班員の考察と意思決定 (12月23日14:00)

文字数 4,519文字

――20XX年12月23日 14時00分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班

渦雷(からい)たちは昼食を終え、再度ミーティングルームの席に着く。
アリバイ作成の前に、どうしても話し合っておかないといけないことがあったのだ。

「さて。アリバイの前に――今後の方針について決めようと思う。議題は班に残るか、異動するかだ。」

渦雷(からい)は一旦話を区切り、再度話し出す。

「…もう気付いているだろうが、恐らく天道(てんどう)さんは公安の更なる裏か、ゼロに行くと思われる。この案件は引き受けることにしたが……抜けるなら、上司変更のタイミングになるだろう。……みんなの意見を聞かせてほしい。」

今後はより過酷になることがうかがえた。
なので、あらかじめ班員の意思を聞いておきたかった。

「これさ……天道の新上司が、天道を引っ提げて6月に戻って来るパターンだよな?」

渦雷(からい)の意見を聞き、最初に話を切り出したのは霧島(きりしま)だ。
腕組みしながら複雑そうな面持ちで班員に意見を問う。

「ああ。……以前、秘匿班(スカウト)(さくら)に会った時に『6月』『戻ってくる』と言われた。その発言と合致する。恐らくこのことだったんだと思う。」
「え!?会ったんですか!?…いいなぁ……!!!」

渦雷(からい)の回答に、雪平(ゆきひら)が即座に反応した。
さすがの反応速度に、室内の空気は多少和らぐ。

「……新上司については?何か言ってた??」

晴野(はれの)渦雷(からい)に詳細を問うた。
現時点では全てが憶測のため、少しでも正確な情報が欲しいようだ。

だが、当時の状況が状況だった為、渦雷(からい)は言葉に詰まってしまう。

「いや…その……。タイミング悪く秘匿班(スカウト)の上司が入ってきてしまって、聞くことができなかった…。」
「うぁー……タイミングわっるいー…。」

晴野は渦雷(からい)の言葉を聞き、机に突っ伏した。
桜の回答から得たかった情報は、秘匿班(スカウト)の上司によって消されていた。…実に申し訳ない。

「わざと会話に入ってきた……とか、ないよな??」

渦雷(からい)の回答を聞き、霧島は穿った見方をする。

上司だけでなく上層部が謎の覇権争いを繰り広げているのだ。疑ってしかるべきだろう。
だが、渦雷(からい)としては恐らく違うと感じていた。

「……班の新上司候補に名前は挙がっていなかった。だから、違うと思う。」

黒沢(くろさわ)さんの名前は上司候補になかった。
あれば意図的に邪魔をしたと見ることができるが、無いなら会話を遮る意味がない。
また、黒沢さんは【桜に聞きたいことがある】から声をかけた感じだった。
だから、違うだろう。

「そう、か……。」

霧島は渦雷(からい)の回答を受け、身体を前に倒し、肘をつき思考に(ふけ)る。

この動作は霧島の考える時の癖だった。
まるで有名な彫刻の『考える人』を左利きにしたようだ。見た目が整っているからだろうか、結構様になっている。渦雷はいつもそう感じていた。


「今回の案件は探りだし。絶対、対応できるか見てるでしょ。」

次に話を切り出したのは東雲(しののめ)だ。

東雲(しののめ)は前のめりになって机に左肘をつき、顔を左に傾けている。
手元に用意していた情報端末(タブレット)のメモ機能に、付属のペンでぐるぐると落書きをしている。
上の権力争いが面倒くさいのだろう。激しく同意する。

「そのうえで実力確認しておきたい系っすね。やばー。」

晴野が東雲(しののめ)の意見に乗っかり、補足を入れる。

倉木(くらき)の排除兼掃除のために、敵対派閥から新上司招き入れてる感じよね。天道はどこまで読んでいたのかしら。晴野の情報に焦っていたけど。」

嵐山(あらひやま)は天道の采配を疑った。
新上司も賛同しているからこそ出来るのだろうが、天道の反応からそこまで深く考えているようには見えなかったのだ。

これには他の班員も同意だ。

「半分程度ではありませんの?恐らく天道の新上司は、全て読み切ったうえでの判断を下したでしょうけれど……。」
「まぁ、想定外って顔してたからなぁ……。」

雨宮(あまみや)と霧島の発言の通りだろう。
班員は呆れていた。

「何というか……自ら懐に入れておきながら【懐くな】と言われましても……。実力の制限もですわ。…あまりピンと来ませんわよ。」

雨宮は実力の制限についても触れた。

表向きセーブしつつ振舞うことは、モノによっては出来なくもない。
だが、無理なものは無理だ。緊急時の戦闘とか、生死にかかわるものは特に。
それを見越してヤバめの場所に放り込まれないとも限らない。……班の新上司は裏が歪みまくってるって、晴野から聞いたし。

特に雪平の【色】はどうカバーすればいいのだろうか。
ハンドサインを決めて裏でこっそり話すしかないだろう。話の流れで必要になった場合は、表向きは直感に仕立て上げるしかない気がする。
もしくは「秘匿班(スカウト)で聞いてきました。詳細は言えません」で押し通すか。
本当に面倒臭い。

それに、実力なんて自分が一番分かっていないものだ。
自分で気づかないものを、他人から長所だと、すごいと言われることも多い。
代表例が天道の書き込みだろう。
天道の書き込みで意味が解らなかったものは、後で班員に聞いてみようと思う。


「ねーねー、これさーあ??天道の新上司ってさ、多分、ラムダさんかその周辺人物だと思うんだよね。絶対繋げてるっしょ。天道連れて行ってたじゃん。」

晴野は気怠そうに机に突っ伏しながら、顔だけを上げて発言する。

晴野の読みは当たりだろう。
ラムダだと決定はできないが、その周辺人物が6月からの班の新上司になる事はほぼ確定だろう。

禿同(はげどう)。ただ、僥倖(ぎょうこう)ではあるね。」
「ああ。――(ほむら)さんがある種のストッパーになる。」

東雲(しののめ)渦雷(からい)が晴野の発言に同意する。

…そう、ある意味僥倖なのだ。


(ほむら)さんは自衛隊の別班(べっぱん)だ。
そして、ラムダや東雲(しののめ)たちと同じ秘匿班(スカウト)ε(イプシロン)の班員でもある。

公安0課(ゼロ)の任務でやりすぎな部分があったら、班内からの密告もしくはどこかから聞きつけて止めに入るだろう。
なにせ、班内には晴野が居るのだ。
かなり兄妹仲がいいうえに、晴野を意図的に動かせる人間でもある。(ほむら)の実力的にも、班の運営を考えても良好な関係を築いていきたいだろう。
天道さんも「まともな接触役見繕う」と言っていた。(ほむら)さんのことは敵に回したくはないはず。
互いに利があり相乗効果を生む場合以外、死地に送られることにはならないだろう。

また、天道は今回見える形で班員を守る動きをしていた。
上司命令で強制的に実行に移すこともあるだろうが、幾ばくかは緩和させて案件を下ろしてくれる可能性が高い。

そのうえ、班員を敵に回した場合、ハッカー大乱闘が繰り広げられるのは目に見えている。
ラムダ側から見ても避けたいだろう。

特捜組織から見ても「1課2係(高IQ保持者)」はブランドでもあるため、捨て駒にされる可能性は低いと思われる。
他の別班を上司に持つ班や、公安0課を上司に持つ班よりかは比較的安全に仕事が出来ると思われた。

そういう意味ではいい班になると思うが、任務はより過酷になる。脱落するなら今の内だ。


「あ、やっぱうちの兄貴、バレてたっすかwこれからも兄貴をよろしく頼むっすww」

晴野は笑いながら班員に告げた。
班員は焔さんの正体を表で言わないよう、心の中にしまっておく事にした。


「――で、どうする?抜けるか?……恐らく最後のチャンスだと思う。新上司と倉木の陰険バトル中は、裏で6月に向けての何らかの任務を回されるはずだろうから。」

渦雷(からい)は再度、班員の意思を確認する。
最初に発言したのは嵐山だ。

「そうね……。私としては、ここで抜けたとしてもある程度のことは出来ると見做されて、公安系の班に送られるだけだと思っているわ。」
「一理あるな。」
「今回の潜入と陽動の2重作戦任務(ブラフ)は、今後の任務に耐えられるかどうかを見ているはず。――なら、私は摘発の日までは回答を保留にしたいわ。正直、天道の見極めもしておきたいのよ。班から外れる結果になる可能性があるのは、とても残念だけれど…。」
「わかった。」
(わたくし)も嵐山と同じ意見ですわ。それに、前回の拉致で(わたくし)の無力さを思い知りましたもの。本当に今後の案件に対応できるかどうか、(わたくし)に何ができるのか。……どうか、見極めさせてくださいませ。」

嵐山と雨宮の2名は今後のことを考えて決断するようだった。
賢明な判断だろう。

「うーん……。僕は……正直どこに行っても同じ気はします。ご迷惑をかけてばかりですし。ただ、公安の調査部系にずっと居続けるよりかは、この班で一緒に仕事をしていたいと思っています。……その、晴野さんが居てくれるなら……ですが。」

雪平は晴野のサポートで仕事が出来ている部分が大きい。
最後は申し訳なさそうに、左隣の晴野を見つつの発言だった。

「ん?当然私は残るよ。正直、この班に兄貴ストッパーが欲しいっす。」
「…良いのか?離脱するチャンスだぞ。……自分の事だけを考えて発言してくれ。」

渦雷(からい)は晴野の過度に気にしすぎるうえにお人好しな性格を見抜き、利己的になるよう進言する。
抱え込みすぎて、いつか壊れてしまいそうで……怖かった。

だが、晴野は苦笑いしただけで、あっさりと言葉を返してくる。

「まぁ、確かに班のことも考えた結果ではあるよ?だけどね…私、どのみちラムダさんとはハッカー系の秘匿班(スカウト)で関わりがあるから、この班から離れたとしてもラムダさんが運営する秘匿班にスカウトされるだけだと思うんだー。場所が変わっただけで、同じ生き方になってしまうんっすよ。それに、この班にゆっきーが残るなら、色々とやべぇのが来ても【色】で比較的楽に生き抜けそうっす!ゆっきー、期待してるよ!!」
「!!はい!」

晴野は残留を表明し、雪平と再度タッグを組むことを宣言した。

「僕も晴野と同意見かな。ラムダさんとはおんなじハッカー系の秘匿班(スカウト)だし。…ここには渦雷(からい)リーダーが居る。僕の生活スタイル(ひきこもり)が過度に変わらないなら、それでいいよ。」

東雲(しののめ)も残留を決めた。渦雷(からい)の存在が大きかったようだ。

「まぁ、僕も残留だわな。班から出たとしても、天道の秘匿班(スカウト)で同じ目に合うだろ。天道経由でラムダさんや天道の新上司周辺にも目をつけられていると思うし。」
「霧島サブだもんね。」
「あー……。うちの兄貴にも目をつけられたしな。ドンマイ。」
「……まぁな。」

霧島も残留組だ。秘匿班(スカウト)での任務内容が大きいようだ。
東雲(しののめ)と晴野に声をかけられ、適当に答えていた。仲がいいな。

霧島は渦雷(からい)のほうを向き、真っすぐ見つめて聞く。


「それで?

はどうする?……自分の事だけを考えて発言して良いんだぞ。」


おっと。
霧島サブに【自分の晴野に対する発言】をブーメランで返されてしまった。

とはいえ、渦雷(からい)は特にやりたいことは無い。
大学受験の理由も、大学を卒業したほうが社会的に得だというだけだ。
霧島や雨宮のようにちゃんとした目標はない。

「俺はもちろん残留だ。将来のことはまだ決めていないが、学生の内はこのまま特捜で働こうと思っている。これからもよろしく頼む。」
なので、言葉を濁しながら班員に残留を伝えた。

「……良いんだな?」
「ああ。」
「わかった。……正直、渦雷(からい)がリーダーとして居てくれるのは助かる。ただ、何かあれば言ってくれ。背負いすぎるな。」
「霧島サブ、ありがとうございます。よろしくお願いします。」

離脱があろうとも、渦雷(からい)がリーダー、霧島がサブリーダー、晴野がオペレーターを務めることは決定した。

班についてはこれでいいだろう。
次は偽のアリバイだ。
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登場人物紹介

本編主人公の渦雷(からい)です。

1課2係7班のリーダーです。

皆さまどうぞよろしくお願いいたします。


雪平、すまないがこの書類も頼む。総務から雪平宛だ。

1課2係7班、サブリーダーの霧島(きりしま)です!

よろしくな!


あ、雪平!

僕、1時間後に用事で出るから、総務の書類終わったらついでに持って行ってやるよ!

あ、ども!晴野(はれの)っすー!

1課2係7班でオペレーターやってるよー!

よろよろ!!


って、ちょ……ゆっきー(雪平)!!!?無事かー!!?

皆さま初めまして。

1課2係7班の雪平(ゆきひら)です。

事件が無い時は、事務や情報整理、書類整理をメインにしています。

共感覚を持っていて、僕の場合は【色】が見えます。

どうぞよろしくお願い致します。


さて、この書類を…あっ!

(バッサー。書類を床に雪崩のように落とす。)

――うわあああぁ!すみませんんん!!

皆さまごきげんよう。

1課2係7班、雨宮(あまみや)ですわ。


雪平、こちらに来た書類はまとめましたわよ。

1課2係7班、嵐山(あらしやま)よ。

よろしく。


雪平。こっちが処理済、こっちが未処理のものよ。

量もあるし、天道に返す分は空きデスクに積んでおくわね。

1課2係7班、情報班員の東雲(しののめ)だよ。

基本、引きこもっているけど…よろしく。


あれ。ネフィリムからチャット入ってる…。

…了解。〔また出たヤバ案件ww面白そうだし、緊急案件RTA参加するので詳細キボンヌw〕…っと。

いつもネフィリム達には手伝ってもらってるしね。

――さて、頑張りますか。

あ、どうも。公安部外事課、天道(てんどう)どす。

警視庁に勤務しながら、青少年特殊捜査本部の1課2係7班の上司をさせてもらっとりますぅ。

ホンマは古巣に戻るか、1課1係に行きたいんやけど…まぁ、よろしゅう頼んます。

警視庁の阿久津(あくつ)だ。

天道の上司だ。どうぞよろしく。

警視庁公安部所属の天笠(あまがさ)です。

1話のエピローグから本編に関わらせていただきます。

読者、そして1課2係7班の皆さん、どうぞよろしくお願いします。

うぽつwww

拙者はネフィリム!

3課1係4班のリーダーでござるwww

いやぁ、何卒どうぞどうぞよろしくでござるww

あ。上から緊急案件RTA入ったんで離脱シャース!ノシ

ホント人使い荒いwwブフォww

者ども!!調査(ハッキング)と工作(クラッキング)の時間ですぞ!!各自開始オナシャス!!

警視庁公安部内事課の斎藤だ。

…一応名乗ったが…俺の自己紹介、本当に必要か??

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