エピローグ (12月21日10:20~11:50)

文字数 4,595文字

――20XX年12月21日 10時20分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス

PNGを出してから一週間経った。
事後処理も終わり、週の半ばには班員は日常生活へと戻っていた。
晴野(はれの)は大学に、渦雷(からい)雨宮(あまみや)は高校に書類を提出し、出席日数にカウントしてもらった。
雨宮は無事に追試を受けられたらしく、結果も良かったようだ。

裏切り者のその後だが、天道(てんどう)に聞いたところ、倉木(くらき)は嫌疑不十分で釈放された。
釈放にあたっては警視総監が手を回したらしい。恐らく、倉木にとっては借り1になったのだろう。

R国スパイ(アレクセイ)に情報を渡していた新田(にった)は、辞表を提出したらしい。
現在残っていた有休を消化している最中で、このまま警察からフェードアウトするようだ。
悔しいが、新田は警察官でありながら警察を裏切ったのだ。この後、碌な人生を歩むことはできないだろう。

お付きの人は騙されただけで、嫌疑不十分で釈放された。
しばらく監視付きの生活になるらしい。

東雲(しののめ)のパソコンを開けたハッカーは、行方不明になったようだ。
こちらも不安だ。何事も無ければいいが…。


ただ、その顛末を聞いた晴野(はれの)の表情に、多少引っかかる部分があった。
もしかしたら、新田とハッカーは――いや、やめておこう。そちら側に関わる気はない。


今日は全員が出勤する日で、それぞれデスクにて通常業務についていた。

業務を進めていると第二ロックドアの開錠音が聞こえる。
第二ロックドアが開き、入ってきたのは天道(てんどう)だった。

「天道さん!?……もう動いても大丈夫なんですか?」
「こんなん、ただのかすり傷や。大したことは無いで。――なぁ、全員揃っとる?」
「はい、居ますが……。」
「2つ言っておきたいことがある。ミーティングルーム(こっち)集まりぃ。……できれば東雲(しののめ)も出てこい。」


――珍しいな。何だろう。


渦雷(からい)たちは疑問に思いながら、ミーティングルームのデスクにつく。
東雲(しののめ)はいつもミーティングルームではなく資料室から参加しているのだが、天道は顔を合わせるよう求めた。
班員同士のわだかまりが溶けたことにより、東雲(しののめ)も時々こっちに出てくるようにはなっていたが……なぜ?


資料室の扉が開き、東雲(しののめ)が出てくる。
そして、班員全員がミーティングルームに揃った。

天道はキャスター付きの椅子をデスク側から持ってきて、モニターの前に座る。
班員を見回し、口を開く。

「俺の異動(いどう)が決まった。1月末日に新上司と交代予定や。」

「え……急ですね!?」


――異動!?中途半端な時期に!?色々おかしくないか!?今度は何があったんだ!?


「……時期、おかしいんじゃないの?何で

なの?」
「中途半端……ですわよね?おかしくありませんこと?」
「捕まったからか?顔バレか??……一旦公安から離れて、忘れられるまで異動するのか?」
霧島(きりしま)サブ、それなら今すぐ上司変更になるでしょ。――全員捕まえてるし、データもかなりいじってるから、心配ないはずなんだけど……。バレてたのもテロリストとR国スパイだけだったし。」
「異例の異動……ですか。……【色】から見ても、嘘ではないようですね。」
「は?今月中じゃないなら、普通、3月末じゃね……?てか、天道とか【裏】の情報、こっちからも処理済なはずなんだけど!?一旦念のために身を隠すってこと??……え?それならすぐに隠せよ??は?」

班員は驚き、感想や推測を述べる。
やはり上の思惑が絡んでいるのだろう。だが、時期が微妙過ぎて気持ち悪い。
何なんだ、これ。

天道は続ける。

「ただ、この情報はギリギリまで隠し通せ。――生天目(なばため)が湧いて来るで。」

その言葉を聞き、班員は固まった。
生天目(なばため)アレルギー発症だ。
生天目(なばため)だけは、絶対に嫌だった。勘弁してほしい。


――あれ?でも、順当にいくと生天目(なばため)がこの班に来るよな?なぜ生天目に隠す必要があるんだ?


不思議に思っていると、晴野が天道に疑問をぶつける。

「――ん!?待って!?すっげー嫌だけど、順当にいけば上司、生天目っしょ!?超絶嫌だけどさ!?何なら脱走試みるけどな!?」
「知っとるって。……脱走やめぃ。自衛隊ほどではないけど、面倒臭いことになるやろが。」
「でもでも――」
「――今、俺の新上司に掛け合って、生天目(なばため)

動いてもろおてるさかい、絶対に漏らすな。班の新上司は俺の新上司が選ぶで。……生天目(なばため)周辺に知られたら終わりや。ええな?バレたら親の権力使(つこ)ぉてまた湧くぞ。」

は!?
あの生天目(なばため)を、次の班の上司の座から排除する術が……

!?
そして、天道の異動先の上司はそれができる立場ということか!?

ものすごく助かるし、ありがたいが……相手は

生天目(なばため)だ。

……果たして本当にできるのだろうか。

「班の新上司が班を管理する期間は4ヶ月…2月から5月末日までや。」
「かなり微妙ですね。」
「その後は――いや、今言わんでええか。」
「えっ。」

かなり重要な気がするんだが!?
だが、天道はこれ以上は言う気が無いようだ。

渦雷(からい)が諦めると、晴野が口を開く。

「なぁ、生天目(なばため)外せる天道の新上司、誰!?何者!?」
「言えん。決まりや。……まぁ、俺が異動したらわかるやろ。」

晴野に突っ込まれるが、天道は何も言わずに流すことにした。
立場上、言えないことが多いのだろう。

「天道さん……班の構成はどうなりますか。」

渦雷(からい)は天道に切り出した。

渦雷(からい)がこの班のリーダーではあるが、霧島をリーダーに望む上司も多くいる。
新しい上司によって班の構成が変わる可能性があるなら、今のうちに引継ぎをしておきたかった。
班の亀裂や、わけがわからないゴタゴタはもう勘弁だ。

「今と変わらん。渦雷(からい)がリーダーでいけるよう併せて頼んどるさかい。安心せぇ。――これからも

が回せ。……いいな。」

天道は渦雷(からい)に言い、口を閉じた。
渦雷(からい)は小さく頷いた。

「良かっ……いや、まだ決まってねぇな。」
「あやうくぬか喜びしかけたねw」
「うるせぇ。」

霧島はあからさまに喜んだ――が、決定事項ではないため、すぐさま思い直す。
その様子を東雲(しののめ)に突っ込まれ、霧島は悪態をついた。


「まぁ、1月末日を楽しみにしといたらええんちゃう?俺も誰になるかは知らへんし。……絶対に班外に漏らすなよ。晴野の兄貴にも駄目やぞ。……どっから湧くかわからんからな。生天目(なばため)。無駄にコネの範囲、広いねん。」

それを聞き、晴野の顔が引きつる。

「……自衛隊にも使えるコネを持ってるってことか……。」
「Oh……。生天目のコネの範囲の広さに絶望しかねぇっす……。明日くらいに小規模にならねぇかな。」
「なって欲しいわねぇ。」
「……あの自慢が本当なら、無理でしょう。はぁ。嫌ですわね……。」

霧島、晴野、嵐山、雨宮が口々にコメントした。
天道はスーツのポケットから仕事用のスマートフォンを取り出し、晴野の方に向ける。

「これ、新しいアドレスと電話番号や。あとひと月ちょいやけど、登録しといて。」
「うぃっす。共有しまーす。」

晴野が受け取り、班のチャットにて共有する。
これで再度、天道と連絡が取れるようになった。

「……話しは以上や。仕事に戻りぃ。俺は帰る。」
「あ、はい。お疲れ様でした。」

渦雷(からい)たち班員は天道を見送る。

天道が帰った後、再びミーティングルームの椅子に座る。

「……次は誰なんだろうな。上司。」
「……うちの班、新手の上司追放(リコール)部屋みたいな所、あるから……。」
「晴野。やめなさい。きっと次こそはまともなはずよ。……きっと。」

室内に微妙な空気が流れる。
……希望ってどこにあるんだろうな。


ふと、視線を時計に向ける――そろそろ時間だ。

「――あ、もう行かないと。」

渦雷(からい)は席を立つ。
この後秘匿班(スカウト)で招集がかかっているのだ。

「お、行ってらっしゃい。」
「行ってらー!」
「ああ、行ってくる。」

班員に送り出され、渦雷(からい)秘匿班(スカウト)へと向かった。



――20XX年12月21日 11時50分 青少年特殊捜査本部 会議室

秘匿班(スカウト)の会議が終わり、解散になる。

渦雷(からい)は早上がりして教習所へ向かう予定だ。
今日は卒検だった。

受験勉強も大事だが、このままではいつまでたっても免許が取れないままになる。
年が明ける前、年末年始の休みに入る前に……今月中にクリアしてしまいたかった。

目指せ卒検合格!目指せクリスマス付近での免許取得。
その後は大学入学共通テスト(センター試験)対策――受験勉強だ。


渦雷(からい)は荷物をまとめ、席を立つ。
会議室から廊下に出たところで、(さくら)に後ろから声をかけられた。

「……6月……戻ってくる……。」
「――え。」

振り返り、桜のほうを向く。


――戻ってくる??……何が?


桜は相変わらず無表情で見つめてくる。
何かの情報だろうが、ワードが少なくて理解ができない。

「それまでは……。」
「桜さ――あれ?2人でお話し?」
「……。」

桜は数秒間黒沢(くろさわ)さんを見つめ、足早にその場を去った。

「えっ!行っちゃうの!?――桜さん!?」

どうやら黒沢さんは桜に用があったみたいだが、桜は黒沢さんには用が無かったらしい。
触れず(ノーインフォ)の5課は扱いが難しかった。

渦雷(からい)は奇しくも聞きたかったことを、秘匿班(スカウト)の上司である黒沢さんに邪魔されてしまった。
意味を考えていると、黒沢さんが話しかけてくる。

「――えーと。ごめん。……邪魔したね。」
「いえ。大丈夫です。では、失礼します。」
「うん。お疲れ様でした。」

渦雷(からい)は黒沢さんと別れ、エレベーターホールへと向かう。
着替えたあとは教習所の卒検だ。……気を引き締めなければ。


オフィスに戻り、仮眠室で更衣をする。


「あ、渦雷(からい)リーダー!ちょい待ってー!」

仮眠室から出ると、晴野が呼びかけてきた。
デスクから晴野が近づいてきて、小さな白い袋を渡される。

「これ!良かったら渦雷(からい)リーダーに!」
「――お守り?」

入っていたのは交通安全のお守りだ。
濃紺の生地に金糸で文字が織られており、とても綺麗だった。
……あれ?


――ん?デジャヴ……。あの、晴野さん?まさか、発信機とか入ってませんよね??


晴野に視線を向ける。
雨宮以外の他の班員も驚いたような視線を向けていた。ということは――


――待て。俺……まさかの死亡フラグ立ってないか!?卒検受けて、今日で合格しておきたいんだが!?


焦る渦雷(からい)と班の雰囲気を察したのか、晴野が慌てて口を開く。

「ちょ……!!何も入れてないっすよ!!マジで!!!……渦雷(からい)リーダー、今日、教習所の卒検っしょ?私、教習所の卒検で事故りかけたことがあるから、お守りにと思って……。今朝、丁度

しね。」
「そうか……。ありがとう。……俺の身が安全なら良いんだ。うん。何事もないなら……。」
「……ただの、エールっす……。」

晴野は落ち込んだ。

「ありがとう。頑張って合格してくるよ。」

渦雷(からい)は笑い、晴野に礼を言った。
班員も安心したのか、このやり取りに笑っていた。

「え……?な、何ですの?そんなに面白いところ、あったかしら……?」

晴野から渡されたお守りの中に、発信機が仕掛けられていた事実を知らない雨宮のみが困惑していた。


そして、班員は渦雷(からい)を送り出す。

「行ってらっしゃい!」
「お先に失礼します。――行ってきます。」

班のドアから出て、廊下を歩き、階段で1階に降りる。
特捜の建物を出ると、渦雷(からい)は駅に向かって歩いた。

寒いが、天気はいい。晴れている。
路面も凍っておらず、検定中にスリップはしないだろう。
苦手なりにいっぱい練習した。恐らく大丈夫だと思いたい。


――どうか合格しますように。


晴野に渡された交通安全のお守りを手に、渦雷(からい)は教習所へと向かうのだった。

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登場人物紹介

本編主人公の渦雷(からい)です。

1課2係7班のリーダーです。

皆さまどうぞよろしくお願いいたします。


雪平、すまないがこの書類も頼む。総務から雪平宛だ。

1課2係7班、サブリーダーの霧島(きりしま)です!

よろしくな!


あ、雪平!

僕、1時間後に用事で出るから、総務の書類終わったらついでに持って行ってやるよ!

あ、ども!晴野(はれの)っすー!

1課2係7班でオペレーターやってるよー!

よろよろ!!


って、ちょ……ゆっきー(雪平)!!!?無事かー!!?

皆さま初めまして。

1課2係7班の雪平(ゆきひら)です。

事件が無い時は、事務や情報整理、書類整理をメインにしています。

共感覚を持っていて、僕の場合は【色】が見えます。

どうぞよろしくお願い致します。


さて、この書類を…あっ!

(バッサー。書類を床に雪崩のように落とす。)

――うわあああぁ!すみませんんん!!

皆さまごきげんよう。

1課2係7班、雨宮(あまみや)ですわ。


雪平、こちらに来た書類はまとめましたわよ。

1課2係7班、嵐山(あらしやま)よ。

よろしく。


雪平。こっちが処理済、こっちが未処理のものよ。

量もあるし、天道に返す分は空きデスクに積んでおくわね。

1課2係7班、情報班員の東雲(しののめ)だよ。

基本、引きこもっているけど…よろしく。


あれ。ネフィリムからチャット入ってる…。

…了解。〔また出たヤバ案件ww面白そうだし、緊急案件RTA参加するので詳細キボンヌw〕…っと。

いつもネフィリム達には手伝ってもらってるしね。

――さて、頑張りますか。

あ、どうも。公安部外事課、天道(てんどう)どす。

警視庁に勤務しながら、青少年特殊捜査本部の1課2係7班の上司をさせてもらっとりますぅ。

ホンマは古巣に戻るか、1課1係に行きたいんやけど…まぁ、よろしゅう頼んます。

警視庁の阿久津(あくつ)だ。

天道の上司だ。どうぞよろしく。

警視庁公安部所属の天笠(あまがさ)です。

1話のエピローグから本編に関わらせていただきます。

読者、そして1課2係7班の皆さん、どうぞよろしくお願いします。

うぽつwww

拙者はネフィリム!

3課1係4班のリーダーでござるwww

いやぁ、何卒どうぞどうぞよろしくでござるww

あ。上から緊急案件RTA入ったんで離脱シャース!ノシ

ホント人使い荒いwwブフォww

者ども!!調査(ハッキング)と工作(クラッキング)の時間ですぞ!!各自開始オナシャス!!

警視庁公安部内事課の斎藤だ。

…一応名乗ったが…俺の自己紹介、本当に必要か??

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