ハッキングの裏側 (11月5日21:00)
文字数 4,612文字
夕飯、シャワー、洗濯を済ませており、服や洗面道具の片付けの体で仮眠室に入っている。
監視の為に、男子仮眠室のドアは少し開けたままにしている。
女子の方は監視担当が男性のため、ドアを閉めていた。
睡眠時間になると公安の人が仮眠室に一緒に入って来てしまう為、チャンスは今しかなかった。
入室後、即座にスマホでメッセージアプリを開く。
情報共有と同時進行でロッカーや鞄に洗濯ものを片付けていく。
事前に
臨時で作った
関係者
用のグループチャットに、東雲がまず書き込んだ。東雲:〔本日
晴野:〔20時頃に全オペ宛に上記の通知が来てました。すぐに動いてくれたみたいっす。あー腹立ったぁ。〕
渦雷:〔助かる。だが、現状はまだ監視があるな。〕
東雲:〔監視についてもギリギリの行為って言っといたから、何とかなって欲しいよね。〕
霧島:〔天道さんより連絡あり。【裏】の接触に成功済。このあと担当が割り振られる予定。〕
ネフィリム:〔このまま監視なくなる方向で進んでクレメンスwつい先ほど上を通して協力依頼届きましたでござるwwwオナシャスwwアストライアー氏ドンマイw〕
晴野:〔とんだ不運だったわww協力あざーすww〕
兄様:〔天道のスマホのハッキングデータは
晴野:〔兄貴ぃwwありがとう!!助かったぜww今んとこ天道とか天笠にバレてないっぽいww私もびっくりだわwてか、ハンドルネーム「兄様」かよww〕
兄様:〔うぇーいww兄様でーすwww〕
ネフィリム:〔草wwwてか『あなたのメイドちゃん』の俺の嫁ももにゃたんとアイリ様がスマホに来てくれたんだから、天道氏には感謝してほすぃww〕
雨宮:〔あら、だから「画面に現れたのは人間と言う体で話せ」という指示でしたのね。〕
渦雷:〔さて、本題に入ろう。第五段階は進められそうか?〕
雪平:〔今回の件を受けて、天笠さんに【裏】の監視が付いたようです。【裏】は僕らの状況を把握しているため、一部情報は開示してくれるとのこと。明日には連絡が来る予定です。〕
嵐山:〔天道に関しても状況はあまりよくないみたいよ。天笠の監視が厳しすぎる。天笠の部下が交流会の情報をあげないとも限らないから結構心配よね。天道が上手くやってくれていることを祈るわ。〕
雪平:〔協力者の保護については、天笠さんの部下以外の公安をつける予定ですが、邪魔してくる可能性が高いです。念のため別で監視班の依頼はしていますが、楽観視はできないでしょう。〕
渦雷:〔他に何かあるか?ないなら解散する。そろそろ監視がヤバそうだ。〕
雪平:〔男子はないです!〕
晴野:〔女子もなし!〕
東雲:〔なし〕
兄様:〔ほんとクソ上司ばっかで大変だなぁw頑張れよwノシ〕
ネフィリム:〔また何かあったらここに書き込みますわww乙ノシ〕
渦雷:〔各自解散。お疲れ様でした。〕
時間差で各自が仮眠室から出ていく。
次に女子仮眠室から
2分ほどして
更に1分後に
最近は常に固まって行動しているため、同じタイミングで入室しても怪しくはない。
だが、やはり疑いの目はあるのだろう。微妙な視線を感じる。
話さずに同時進行で片付けていたのが幸いしたのか、特に何か言われることは無かった。
この後は各自残っている仕事や、学生は自習や課題の時間にする予定だ。
雨宮は学校の課題を、晴野はレポートを各自のデスクで書いている。
公安の人はデスクに人が集まっているのを確認すると、デスク側に移動してきた。
雪平の隣にある、東雲のデスク(資料室に引きこもっているため、普段は使われていない)に座り、監視を再開する。
――やはり、見張られていると集中できないな。
渦雷は適当に問題を解きながら、作戦内容を思い返すことにした。
――20XX年11月3日 21時30分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス 【回想】
時系列は暴露大会の後。
全員の暴露が終わり、各自おつまみを食べ始めた時だ。
ふてくされた霧島がウイスキーを飲みながら聞いてきた。
「で、この後どうすんだ?どこまで実行するつもりだ?」
「…それは…」
「天道を
口ごもる
霧島は晴野に言葉を返す。
「だが、晴野が情報班員だったことはバレてるだろ。特捜内に犯人が居ると思わせることは大事だが、すぐにバレたら意味がない。」
「いやぁ、ちょいうちのリアル兄貴に頼ってみようかと。」
「兄!?いるの?
「自衛隊の情報部門に居る兄貴っすー。
「それ、懲戒免職とかいくんじゃ…。」
「バレなきゃオールオッケーです!!」
「いや、ダメだろ!?」
霧島の心配をよそに、晴野はやる気満々だった。
「だけど、この班以外でハッキング出来る人にやってもらえないと厳しいのは事実だよ。
「なので、兄貴にはこのノーパソからやってもらおうかと。これならバレても私の私物だし、
晴野は
天笠は班の監視をする準備を進めていた。
この2ヶ月間見張りからの情報を受け取っていたのは、テロとの関わり以外に班の内情を把握する為でもあったらしい。
なので、わざと天笠に隙を与えて班を監視させ、天道の動きに制限をつけさせつつ裏作戦で証拠を集めて、天笠の目論見をつぶす事が目的だ。
上手くいくなら、今回の事件で班への監視を強制的に解かせようと思ってもいた。
その為に第一から第五段階まで作戦を用意していた。
「アストライアーのお兄さんに、警察の知り合いが居れば一番いいんだけど…。そうは上手く行かないよね?」
晴野と同じくノートパソコンでウイルスを構築していた東雲が、今後の方針に触れる。
「ハッキングにて手に入れたデータをこちらに転送してもらえば、公安の人に渡すので安心してください。」
「なら、ノーパソ丸々渡してやんよ!見られて困るもの特にないしー!」
雪平が東雲の言葉に反応し、晴野が答えた。
天笠が班を支配しようとしている件が露見したのは、雪平が発端だった。
宿泊準備の荷物と食材を持ってオフィスへ帰還した際、雪平の乗る車の担当が知り合いの公安の人だったらしい。
その際に符牒で書かれたメモを受け取っていた。
メモの内容は以下の3点だった。
・この2ヶ月間の監視はテロのこともあるが、天笠の思惑も関わっていること
・天笠が班の乗っ取りを考えていること
・PNG(ペルソナノングラータ:国外退去及び再入国禁止措置)の情報が相手側に漏れている可能性が高いこと
特に最後の内容は危険すぎた。
元々、阿久津が関与していた協力者が未だにスパイと関わっていることに疑問だった。
確かに絞り取れるだけ搾り取ろう、という利益の追求もあるだろうが、阿久津は牢の中。
別の協力者を獲得しに行ったほうが安全なはずだ。
本当に情報が漏れていた場合、この任務は失敗するし、班員も危険だった。
そうなると…また天道さんに疑惑がかかり、班も巻き込まれる可能性が高い。
更に天笠さんの監視も強まることが懸念される。
天笠の性格から、この班を支配することを考えるのならば――天道を外して自分の部下を付け、利用しやすい班を作り上げることができるチャンスだった。
これらを基に、霧島が予測する。
この2ヶ月間わざと現場から離しつつ、仕事を減らさせる。
勘を鈍らせ、仕事に飢えていたところに
そうして更に監視を強めてコントロールするのでは?と。
霧島の考えは恐らく正解だろう。
いつ監視が付き始めるのかわからないなら、いっそのことコントロールしてしまおう。
こちらで主導権を握ってやろう。
そういう思惑もあり、天道のスマホをハッキングする考えに至った。
天道を被害者にしてしまえばいい。
そして、何か事が起これば天笠は監視を強化してくるはずだから。
この段階ではまだ詳細が煮詰まっていなかったが、晴野と東雲が率先して、班の復讐も兼ねて動いてくれていた。
だが、班の人間がハッキングに関わっているとバレてはいけなかった。
疑心暗鬼にしておく必要がある。
なので――
「さて、ウイルスの構築は終わったよ。アストライアーは?」
「終わりましたー!ヴォイド、コード転送よろ!合体させてやんよww」
「おk、転送しまーすw」
「さて、ではウイルスは出来たから、ネフィリムに送りますかー。よいしょ、と。」
晴野は作成したウイルスコードをネフィリムに転送した。
ネフィリムには画面に現れるキャラクターの選定などを任せることにしていた。
そう――完全分業制で、怪しい人間ほど天道のハッキングに関わらない作戦だ。
なので、疑われたら「人間の女性が画面に現れた」方向で話をして、疑いをはねのける算段だ。
ただし、ここから思わぬ方向に話が飛んだ。
晴野と東雲が揃って驚きの声をあげたのだ。
「どうした!?」
「いやぁ…その、天道のスマホのハッキングの件が…
「ちょ…。ちょっと待って!?…え、晴野も
「え、ちょ、当日のハッキング担当名乗るやつ、うちのリアル兄貴ってこと??マジ??」
「てことは、送信主――ナンバー5が、ネフィリム…?」
なんと、とんだお祭りに発展していたのだ。
「あ、ネフィリムからメッセ来てる…。〔ガチの匿名の
「兄貴からもメッセきましたわーwwwウケるwwww衝撃だわwww何やってんだ兄貴ww」
「カオスwwwwwwwまぁ、目的は一番効率よく達成できるかな。詳細も共有も心配なさそうだし。よかったね。」
「おうwwwリアル兄貴ぃwww他も頼むよwwww」
このお陰か、ハッキングの一件は成功したのだった。