回収担当は (12月11日15:40~16:00)
文字数 5,456文字
都心から外れた寂れた一軒家にて裏切り者の取り調べは継続中だが、食事などを買い足しに行かねばならない。
また、警視庁にも寄る用があったため、都心の道路を運転中だ。
助手席には先輩であるラムダが乗っていて、窓の外を眺めている。
すると、ラムダのスマートフォンが鳴った。
ラムダがスマートフォンの画面を見る。
おや?
ポップアップウィンドウには〔カラス127応援ヨロ〕と表示されている。
「斎藤!悪いが特捜に向かってくれ。1課2係7班で何かあったらしい。」
「え!?わかりました。恐らく20分ほどで着くかと。」
「サンキュー!」
ラムダは【ナンバー2】に返信を打とうとメッセージアプリを開いて
今までこんなことは無かった。
危機的状況に陥っている可能性が高い。
ラムダは通話をオンし、こちらの音声が入らないよう、マイクをミュートした。
ハンズフリーにし、音量を上げる。
《――……
聞こえてきたのは倉木の声だった。
「ん?これ、倉木さんの声??」
全然危機的な感じしないけどなぁ!?手が当たっただけか!?ドジっ子か!?
……まぁ、聞くけどさ。情報欲しいし。
「は!?晴野が帰ってきているだと!?」
「え!?なんかあったの!?」
ラムダは驚きつつ聞き返す。
斎藤が補足を入れる。
「1課2係7班オペレーターである晴野は、3日前に行方不明になっていたんです。
斎藤は安心し、混乱した。
何でこの班、次から次へと問題に巻き込まれるんだ……?
やっぱり上司が原因か?可哀想に。
「……てことは、晴野の緊急案件は雨宮の拉致に関わりがあるってことだよなー……。あ。」
ははーん。なるほど。
【ナンバー2】が上司で【ナンバー7】が部下――つまり、1課2係7班オペレーターの晴野だったってことか。
【ナンバー2】は雨宮の保護をしていると言っていた。
だからこっちに連絡が来てんのか?
ん?
だったら何で〔カラス127応援ヨロ〕って書かれている?
倉木も怪しい人物だが、【ナンバー2】が俺に頼んだ「仕事」って、裏切り者の捕縛だよな?
つまり――誰か知らんが、新たな裏切り者が1課2係7班オフィス内に居るから、緊急で来てくれってことだよな!?
やっべー。今縄持ってねぇ。ガムテあったかな。
……あ、いや手錠があるか。正攻法で行けたわ。
だが、一体いくつ必要になるんだか。
《ぐっ……放せ!体重をかけるな!!というか、お前は何者だ!?》
《は?なぜ私の腕を掴むんだ??……放してくれないか。》
アンノウンと倉木の会話だなぁ。
アンノウンが【知らない】ってことは、押さえている?のは【ナンバー2】の可能性が高いか?
恐らく裏切り者を動けなくしているらしい。
《これ――この宛先、
R国スパイのアレクセイ
じゃないか!!》「は――!?……この声、サブリーダーの
「おいおいおいおい……かなり大物引いた感じか!?メチャクチャだな。」
《――は??この宛先が、R国スパイ……??このアカウントは
新田さん
だ。俺は断じてスパイではない。言いがかりはやめてくれ!!》《へぇー?新田ねぇ……?送り先、
《そうだ。内事課の新田さんだ。俺は裏切り者――内通者なんかじゃない!》
あ、だめだこりゃ。
これ、マジで俺らで貰っていかないと。横取りされたらカオスになる。
【ナンバー2】連絡ありがとう。助かるわぁ。この後会えるかな。
「マジか……あと10分くらいで到着予定です。赤ランプないので極力急ぎます。」
「助かる。よろしく。」
《えぇー?お前も一緒に
「まじかよ大物引いてんな!?いや、大物に付随する小物かもだが……。」
「……信号無視したい……。タイムロス嫌だ……。クッソ、パトカー乗りたい……。」
現在、赤信号に引っかかっていた。
秘匿車両なので、覆面パトカーみたいに赤ランプはついていないのだ。
斎藤がへこむ。
「あー……。多分、
知り合い
が俺らの到着まで引き留めてくれると思うから、道交法は守ろうな。……逆に捕まってタイムロスになるから。」「……はい。」
ラムダは後輩のメンケアをしつつ、通話に耳を傾ける。
《お!さすが
《アホか。人目につくところで、しかもカメラがあるところで使おうとすんな!庇いきれないだろ。――雨宮ちゃんも、気持ちわかるけど主犯じゃないし、勘弁な?》
《態度がちげぇ……。
クソ兄貴
……。》《保護対象を傷つけるわけにはいかねぇだろうが。》
「ん!?兄妹……!?」
これには斎藤もラムダも驚いた。
へー。【ナンバー2】には妹がいるんだ。
んで、その妹が【ナンバー7】なんだ。ふーん。おもしれー。
てか、何か1課2係7班ってかなりわちゃわちゃしてない??
人数多くね??
お、もうそろそろ到着かな。
ハンズフリーを切ろうとしたその時。
《……あのな?あんさん
自衛隊
やろ??――置いていきぃ
?》《えー……
俺も興味あるんだけど
。なにせ、かわいい「ちょっと待て。天道に渡すんじゃない!!」
「アイツに渡したら余計にカオスになるだろが!?おいやめろ!!【ナンバー2】!!」
「先輩走りますか!?」
「玄関前停めて!もうダッシュで行くわ!!」
ラムダはハンズフリーを切り、スマートフォンを手に持つ。
斎藤は特捜の玄関前で車を止め、ラムダを降ろす。
ラムダは急いで車を降り、カードキーで建物内部に入っていった。
階段のほうが早いと思ったので、階段を駆けあがる。
耳に当てたスマートフォンから1課2係7班オフィスの音声が聞こえる。
《カレーの差し入れありがと。……美味しかったです。》
《……へ?差し入れ?前々から関わりあったん??――てか、簡単に情報渡そうとすなやゴラ。コイツ
部外者
やぞ。》《それは良かった。また手が空いたら何か持ってくるわー!
《ども。これからもよろしくおねがいします。》
《拙者も礼を言いたいでござるー!!
なるほど、お前らが【ナンバー5】と【ナンバー6】ね!!
俺もまた別の機会に差し入れ持って行ってやんよ!!
――20XX年12月11日 16時00分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス
「さぁて、
コイツ
どうしてくれようかのぉ……。」天道はそう言い、お付きの人の胸ぐらをつかむ。
「本当に……彼が関わっているのか……?本当に……!?」
しつこいぞ、倉木。
どうやら親しい部下が関わっていることを認められない様子だ。
2人の間には何かあるのだろうか。
天道も倉木に氷のような視線を向けている。
すると、第二ロックドアが開錠され、1人の男が入室してきた。
あれ?なんか、少し息が上がっているような……?
「やぁ、連絡ありがとう。引き取りに来たよ。」
息が少し上がっていようと、さらっと軽やかに告げてきた。
「あ、あちらでーすwwついでに倉木もオナシャースwww」
「かっるwwww」
《待ってお兄さん扱い軽いwwwウケるwwww》
《倉木まで引き取らせるとか最高ですなぁw草ぁーーーーwwwwww》
「いやぁ、来てくれて嬉しいわ!はじめましてー!」
「こちらこそ呼んでくれてありがとう。はじめましてー!」
ハッカー同窓会な3人の爆笑を華麗にスルーして、
握手をしていた。
――ん!?
初対面
!!??《まwwさwwかwwのww初ww対ww面ww》
「へ!?兄貴、知り合いじゃねぇの!?え!?どゆこと!!?どっからそのお兄さん引っ張ってきたんだ!?やめろ陽キャ全開で
ネフィリムが笑い死に、晴野が保護者のようにツッコむ。
「えー?対面でははじめましてだけど、その他ではやり取りあるから迷惑はかけてないよんww」
晴野は顔を引きつらせながら、男に向き合う。
「兄貴、本当だろうな……!?……あー。はじめまして。1課2係7班オペレーターの晴野です。いつもうちのリアル兄貴が、大変非常にお世話になっております。」
「改めましてー。
自衛隊情報本部
の晴野は自己紹介後、お辞儀した。
晴野は
身長差で頭まで上手く手が届かないから背中なのだろう。……まるで保護者だ。
「あぁ。これはどうもご丁寧に……。警視庁
サイバー犯罪対策課
の者です。ラムダって呼んでね。他のみんなもよろしく!」男――ラムダは笑顔で自己紹介した。
……いや、何でサイバー犯罪対策課がここに来てるんだ?
来るべきは公安だろ。
すると、第二ロックドアが開錠され、今度は斎藤さんが入室してきた。
「
先輩
……。間に合い、ました、か!?……あ、お疲れさま、です。」走ってきたのか?かなり息が上がっている。
大丈夫だろうか。
というか、ラムダさんの所属、絶対嘘だろ。
多分、ラムダさん公安だろ。斎藤さんに先輩って言われてたし。
天道はラムダさんに何か言いたげなジト目を向けている。
ラムダさんは天道を無視し、斎藤さんに答える。
「あ、回収はこれからだ。縛るぞー。」
「ハイ。」
ラムダと斎藤は手錠を出し、それぞれお付きの人と倉木に手錠をかける。
「ん!?
私も
かね!?」《総務から情報貰ってたんでしょ?総務の子は上司命令で連絡だったみたいだけど、今のところ横流しするために情報提供させていた線が濃厚じゃん??しかも、部下がこんなに関わっているのに無実なんてあり得ないでしょ。》
《本当に関わっていなかったとしても、万が一のことがありますしおすし??どこまで倉木さんの持っていた情報が敵に流れているかわかりませんからなぁ……。まぁ、大人しく取り調べられてクレメンスwwww》
「
倉木は戸惑う。
だが、
《あれ?スマホどうしよう。今2台とも解析しちゃてる途中だ……。》
「倉木のスマートフォンはここにあるが……。」
「お、サンキュー。倉木のは俺がやるわ。できるし。んで、このお付きの人?のは後でデータちょうだい!なる早で。」
《りょ。現在進行形でまとめてるよ。》
《ガッテン承知の助www》
《ありゃ?どこに送ったらいいんでござるか??メアドか何か教えてクレメンス。》
「――まさか、ラムダさんって【ナンバー1】……!?あ。」
《えっ!?》
《ファッ!?》
晴野のつぶやきに
晴野はしまった!という表情だ。
対して
「こらー。知らないフリするのも礼儀だぞー?……
合ってる
けど。」「あっはっはww連絡ありがとな【
ナンバー2
】。俺も今度なんか差し入れ持ってくるわ!」ラムダも笑いながら
「んえっ!?マジで!!?ど、ども【ナンバー7】っす……。」
《ええっ!?噓でしょ!?僕【ナンバー6】だけど!?》
《ファーーッ!?マジっすかぁ!?ちなみに拙者は【ナンバー5】ですがなww》
どうやら
そういえば、
ラムダも
「え待って会いたい会いたい!!」
ラムダが姿の見えない2人の顔が見たいと主張する。
すると――
カララ。
資料室のドアが開き、ネフィリムと
「どうもー!!3課1係4班リーダーのネフィリムでござるーwwwいつも大変お世話になってますぞwww」
「ども。1課2係7班の
「お。ラムダだ。よろしくな―!!」
3人は笑顔で手を振っている。
ラムダは
あえて所属を言わなかった
。……つまり、そういうことなのだろう。
斎藤は死んだ目でラムダを見る。
「先輩、
何者
ですか……?」「んー?秘密☆」
ラムダは斎藤に振り向き、人差し指を立ててウインクをした。
斎藤の表情は死んでいた。
薄々気付いてはいるようだが、これ以上触れる気はないようだった。
しゃがみ込み、声を押さえながら震えていた。
オッサンの内緒ポーズとウインクが笑いのツボに刺さったのだろうか。
死んだ目をした晴野は、笑いまくる焔の頭をはたいた。
……平和だなぁ……。
そんな