事の顛末は (11月9日11:40~13:00)
文字数 2,230文字
昨晩、
街を歩き回っている所までは良かった。
だが、安在は急に走り出し、公安を撒いた。
今回スパイとの接触が無かったため、見張りの人員が減らされたことが原因だった。
当然、裏の見張りを付けてもいたが、表にばれない様遠くから尾行していたため、追いかけることができなかった。
安在が逃げ出す直前に流れた、
容疑は情報漏洩。
逮捕された研究員は安在の一件に関与していたと公安の人から説明があった。
タイミングが最悪すぎる。
何らかの目的のもとに動いているはずだが、狙いがわからない。
トイレは共用だ。
同じフロアではあるが7班のオフィスから出ないといけないため、人を呼ぶ必要があった。
廊下を歩き、トイレに入る。
公安の人はトイレ入り口の外に待機する。
メッセージを開き、班員とネフィリム、
本来なら口頭でやり取りしたいのだが、
幸い、スマートフォンの検閲は入っていない。
長く居たら怪しまれるため、
○11月8日○
ネフィリム:〔乙!裏作戦大成功でござるwww分析した情報はまとめて公安の【裏】に明日朝渡す予定なりww只今撤収作業中wwwノシ〕
23:15送信 スタンプ8件(お辞儀)
○11月9日○
兄様:〔マジヤバいどうなってんのwww昨晩の報道、東山製薬の件は【裏】だよ。安在を保護してPNGした後、研究員は逮捕される予定だったはずだし、そう聞いてた。マジで誰が流した案件。警察上層部に裏切者が居るだろ草〕
7:45送信 スタンプ8件(驚き)
8:19送信 スタンプ6件(サムズアップ)
8:26送信 スタンプ6件(サムズアップ)
雪平:〔【裏】からの連絡です。安在を見つけた可能性が高いです。9:45にR国スパイ(アレクセイの上司か?)が訪れたホテルに偽名を使い、宿泊している様子です。監視カメラを確認したところ、風貌は一致しているようです。現在【裏】がホテル周辺を監視しています。動きがあれば連絡が来る予定です。〕
10:35送信 スタンプ5件(サムズアップ)
このメッセージアプリは既読判定が出ない。
なので、読み終えたら各々がスタンプを押すことにしていた。
メッセージが多くなると短時間で確認できなくなるため、返信は情報共有時のみにしている。
どうやら状況は思わしくない様子だが、安在を見つけたらしい。
このまま安在の監視が上手くいく事を祈るしかない。
水を流し、手を洗い、トイレから出る。
入り口で待機していた公安の人とともにオフィスへ戻る。
監視がある上に、表に出ることができない
――20XX年11月9日 12時00分 東京某所
セルフレジで3つ商品を購入し、荷物を鞄にしまって店外に出る。
安在は購入したマスクをつけ、帽子を目深にかぶりながら歩き出す。
近くのコンビニのゴミ箱にごみを捨て、移動する。
ごみ箱に捨てたのは帽子のタグと、包丁の包装。
許さない。
復讐心だけが安在を支配していた。
――20XX年11月9日 13時00分 R国大使館
アレクセイはスーツケースを持ち、大使館の門を出た。
タクシーに荷物を預けると、人の気配がした。
振り向くとそこには帽子を目深にかぶり、マスクを付けた安在が居た。
アレクセイはわざと一瞬視線をそらす。
その隙に肉迫した安在は――
ブスリ。
鞄の中にしまっていた包丁で、アレクセイを刺したのだった。
アレクセイは
包丁を掴み
、膝をつく。刺されたのは
わき腹
。スーツが赤く染まり、アスファルトに血が落ちる。
「?お客さん、どうぞ乗ってくださ――お客さん!?」
慌てふためくタクシーの運転手。
「お前のせいだ。」
安在はそんな光景を見ながら呟く。
安在は包丁をアレクセイのわき腹から抜き、再度アレクセイを刺そうとする。
だが、アレクセイが両手で包丁を押さえており、引き抜くことができないでいた。
「お前のせいだあぁあああぁああぁあ!!離せぇええええぇえ!!うわああああぁぁあぁああぁああぁぁぁああ!!!!!」
安在はアレクセイから包丁を奪い返そうと躍起になるが、アレクセイは片手で相手をいなす。
持ち手から手を離させ、躱し、タクシーの運転手に警察を呼ぶよう求める。
包丁はアレクセイのわき腹に刺さったままだ。
大使館の警備員が安在を取り押さえる。
安在は大声で叫び暴れるが、警備員から逃げることは出来なかった。
数分後。
アレクセイは救急車で運ばれ、安在は殺人未遂の疑いで逮捕されたのだった。