突然の乱入者 (12月13日20:50)
文字数 7,386文字
夜。
シャワーを浴びランドリーを回して戻ってくると、ネフィリムが訪ねて来ていた。
ミーティングルームのソファに座っている。
「お疲れ様です。ネフィリムリーダー、何かありましたか?」
「お疲れ様ですぞ、
「あ、
「僕も同じく。ネフィリム、こんばんは。来てくれてありがと。」
丁度のタイミングで
これで班のメンバー全員が揃った。
晴野がキッチンからコーヒーを持って出て来る。
トレーに乗せたコーヒーをネフィリムの前に差し出した。
「そうだったのか。…お仕事中立ち寄りいただきありがとうございます。ゆっくりしていってください。」
「いえいえこちらこそ、皆さまにはいつもお世話になっておりますからなぁーww」
「んで、ネフィリム。天道の件なんだけど――」
その時、第二ロックドアの開錠音が響き、班員とは関係ない人物が乱入してきた。
「やぁ、1課2係7班のみんな!!
新上司
のやたらきらきらしい、天然パーマの男性が乱入してきた。
オーダーメイドの仕立ての良いスーツを着て、背景に薔薇を背負っているような雰囲気を醸し出している。
だが、騙されてはいけない。
こいつは
こんな調子なので、親の七光りも相まって世渡りが上手い挫折知らずらしいが、中身がいただけない。
プライドはエベレストより高く、自慢が多く、下に見た相手にはとにかく嫌味と皮肉のオンパレード。
自己中心的で自分が正義、体裁重視、おまけに自信家のナルシスト。
――何で、コイツがここに来ているんだ!?
あの天然パーマの髪を引っ張ってスキンヘッドにしたくなる程、うっとうしい。
正直近くにいてほしくない存在だ。
「あ、そんな通達来てないっすよ。お前の頭の勘違いっす。帰れ。」
晴野がバッサリと切った。
だが、
「なぜだい?ぼくは1課2係の上司候補筆頭でもあるし、優秀な班に優秀な上司はつきものだろう?」
「全て勘違いっす。帰れ。」
「お帰りはあちらですぞ。…どうぞお早めに病院で強めのお薬処方してもろて。」
「勘違い
再度、晴野がバッサリと切り、ネフィリムと
「だが、心配しなくていい!!なぜならここに、この僕が来たのだから!!!」
「……。」
晴野がイラつき、ポケットから小さめのスタンガンを出す。
…本当に話を聞かないよな。はぁ。……やるか。
「……我々の上司は
あなた
ではありません。速やかにお引き取り下さい。」「なんでだい?この班は遅かれ早かれ僕が管理するんだから、別にいいだろう?」
渦雷は再度追い返そうとする。
「あなたは必要ありません。お引き取り下さい。」
「でも、
失踪した
んでしょ?天道。」――なかなか天道が帰ってこないと思ったら…失踪!?本当に行方不明になったのか!!
付け入られる隙を与えてはならない。毅然と……堂々と振舞え。
「天道さんは、
今は
席を外しています。まぁ、毎日顔を出すタイプではないですが、PNGの件もあります。明日明後日くらいにはここに戻って来るでしょう。」「いいや?戻ってこない。だって――協力者に裏切られて捕まったんだから。」
「……。」
やはり、罠だったか。
「個人情報もバレているし、公安にはもう居られないだろうね。だから、次の上司(正確には上司候補)である、この僕が!わざわざこの班に来てやったんだ。」
「個人情報、ですか。」
「上司が揃って不在になっているこの班に、わざわざ情報を与えてやってるんだ。――感謝してほしいね。」
ちなみに、本当に新上司になるという通達は
出ていない
。パソコンの新着情報にあれば晴野が発言してるし、ハッカー同窓会の3人が現在進行形で情報を確認しているが、通達は無いようだ。
つまり、上司は天道のままだ。
それなのに班を運営する気満々で、勝手に偉そうに指示してきて、班員は怒り心頭だ。
本当に、なぜ、生天目がここに来てるんだ。
説明があったとしても普通は別の人を寄こすだろ。特捜の上層部とか。
早く追い返そう。
そして誰か頼れる大人を探そう。
失踪が確定なら、明日の朝一で総務に連絡を入れよう。このまま
「情報ありがとうございました。ですが、お引き取り下さ――」
「だが、安心したまえ!僕は帝都大学を華々しい成績で卒業し、市民を守るために警察に入ったんだ!!!君たちなんかよりも素晴らしい成績でね!!!」
右前髪ファッサアァァアァ…!!!
揃えた指先で、前髪を跳ね上げる。
まるで背景に薔薇の花が咲いたかのような、少女漫画のノリでキラキラしく陶酔に入った。
自身の優秀な学歴について触れ、勝手に語りだした。
やばい。陶酔に入った。
こうなるとずっと自慢を喋りまくる。鬱陶しさもさらに増すのだ。
晴野が怒りの形相でスマートフォンを握りしめている。
他の班員はドン引きしていた。
「ファッ!?何ですかこの人。噂以上でござるよ…。リアルにドン引きですぞ。」
ネフィリムが信じられないものを見たと言わんばかりの表情で
…そっちでもこんな上司、欲しくないよな。わかる。
というか、こんなに目立ち過ぎる人間を公安に置いておく理由がわからない。上層部は何を考えてるのだろうか。
「僕の最終学歴、オッ〇スフォードだけど?この僕より優れているって?…舐めてんのか?」
霧島は地味にキレてた。
…そういえば霧島もプライドエベレストだった。完全に忘れていた。
もしかしたら熾烈な謎バトルに発展するかもしれない。その時はぜひ廊下で頼みたい。
「こんな優秀な僕が、IQの高い班を回す!そして更に僕は美しく輝くんだ!!」
左前髪ファッサアァァアァ…!!!
揃えた指先で、前髪を跳ね上げる。
まるで背景に薔薇の花が咲いたかのような、少女漫画のノリでキラキラしく陶酔に入る。
生天目は見た目も整っているので、かなりの自慢らしい。
「……いつも、あの天パの髪をむしりたくなる衝動にかられるんだよな…。」
この状態で
ため息交じりに発言する。
「おー。禿させようぜ。」
「ねぇ、誰か、バリカン持ってる?」
「むしった方が早くない?」
「素手で触りたくない。汚そうだ。」
「あー。持ってないですねー。」
晴野、
なるほど。バリカン。
その手があったか。今後の参考にしよう。
「まぁ、僕はコネもあるし、もちろん金もある!!約束された将来の土台に、君達がなれることを誇りに思うといい!!」
後ろ髪ファッサアァァアァ…!!!
顔を勢いよく振り、両手で顔を押さえる。
まるで背景に薔薇の花が咲いたかのような、少女漫画のノリでキラキラしく陶酔に入る。
自分の優秀さをこれでもかというくらいに語りだした。
へぇ?
土台
、ねぇ??班員の目に殺気が宿る。
だが、
「あんなに頭を振って、クラクラしないんですの……?」
「大丈夫だからこそ、あんな言動が取れるんじゃないかしら?」
それに対し、嵐山がディスった。
「うーん。漫画とかではキラキラが飛んでそうですが、現実ではフケしか飛んでなさそうですよね…。」
雪平は率直な感想を述べた。
「了解。みんなー……次から生天目のこと、フケ
晴野は
「僕の祖父は総理大臣!父は警察庁長官!母は伊集院グループの末娘!!こんな華々しい血を引く僕に出来ないことは無いし、負けることもない!!そして、この高貴な血筋には、このフルオーダーメイドのスーツがよく似合う!!」
再び右前髪ファッサアァァアァ…!!!
揃えた指先で、前髪を跳ね上げる。
まるで背景に薔薇の花が咲いたかのような、少女漫画のノリでキラキラしく陶酔に入った。
家の自慢を終え、今度はスーツの自慢を始めたようだ。
「あらまぁ、伊集院。へぇ…そうですの。……うちより少々格下ですわね。」
「僕だって貴族と華族の間に産まれたんだけどな?高貴な青い血も入ってるんだがな?」
この2人のほうが生まれが良いようだ。その気になれば親の権力でぶん殴れそうである。
…既に負けてるぞ。
「よくあれだけ陶酔できるよね……これも馬鹿って名の才能なのかな。」
すると、急にネフィリムが笑いだした。
「草wwwwwwブフォwwww
「阿久津とも倉木(
どうやら呆れすぎて笑いの方に吹っ切れたらしい。
晴野が補足を入れると、ネフィリムは更に笑いだした。
「ファーーーッwwww拙者、生天目アレルギーでござるうううwwwwww無理ぃいいいwwwプギャーwww金輪際一生関わり合いになりたくないwwwwwwこんな上司嫌だwwwww」
「ネフィリム、多分、この班全員が
「わぁ、偶然来ていたネフィリムが死にそう……。変なもの視界に入れる結果になってごめんね。」
ネフィリムに晴野と
すると、第一ドアロックの開錠音が響き、複数の足音が聞こえてきた。
「――お。そろそろかな?」
晴野が楽しそうに第二ドアロックを見る。
すると、第二ドアロックの開錠音が響き――4人の男性が入ってきた。
「やぁ、こんばんは!お疲れ様ー!」
「お疲れ様です。無事か!?」
「うぇーい!お疲れぃ!…うわっ、本当にヤバいの居るwwwクソうけるwwwww」
「お邪魔します。みなさんはじめまして――ん?ああ、コレが噂の。……噂以上だな…何だこれ…。」
入ってきたのはラムダ、斎藤、
「ラムダさん、斎藤さん、
晴野は陶酔を続け、自分の世界に浸っている生天目を指さした。
前半は希望に満ち溢れていたが、言葉の最後の方は絶望していた。
晴野は情報確認ついでに、自分たちでは無理だと判断し、関わりのある大人に助けを呼んでいたのだ。
本来なら総務や人事を通すのだが、時間が時間のため不可能だった。
入ってきた4人は
「www何これwwww無理wwwwうはwww」
「わー……はじめて見るわ、こんなん…。うん、お疲れ様……。」
「すみません。彼は公安の表の…お飾りの者です。お目汚し失礼します。」
「こら、本当のことを言わないの。親の権力だけはあるんだからさ。…本物は噂以上だったみたいだけど…。」
顔を引きつらせた斎藤が
ラムダとしては想定外の話しの通じなさだったようで、若干引いていた。
あ、なるほど。本当にお飾りだったのか。
優秀ではあるが、自慢とプライドで使い物にならないと見た。
「あー…えっと?
「――ん??何だい?このスーパーエリートな僕に、何か?」
「君、
ここの上司じゃない
でしょ。この後はこっちで引き継ぐから、帰って。」「
ラムダは満面の笑みで第二ロックドアを親指で差した。
斎藤は帰りの車の提案をした。
班の上司の天道が警察ということもあり、
「離したまえ!僕は1課2係7班の
新上司の生天目
だ!班の運営の邪魔をするな!!」「そんな事実はありません。」
「そんな通達、1つも届いてないっす。」
「この人、班の乗っ取りを計画しています。」
「僕らの上司は現時点では天道です。仕事の邪魔ですので、お引き取り下さい。」
生天目の発言に、
他の面々も頷いていた。
それを聞いたラムダの目がすぅっと細くなる。
「……だってさ。
お父様
のこともあるし、あまり派手に騒がないほうが良いんじゃないかな?生天目君
?」「乗っ取りは
外聞が悪いよ
。ものすごく。経歴がかなり傷ついちゃう
かも!」ラムダと
…両者とも目が笑っていないが。
「――っ……。ま、まぁ、スーパーエリートな僕はこの後この班を任されるから、事前に挨拶に来てやっただけだからな。今日のところはこのくらいにしてやろう。」
班員は大人を呼んでくれた晴野と、駆けつけてくれた大人に感謝した。
斎藤が一歩前に踏み出す。
「……
「いや、車で来たからいらない。帰る。」
「そうですか。お疲れ様でした。」
斎藤は
生天目は斎藤を一瞥してオフィスから出て行った。
第一ドアが閉まる音を聞き、頭を下げていた斎藤が体を起こす。
オフィス内に居た人物はみな一斉にため息をついた。
「何というか……噂…いや、予想以上だったな。うん。
彼が言ってた意味が分かった
わ。……本気出そ。」「いやぁ……濃かったですねぇ…エッグ。」
ラムダが思案し、
残りの大人2人も疲れ切っていた。
雪平と嵐山がデスクから椅子を持ってきて、ラムダたちに勧めた。
晴野と
全員椅子に座り込む。
コーヒーメーカーで出来あがったものから彼らの下へ運んだ。
「いやぁ…すまないね。追い払ったらすぐ帰るつもりだったんだが……衝撃が、うん、大きくて。」
衝撃が大きかったのだろう。着席時は椅子に崩れるように座っていた。
「ごっめんねー?うちの先輩、ちょっと今日ゴタゴタに巻き込まれて疲弊してんの。椅子と飲み物超助かるー。ありがとー!!」
焔はコーヒーを受け取り、礼を言った。
一口飲み、リラックスする。
ラムダは疲弊している不知火に声をかける。
「すみませんね。
「いえいえ…。あ、はじめまして。挨拶が遅れてすみません。
「ああ、そういえば自己紹介してませんでしたね。ラムダです。こっちが斎藤。どうぞよろしくお願いします。」
「斎藤です。よろしくお願いします。」
「不知火です。どうぞよろしくお願いします。」
「1課2係7班の皆さんもはじめまして。
不知火の挨拶に、班員も挨拶を返す。
疲れ切った場の空気がだいぶ和んだ。
「にしても…。まさか天道が居ないだけでこんなにヤベェのが
「だからって好き勝手が許されるわけがないんだけどねぇ。天道に関しては、今
頑張ってもらってるところ
だから、あとは証拠待ちだし。」「!?天道さんの行方を知ってるんですか!?」
ラムダは一瞬驚いたが、冷静に切り返す。
「うん。協力してもらってるよ。…君たちには言わなかったんだねぇ。まぁ、
「――わかりました。」
班員を代表して
捕らわれてはいるが回収する――天道も了承したうえでの囮なのだろう。
俺らが口を挟む領域ではない。
生きて…無事に帰ってきてくれたらそれでいい。そう思うことにした。
「さて。俺らって全員、上司用の仮眠室使えるのかな。」
ラムダが切り出した。
今晩は泊まるつもりなのだろうか。
確か、上司用の仮眠室には1泊程度なら何とかなる程度のアメニティが揃っていると聞いたことがある。それを使うのだろう。
「入館できるなら使えるはずですよ。」
「あれ?先輩、泊まるんですか?」
「俺は泊まらない。天道のことがあるから、もう行かないと。だが…無いとは思うが、明日朝一番で
「あー…。じゃぁ、俺が泊まりましょうか?警察ではないですけど、追い返すことは出来そうですし。その後は
「ああ。申し訳ないが帰る。」
「あ。でしたら、俺も泊まります。別件で朝一に
「本当は俺が居たかったんだけどねぇ…。焔さん、斎藤、頼んだ。」
「了解でーす。――1課2係7班のみんなー。何かあったら気軽に呼んでな!」
「はい。――同じく。明日の10時までは
正直、始業前に突撃されたら対応に困る。
彼らの申し出はありがたかった。
「お心遣いありがとうございます。…何もないことを祈りたいですが、よろしくお願いします。」
他の班員も口々に礼を言い、頭を下げるのだった。