スタンバイ (12月11日15:00~15:20)
文字数 5,749文字
「――ん!?どちらさん!?」
天道は丁度トイレに行っていたのだ。
「あー、うちのリアル兄貴。」
「あ、はじめまして!!
「あ、どうもー。……って、兄!?血縁者!?いや、部外者が何でここに居んねん。――って、晴野、おま……車――って、
天道は晴野に対する怒りを出しつつ、雨宮に対する心配を挟んだ。
言葉が行き来してメチャクチャだった。
天道の言葉を聞き、
何だ?
「あ、そう、車!天道さん、めっちゃいい車乗ってんすね!!あのフォルム!車体のシックな黒色!シートの質感!!エンジンの音!!いやぁ、めっちゃ素敵でしたわぁー!!俺もあんな車、日常的に乗りたいっすwwwめちゃくちゃかっけぇっすwwwww」
「え?わかるぅ??
天道と晴野兄――
対して桜は急いでポケットをまさぐり、天道のいる方向へ手を差し出す。
「――桜?」
桜は手を差し出したままだ。
「あ゛?何や何や……。……手でも出しゃぁええんか??あー、はいはい。ほれ、これで文句ないか?」
天道が差し出した手のひらに、桜があるモノを置いた。
――天道の車のキーだった。
「ちょ!!!おま、何で俺の車の鍵……!?」
「あれ?聞いてないんですか?……ていうか、何でその子が持ってるのか不思議なんだけど……。俺、とある
「は!?」
「え!?俺!?DVDしか受け取っていませんが……。」
混乱していると、桜の解説が入る。
「……頭から、抜け落ちてた……。」
「え?」
「……あの人……ちょっと、天然……。忘れんぼう……公安なのに……。」
「……つまり、DVDと一緒に渡すつもりが、すっかり忘れていた、ということか?」
「……。」
こくこく。
桜は2回頷いた。
「……だから……代わりに……持ってきた、の……。」
黒沢さんはうっかりさんな一面があるようだ。
そして、桜が来た主な理由は、この車の鍵だったようだ。
……ソファで寝てたけど。
天道の瞳に怒りが宿る。
額に青筋が浮かんでいる。よっぽど大事な車だったらしい。
天道には、今後車の話題を振れば機嫌がよくなるかもしれないな。
覚えておこう。
……次回乗った時はシートの座り心地を褒めてみるか。
「へええ……どこのどいつや。後で
「……あー。一応、返すときに洗車と、ガソリン満タンにしておいたんで!ピッカピッカにしておきましたぁ!車の場所は
「あ、はぁ……。どうも……?……何か、えっらいチャラい
天道は
差し出されていた
待ってこのお兄さん強い。天道を飲み込んでしまった。
しかも、天道にとって車が大事なことを見抜いて、アフターケアとしてガソリンだけでなく洗車までしてるって相当だな!?
このお兄さん、やっぱり只者ではない気がする。
「あ、よければどうぞ。差し入れでーす!!」
……見事に統一感が無い。
苦手なものがあっても食べられるようにという配慮なのだろうか。
それとも単に面白い感じの人なのか……。
「……30分。」
「え?」
桜のつぶやきに、一気に視線が集まる。
桜は
「倉木……
今は15時10分。
となると、40分にここに来るってことか!?
本当に?
「ぅえ……ごっめんそれマジ?」
「……。」
こくこく。
晴野の質問に対し、桜は無言で2回頷いた。
「君は――もしかして……。」
「……。」
こくこく。
「――そうか。協力感謝する。」
桜は一瞥し、羊羹を食べ始めた。
「この班は全員居るか?――状況が最悪すぎる。説明
「
関係ないからこそ気をまわして出て行こうとしていたネフィリムが、驚いたように立ち止まる。
「拙者もでござるか。了解了解ww」
そう言い、
東雲の隣で、立ったまま話を聞くつもりらしい。
「……1人……仲間……呼んでおいたほうが…いい……。」
桜が発言する。
「説明お願いできるか?」
「……必要になる……。さっきまで……一緒に居た、男の子……が、いいかも……。」
「――ザックか。わかった、ありがとう。ここに呼ぶな?」
「……。」
こくこく。
おや。どうやらお茶の残りの1つはザックの分らしかった。
と、いうことは。
倉木のお茶は用意されていないことになる。
つまり、「倉木には用はない」……そういうことなんだろう。
桜は結構辛辣だった。
――
晴野は兄が持つ
ということは、今回の雨宮救助の
この人……本当に自衛隊の情報部隊所属か?経歴隠してないか!?
……実は別班なのでは……?
天道の表情が怪訝な面持ちに変わる。
天道は内ポケットからスマホを取り出し、外部と連絡を取ろうとする。
だが、晴野が動き――天道の
スマホを奪い取った
。同時に臀部に入れていた
プライベート用のスマートフォンも奪う
。「――!!」
晴野はすぐさま2つのスマートフォンを霧島に投げる。
霧島は受け取り、晴野が出したハンドサインに戸惑いながらも、とりあえず自分のポケットにしまった。
「おえ!!何すんねん!!」
「霧島ー!!連絡取られたら終わりだから、渡さず逃げてクレメンス!!」
「はぁ!?何でや!
連絡くらい
良えやろが!!」「あ。それなら
これ
使う??」天道の反論を無視し、
「お。了解。入れとくわ。」
霧島は受け取り、素早くポーチに2台のスマートフォンをしまった。
「ちょ、ちょいちょいちょいちょい!?返せ!」
天道が霧島に近付き掴みかかろうとする。
その隙に
電源が切れていることを確認し、自分のポケットにしまった。
……流れるような動作で、どう見ても素人ではない。
霧島は嵐山にポーチを投げて渡す。
嵐山は受け取り、軽く微笑み――桜の膝の上にポーチを置いた。
桜ははっとして、嵐山の意図を汲み、サッと上着の中――お腹のあたりにポーチをしまった。
5課は「
いくら向こうが悪いとはいえ、危害を加えたらこちら側が悪くなってしまう。
現時点では、桜は
一番安全な保管場所
だった。絶望する天道。
気にせず、今度は
というか、お茶足りるのだろうか……あ、雪平がお茶のおかわり注ぎに行った。自由だな。
天道は晴野に恨めしい視線を向ける。
天道を無視し、晴野は桜に問うた。
「君はどうするの?ここに居るの?」
「……お礼……もう少し、居る……。」
机の上に並ぶお菓子たちを指さし、晴野に告げる。
どうやらお菓子のお礼として、話に参加しながら情報提供をしてくれるつもりらしい。
「……わかった。
「……。」
こくこく。
晴野の質問に対し、桜は無言で2回頷いた。
嵐山と霧島は全員が座れるよう、デスクからキャスター付きの椅子をミーティングルームにいくつか持ってきた。
班員は各々が好きな位置に座り、
――20XX年12月11日 15時20分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス
リーダー会にて交流があった。
だが、他の班員はそうではないようで、話を聞きながら疑問の視線を向けていた。
桜がザックを見て、お茶を指さした。
ザックはお茶を手に取り、空いていた椅子に座って一口飲んだ。
やはり、最後の1つのお茶はザックの分だったようだ。
最初に口を開いたのは天道だった。
「えーと、俺がこの班で聞いとったんはな…?ご家庭の事情で狙われた雨宮を、晴野が俺の車で奪還して、拉致は阿久津の一件で関わっていたテロリストとR国スパイの犯行の可能性が高いとか??そして、雨宮の拉致が成功するよう動いた敵さんも
「大まかには合ってるよんww」
「ただ、更にややこしくなっただけっす!」
「そういう問題やないやろがぁ!!」
「……天道ウルサイ。耳が痛いよ。ボリューム抑えて。」
「こんなん、無理や!!状況がおかしいさかい!!」
どうやら天道のキャパを超えたらしい。
雪平の件もあり疲れていたのもあるのだろうが。
「大体、何でR国スパイのパソコンをハッキングしてんねん!!しかもあちらさんの本国まで!!かなり危ない橋渡っとるやん!!?」
「うぇーいwwwFooooo!!!!」
「天道ウルサイ。いえーいwww
「僕も2時間睡眠で翻訳頑張ってきたわ。」
霧島は
翻訳関係の
「呼び出されたと思っていたら、そっちも繋がっとったんかい!!?」
「あ、寝れたんだ。僕たちは徹夜だよ。」
「うわ、まじか。お疲れ様。」
天道の発言を完全
「あ、そだ。裏切り者がアレクセイに送ろうとしていたデータの中に、天道の個人データがあったから、超~適当に本名の欄を【
思い出したかのような晴野の発言に、天道は反応した。
「ダッサ!!ふっるぅ!!もっとマシなのにせぇ!!!しばくぞドアホ!!」
「うわ、パワハラ。」
天道の暴言を聞いた東雲がジト目になる。
「え?田中ヨシュア4世の方が良かった?」
「ざっけんなボケ!!嘘くさすぎるやろが!」
「いや、関西弁使用圏なら【しばくぞ】はセーフ。とってもカジュアルな冗談交じりの脅しの意味。【しばいたろか!】【どつきまわすぞ!】は完全にアウトだが。」
「文化の差ww兄貴詳しいwwwどちみちガチ本名っぽいのが漏れるより良いだろww」
「……ちなみに、何て書かれとったん?」
「え?それは――」
晴野は天道に耳打ちする。
天道は苦虫を100匹ほど嚙み潰した顔になり、舌打ちする。
「忘れろ。……ええな?忘れろ!!今すぐに!!」
「草ww感謝しろよww」
「ありがとうございましたぁ。どうもぉ、
天道はため息をつき、雨宮に向き直った。
「てか、なんで雨宮、本当に無事に助かってんねん!!信じられへんって……!」
天道はいまだに信じられないという様に言った。
その発言を受け、場に居た人間がピリつく。
「まぁ、失礼な。
権三郎
?」「うっわ、
「えー……
天道は反論した。
「んなわけあるかい!!心配しとったわ!!晴野の実力的に疑問やったから、裏で手ぇ回して捜索させとったんや!!捕まっとるって噂もあったし!!せやから
無事の連絡
入れよう思ったらスマホ奪われるし!?てか権三郎やめぇ!!」「www兄貴の仲間の偽情報にまんまと踊らされてんの草www」
「ああ゛!?」
晴野が大爆笑し、天道がキレた。
「いやぁ、裏切り者に向けた情報だったんっすけど、天道さんが乗っかってくれて、さらに現実味出たからめっちゃ助かりましたwwあざっした!!でも、ご覧の通り雨宮ちゃん無事っすwwねー!雨宮ちゃん!!」
「ええ。お陰様で無事でしたわ。皆さま、本当にありがとうございました。」
「どーいたしましてw後でクソ天道ぶん殴ろうぜ!!」
「いえいえ~wwただ、事が動くのは今晩の予定なんで!まだ誰にも言わないで!解除しないでクレメンスww今晩の仕掛けが壊れちゃう!!」
「……
「うぃすwwあざーっすww」
「……はぁ。」
天道はまた苦虫をかみつぶしたような表情でため息をついた。
「それに、金銭の動きからめっちゃ大事になっとるって言われても……。」
「ま、それはおいおいですね。今はヤバいってことだけ知っておいてくださいww」
そうこう話していると、桜が食べていたお菓子をテーブルに置いた。
「――来る。」
桜は手を止め発言した。
晴野の方を向き、告げる。
「……準備は、いい?……
頑張って
。」「おっけ。ありがと頑張るよ。」
「……。」
こくこく。
桜が2回頷いた。
そして――第一ロックの開錠音と複数の足音が、室内に響いた。