説明その2 (12月9日19:30)
文字数 5,096文字
「あーね。それねぇ……実は
「い、いつの間に……。」
「学校に行く前……
制服の衿の裏
にね。」「そ、そうでしたの……気付きませんでしたわ。」
本当はお守りにも仕込んでいたが、言わないでおく。
必要だったのは【桜の
桜の栞は符牒だ。
渡してきた神職も、
メッセンジャーの役割の為に神社に潜入しているらしい。
あのお守りは
だが、雨宮が拉致当日にポケットに入れて持ち歩いてくれていたので、万が一衿の後ろの発信機が落ちたりした場合の
「あははー……。実は、雨ちーたちの拉致が起こることがわかっていたの。敵、そういう動きしてたし。だけど、本当に公安がスマホを持って行くとは思っていなかったから驚いたわ。いやぁー……事前に発信機を付けていて良かったぁ。」
「鞄を預かるって言われたの、少し疑問に思ったんですのよ……。ですが、味方だからと油断しましたわ。これからは気を付けます。」
「いや、あれは本当に悪いの公安だから。公安にそういう指示出して守らせた裏切り者が悪いだけだから。それに、もし持っていたとしても取り上げられて、窓から捨てられていたでしょ?」
雨宮は車に引き込まれた後、軽く身体検査をされて、護身用具を奪われていた。
スマートフォンがあったら、晴野の言った通り、窓から投げ捨てられている可能性が高かっただろう。
「確かに――そうなっていた可能性が高いですわね。はぁ。」
「……本当はね、雨ちーの近くで待機しているはずだったの。雨ちーの救助は
「天道……そのせいで
「いい加減にしてほしいよね。しかも雨ちーより緊急性低かったんやぞ?」
「え。他に拉致された人とかを助けたわけではないんですの??」
「今日中にすればいいだけの、単なる呼び出しだったよ。雨ちーの救助後で話聞いても良かった案件やぞ?――本当、最低。他の時間が空いてないか確認しろやマジで。クソ天道。融通くらい効かせろやマジで。」
「天道……。
「12時過ぎの時点でまだ警視庁だったし、追いかけるために使える車が天道の車しかなかった。だから、腹いせも兼ねて天道から車のキーを奪って向かったんだよ。ダッシュボードに実弾と銃が入っていたのは幸運でしたわー。」
「あら。意趣返しは完璧ですわね。――後で近所迷惑にならない範囲で叫びましょう。」
「うん。よろしくー。一緒にキレようぜ。」
黒い笑みを浮かべ、雨宮と晴野は頷いた。
「あ。ちなみに
「まぁ、それなら良かったですわ。今の状況でオフィスから出たら危ないでしょうし……。」
「それなー。天道も収容しといてほしいわ。警視庁の仮眠室とかに。アイツ、いっつも変なことして厄介ごと持ち込むから、じっとしててほしい。」
「……そういえば、倉木(天笠)も一応上司ですわよね?……報告はされてますの?」
「してないと思うし、
「ですわよねぇ……。一安心しました。あら?この流れで倉木(天笠)がだめということは……倉木は班を監視して、公安内部の敵に報告してたんですの?そのせいで更にややこしくなってますの??」
「違う。あれは本当に倉木の独断。」
「……班にとっては危険ではあるけれど、裏切り者のように敵というほどではない、ということかしら……?」
「いやー……それが、天笠、どうも中立寄りの味方っぽいんだわ。復讐に燃えてるっぽい。……その為に班を利用したいみたいだけど。」
「え?中立寄りの味方??……監視してましたわよね?」
「倉木の上…倉木を支配しているのは警視総監。今は人形役に徹している感じなんだよねー……。ただ、こっちの情報が筒抜けなのは良くないから、天笠とは距離を取っておきたい。復讐にも一切関わらないでおきたい。面倒くさいから!!」
「……復讐って何ですのよ……。警視総監、何しましたの……?」
「あー……まぁ、今は知らなくていいよ。知っても良いことないし。上着の内側の、胸ポケットの中に入れてる手帳も見ないほうが良い。――今は絶対に。」
晴野は重ねて忠告してきた。
どうやら、倉木の胸ポケットに入っている手帳が鍵になるようだった。
そういえば――班の監視に対して、ろくでもない謝罪風の開き直りを言いやがった際、丁度
胸ポケットの位置に手を当てていたような
――いえ、気にしないことにしましょう。「……ただ、まだ今後も色々と班に手を出してくるはずだから、上手くかわしてほしいかな。うっざいんだよねぇ……本当に。
「……わかりましたわ。」
「奪還後はご存知の通りで、見られてはいけない地下通路を通るために眠らせたよ。もし、見ていたら
口封じ
をしなくてはいけなくなるから……死人に口なし
って言うでしょ?」晴野は口封じ、と言った際の雨宮の反応がピンときていない様子だった為、あえて例をあげて軽めに脅した。
雨宮は【死人に口なし】と聞き、驚いた後、理解したようだ。
「――英断ですわね。不満に思い、申し訳ございませんでした。」
「いや、怖かっただろうなとは思っていたから……仕方ないし。あー……うん。――許してくれ。私からはそれしか言えない。」
「……怖かったですわよ……本当に。」
思い出すたびに体が震え、泣きそうになる。
短時間で2度も拉致されかけたのだ。
西園寺家に産まれたからこそ、身代金目的の誘拐や拉致の危険があることはわかっていたが、まさかテロリストにまで狙われるとは思っていなかったのだ。
しかも、事情があったとはいえ、味方である晴野に強制的に眠らされるし。
雨宮にとってはかなりの恐怖だった。
「うーん。ごめんね。……一応、
ちょっとだけ眠ってて
って言ったんだけどなー。通じなかったかぁ。」晴野は、最大限配慮していたつもりだった。
一番痛くない方法を使い、恐怖が少ないよう当時の言える範囲で雨宮に声かけした。
同じ班の班員同士だから伝わるだろう、という慢心があったのかもしれない。
――ちょっと配慮が足りなかったな。以後気を付けよう。
晴野は失敗を心に刻み込むことにした。
2度と同じ
「あの一言はそういう意味でしたの……。」
「あ、通路のことも黙っていてクレメンス!!探られたらマジで困るんで!!」
「承知致しましたわ。……兄にも忠告しておきますわ。」
雨宮は納得してくれたようだった。
一応兄貴を通して忠告が行っているだろうが、釘を刺すのは大事なため、雨宮からの再共有はありがたい。
雨宮は、また思い当たったことを聞くことにした。
「あら?そういえば……拉致犯はどうなりましたの?拉致について報道されたりしてますの?」
犯人は晴野が撃った後は放置していた。
追いかけてくることは出来ないだろうが、それでも野放しにされているのは心配だった。
何度も狙われたくはない。
また、報道についても気になった。
学校の表で拉致されたので、ニュースになっていてもおかしくないはず。
拉致犯の車だって炎上しているし、銃で撃っているため警察が出てきてもおかしくはない。
スマホが無いうえに、
「犯人は【裏】の人たちが捕まえて
取り調べ中
。もみ消してるから報道はされていないよ。」どこの組織の【裏】かは言わず、晴野は告げた。
まぁ……これ以上は聞かれても言えないのだが。
「左様でしたか……。思いっきりキツイ取り調べを望みますわ。ええ。本当に。」
「うん。
期待してて
!!」――多分、
晴野は明るく元気に答え、後半部分は心の中で思うだけに留めておいた。
雨宮に踏み込まれなかったことに安堵する。
雨宮は元々知見を広めるために【表】担当として入ってきた子だ。
初期は
上司が天道になったせいで【裏】にも関わってはいるが、
そして、犯人どもはボコボコにされればいいのだ。
死ぬより苦しみやがれ。
晴野は心の中で兄貴のお仲間にエールを送った。
「拉致の目的はテロリストによる富裕層への逆恨みと、先月逮捕された
「合っているよ。本当にまとめたらそんな感じ。まぁ、個々の組織がそれぞれ勝手に動いてる感あるけども。」
「……メタンハイドレード……資金だっていりますのに……。」
雨宮は思考を巡らせていた。
自社グループの会社の技術なので、ある程度は知識があるのだろう。
「あ、それなら海外出稼――違法なのの仲介料でピンハネしたり、麻薬のシンジケート使って稼いでみたり、半グレ扇動して金品分捕ってみたりと色々アウトな方法で荒稼ぎしているから、資金面は平気そうだよ。」
「犯罪のオンパレードですわね!?まっとうに稼ぐ気、ありませんの!?」
「そんな気最初からないと思う。あー、ごめんね?これ以上は言えないかなぁー。」
本当はもう少し明かしても良かったが、晴野はお年頃のお嬢様に言って良い内容では無さすぎたので、隠すことにした。
人身売買とか
「あー……特許分捕れたらC国K国と手を組んで、日本の領海内の採掘荒らしに来るって取り決めてるみたいだから。まぁ、最終的にはR国はお得意の二枚舌でC国K国裏切るんだろうけど。また、エネルギー利権でアラブの方ともバチバチしてますねぇ。R国が世界……主にヨーロッパ方面の供給を握りたいのに、アラブ系がもてはやされていますからー。最後はA国E国裏の勢力がしゃしゃって来て戦争になるんじゃね?……という感じかなぁ!」
晴野は後半をダイジェストで切り上げた。
雨宮の家が関わっている部分を重点的に話したが、これでいいだろうか。
「……最後、さらっと恐ろしいこと言わないでくださいませ……?」
「まぁ、今は大丈夫だよ。説明はこれで大丈夫そ?」
「十分ですわ。ありがとうございました。」
「いえいえー。だからこそ、天道みたいに勝手な行動したり、ここから逃げたりしないでクレメンス!!」
晴野は手を合わせて懇願する。
「
「良かったー。了承してくれて。ストレスで胃に穴が開くところだったわー。あ、お風呂は21時以降にしてね。それまで男子が使ってるからさ。ほんと、手狭で申し訳ない……。」
「21時……あら、あと少しですわね。私は部屋に戻りますが……晴野はどうなさいますの?」
雨宮は時計を見て、晴野に問うた。
「私は紅茶とかを下げたら、
不慮の事故で中身が見えちゃうドキドキイベント
発動しなきゃだから。うん。事故事故。決して故意ではない
。内容バレるなんてもっての他じゃないっすかー。やだー。」晴野が訂正?し、それを聞いた雨宮が笑う。
「……ふふ。承知いたしましたわ。」
晴野と雨宮は立ち上がり、机の上を片付ける。
晴野がトレーを持ち、雨宮がドアを開けた。
2人はキッチンへと向かうのだった。