スタンバイ (12月11日15:00~15:20)

文字数 5,749文字

――20XX年12月11日 15時00分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス

「――ん!?どちらさん!?」
天道(てんどう)が第二ロックドアから入室してきて、晴野(はれの)兄を見て驚いた。
天道は丁度トイレに行っていたのだ。

「あー、うちのリアル兄貴。」
「あ、はじめまして!!晴野(こいつ)の兄っす!!よろよろ!!」
「あ、どうもー。……って、兄!?血縁者!?いや、部外者が何でここに居んねん。――って、晴野、おま……車――って、雨宮(あまみや)も居るんか!!無事でよかった。いつ戻って来はったん!?いや――てか、車返せやゴラァ!!」

天道は晴野に対する怒りを出しつつ、雨宮に対する心配を挟んだ。
言葉が行き来してメチャクチャだった。

天道の言葉を聞き、(さくら)がはっとした表情になる。
何だ?

「あ、そう、車!天道さん、めっちゃいい車乗ってんすね!!あのフォルム!車体のシックな黒色!シートの質感!!エンジンの音!!いやぁ、めっちゃ素敵でしたわぁー!!俺もあんな車、日常的に乗りたいっすwwwめちゃくちゃかっけぇっすwwwww」
「え?わかるぅ??(あん)ちゃん、わかりますぅ??細部カスタムして、めっちゃ気に入ってんねん。高かったんねん……!」

天道と晴野兄――(ほむら)は車の話題で意気投合したようだ。
(ほむら)は天道の肩をばしばし叩いている。……陽キャ全開だった。

対して桜は急いでポケットをまさぐり、天道のいる方向へ手を差し出す。

「――桜?」

渦雷(からい)の声に天道が振り向く。
桜は手を差し出したままだ。

「あ゛?何や何や……。……手でも出しゃぁええんか??あー、はいはい。ほれ、これで文句ないか?」

天道が差し出した手のひらに、桜があるモノを置いた。


――天道の車のキーだった。


「ちょ!!!おま、何で俺の車の鍵……!?」
「あれ?聞いてないんですか?……ていうか、何でその子が持ってるのか不思議なんだけど……。俺、とある秘匿班(スカウト)の上司にDVDと一緒に渦雷(からい)君に渡すように頼まなかったっけ?」
「は!?」
「え!?俺!?DVDしか受け取っていませんが……。」

混乱していると、桜の解説が入る。

「……頭から、抜け落ちてた……。」
「え?」
「……あの人……ちょっと、天然……。忘れんぼう……公安なのに……。」
「……つまり、DVDと一緒に渡すつもりが、すっかり忘れていた、ということか?」
「……。」

こくこく。
桜は2回頷いた。

「……だから……代わりに……持ってきた、の……。」

黒沢さんはうっかりさんな一面があるようだ。
そして、桜が来た主な理由は、この車の鍵だったようだ。
……ソファで寝てたけど。

天道の瞳に怒りが宿る。
額に青筋が浮かんでいる。よっぽど大事な車だったらしい。

天道には、今後車の話題を振れば機嫌がよくなるかもしれないな。
覚えておこう。
……次回乗った時はシートの座り心地を褒めてみるか。


「へええ……どこのどいつや。後で(シメ)たる。」
「……あー。一応、返すときに洗車と、ガソリン満タンにしておいたんで!ピッカピッカにしておきましたぁ!車の場所は特捜(ここ)の上司用の駐車場、天道さんがいつも停めてるとこっすwwwwいやぁ、うちの妹が失礼しました!!あ、俺、(ほむら)って言います!よろしくお願いしまーすww」
「あ、はぁ……。どうも……?……何か、えっらいチャラい(あん)ちゃんどすなぁ……。」

天道は(ほむら)の陽気さ……もとい、チャラさに気圧されていた。
差し出されていた(ほむら)の手に、天道は手を重ね、謎に握手をする。
待ってこのお兄さん強い。天道を飲み込んでしまった。

しかも、天道にとって車が大事なことを見抜いて、アフターケアとしてガソリンだけでなく洗車までしてるって相当だな!?
このお兄さん、やっぱり只者ではない気がする。


「あ、よければどうぞ。差し入れでーす!!」

(ほむら)はそう言い、持っていた紙袋から豆大福、八つ橋、ラングドシャ、クランチチョコ、おかきを出して机の上に置いた。

……見事に統一感が無い。

苦手なものがあっても食べられるようにという配慮なのだろうか。
それとも単に面白い感じの人なのか……。

渦雷(からい)が思考していると、桜が呟いた。

「……30分。」
「え?」

桜のつぶやきに、一気に視線が集まる。
渦雷(からい)は聞き返した。

桜は渦雷(からい)のほうを向き、告げる。

「倉木……天笠(あまがさ)?……30分後……ここに来る。」

今は15時10分。
となると、40分にここに来るってことか!?
本当に?

「ぅえ……ごっめんそれマジ?」
「……。」

こくこく。
晴野の質問に対し、桜は無言で2回頷いた。


「君は――もしかして……。」
「……。」

こくこく。
(ほむら)の質問に対し、桜は無言で2回頷いた。

「――そうか。協力感謝する。」

(ほむら)は桜に頭を下げた。90度の礼だった。
桜は一瞥し、羊羹を食べ始めた。

(ほむら)は身体を起こし、班員を見回す。

「この班は全員居るか?――状況が最悪すぎる。説明RTA(リアルタイムアタック)させてくれ。」
禿同(はげどう)。うっし、やるかー。あ、ごめん、ネフィリムも関係者だから残ってもらえると助かるっすー。」

関係ないからこそ気をまわして出て行こうとしていたネフィリムが、驚いたように立ち止まる。

「拙者もでござるか。了解了解ww」

そう言い、東雲(しののめ)の横に戻った。
東雲の隣で、立ったまま話を聞くつもりらしい。

「……1人……仲間……呼んでおいたほうが…いい……。」

桜が発言する。

「説明お願いできるか?」
「……必要になる……。さっきまで……一緒に居た、男の子……が、いいかも……。」
「――ザックか。わかった、ありがとう。ここに呼ぶな?」
「……。」

こくこく。
(ほむら)の質問に対し、桜は無言で2回頷いた。

おや。どうやらお茶の残りの1つはザックの分らしかった。

と、いうことは。
倉木のお茶は用意されていないことになる。
つまり、「倉木には用はない」……そういうことなんだろう。
桜は結構辛辣だった。


(ほむら)は即座にザックに電話をかけた。
緊急案件(エマージェンシー)として招集するつもりらしい。


――緊急案件(エマージェンシー)!?晴野のお兄さんは特捜で班を持っているのか!?


晴野は兄が持つ秘匿班(スカウト)で活動していたということなのだろう。
ということは、今回の雨宮救助の緊急案件(エマージェンシー)を出した人でもある。
この人……本当に自衛隊の情報部隊所属か?経歴隠してないか!?
……実は別班なのでは……?

天道の表情が怪訝な面持ちに変わる。

天道は内ポケットからスマホを取り出し、外部と連絡を取ろうとする。
だが、晴野が動き――天道の


同時に臀部に入れていた



「――!!」

晴野はすぐさま2つのスマートフォンを霧島に投げる。
霧島は受け取り、晴野が出したハンドサインに戸惑いながらも、とりあえず自分のポケットにしまった。

「おえ!!何すんねん!!」
「霧島ー!!連絡取られたら終わりだから、渡さず逃げてクレメンス!!」
「はぁ!?何でや!

良えやろが!!」
「あ。それなら

使う??」

天道の反論を無視し、東雲(しののめ)はポケットから通信を遮断するポーチを取り出し、霧島に渡す。

「お。了解。入れとくわ。」

霧島は受け取り、素早くポーチに2台のスマートフォンをしまった。

「ちょ、ちょいちょいちょいちょい!?返せ!」

天道が霧島に近付き掴みかかろうとする。

その隙に(ほむら)が動き、天道のポケットからボイスレコーダーを回収する。
電源が切れていることを確認し、自分のポケットにしまった。
……流れるような動作で、どう見ても素人ではない。


霧島は嵐山にポーチを投げて渡す。
嵐山は受け取り、軽く微笑み――桜の膝の上にポーチを置いた。

桜ははっとして、嵐山の意図を汲み、サッと上着の中――お腹のあたりにポーチをしまった。


5課は「触れず(ノーインフォ)の5課」と言われている。
いくら向こうが悪いとはいえ、危害を加えたらこちら側が悪くなってしまう。
現時点では、桜は

だった。


絶望する天道。
気にせず、今度は(ほむら)が差し入れた豆大福を食べ始める桜。……あ、その豆大福食べれたのか。
というか、お茶足りるのだろうか……あ、雪平がお茶のおかわり注ぎに行った。自由だな。


天道は晴野に恨めしい視線を向ける。
天道を無視し、晴野は桜に問うた。

「君はどうするの?ここに居るの?」
「……お礼……もう少し、居る……。」

机の上に並ぶお菓子たちを指さし、晴野に告げる。
どうやらお菓子のお礼として、話に参加しながら情報提供をしてくれるつもりらしい。
(ほむら)が用意したお菓子にも手を付けたのは、焔にも情報を渡したかったからなのだろう。

「……わかった。他所(よそ)に漏らさないでね……?」
「……。」

こくこく。
晴野の質問に対し、桜は無言で2回頷いた。


嵐山と霧島は全員が座れるよう、デスクからキャスター付きの椅子をミーティングルームにいくつか持ってきた。
班員は各々が好きな位置に座り、(ほむら)の話を聞くのだった。



――20XX年12月11日 15時20分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス

(ほむら)――晴野兄が説明していると、オフィスにザックがやって来た。

渦雷(からい)はザックに会ったことがある。
リーダー会にて交流があった。

だが、他の班員はそうではないようで、話を聞きながら疑問の視線を向けていた。

桜がザックを見て、お茶を指さした。
ザックはお茶を手に取り、空いていた椅子に座って一口飲んだ。

やはり、最後の1つのお茶はザックの分だったようだ。

(ほむら)の説明が終わり、質問タイムに入る。
最初に口を開いたのは天道だった。

「えーと、俺がこの班で聞いとったんはな…?ご家庭の事情で狙われた雨宮を、晴野が俺の車で奪還して、拉致は阿久津の一件で関わっていたテロリストとR国スパイの犯行の可能性が高いとか??そして、雨宮の拉致が成功するよう動いた敵さんも()って、上は一切信用できひんし、情報漏洩の可能性もあって次は俺が攫われて、その後は班員って聞いとったんやけど?」

「大まかには合ってるよんww」
「ただ、更にややこしくなっただけっす!」
「そういう問題やないやろがぁ!!」

(ほむら)、晴野の意見に天道は吠えた。

「……天道ウルサイ。耳が痛いよ。ボリューム抑えて。」

東雲(しののめ)は耳を押さえ訴える。

「こんなん、無理や!!状況がおかしいさかい!!」

どうやら天道のキャパを超えたらしい。
雪平の件もあり疲れていたのもあるのだろうが。

「大体、何でR国スパイのパソコンをハッキングしてんねん!!しかもあちらさんの本国まで!!かなり危ない橋渡っとるやん!!?」
「うぇーいwwwFooooo!!!!」
「天道ウルサイ。いえーいwww緊急案件(エマージェンシー)してたらなんか釣れたww草不可避だったよww」
「僕も2時間睡眠で翻訳頑張ってきたわ。」

霧島は緊急案件(アージェント)で呼び出されていた。
翻訳関係の秘匿班(スカウト)で、R国語のビジネス文章の翻訳に当たっていたのだ。

「呼び出されたと思っていたら、そっちも繋がっとったんかい!!?」
「あ、寝れたんだ。僕たちは徹夜だよ。」
「うわ、まじか。お疲れ様。」

天道の発言を完全無視(スルー)し、霧島はハッカー2名を労った。

「あ、そだ。裏切り者がアレクセイに送ろうとしていたデータの中に、天道の個人データがあったから、超~適当に本名の欄を【三橋権三郎(みつはしごんざぶろう)】って書き換えといたよ。よっ!権三郎!!まぁ、他の人の分も超適当に書き換えてるけどねw」

思い出したかのような晴野の発言に、天道は反応した。

「ダッサ!!ふっるぅ!!もっとマシなのにせぇ!!!しばくぞドアホ!!」
「うわ、パワハラ。」

天道の暴言を聞いた東雲がジト目になる。

「え?田中ヨシュア4世の方が良かった?」
「ざっけんなボケ!!嘘くさすぎるやろが!」

(ほむら)が補足を入れる。

「いや、関西弁使用圏なら【しばくぞ】はセーフ。とってもカジュアルな冗談交じりの脅しの意味。【しばいたろか!】【どつきまわすぞ!】は完全にアウトだが。」
「文化の差ww兄貴詳しいwwwどちみちガチ本名っぽいのが漏れるより良いだろww」
「……ちなみに、何て書かれとったん?」
「え?それは――」

晴野は天道に耳打ちする。
天道は苦虫を100匹ほど嚙み潰した顔になり、舌打ちする。

「忘れろ。……ええな?忘れろ!!今すぐに!!」
「草ww感謝しろよww」
「ありがとうございましたぁ。どうもぉ、三橋権三郎(みつはしごんざぶろう)どすぅ……。はぁ。」

天道はため息をつき、雨宮に向き直った。

「てか、なんで雨宮、本当に無事に助かってんねん!!信じられへんって……!」

天道はいまだに信じられないという様に言った。
その発言を受け、場に居た人間がピリつく。

「まぁ、失礼な。(わたくし)に死んでほしかったと言いたいんですの?

?」
「うっわ、クソ天道(ごんざぶろう)本性表したな!?」
「えー……天道(ごんざぶろう)さん、それは無いっすよ……。一生懸命守ったのにぃ。」

天道は反論した。

「んなわけあるかい!!心配しとったわ!!晴野の実力的に疑問やったから、裏で手ぇ回して捜索させとったんや!!捕まっとるって噂もあったし!!せやから

入れよう思ったらスマホ奪われるし!?てか権三郎やめぇ!!」
「www兄貴の仲間の偽情報にまんまと踊らされてんの草www」
「ああ゛!?」

晴野が大爆笑し、天道がキレた。

「いやぁ、裏切り者に向けた情報だったんっすけど、天道さんが乗っかってくれて、さらに現実味出たからめっちゃ助かりましたwwあざっした!!でも、ご覧の通り雨宮ちゃん無事っすwwねー!雨宮ちゃん!!」

(ほむら)は雨宮のほうに向き、笑顔を向けた。

「ええ。お陰様で無事でしたわ。皆さま、本当にありがとうございました。」
「どーいたしましてw後でクソ天道ぶん殴ろうぜ!!」
「いえいえ~wwただ、事が動くのは今晩の予定なんで!まだ誰にも言わないで!解除しないでクレメンスww今晩の仕掛けが壊れちゃう!!」
「……(あん)ちゃん、あんさん、ホンマ……いや、はぁ……。黙っとればええんやな?」
「うぃすwwあざーっすww」
「……はぁ。」

天道はまた苦虫をかみつぶしたような表情でため息をついた。

「それに、金銭の動きからめっちゃ大事になっとるって言われても……。」
「ま、それはおいおいですね。今はヤバいってことだけ知っておいてくださいww」

そうこう話していると、桜が食べていたお菓子をテーブルに置いた。

「――来る。」

桜は手を止め発言した。
晴野の方を向き、告げる。

「……準備は、いい?……

。」
「おっけ。ありがと頑張るよ。」
「……。」

こくこく。
桜が2回頷いた。

そして――第一ロックの開錠音と複数の足音が、室内に響いた。

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登場人物紹介

本編主人公の渦雷(からい)です。

1課2係7班のリーダーです。

皆さまどうぞよろしくお願いいたします。


雪平、すまないがこの書類も頼む。総務から雪平宛だ。

1課2係7班、サブリーダーの霧島(きりしま)です!

よろしくな!


あ、雪平!

僕、1時間後に用事で出るから、総務の書類終わったらついでに持って行ってやるよ!

あ、ども!晴野(はれの)っすー!

1課2係7班でオペレーターやってるよー!

よろよろ!!


って、ちょ……ゆっきー(雪平)!!!?無事かー!!?

皆さま初めまして。

1課2係7班の雪平(ゆきひら)です。

事件が無い時は、事務や情報整理、書類整理をメインにしています。

共感覚を持っていて、僕の場合は【色】が見えます。

どうぞよろしくお願い致します。


さて、この書類を…あっ!

(バッサー。書類を床に雪崩のように落とす。)

――うわあああぁ!すみませんんん!!

皆さまごきげんよう。

1課2係7班、雨宮(あまみや)ですわ。


雪平、こちらに来た書類はまとめましたわよ。

1課2係7班、嵐山(あらしやま)よ。

よろしく。


雪平。こっちが処理済、こっちが未処理のものよ。

量もあるし、天道に返す分は空きデスクに積んでおくわね。

1課2係7班、情報班員の東雲(しののめ)だよ。

基本、引きこもっているけど…よろしく。


あれ。ネフィリムからチャット入ってる…。

…了解。〔また出たヤバ案件ww面白そうだし、緊急案件RTA参加するので詳細キボンヌw〕…っと。

いつもネフィリム達には手伝ってもらってるしね。

――さて、頑張りますか。

あ、どうも。公安部外事課、天道(てんどう)どす。

警視庁に勤務しながら、青少年特殊捜査本部の1課2係7班の上司をさせてもらっとりますぅ。

ホンマは古巣に戻るか、1課1係に行きたいんやけど…まぁ、よろしゅう頼んます。

警視庁の阿久津(あくつ)だ。

天道の上司だ。どうぞよろしく。

警視庁公安部所属の天笠(あまがさ)です。

1話のエピローグから本編に関わらせていただきます。

読者、そして1課2係7班の皆さん、どうぞよろしくお願いします。

うぽつwww

拙者はネフィリム!

3課1係4班のリーダーでござるwww

いやぁ、何卒どうぞどうぞよろしくでござるww

あ。上から緊急案件RTA入ったんで離脱シャース!ノシ

ホント人使い荒いwwブフォww

者ども!!調査(ハッキング)と工作(クラッキング)の時間ですぞ!!各自開始オナシャス!!

警視庁公安部内事課の斎藤だ。

…一応名乗ったが…俺の自己紹介、本当に必要か??

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