重なった緊急案件 (12月9日8:10~11:50)
文字数 6,370文字
今日から雨宮は学校でテスト期間だ。
テスト自体は午前中で終わるため、12時10分ごろに迎えの車が学校前に手配されるようになっていた。
「それでは、皆さま行ってきます。」
「いてらー…あ、
「失礼ー。これでよし。後ろの衿がちょい曲がってた!頑張ってねー!」
「あら。晴野、ありがとうございます。お守りと一緒に頑張りますわね。」
他の班員も「行ってらっしゃい、頑張って。」と雨宮を送り出した。
雨宮は班員に礼を言い、公安の人の車で学校に向かった。
ただ、ここで疑問に思うことがある。
俺にはそうは見えなかったが、雨宮の衿は
本当に曲がっていたのだろうか
。ここ数日の晴野の行動に、いくつか怪しい点がある。
そして、それらが
全て雨宮に関係していた
。今回、晴野は雨宮にやたらと絡むのだ。
暴露大会以降仲良くなったとも取れるが、実習後のタイミングで神社に行くのも少し妙だった。安全確保のために、本来なら公安が止めるはず。
班の仲間だし、
だが…少しだけ晴野の様子を窺っていようと思った
――20XX年12月9日 11時20分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス
時刻はお昼前。
現在オフィスに居るのは4名だ。
雨宮は学校で
呼び出されたついでに、
むしろオフィスから出られない分、気分転換と情報収集に役立っていた。
前回もそうだったが、敵味方の区別がしづらい状態のため、いろんな場所で情報を集めてきてもらえるのは正直助かっていた。
昼食の準備をしていると、
――なぜ天道さんが居るんだろうか?
天道は9時からのミーティングに顔をだした後、特捜の地下で射撃の自主練をしていたはず。
そのあと警視庁に戻ると聞いていたが、1時間半も撃っていたのだろうか?
「晴野。来い。」
「は?何なん?朝言った通り、仕事あるんすけど。」
晴野はキーボードを叩きながら、天道に言葉を返した。
今の
晴野の返し方はかなりキツイ。晴野はピリピリしていたが、朝のミーティングにて前もって宣言していた。
「あ、お昼前後は絶対に私に関わらないでー!私、
この言葉は天道も聞いていたはずだ。なのに、
わざわざ昼前に晴野を呼びに来た
。どういうことなのだろう。
天道はため息をつきながら晴野に近づく。
天道が晴野のデスクの横に立つと、晴野は顔を上げ、露骨に嫌な顔をした。
「え、やだ行きたくねぇ。独りで行ってマジで。知らねぇよ。」
「アホか。動け、呼び出しや。」
「行かねぇ。動かねぇ。やることある。私は――」
「上司命令やぞ。出頭せぇ。」
散々である。
――待て。おかしくないか?
上司命令での出頭の場合、通常はリーダーである
だが、天道はどうしても晴野を連れていきたいようだった。
互いに引き下がらない。
一触即発の空気の中、
《ちょっと待って。晴野は朝、
「――上司命令や。誰か知らんけど、後で上通して
「……横暴だろ。さすがに。…天道さん、班のことなら僕でも良いはず――」
「黙れ。いらへん。」
霧島が代役の提案をするが、即座に退けられた。
それならば、と
班のリーダーである
班員は顔を見合わせる。恐らく、
《……必要なのがオペレーターか情報班員なら、僕、頑張る……よ…?》
「晴野を指名や。邪魔すんなうっとうしい。それに、あんさんは上と会話出来ひんやろが!」
また、後半の指摘はごもっともだった。東雲は慣れている人以外とコミュニケーションを取ることができない。東雲は大人しく引き下がった。
今回の呼び出しは異常だ。
晴野が一向に動かないところを見ると、恐らく晴野が抱えているのは
緊急案件には3種類あり、それぞれ重要度が違ってくる。
アージェント、エマージェンシー、クライシスの順に危機的になっていく。
万が一の時は仲間に託して動けるから、班の仕事の重要度のほうが高い場合、班の状況を説明したうえで案件を拒否することもできる。
対して
エマージェンシーの場合は拒否ができないし、班の仕事の重要度のほうが高くても絶対に
最後の
緊急案件は主に
緊急案件を相殺するなら、それ相応の理由が必要になる。
現在日本で災害は発生していない。
――まさか、天道サイドも
何だ?いったい何が起こっている?
「だから、やることあるっての!!邪魔!帰れ!独りで行け!!てか、朝の
「11時前に倉木さんから連絡来たんや。オペレーター連れて上に会いに行けって。指定された時間は12時。さっさと行くで。遅れてまうやろが。それに…こっちも
――天道の方も
「は?なぜ!?
晴野は文句を言い続ける。動く気は無いようだ。
天道は舌打ちし、晴野の腕を掴んで立たせる。
「――…セクハラで訴えんぞクソが。」
「あ?これのどこがセクハラなん?…アホなこと言ってないで、早よ行くで。」
「――だから、
「はいはい後で
「は?勝手にキレとけ!遅刻して上に怒られてこい!!私は行かねぇ――ちょ、ふざけんな…っ!?」
天道は実力行使に出た。
晴野の腕を掴んだまま、強制的にオフィスの外へ連れていこうとする。
体力差で晴野は強制的に動かされてしまう。
「――せめてスマホと武器は持たせろし!!」
「――は?武器いらへんやろ。…スマホだけ取りぃ。」
晴野は絶叫し、天道は手を離した。
晴野はスマホを取りに、デスクへ急いで向かう。
デスクにてスマホと
ウエストポーチ
を回収し、その後、武器庫に行こうとしたら天道に再度腕を掴まれた。「っ!?――こっちにも予定ってものが――」
「早よ行くで。」
「何っなんだよ急に!!うわ、ちょ、……この、フィジカルメンタルクソ
晴野は、天道に連れ出されてしまった。
室内は混乱していた。
「……ちょっと待て。どうなるんだこれ……。
霧島は呟いた。
晴野は元々
恐らく、霧島や渦雷では対応ができないだろう。
さらに、晴野は「昼前後」と言っていたため、時間指定されている可能性が高い。
代わりが見つからない可能性の方が高かった。
《…晴野のパソコン画面、今どうなってる?――あれだけ晴野が嫌がるってことは、相当でしょ?車は運転できないけど…3課系なら僕が対応できるかもしれない。ルール違反ではあるけど、放置はどう考えても良くないでしょ…?》
時間指定でのハッキングであった場合、今動けるのは東雲くらいだ。
晴野が車について言及していたため、アクセスポイントが指定されているのかもしれない。
「確認する。」
なので、何らかのコードだった場合は「何も知らないまま」
危機的状況に陥った場合の判断を下すのもリーダーである
怒られるのは…処罰を受けるのは
「
…ん?
武器まで必要になるハッキング
ってなんだ?どこぞのスパイ映画みたいに、実際に敵地に侵入してハッキングするのだろうか?霧島は晴野の言葉から予測される、必要になりそうなものを揃えに行った。
「え――…
地図
?恐らく位置情報だと思う。ハッキングとは関係なさそうだが…何の情報だ?」思ってたのと違う画面に
東雲は驚いた。――
地図ならば
、武器は要らないはず
だったから。《
地図
!?え…担当案件はハッキングじゃない
ってこと!?…オペ席行くけど班員以外は居ないよね?》「大丈夫だ。」
《ありがと。》
カララ。
資料室の引き戸を開けて、東雲が飛び出してくる。
「――こんなに
表示されていた地図についている
ディスプレイの左側の上下に、小さい画面が2つ表示されている。
小さい画面は両方とも大学の構内とその周辺だ。1つの画面に重なるように2つずつ点が表示されている。位置情報はそれぞれ違うようだ。
画面の中、3分の2を占めるくらい大きく表示されているのが高校の校内とその周辺だ。
高校には同じ場所に、点が重なるように3つあった。
どの画面も1人に対し、複数の発信機を付けている感じがする。
用意周到すぎる。何だこれ。
別のウィンドウを開くと、位置情報のある高校の情報が出てきた。
「待って……。まさか、いや、そんなはずは――」
「用意できたぞ。――どんな感じだ?…って。……これ、
雨宮の学校じゃねぇか
。何で画面に拡大されてんだよ。」「え…!――確か、雨宮の下校推定時刻って12時10分前後だったよな?今から行ったらちょうどいいくらいの時間に…!…まて、それなら…この他の画面は?」
画面を覗いた霧島の疑問に、
「――小さいほうの地図は雨宮のお兄さんたちだよ。…多分、合ってると思う。……僕らがいる秘匿班では、僕が雨宮の携帯の
晴野は次男の位置情報
を遠隔で見張る予定なんだ。僕もさっきまで見てたし…。今日、偶然にも全員がお昼あたりで学校終わって帰宅するんだよね。…晴野の確かに発信機の数が多すぎる。
そのうち1つは朝の晴野の行動の答えの様な気がするが…。
公安と
発信機の数や関わるチームの多さから、雨宮と兄2人の危険度が高すぎるように感じる。
雨宮って何者なんだ。というか、兄2人いたのか。
「まて。じゃあ何で車と武器が要るんだよ。」
霧島の突っ込みに、
「公安に混ざって護衛する予定だった――とかか?」
「それなら天道が来る前に公安と移動してそうだが…あー、
「それなら車だけでいいよね?晴野は武器が必要って言ってた――どう考えても戦闘になりそうじゃない?晴野は突撃でもかける気なの?」
一瞬固まる。
そんなこと、起こってほしくない。
「……銃撃戦が想定されるようなことにならねぇよな?さすがにここ、日本だし…。」
「やめてよ怖いこと言うの…。霧島サブが言ったらシャレにならないよ…。だって、リアル天道の弟子じゃん。」
「弟子言うな!僕は平穏に生きる!!――
「…
万が一、晴野に連絡が付かなかった場合のバックアップ要員として動くことに決めた。
「OK!万が一の時は潔く怒られようぜ!…完全に天道のせいだけどな。」
「ん。念のため持ち運び用のノートパソコンとポータブルWi-Fi用意しとく。一応、
「…やはり全員巻き込んでしまうか…。
「仲間だろ。大丈夫。天道込みで班全員で怒られような!あ、メッセは僕が送るから、
霧島はその場で雪平と嵐山にメッセージを送り、
――20XX年12月9日 11時50分 都内某所 学校前
とある学校の前に1台の車が停まっていた。
運転手は他の学校で待機している運転手に連絡を取る。
「こちらA班待機中。まだ出てきていない。あと、周囲に警察か護衛の車を確認した。少し離れて様子見をする予定だ。」
「こちらB班。A班と同じく。」
「こちらC班。A班と同じく周辺で待機中だ。」
状況はどこも同じのようだ。
「了解。――全ての富を貧しい者に。団結せよ。」
運転手はそう言い、通話を切った。
車の中――後部座席には3名男が座っている。
うち2名は闇バイトで募集した人たちだ。いつでも切り捨てられるよう、表向きの犯行内容しか伝えていない。
また、後部座席にはロープやスタンガンが用意されていた。
運転手の男は鞄から銃と
西園寺グループ社長のご子息ご息女の下校時刻が近づいていた。