初接触 (12月26日20:30~20:50)
文字数 6,347文字
ネオンが煌めく街を歩く。
「
「
天道は
途中寄ってくるキャッチを上手く躱しつつ店の前に辿り着く。
――いよいよか。
霧島は気を引き締める。
霧島の今回の目的は、カルト宗教
あくまで自然を装うため、指名なしでぶっつけ本番で行く。
出会えればそのまま名刺交換し、場内指名して関わりを持っておく。
場内指名が無理な場合は営業メールに何度か返信し、次回の来店予約を入れて本指名する。
万が一、愛人(百合香)が席につかなかった場合は愛人の離席のタイミングに合わせて、わざと近くを通りかかって軽くぶつかる作戦だ。
次回の接触の際、その謝罪も兼ねて指名する。
年内はあくまで実績作り。
天道はあまり気負わず挑んで欲しいと思った。
要は配役さえ守ってくれれば良いのだ。
「――行くで。」
「――ああ。」
天道と霧島は小さな声で短く言葉を交わし、本日の戦場に乗り込んだ。
――20XX年12月26日 20時50分 都内某所 キャバクラ
「いらっしゃいませ。」
「2名で。俺は
「ご案内いたします。――2名様ご来店です。」
ボーイに案内され、店内へと進む。
シャンデリアが輝くきらきらした店内に進み、案内された席に着く。
ボーイが離れ、最初に切り出したのは天道――坂井だ。
「いやぁ、平田さん。この前は納品ありがとうございました。」
坂井は怪しくないよう、架空の仕事の話を振った。
霧島――平田も天道の発言に乗る。
「いえ。あのあと不具合は出ていませんか?」
「いやぁ、もう、バッチリですわ。ええ仕事してもらいました。また次回もお願いします。」
「ありがとうございます。引き続きよろしくお願い致します。」
にこやかに仕事の話をしていると、
「はじめまして。
「坂井さん、ご指名ありがとうございます。隣の方ははじめましてかな?
――マジかよ。引きええな!?手筈通り、この後交代のタイミングで場内入れろよ?
――嘘だろ!?初っ端からかよ!!…交代のタイミングで指名だよな。よし、やるか。
坂井と平田は心の内を表情に出さず、にこやかに対応する。
「
「坂井さん、今日も会いに来てくれて、ありがとうございます!!えー、じゃぁー…
「俺はビールで。」
坂井は
天道は霧島を連れてくるために、昨日のうちにこのキャバクラを利用し、接点を作っていた。
余程のバカか、うるさくなければ……仕事の邪魔にならなければそれでいいのだ。
暗めの茶色の髪に、下の方だけパーマを緩くかけた髪をハーフアップにしている。ピンク色のふんわりとしたミニドレスを着ていた。袖はパフスリーブで、その下は総レースになっており、手首のあたりも締まっているので機能的だ。胸のあたりがリボンのようなデザインになっており、
ネイルもシンプルながら可愛らしい、ピンクを基調としたデザインだ。
いかにも庇護欲をくすぐられるような、妹系の可愛い感じの女の子だった。
「あ、はじめまして。平田って言います。」
「平田さん!はじめまして~。…あ、私もドリンクいただいていいですか?」
「あ、どうぞ。…ですが、できればこの中から選んでほしいです…。」
平田はあまり金銭的に余裕がない設定を守り、少々申し訳なさそうに2,000円前後のメニュー欄を指す。
「じゃぁ、スクリュードライバー、いただきますね。平田さんはどうされますか?」
「えっと。では…マティーニを。」
「わかりました!――お願いします。」
注文する
坂井と話しながら、さりげなく悩みがあることをこぼすのだ。
だめなら次回に持ち越して、その時に悩み相談だ。
第一目標は空気感を合わせて、一緒に居ると落ち着くと言ってもおかしくないようにすること。
いける。やれる。やってやる。
注文をし終えた百合香は平田の方を向く。
黒髪ストレートのロングヘアで、綺麗系の美人だった。
スタイルも良く、そのスタイルの良さを活かすような体のラインが出る、黒とアイボリーの2トーンのミニドレスを着ていた。スカート部分は深めのスリットが入ったタイトスカートになっている。
腰には細めの金色のチェーンを巻いている。腕には金色のバングルを付けていた。
首元まである黒色のシースルーの半袖の上にドレスを重ね、足元も黒の薄手のストッキングを履いているため、見えてはいるが肌色の面積自体は多くはない。
ネイルはアイボリーを基調としたショートネイルで、オフィスに出勤しても規則によっては怒られなさそうなほどナチュラルなデザインだった。
だが、品があるかというとそうとは思えない。あくまで上品
っぽい
感じだ。それに、本物の清楚でもない。
「偽清楚系」もしくは言い方が悪いが「清楚系ビッチ」といえば分かりやすいだろう。…教祖の「清楚」の判断基準は「大人しそうに見える」「黒髪ロング」の女の子なのかもしれない。
――なるほど。これが教祖の好みか。確かに嵐山も狙われそうだな。同じ綺麗系美人だし。というか、これを品があると言うな。
霧島にとっては色々と不満だったが、これは仕事。
にこやかに、疑われることが無いように配役に沿って振舞う。
「はじめて来たんですが、まさかこんなに綺麗な人がついてくれるとは思っていなかったので、驚きました。」
「あら、ありがとうございます。」
霧島は笑顔で
だが、ここで会話が途切れてしまう。
……これは仕事。
配役に沿って言葉を選ぼう。…さぁ次の話題だ。
「キャバクラってこんな感じなんですね。」
「キャバクラ、来たことがないんですか?」
「実はそうなんです。いつも家で1人さみしく飲んでますので。」
嘘は言ってはいない。
霧島は基本宅飲み勢だ。
自宅で好きなおつまみと好きなお酒を、映画やクラッシック音楽と共にゆっくり楽しむのが好きだった。
稀に会員制の高級バーにも行くが、誰かと飲みたいときか気が向いたときだけだ。
「そうなんですね。でも、こうしてお話ししながら飲むのも楽しいですよ。」
平田も微笑み、ほんわかとした空気が流れる。
だが、平田――霧島の本心は真逆だった。
――ヲイ、
何だコイツ
。会話が続かないんだが?営業職をしていた霧島にとってはかなりの衝撃だった。
本当に会話が続かないのである。
まさかの
雪平はほんわかしていても、ちゃんと色々喋ってくれるのだ。ここに
打ち解ける前の唐突に始まる探りあい状態の飲みも、人狼ゲームみたいである意味楽しかったが、暴露大会以降は裏を考えずに楽しく飲めるようになった。
……こうしていると、次から次へと話題がぶっ飛んでいく雪平との飲みが恋しくなる。急に話題が変わるのでついていくのが結構大変だが、【色】だったり、そこから派生した各話題の知識量がかなり多いので、それはそれで楽しいのだ。
――もしかして、この会話の続かなさ(慣れてなさそうな感じ?接客下手?)を清楚や上品のカテゴリーにぶち込んでんじゃないだろうな?教祖??
霧島は内心呆れ、悩んでいた。
これは…営業時代に培ったトークスキルで、会話をこちら側からぶん回していけばいいのだろうか?
だが、それだと設定的にやりすぎる気がする。
……この場合の正解って、何だ??
……。
……とりあえず、同類っぽく馬鹿のふりしてほんわかしておくか。
平田は本心を隠し、にこにこと微笑む。
百合香に、にこにこと微笑みを返される。
……これは仕事、これは仕事。今日はひたすらにこにこしていよう。
ほんわかした風を装っていると、ドリンクが届いた。
「あ、では、かんぱ~い!いただきます。」
「かんぱーい」
平田と
そのたびに微笑みつつ、のんびり飲むことにする。
一方、
グラスの世話や会話の回し方、話題の引き出しから見ても
「――そういえば、お2人のご関係は?会社繋がりとかですかぁ?」
しごできで優秀な
めっちゃ助かる。話題提供、ありがとうございます。
平田は微笑みを崩さず、
「はい。お仕事関係で坂井さんにお世話になっていまして。」
「平田さん、最近独立した社長なんよ!コード納品してもらっとんやけど、めっちゃ完成度高いねん。これからも一緒に仕事して欲しくて飲みに来ましたぁー。」
「え!すごぉい!!社長さん!!」
「いえいえ。最近やっとオフィスを構えただけの、新米ですよ。」
「コード、ということはプログラミング――IT系ですよね?わぁ…カッコいい……!!」
「そうですね。IT系でやらせていただいています。――あ!名刺渡すの忘れていましたね……!!すみません。オフィス持つまで今まで
平田はそう言い、慌てながら事前に公安が用意していた名刺を
ついでに
2人には名刺を受け取ってもらえた。
よかった。後は百合香からの連絡を待つだけだ。
その様子を見つつ、坂井が若干すねながら冗談を挟んでくる。
「えー?俺は??俺はカッコよくないん??
「坂井さんはもう十分カッコいいじゃないですかぁ~!!やだぁ~!!」
「えー、本当??」
「本当ですよー!!もー!!」
しごできで優秀な
相変わらず楽しそうである。
対して
「そういえば、平田さんはお顔立ちもはっきりされてますし…もしかして、ダブルさんですか?」
とても自然な動作なので、慣れているのだろう。
「あ、そうです。なので名前が『
「素敵な名前ですよね!とても似合ってますよ~!」
「ありがとうございます。俺も
これも嘘ではない。
配役決定時に見て、気に入っていた。
「…あ、お酒。どうしましょうか。お作りしましょうか?それとも何か頼みますか?」
平田は提案に乗る。
「ありがとうございます。では、これ飲んでみたいです。」
平田は2本あるうちの1本を指でさした。
「あ、こっちのハウスボトルですね。濃さはこのくらいでいいですか?」
「はい。大丈夫です。」
ついでにボーイを呼び、空いたグラスを下げて貰っていた。
「平田さん、どうぞ。」
「ありがとうございます。
「坂井さんもお作りしましょうか?」
「お、頼める??平田さんと同じやつ、同じ濃さでええで。」
「承知です!わっかりました~!」
なんだろう。この場は
……どうやって百合香に勧誘されればいいんだ、コレ??置物みたいだぞ。
にこにこしながら悩んでいると、坂井が話題を振ってきた。
「そや、
「え!いいんですかぁ!?ありがとうございます!!次はファジーネーブルにします~!!やったぁ~!」
平田は坂井のフリに乗ることにした。
「
「あ、では、私はシャンディガフを。」
百合香は飲み物を選んだ。
「
「え~!!
「ええでええで?頼みぃ?――平田さん、俺らはクラッカーとおつまみの盛り合わせでええ?」
「あ、はい。ありがとうございます。」
「決まりましたね??
――僕、
湧き出てくる疑問と不満を、手元のグラスに口をつけて一緒に飲み込む。
……これは、悩み相談は次回以降に持ち越したほうがいいかもな。
ここでいきなり仕事の悩みをぶっ放すのは違和感がある。
また、
そして、次回の来店で「静かに飲めるのが良かった」とかなんとか持ち上げて指名しよう。そうしよう。もう、それしかないわ。
そう思いながら、
再度、
飲んでいると、そろそろ
平田はフリーなので、女の子が変わるのだ。
「あ、そういえば――」
数珠には
――
来た
!!もしかして今日でまとめて目標達成できるか!?「――
百合香さん
。もう交代ですよね?その表情に浮かべた笑みは決して崩さないところから、彼女のプロ根性がうかがえる。
…さすが、しごでき
だが、今回は発揮しないでほしかった。こちらはカモになる気満々だったのだ。
平田と坂井は表情に出さないよう気をつけつつ、何も気づかなかったかのように振舞う。
「――あ、はい。…ごちそうさまでした。今度は指名してくれると嬉しいです。」
「はじめまして。
平田の隣には別の女の子が座った。
気が強そうな女の子だが、言葉は丁寧だった。
――勧誘する気はあるようだし、この後もう一度、席を立つタイミングで
とりあえず、今はほのぼのとした雰囲気で乗り切ることにしたのだった。