あざま!!!》
《ひゃっほう!!やったぜ!!》
「ふふ。また
《違いないねww》
《……とすると、提出前に1回翻訳アプリ通す仕事が入りますなぁ。》
《マジか。前回そんなことしてたのか。》
作業効率に関わることなので、
「作業終了後、情報まとめの段階でやれば大丈夫だよ。今回は、前みたいに急を要するものじゃないはずだし。」
《了解!たくさん訳してもらおう。横文字長文きついんでw》
《やり方了解。じゃ、ストップかかるまではハッキングに集中しよっか!》
《はい!》
「はい!」
晴野の功績で作業はスピーディーに進んでいく。
上司のタンジェントから作業停止の連絡が入るまで、