エピローグ (12月21日10:20~11:50)
文字数 4,595文字
PNGを出してから一週間経った。
事後処理も終わり、週の半ばには班員は日常生活へと戻っていた。
雨宮は無事に追試を受けられたらしく、結果も良かったようだ。
裏切り者のその後だが、
釈放にあたっては警視総監が手を回したらしい。恐らく、倉木にとっては借り1になったのだろう。
現在残っていた有休を消化している最中で、このまま警察からフェードアウトするようだ。
悔しいが、新田は警察官でありながら警察を裏切ったのだ。この後、碌な人生を歩むことはできないだろう。
お付きの人は騙されただけで、嫌疑不十分で釈放された。
しばらく監視付きの生活になるらしい。
こちらも不安だ。何事も無ければいいが…。
ただ、その顛末を聞いた
もしかしたら、新田とハッカーは――いや、やめておこう。そちら側に関わる気はない。
今日は全員が出勤する日で、それぞれデスクにて通常業務についていた。
業務を進めていると第二ロックドアの開錠音が聞こえる。
第二ロックドアが開き、入ってきたのは
「天道さん!?……もう動いても大丈夫なんですか?」
「こんなん、ただのかすり傷や。大したことは無いで。――なぁ、全員揃っとる?」
「はい、居ますが……。」
「2つ言っておきたいことがある。
――珍しいな。何だろう。
班員同士のわだかまりが溶けたことにより、
資料室の扉が開き、
そして、班員全員がミーティングルームに揃った。
天道はキャスター付きの椅子をデスク側から持ってきて、モニターの前に座る。
班員を見回し、口を開く。
「俺の
「え……急ですね!?」
――異動!?中途半端な時期に!?色々おかしくないか!?今度は何があったんだ!?
「……時期、おかしいんじゃないの?何で
来月末
なの?」「中途半端……ですわよね?おかしくありませんこと?」
「捕まったからか?顔バレか??……一旦公安から離れて、忘れられるまで異動するのか?」
「
「異例の異動……ですか。……【色】から見ても、嘘ではないようですね。」
「は?今月中じゃないなら、普通、3月末じゃね……?てか、天道とか【裏】の情報、こっちからも処理済なはずなんだけど!?一旦念のために身を隠すってこと??……え?それならすぐに隠せよ??は?」
班員は驚き、感想や推測を述べる。
やはり上の思惑が絡んでいるのだろう。だが、時期が微妙過ぎて気持ち悪い。
何なんだ、これ。
天道は続ける。
「ただ、この情報はギリギリまで隠し通せ。――
その言葉を聞き、班員は固まった。
――あれ?でも、順当にいくと
不思議に思っていると、晴野が天道に疑問をぶつける。
「――ん!?待って!?すっげー嫌だけど、順当にいけば上司、生天目っしょ!?超絶嫌だけどさ!?何なら脱走試みるけどな!?」
「知っとるって。……脱走やめぃ。自衛隊ほどではないけど、面倒臭いことになるやろが。」
「でもでも――」
「――今、俺の新上司に掛け合って、
次の候補から外すよう
動いてもろおてるさかい、絶対に漏らすな。班の新上司は俺の新上司が選ぶで。……は!?
あの
ある
!?そして、天道の異動先の上司はそれができる立場ということか!?
ものすごく助かるし、ありがたいが……相手は
あの
……果たして本当にできるのだろうか。
「班の新上司が班を管理する期間は4ヶ月…2月から5月末日までや。」
「かなり微妙ですね。」
「その後は――いや、今言わんでええか。」
「えっ。」
かなり重要な気がするんだが!?
だが、天道はこれ以上は言う気が無いようだ。
「なぁ、
「言えん。決まりや。……まぁ、俺が異動したらわかるやろ。」
晴野に突っ込まれるが、天道は何も言わずに流すことにした。
立場上、言えないことが多いのだろう。
「天道さん……班の構成はどうなりますか。」
新しい上司によって班の構成が変わる可能性があるなら、今のうちに引継ぎをしておきたかった。
班の亀裂や、わけがわからないゴタゴタはもう勘弁だ。
「今と変わらん。
お前
が回せ。……いいな。」天道は
「良かっ……いや、まだ決まってねぇな。」
「あやうくぬか喜びしかけたねw」
「うるせぇ。」
霧島はあからさまに喜んだ――が、決定事項ではないため、すぐさま思い直す。
その様子を
「まぁ、1月末日を楽しみにしといたらええんちゃう?俺も誰になるかは知らへんし。……絶対に班外に漏らすなよ。晴野の兄貴にも駄目やぞ。……どっから湧くかわからんからな。
それを聞き、晴野の顔が引きつる。
「……自衛隊にも使えるコネを持ってるってことか……。」
「Oh……。生天目のコネの範囲の広さに絶望しかねぇっす……。明日くらいに小規模にならねぇかな。」
「なって欲しいわねぇ。」
「……あの自慢が本当なら、無理でしょう。はぁ。嫌ですわね……。」
霧島、晴野、嵐山、雨宮が口々にコメントした。
天道はスーツのポケットから仕事用のスマートフォンを取り出し、晴野の方に向ける。
「これ、新しいアドレスと電話番号や。あとひと月ちょいやけど、登録しといて。」
「うぃっす。共有しまーす。」
晴野が受け取り、班のチャットにて共有する。
これで再度、天道と連絡が取れるようになった。
「……話しは以上や。仕事に戻りぃ。俺は帰る。」
「あ、はい。お疲れ様でした。」
天道が帰った後、再びミーティングルームの椅子に座る。
「……次は誰なんだろうな。上司。」
「……うちの班、新手の上司
「晴野。やめなさい。きっと次こそはまともなはずよ。……きっと。」
室内に微妙な空気が流れる。
……希望ってどこにあるんだろうな。
ふと、視線を時計に向ける――そろそろ時間だ。
「――あ、もう行かないと。」
この後
「お、行ってらっしゃい。」
「行ってらー!」
「ああ、行ってくる。」
班員に送り出され、
――20XX年12月21日 11時50分 青少年特殊捜査本部 会議室
今日は卒検だった。
受験勉強も大事だが、このままではいつまでたっても免許が取れないままになる。
年が明ける前、年末年始の休みに入る前に……今月中にクリアしてしまいたかった。
目指せ卒検合格!目指せクリスマス付近での免許取得。
その後は
会議室から廊下に出たところで、
「……6月……戻ってくる……。」
「――え。」
振り返り、桜のほうを向く。
――戻ってくる??……何が?
桜は相変わらず無表情で見つめてくる。
何かの情報だろうが、ワードが少なくて理解ができない。
「それまでは……。」
「桜さ――あれ?2人でお話し?」
「……。」
桜は数秒間
「えっ!行っちゃうの!?――桜さん!?」
どうやら黒沢さんは桜に用があったみたいだが、桜は黒沢さんには用が無かったらしい。
意味を考えていると、黒沢さんが話しかけてくる。
「――えーと。ごめん。……邪魔したね。」
「いえ。大丈夫です。では、失礼します。」
「うん。お疲れ様でした。」
着替えたあとは教習所の卒検だ。……気を引き締めなければ。
オフィスに戻り、仮眠室で更衣をする。
「あ、
仮眠室から出ると、晴野が呼びかけてきた。
デスクから晴野が近づいてきて、小さな白い袋を渡される。
「これ!良かったら
「――お守り?」
入っていたのは交通安全のお守りだ。
濃紺の生地に金糸で文字が織られており、とても綺麗だった。
……あれ?
――ん?デジャヴ……。あの、晴野さん?まさか、発信機とか入ってませんよね??
晴野に視線を向ける。
雨宮以外の他の班員も驚いたような視線を向けていた。ということは――
――待て。俺……まさかの死亡フラグ立ってないか!?卒検受けて、今日で合格しておきたいんだが!?
焦る
「ちょ……!!何も入れてないっすよ!!マジで!!!……
神社に寄った
しね。」「そうか……。ありがとう。……俺の身が安全なら良いんだ。うん。何事もないなら……。」
「……ただの、エールっす……。」
晴野は落ち込んだ。
「ありがとう。頑張って合格してくるよ。」
班員も安心したのか、このやり取りに笑っていた。
「え……?な、何ですの?そんなに面白いところ、あったかしら……?」
晴野から渡されたお守りの中に、発信機が仕掛けられていた事実を知らない雨宮のみが困惑していた。
そして、班員は
「行ってらっしゃい!」
「お先に失礼します。――行ってきます。」
班のドアから出て、廊下を歩き、階段で1階に降りる。
特捜の建物を出ると、
寒いが、天気はいい。晴れている。
路面も凍っておらず、検定中にスリップはしないだろう。
苦手なりにいっぱい練習した。恐らく大丈夫だと思いたい。
――どうか合格しますように。
晴野に渡された交通安全のお守りを手に、