霧晴の共闘 (12月11日17:00)
文字数 3,869文字
歩いていると因縁をつけられた。面倒だが、上手く躱しながら駆け足で進む。
――本当に日本か、ここ?マジで治安が悪すぎる。
隊列を崩さぬよう、
ビルに入ると嫌な感じの匂いが漂ってくる。
……おうおう、吸ってんなぁ。甘ったるい刺激臭…
…
晴野を見ると、顔をしかめて左手と服の袖で鼻を覆っている。
晴野には軽度〜中程度の嗅覚過敏があり、この現場は辛いのだろう。顔色も悪かった。
耐えられなかった晴野は、ポケットから活性炭入りのマスクを取り出し素早く身に着けた。
とはいえ、これだけで全ての影響がなくなる訳ではない。相変わらず辛そうだ。
……仕事でなかったら速攻帰っていただろうな。スマン、もうちょい頑張ってくれ。
他の班員も顔をしかめていた。
大麻の匂いの感じ方は人によって違うようなので、それぞれどのように感じているのかは知らないが、不快な匂いであることに変わりはないらしい。
匂いの発生源は地下のようだ。
…万が一【ハッカー】が会合に参加していなくて建物内を探し回らなければいけない場合は、地下に行く必要があれば俺一人で突撃したほうが良さそうだな。
こんなところ、子どもに踏み込まさせられない。
会合の場所は3階の奥の一室。
――よし、誰も脱落していないな?霧島も付いてきてるな?
背後を確認し、目的の部屋へと入り口ドアから侵入する。
中には20名程がたむろしていた。
会合は始まったばかりなのだろう。酒を飲み、煙草を吸い、騒いでいるようだった。
テンションが高いように思えてくる。
【ハッカー】は……居た!!
手にDVDディスクを持っている。…おうおうおう。ここで流出させる予定でしたか。回収させてもらいましょうか。ちょうど渡そうとしている所じゃん?
「あ゛?何だテメェ。どこのグループの者だ?あ?」
室内に入ると、早速因縁を付けられた。
たむろしていた少年少女も立ち上がり、入り口近くに集まってくる。
【ハッカー】も酒を飲みながらこちらを不思議そうに見てくる。
――様子がおかしい。
涙目や目が充血した奴、やたらハイテンションになっている奴が多いな。汗ばんでいる奴もいる。
テーブルの上には灰皿と煙草と灰褐色の棒状のもの……
注射器は
うーん。この近辺を根城にしている売人は儲かってそうだなぁ。
そんなことを思っていると、どんどん距離を詰めてくる。
「
うーわ、チーム名ダッサ。
あと、眼前で叫ぶなよ。うるさいな。
殴りかかられたので。軽くいなす。
他の男女もこちらへ向かってきた。
もはや挨拶代わりの乱闘だ。
ザックと橘が出入り口を塞ぎ、晴野と霧島が前に出る。
――さぁて、霧島君のお手並み拝見といきますか。
晴野と霧島は素手で相手を制圧し、気絶させてそこらへんに転がしていく。
その様子を見て【ハッカー】は身の危険を感じたのか、3階の窓から飛び降りた。
近くの木に飛び移り、地面へと降りる。
慣れていないようで不格好だ。
霧島と晴野は即座に同じように窓から飛び降り【ハッカー】を追いかける。
両者ともに様になっていた。
焔たちは室内を制圧し、怪しいディスクやUSBを見つけ次第回収することにした。
討ち漏らした奴や激しく抵抗する奴は、片っ端から焔と橘とザックの3名でスタンガンで
持ち物や室内を物色し、見つかったのは1点のみだった。
DVDディスクを受け取っていた奴をプラスチックカフで拘束する。
ついでに【ハッカー】の持ち物と、拘束した男の持ち物も回収しておく。
「はなせ…放せやゴラァああああ!!」
「あー、はいはい。うるさいから黙ろうねー。」
「ぐあッ……!!!うううう……。」
焔は拘束した男に1発蹴りを叩き込み、大人しくさせた。
気絶はさせない。この後運ぶのが面倒だから。歩いてもらえるなら歩かせるほうが楽でいい。…まぁ、うるさかったり、車に近くなったら気絶させて運ぶけど。
「こちら
《こちら
「了解。」
晴野からの通信が返ってきた。
駐車場へと戻る途中で拘束した男を気絶させ、
パーキングに戻ると、車の確認を始めた。
エンジンや車の下部、タイヤ周辺を懐中電灯を使い、くまなく見ていく。
目を放した隙に爆発物や発信機が付けられていたら洒落にならない。
結果、何も仕掛けられていなかった。外は安全そうだ。
次は車内だ。
車内も同じように片っ端から確認していく。
座席の下、ドライブレコーダーなど確認したところ、こちらも何も見つからず、安全そうだった。
橘は車内で、焔とザックは車の周辺で霧晴を待つことにした。
一方その頃。
【ハッカー】は周囲にある物を倒しながら、フラフラと走っていく。
晴野と霧島は障害物を軽く躱しながら追いかけていく。
晴野はマスクを外して追いかけていた。
先にハッカーに辿り着いたのは霧島だ。
腕を掴むと相手は刃物を出し、霧島の腕を切ろうとしてきた。
慌てて腕を放し、後ろに飛ぶ。
追いついた晴野に対し、霧島はハンドサインを送る。
晴野は霧島の指示に従い、少し右に距離を取った。
「――あああああ!!!!」
【ハッカー】は再度霧島に切りかかる。
霧島は躱し、警棒(未展開)の柄で1撃叩きこんだ。
「ぐぁっ!!!」
【ハッカー】はナイフを落とし、地面に倒れ込む。
晴野は【ハッカー】の後ろに回り、プラスチックカフで拘束する。
霧島は警棒(未展開)を持ったまま、【ハッカー】に問う。
「なぁ、お前が盗んだ情報は、誰にどのくらい渡した?」
「……いう訳ないだろ――ッ!?」
霧島は警棒(未展開)の柄で顔面に1撃叩きこんだ。
利き手の左手で、右から左にスイングさせ、頬を打つ。
【ハッカー】の口からは血が零れた。
晴野はその間【ハッカー】が落としたナイフを拾っていた。
霧島の問いに合わせて【ハッカー】の首元に殺気と共に突きつけた。
【ハッカー】は青ざめた。――コイツら、
【ハッカー】はは警察かどうかすら分からない、裏の人間に詰められていることに恐怖した。
そんな【ハッカー】に霧島は再度問う。
「もう一度
だけ
聞くわ。盗んだ情報は、誰にどのくらい渡した?」「――!!!さ、さっきの所で1人に渡した!!この後夜10時に1人予定がある!!それだけだ!!」
霧島は無表情で再度警棒を振り上げる。
その瞳は凍えるほど冷たい印象だ。
晴野は霧島を見て、さすが天道に連れまわされているだけあるなと感じた。
霧島の表情と動作を見た【ハッカー】は青ざめ、早口で発言する。
「ほ、本当だ!!嘘じゃない!!!残りのデータ…ッUSBは俺が身に着けているだけだ!!上着の内ポケットの中にある!!」
ふむ。
嘘は言ってないだろう。
インカムを通して焔さんたちもこの発言を聞いているはずだ。
霧島は振り上げた手を降ろし、【ハッカー】の腕を掴んで立たせた。
晴野はナイフをポケットにしまい、【ハッカー】の発言をもとに、上着の内側を漁る。
すると、証言通りにUSBが出てきた。
ついでに全身のポケットをまさぐって、電子機器を回収し、通信を阻害するポーチへとしまう。
晴野が頷き、霧島が焔に連絡を入れる。
「こちら霧晴。
《こちら焔。了解。治安が悪い地域だから、周囲に気を付けて戻ってこい。》
「了解。」
通信を終え、霧島と晴野は【ハッカー】を連れて駐車所へと向かう。
叫ばれないよう、晴野が【ハッカー】の口にガムテープを貼っていた。
色々と手慣れていた。
駐車場が見えるか見えないかの距離で、晴野が【ハッカー】にスタンガンをあて、気絶させる。
「僕が運ぶわ。」
「ありがと。」
「どうも。」
2人は短く言葉を交わす。
尾行の気配もないため、このままストレートに車へと向かった。
「お疲れ様です。」
駐車場の
外に居る班員に挨拶をし、後部座席を2回ノックする。
「
橘が外を見て、スライドドアを開ける。
ドアが開き、晴野と霧島は後部座席に【ハッカー】を放り込んだ。
晴野と霧島、ザックは後部座席へと入り、車は出発した。
「じゃ、ちょい寄り道してから帰るから、後ろの2名の見張りよろしく~。」
「はい。」
班員はシートベルトをしているが、敵は床に転がした状態だ。
逃げられないよう、ザックは足で踏みつけていた。
恐らく晴野たちもそうしているのだろう。霧島もそれに倣う。
適当なところで焔は別班の仲間に【ハッカー】を引き渡した。
班員は運び出すのを手伝い、何も聞かずに後部座席へと戻る。
しばらくすると、
「うっし。帰るか!
今回の