班員の考察と意思決定 (12月23日14:00)
文字数 4,519文字
アリバイ作成の前に、どうしても話し合っておかないといけないことがあったのだ。
「さて。アリバイの前に――今後の方針について決めようと思う。議題は班に残るか、異動するかだ。」
「…もう気付いているだろうが、恐らく
今後はより過酷になることがうかがえた。
なので、あらかじめ班員の意思を聞いておきたかった。
「これさ……天道の新上司が、天道を引っ提げて6月に戻って来るパターンだよな?」
腕組みしながら複雑そうな面持ちで班員に意見を問う。
「ああ。……以前、
「え!?会ったんですか!?…いいなぁ……!!!」
さすがの反応速度に、室内の空気は多少和らぐ。
「……新上司については?何か言ってた??」
現時点では全てが憶測のため、少しでも正確な情報が欲しいようだ。
だが、当時の状況が状況だった為、
「いや…その……。タイミング悪く
「うぁー……タイミングわっるいー…。」
晴野は
桜の回答から得たかった情報は、
「わざと会話に入ってきた……とか、ないよな??」
上司だけでなく上層部が謎の覇権争いを繰り広げているのだ。疑ってしかるべきだろう。
だが、
「……班の新上司候補に名前は挙がっていなかった。だから、違うと思う。」
あれば意図的に邪魔をしたと見ることができるが、無いなら会話を遮る意味がない。
また、黒沢さんは【桜に聞きたいことがある】から声をかけた感じだった。
だから、違うだろう。
「そう、か……。」
霧島は
この動作は霧島の考える時の癖だった。
まるで有名な彫刻の『考える人』を左利きにしたようだ。見た目が整っているからだろうか、結構様になっている。渦雷はいつもそう感じていた。
「今回の案件は探りだし。絶対、対応できるか見てるでしょ。」
次に話を切り出したのは
手元に用意していた
上の権力争いが面倒くさいのだろう。激しく同意する。
「そのうえで実力確認しておきたい系っすね。やばー。」
晴野が
「
新上司も賛同しているからこそ出来るのだろうが、天道の反応からそこまで深く考えているようには見えなかったのだ。
これには他の班員も同意だ。
「半分程度ではありませんの?恐らく天道の新上司は、全て読み切ったうえでの判断を下したでしょうけれど……。」
「まぁ、想定外って顔してたからなぁ……。」
班員は呆れていた。
「何というか……自ら懐に入れておきながら【懐くな】と言われましても……。実力の制限もですわ。…あまりピンと来ませんわよ。」
雨宮は実力の制限についても触れた。
表向きセーブしつつ振舞うことは、モノによっては出来なくもない。
だが、無理なものは無理だ。緊急時の戦闘とか、生死にかかわるものは特に。
それを見越してヤバめの場所に放り込まれないとも限らない。……班の新上司は裏が歪みまくってるって、晴野から聞いたし。
特に雪平の【色】はどうカバーすればいいのだろうか。
ハンドサインを決めて裏でこっそり話すしかないだろう。話の流れで必要になった場合は、表向きは直感に仕立て上げるしかない気がする。
もしくは「
本当に面倒臭い。
それに、実力なんて自分が一番分かっていないものだ。
自分で気づかないものを、他人から長所だと、すごいと言われることも多い。
代表例が天道の書き込みだろう。
天道の書き込みで意味が解らなかったものは、後で班員に聞いてみようと思う。
「ねーねー、これさーあ??天道の新上司ってさ、多分、ラムダさんかその周辺人物だと思うんだよね。絶対繋げてるっしょ。天道連れて行ってたじゃん。」
晴野は気怠そうに机に突っ伏しながら、顔だけを上げて発言する。
晴野の読みは当たりだろう。
ラムダだと決定はできないが、その周辺人物が6月からの班の新上司になる事はほぼ確定だろう。
「
「ああ。――
…そう、ある意味僥倖なのだ。
そして、ラムダや
なにせ、班内には晴野が居るのだ。
かなり兄妹仲がいいうえに、晴野を意図的に動かせる人間でもある。
天道さんも「まともな接触役見繕う」と言っていた。
互いに利があり相乗効果を生む場合以外、死地に送られることにはならないだろう。
また、天道は今回見える形で班員を守る動きをしていた。
上司命令で強制的に実行に移すこともあるだろうが、幾ばくかは緩和させて案件を下ろしてくれる可能性が高い。
そのうえ、班員を敵に回した場合、ハッカー大乱闘が繰り広げられるのは目に見えている。
ラムダ側から見ても避けたいだろう。
特捜組織から見ても「
他の別班を上司に持つ班や、公安0課を上司に持つ班よりかは比較的安全に仕事が出来ると思われた。
そういう意味ではいい班になると思うが、任務はより過酷になる。脱落するなら今の内だ。
「あ、やっぱうちの兄貴、バレてたっすかwこれからも兄貴をよろしく頼むっすww」
晴野は笑いながら班員に告げた。
班員は焔さんの正体を表で言わないよう、心の中にしまっておく事にした。
「――で、どうする?抜けるか?……恐らく最後のチャンスだと思う。新上司と倉木の陰険バトル中は、裏で6月に向けての何らかの任務を回されるはずだろうから。」
最初に発言したのは嵐山だ。
「そうね……。私としては、ここで抜けたとしてもある程度のことは出来ると見做されて、公安系の班に送られるだけだと思っているわ。」
「一理あるな。」
「今回の潜入と陽動の
「わかった。」
「
嵐山と雨宮の2名は今後のことを考えて決断するようだった。
賢明な判断だろう。
「うーん……。僕は……正直どこに行っても同じ気はします。ご迷惑をかけてばかりですし。ただ、公安の調査部系にずっと居続けるよりかは、この班で一緒に仕事をしていたいと思っています。……その、晴野さんが居てくれるなら……ですが。」
雪平は晴野のサポートで仕事が出来ている部分が大きい。
最後は申し訳なさそうに、左隣の晴野を見つつの発言だった。
「ん?当然私は残るよ。正直、この班に兄貴ストッパーが欲しいっす。」
「…良いのか?離脱するチャンスだぞ。……自分の事だけを考えて発言してくれ。」
抱え込みすぎて、いつか壊れてしまいそうで……怖かった。
だが、晴野は苦笑いしただけで、あっさりと言葉を返してくる。
「まぁ、確かに班のことも考えた結果ではあるよ?だけどね…私、どのみちラムダさんとはハッカー系の
「!!はい!」
晴野は残留を表明し、雪平と再度タッグを組むことを宣言した。
「僕も晴野と同意見かな。ラムダさんとはおんなじハッカー系の
「まぁ、僕も残留だわな。班から出たとしても、天道の
「霧島サブだもんね。」
「あー……。うちの兄貴にも目をつけられたしな。ドンマイ。」
「……まぁな。」
霧島も残留組だ。
霧島は
「それで?
渦雷
はどうする?……自分の事だけを考えて発言して良いんだぞ。」おっと。
霧島サブに【自分の晴野に対する発言】をブーメランで返されてしまった。
とはいえ、
大学受験の理由も、大学を卒業したほうが社会的に得だというだけだ。
霧島や雨宮のようにちゃんとした目標はない。
「俺はもちろん残留だ。将来のことはまだ決めていないが、学生の内はこのまま特捜で働こうと思っている。これからもよろしく頼む。」
なので、言葉を濁しながら班員に残留を伝えた。
「……良いんだな?」
「ああ。」
「わかった。……正直、
「霧島サブ、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
離脱があろうとも、
班についてはこれでいいだろう。
次は偽のアリバイだ。