それぞれの仕事 (12月10日23:00)
文字数 5,615文字
室内に居る男女には軽く疲労がたまっていた。
腐っても公安同士。手の内が知れているため、結構やり方に悩む。
さぁ、どうやって落とすか。
そんなことを考えていると、呼び鈴が鳴った。
玄関へ行き、ドアスコープで相手を確認し、ドアを開ける。
「お疲れさん。どうだ?吐いたか?」
「先輩!お疲れ様です。――いえ、まだです。なかなかしぶといですね。」
訪ねてきたのはラムダだった。
ぜひみんなで食べてほしい。
斎藤から礼を言われた。
ラムダが斎藤の元を訪れてたのには理由がある。
斎藤が向かった分室が、周囲に人気のない古い一軒家だと聞き、
マンションだったら連れて行こうかと思ったのだが、手間が省けた。
「そうだ。スマートフォンありがとう。
知り合い
に解析してもらって拾えた分を持ってきたから、使ってくれ。」ラムダは鞄から資料を取り出し、斎藤に渡した。
中身は新田のスマートフォンのメッセージ履歴や通話履歴などだった。
斎藤の班が新田を捕まえた後。
斎藤の分室へ斎藤の上司とコサインさんに赴いてもらい、新田のスマートフォンを回収した。
その後サインさんを経由し、【ナンバー2】へとスマートフォンを渡すことに成功した。
本当は俺がやっても良かったんだが、通常業務が入っていたため他に頼るしかなかったのだ。
緊急事態ということで、コサインさんは【ナンバー2】と【ナンバー7】が担当したと言っていた。
2人とも現在進行形でこの案件に関わっているから、丁度良かったらしい。
――【ナンバー2】……お前、特捜で
ちなみに、R国スパイは茶封筒の中に入っていたUSBを疑いもなく使ったようだった。
ハッキングは
R国スパイのパソコンの中身の一部はコサインさんを通じてラムダの手に渡っていた。
ただ、現時点で手に入っているのはごく一部だ。
翻訳の難易度が高く、まとめるスピードが追いついていないのだ。
言語が違ううえ、機密情報らしきものが多くあったようで、専門用語や
お硬い言い回し
が多く使用されていた。解読には外国語で書かれたビジネス文章の読解力が求められた。
現在、外国語が得意な秘匿班に回して翻訳を行っている最中だ。
きっと、
翻訳機能を併用しているが、どうしても意味が通じない部分が出てくる。
変な部分を人力で修正後、原本と照らし合わせてチェックをかけているらしい。
量が多いため、まだ全ての翻訳は終わっていないらしく、彼らは徹夜になると聞いた。
なるべく正確な状態で送ってもらえるのは正直助かる。
日本語万歳。横文字長文なんか読めるか。
ぜひ頑張ってくれ。
R国スパイのパソコンの中身に
ちょっと面白いもの
があった。新田本人のスマートフォンのデータからは、
とあるやりとり
が見つかっている。ただ…【ナンバー2】から聞いた情報とは少し違うんだよなー。非常に崩し甲斐がある。ああ楽しい。
なので、
お話し
のネタには困っていなかった。……どうしようかな。
ちょっと軽めに
自白が欲しいし。できれば心も折っておきたい。
「なぁ、斎藤。俺が取り調べしてみてもいいか?」
「どうぞ。……ですが、ずっと黙秘を続けています。腐っても公安ですし……。」
「わかった。まぁ、ちょっとお話ししてくるわ。」
ラムダはそう言い、取り調べに使われている一室に入った。
――20XX年12月10日 23時00分 都内某所 マンションの一室
ドアがノックされ、
「お疲れぃww今日は
「兄貴。どういたしまして。てか、逆に丁度良かったっす。」
「なー。いやぁー【ナンバー1】とその仲間が上手くやってくれて良かったわー。感謝感謝ww」
「てかさ、【ナンバー1】って兄貴と同業者なんじゃね?」
「だよなー。あいつ、絶対
「たりめーだろww聞かなかったことにするけどな。」
「おうおうwwありがとよww」
晴野と
時刻は遡って17時頃。
大半は昨日晴野がハッキングしたのと同じだった。
古い情報は緊急案件でまとめたものを流用し、新着情報だけを新たにまとめてあわせて提出した。
その新着情報がわりと面白くて、2人は大笑いしていたのだ。
西園寺社長も別班の指示に合わせて多少アクションを取っているようで、敵側は信じ込んでいるようだった。
……西園寺3兄妹、居るんだけどね。
ええ、皆さま非常に楽しそうにしてますとも。
あまりにも面白すぎたから
本物
はお陰様で楽しく過ごしていますが。皆さまありがとうございます。」と上品に微笑まれてしまった。ちなみに、雨宮はダイヤモンドアートにハマったらしく、4つめの作品製作に取り掛かっていた。完成させるスピードが異様に早かったので、この後作品の希望を聞き、新たに買い足しに行った。
面白そうだったからスクラッチアートも混ぜてみると、そっちもハマったようで、手を真っ黒にしながらもはや美術品のような作品を生産していた。……そんなにアーティスティックになるんだコレ!?
お嬢様は美的感覚が鋭かった。
雨宮から「兄様方にも敵の動向を教えたほうが良い」と助言を受けたため、彼らにも伝えてみたところ、2人揃って笑っていた。
次男には「そうですか。大変ですね。……まぁ、
本物
は皆様のおかげで突然の休暇を楽しんでいますけど。皆様ありがとうございます。」とコメントされた。長男は「ふふ……失礼。向こうではそんなことになっているのか。大変だね。皆様ありがとうございます。お陰様でのんびりできています。」とのコメントをいただいた。
ちなみに、お兄様方は個室でコーヒーを飲みながら優雅に読書をしていた。
忙しくて読めなかった本を読むことにしたらしい。本は午前中にリクエストを受けて、班員が本屋に赴き購入したものだ。
西園寺3兄妹はそれぞれが有意義な時間を過ごせているようだった。
精神が不安定になることなく過ごしてもらえるのは、非常にありがたい。
お陰様で
「さて。サインさん経由で回ってきた、R国スパイのパソコン内の情報を読むかぁー。」
ナンバー1~3は特捜関係者ではない外部の人間のため、それぞれの所属している側の
サインさんは自衛隊の人間で、コサインさんが警察の人間だ。
なので、警察関係者である【ナンバー1】こと公安0課のラムダは、いつもコサインさんを通して連絡を取っていた。
逆に自衛隊関係者である【ナンバー2】こと別班の
これが、ラムダと
「R国スパイのパソコンの件、ネフィリムと
「おいおい、今のお前の任務は雨宮たちを守ることだろ。よそ見すんな。……ただでさえお前は飽きっぽいんだから……。」
「……はぁーい。」
晴野はかなり不満げだ。
そう、晴野は
かなり飽きっぽい
のだ。判断基準は面白いか面白くないか。興味がなくなった時点で次に移ってしまう。
秘匿班のように【短期的にリーダーに置く】には運用次第でかなり高い効果を発揮するが、班自体の運営のように【長期的にリーダーに置く】と上司によっては安定しない――運用には
上司の実力が試される系の人材
だった。晴野はある意味、霧島以上の曲者だった。
マネジメント能力を見込んでオペレーターに選んだのはあながち間違いではない。だが、初手で晴野を【役立たず認定】してはいけなかったのだ。絶対に。
せめて、現在の
ただ、どうあがいても晴野は天道が御せる人材ではないため、安定している
「いいか?雨宮たちを守りきることは、全ての作戦成功につながるんだ。――【西園寺3兄妹が解放された】という状況になるまでしっかりと守り抜け。大事な仲間とその家族だろ。それに、この後は残りの裏切り者が控えているんだぞ。出たとこ勝負ではあるが、なるべく綺麗に片づけてから彼らを帰らせるべきだ。」
焔は、晴野の興味が続くように今後の動きを伝え、備えさせる。
それに今回は雨宮という、晴野が所属している班員が関わっている。
案件も班と関わりが深いし、地味でも仲間の為にもしっかり取り組んでもらえるはずだ。
要は本人のモチベーション次第だ。
「……分かってるよ。ちゃんとやる。」
伝わったのだろう、少し不貞腐れながらも動くことに決めたらしい。
「ならよろしい。よし、切り替えてやるぞ!」
もちろん、パソコンの操作の主導は焔が行った。
――20XX年12月10日 23時00分 都内某所 マンションの一室
ネフィリムたちは新着情報をまとめつつ、片っ端から翻訳にかけていた。
カップ飯を食べながら、黙々と作業を進める。
最初は中身をそのまま送っていた。
なにせパソコン2台分だ。
ハッキングでファイルのロックを外して、その中身をコピーして、新たに文章ファイルにまとめるので手いっぱいだった。
だが、量が膨大すぎて翻訳に当たる
霧島からも〔お疲れ様。現在
……やはり霧島も駆り出されているようだった。きっと徹夜組の仲間だな。
ネフィリムたちは分室に置いてあった別のパソコンの電源を入れ、情報が入ってくるパソコンとは別のマシンを補助的に使用することにした。
別のマシンにデータを送り、アプリの翻訳機能を使って翻訳したものを文章ファイルに貼り付けて、同じフォルダにまとめてからコサインさんに送ることにしたのだ。
ここが沢山パソコンが置いてある分室で良かった。
メモリ不足も、他のマシンに情報を移してしまえば何とかなる。
その後、恐らく本国のパソコンにも行きついてしまい、更にデータ量が増えていた。
お陰様で徹夜確定だった。
こちらも同じように、翻訳アプリを通したものを添付してから送信する。
本国には
バレないか冷や冷やするが、一応各国のサーバーを多数経由してこのパソコンに来るよう設定しているため、バレることは無いと願いたい。
この分室も秘匿されてるし。特捜とは関係無いってなっているし。私服で出入りしてるし!
コサインさんからは「出来る限り情報を取ってこい。これ以上は危険だと思ったらこちらで指示を出すから、その時はウイルスを遠隔で削除しろ。」と言われていた。
また、本国のファイルには時々トラップが仕掛けられており、
トラップのコードはテキストデータで保存しておき、後に3課にお土産として情報提供するつもりだ。とても研究しがいがあった。
R国本国のパソコン内部の資料に関しては、警察自衛隊官僚を問わず外国語が堪能な人間を総動員して解読に当たっているらしい。
割り振りは上司3名全員で行っている。文章タイトルを見て、各自で送り先を決めているようだった。
もはやお祭り騒ぎだった。
翻訳をかけていると、ひとつのデータに行きついた。
「ちょ――このデータって……天道!?」
「へ!?何が何が!?何でござるかヴォイド氏!?」
慌ててネフィリムが様子を見に来る。
そこにはR国スパイが自作していた公安の人物データが表示されており、その中の一つに天道らしき人物が映っていた。
R国スパイは常にスマホで周囲を撮影していると聞いたことがある。
その成果をまとめていたのだろう。
「……これは、警察系に転送してもらわないとね。」
「ですなぁ……。おうおう、かなりまとまっているようで……。」
翻訳にかけ、簡単に目を通し、コサインさんに送る。
その後こっそりと霧島に転送する。
「やっぱり、天道氏が狙われるのでは??」
「……僕もそう思うよ……。」
とりあえず、今すべきことはファイルを開いて、翻訳にかけたものと一緒のファイルにまとめて、コサインさんに送信すること。