作戦会議 (11月3日15:40)
文字数 6,393文字
「俺らが帰宅している間に、スパイとの取引日時の情報が届いていた。11月8日となっているが、何かこちらでできる手は無いか考えたい。みんな、まずは自由に意見を出してくれ。その後にブラッシュアップして、今後の方針を決めたい。」
ミーティングが開始された。
最初に口を開いたのは
「つっても現場に突っ込んでいくのは無しだろ?罠を仕掛けるにしても、相手はスパイだからなぁ…。」
いつもなら現場に急行し、逮捕ができる。
だが、今回の場合は表に姿をさらせない上に、外交特権で触れることすら許されない。
とてもやりにくいのだ。
普段からの公安部の苦労を実感する。本当にお疲れ様です。
「スパイ側のやりとりって手に入らないのかしら。公安の資料ではやはり断片的なのよね。」
「裏切者が|スパイ《(あちら》に居たら引き込む感じっすか?統率取れてそうだけどなぁ…。いるかなぁ…そんな都合がいい人。逆に手のひらで転がされねぇ?」
本国に居るスパイならまだ分裂している可能性があるが、国外に派遣されるスパイは統率が取れていないと話にならない。
実現不可能だろう。
「渡すのはUSBですよね?なら、中に発信機や盗聴器を仕込めませんか?」
会話を聞けるのはありがたいが、おそらく実現性は低いだろう。
スパイから別のスパイに渡され、そのままR国に持ち帰られるなら意味はあるかもしれない。
だが、盗聴器の受信できる範囲に捜査員が居ないといけず、成功したとしても必ずどこかでばれてしまう可能性が高い。
PNGを出すまで相手に知られずに動かないといけないため、難易度が高かった。
「発信機や盗聴器…。うーん…もうちょい、なんか出来ないか?」
単純なだけでは詰む。
そこに、情報班員である
《発信機や盗聴器は流石に調べるでしょ。それに、通信を妨害できるケースにしまわれたら終わりだし。》
それを受けて、
「ねぇ、
コンピューターウイルスは上手く作れば露見しないはず。
やりようによってはスパイのパソコン内に侵入することができる。
《んー…状況によるね。そもそもコンピューターウイルスなんて真っ先に疑われるだろうし。》
「あら?PDFはオンラインじゃないと開けないよわね?いけるんじゃないの?」
オンラインに繋がっているならハッキング攻撃ができるので、
だが、
《残念なことに、ネットに繋がなくてもPDFビューアを使えばオフラインでも見れるんだよね…。ネット環境無かったらハッキングの意味ないし…。それに、仮にネットに繋がっていたとしても、PDFを開いている間もしくは本国に送信している間しか狙えないからね。逃げ切られたり禄に情報を得ることができない可能性があるよ。》
「そうか…。正直、手段が限られるよな…。」
《もし…もしも、ウイルス作戦をやってみるなら、だけど…。3課の1、2、3係全部1班ずつ協力要請して、どこかの班の外にある分室で行ったほうが良いと思う。》
「…かなり大事になるな。」
このオフィスではマシンパワーが足りないのだろうか?
《当然。攻撃も防御も最大火力にしたほうが良いし、万が一辿られても
なるほど。確かに。
いくら所員が優秀と言えど、向こうも優秀な人員を揃えているはずだ。
スパイやR国のハッカーに、
安全マージンの確保は必須であった。
ウイルス作成と、
ウイルス作成アドバイスと、逆にハッキングされないための防御担当の2係。
機材の手配や、収集した情報の分析をする3係。
大がかりな作戦になること間違いなしだった。
そこに、
「あーえっと。めっちゃ否定するようで申し訳ないけど、スパイのパソコンに侵入できたとしても、ほとんど碌な情報は出てこないと思うんだよねー…。スパイは基本、
「
高い匿名性と機密性がウリで、データを残さない機能やメッセージの自動消去機能が備わっている。
某スパイ映画のように、メッセージを受け取った後に自動で爆発する必要が無いのだ。
そのため、最近では裏バイトや特殊詐欺での使用事例が多く、
「そそ。逆手にとってサイバー犯罪の温床になってる、あのアプリっす。正直、実力者でも
《
「そっそ!
「…だが、やってみる価値はあるかもな。」
PNGで追い出すにしろ、証拠は多いほうが良い。
公安の各班から入手した情報では、スパイのパソコンに侵入したという報告はあがっていなかった。
「確かに。大掛かりにはなるが、必要なのは情報の受け渡しを成功させること。…情報の受け渡し以降は何も言われていないな。」
公安が欲しいのは【次の情報の受け渡しを成功】させて【決定的な証拠を掴むこと】だ。
その為に情報を集め、証拠となる密会の成功を撮影し、書類を作成してPNG砲を放つ。
恐らくその場でパソコンで確認はしないだろう。
帰宅後もしくは大使館に戻ってからPDFを開くのであれば、公安側の書類作成の時間は確保される。
つまり、公安の邪魔をしない限り…情報の受け渡し以降なら、
そう――やってみる価値があるのだ。
「そうですわね。こちらから出来ることと言えば、ハッキングくらいになってしまいますもの。」
「私も賛成。だけど、これ、かなり大掛かりになるから各部署への根回しや上司の許可が必要よね。」
そこに、
「そのことなんですが…何とか
「私もゆっきーに賛成。
《確かに。上にばれないように…秘密裏に出来ないなら中止したほうが良いかもね。》
確かに、
何せ、初回挨拶時に共感覚持ちで【色】が見える
秘密裏に動いたほうが良いかもしれない。
だが、問題がある。それは――
「言いたいことは分かるが、
「不安ね。今日の様子ではこっちの味方になった感じはするけれど、楽観視できないわね。…だって、あの
《んー…何か弱み握って脅してみる?
「確かにいい案ではあるが、俺は必要ないと思う。
「あー…。この2ヶ月間、情報を伏せることで僕らを守っていたようだしな…。僕も
「そうね、やるならどうしても上を通さなければいけないし、どのみち巻き込むしかないでしょう。」
「背に腹は代えられませんわね。ただ、
「公安の表所属だし、見張りの中にいるんじゃね?って私は思う!…まぁ、少なくとも
《…なら、
「お、どうするつもりだ?」
「詳しく聞かせてくれ。」
《まず、公安に情報を流す。恐らく僕らがハッキングすることは予想の範囲内だと思うんだ。だって、僕、情報班員だし、ネフィリムとも仲いいし、晴野も
「そうだな。」
《だから、ブラフ…偽のハッキング情報を公安に流して、偽情報通りに僕と
いい案だと思った。
だが、
「それならネフィリムリーダーも巻き込んだほうが良いかもしれない。仲良しなのにハブったら疑われてしまう可能性がある。それに、情報班員候補とはいえ、晴野の実力も不明だ。」
《それはしたくない。だって、ネフィリムの実力は知ってるから。確実に成功させてくれるはずだから。それに、情報班員に数えられていた
「そうか…。仲がいいと思っていたが、
《うん。…本当はもう1人居て、一緒にハッキングしてたんだ。でも、ある時失敗しちゃって。僕も向こうもみんなまとめて補導されて。
「――え。」
どうやら
ハッキングが見つかり、オンライン上の友人と仲良く3人で捕まったようだった。
「ごめん――
晴野の表情は強張っている。
不思議に思っていると、
《ネフィリムはそのまんま。変わってないよ。僕は…
――まさか、被害者側の家族か?
警戒していると、
《もう1人の仲間の名前は――》
「――アストライアー。」
《え…。何で知って…――まさか…。》
「こんなことってあるんだね。久しぶり、そしてはじめまして。――ヴォイド。」
――これは驚いた。まさか、
そう――
最初は情報班員は
だが、オペレーター候補である
何かをすると、別の何かを忘れてしまうのである。
そのためスケジュール管理や、他者とのすり合わせが絶望的だった。
それを見た天道は
その際の情報班員の選定を、
その結果、
恨まれても仕方がなかったし、頭では理解していた。
だが、
後悔と同時に、
確かに、この班は上手く回っている。
だが、オペレーターは別人でもよかったはず。
…俺のせいだ。
感情がぐちゃぐちゃで何も言えない
「
「
「――あー、ごっめーん。
「――え。…
「やっぱ
驚いたついでに当時の状況をこぼしてしまった
「ちょ、ちょっとまってくれ。え、いや、2人の亀裂の原因って、
驚いた顔で
「な…
雨宮は
《…うわ、ちょ、
「ねぇ、飲み会、今晩にしない?20歳以上の成人済みはお酒、それ未満はジュース。今は策を考えて裏から手を回さなければいけないから、夜に話し合いましょう。ええそれはもうじっくりと。私もわだかまりがあるわ。とてもすごく。強烈にね?」
色々話していてもおかしくはなかったし、
「…少しでも話し合いが軽くなるように、美味しいおつまみ作りますね。僕も罪悪感というか、すごく聞きたいことがありますし。…大人組はお酒の力を借りてぶちまけましょう。未成年はジュースです。そうしましょう。今夜は晩酌で暴露大会です。」
「あ、ああ…そうだな。…腹を割って話し合おう…。続きは夕飯の後にしようか。」
「決定ね。というか、
「自宅に籠らずに、仕事に出かけていそうですわよね。あの人。」
「今日はもうあの顔見たくねぇ。なので、明日連絡入れることにするっすー。」