天道の告白 (12月23日10:40)
文字数 5,953文字
「
掃除
ありがとう。――今後のことで話したいことがある。」掃除(盗聴器などの確認作業)を終え、ミーティングルームの席に着くと
天道は手に持っていたバインダーを開く。
「まず、これを見てくれへん?」
――これ、俺らの情報!?
天道の差し出した資料には書き込みが多くされていた。…俺らの事よく見ていたんだな。
資料は大分くたびれている。
それぞれ自分の資料を受け取り、目を通す。
住所や本名は一切書かれておらず、写真、学歴、特捜への志望同期やスキル、研修を受けた科目などが記載されていた。
ひとまず安心するが、違和感を覚える。
「……なんだ、これ?」
志望動機が
書いたはずのないものにすり替わっている
。こんな文章を書いた覚えはない。面接時にも発言はしていない。
「なあ…天道さん。この資料は何ですか??申告時に書いた
スキルの大半が消えている
んだが……。」「僕も【
色
】のことが抜け落ちていますね。」「……
やっぱり
、何かしら消されとったか。」特に
「みんな……ごめん、ちょっと見て欲しい。」
そう言い、晴野はミーティングルームの机の上に自分の資料を置き、開示する。
班員は晴野の書類に目を通す。
そして気付く。
晴野の書類には――晴野の固有スキルともいえる、ハッキングの文字が一つも
無かった
のだ。晴野は
それなのに記載がないのは
異常
だった。「天道。――
だから
、私を情報班員から外したの……?」晴野は驚愕の表情で天道に問うた。
「この記載されてあったスキルと履修科目では、いくら頭が良くても任せられへんやろが。」
「――そういう、事かよ……。」
天道は仕方なかったと言わんばかりにさらっと切り返し、晴野は唇をかみしめた。
晴野は情報班員から外された際、
それならと天道を恨んだら、原因はこの資料だった。
行き場のない感情のダメージは計り知れない。
「何だよ、コレ。何でこんな……!」
「この削り方は異常ですわよ……。」
晴野の様子を見た霧島がキレ始める。暴露大会で晴野の不遇を知ったことが大きいのだろう。
「……俺は志望動機が改ざんされている。もちろん消されている部分もあるが。」
「
班員は混乱した。
「志望動機まで!?は!?な、何書いたんねん!?逆に!!」
「ありきたりなものなんだが……。変えられる理由がわからない。」
異常な隠され方に天道は驚き呆れた。
大きくため息をつき、上を仰ぐ。
「まぁ、ええ。…あんさんらは頭がええから、
理解できとる
やろ。せやから――俺が居なくなった後の4ヶ月間、記載以上のことは控えてほしい。」天道は体勢を戻し発言した後、能力の制限について発言した。
「なぁ……。以前から公安と
「僕は別に仕事が出来ればいいんだけど。元々引きこもりだし。だけど、そのうえで上層部のゴタゴタが付随するっていうのは、酷くない??せめて国家が管理・育成する協力者ってだけにしてほしいんだけど……。」
「使い勝手のいい優秀な駒が欲しい。極力裏切らないようにしたい。そうだ、組織創って徹底的に育てて運用しよう!おまけに権力争いも…ってか。そんな気はしてたし、そのうえで経験値積むために入ったけどさ……。」
「その後に公務員として就職すれば、便利な部下が育った状態で、ほぼほぼ即戦力になりますもの……。今からスカウトしてと、欲しがられるはずですわ……!」
「何なら公安系の上司の狩場と育成の場でもある感じよね。どれだけ人となりから優秀かを見抜いて、利用できる人間を集める――比較的安全な実践の場ってところかしら。本当に上手く回しているわよね。権力争いは癪だけど。」
「班(常設)を持てる人は一握りだから…
「だから、資料にまで情報統制が…。班外の実情も、具体的に知れないことが多かったのか…。もう少し気楽に居たかった……。なんだこれ。」
班員はそれぞれ納得し、ダメージを受けた。
優秀だとか、新しい公務員だとか。言葉で飾られようとも、所詮駒に過ぎないのだ。
「てか、僕らの
「
全部は知らん
。ただ、班の上司――俺の管理能力が問われる、とだけ言っておくわ。」「……マジか。」
霧島は顔を引きつらせた。
「つまり……班の中に天道さんに牙をむくスパイ要員の手駒が存在している可能性が……?時々情報が漏れてる感じがするのは、入り込んでいるから……?」
「あー。雪平、PNGの阻止や、侵入の件は関係ないで。あれは公安サイドが勝手に揉めて、勝手に色々やっとった。」
「あれ、そうなんですか。……うーん、やっぱり面倒くさいですね。」
雪平は天道の言葉に安心したが、勝手に揉め始める人間の煩わしさを感じていた。
天道はため息をつき、話しを戻す。
「……この資料の役職、驚いたやろ?当初は霧島がリーダーで、サブが嵐山。オペレーターは雨宮やった。俺は
「天道さんに言わないといけないことがある。……
役職持ち
は各自事前に阿久津さんに呼び出されていた
。」「――は??」
「だから、僕は自分がリーダーであることを疑わなかったし、天道さんに食ってかかったり、ストライキした。」
天道は驚き、一時停止する。
そして、周囲を見回す。
「――まて。……この話、マジなん??…霧島がバチクソプライドが高かって、そのせいで暴れまくったってだけやないん!?」
「僕を何だと思っているんだ。……まぁ、役職の件が無かったとしても、最初のあたりはリーダーの座を狙っていたとは思うけど…。」
「ええー…。やっぱプライド、バチクソ高いやん、自分……。」
天道は顔を引きつらせた。
「……他も同じなん??」
天道は嵐山、雨宮のほうを向いて問う。
「ええ。言われていたわ。だから私は霧島と仲が悪かったのよ。――私の方が霧島より
「
「嘘やろ……。こんなことって、あるぅ……??」
嵐山と雨宮の告白に天道は頭を抱える。
「あ、役職以外は呼び出しはありませんでした。ですが、班の中がこじれていた原因は【天道さんによる、理由なしの役職移動】でした。…この件は班内で11月中に解消しましたが、その原因は天道さんでは無かったんですね。僕らはずっと天道さんのことは俺様クソ上司という認識でしたから、驚きです。」
空気を読まない雪平の補足に天道は絶望した。
「役職の件…なれ合いできなくする方が都合が良かったってこと??」
「多分、阿久津さんはそのあたりは
考えてなかった
やろうな。本当に霧島をリーダーにしたがっとったし。」「Oh……偶然にしては悲惨すぎる結果を引き当てたな。天道。」
「……まぁ、俺に
信頼ないのは分かっとる
から、せめて先に班の上司候補を見せておくことにする。――これや。決定は俺の上司がするから選べれへんし、見ても意味ないけど、参考にはなるやろ。」天道はそう言い、別のバインダーから資料を取り出し、机に並べた。
本来なら今月末に受け取って見せられるようになる予定だったのだが、先方が本気を出したのか、もう候補が揃っていた。…非常に現金である。
「?この班はあの派閥の持ち物――傘下に入るってこと?」
「いや、
違う
。俺の新上司の傘下に入る。」「??…天道の新上司は、この派閥ですの?」
「いや、
違う
。」「え?」
「は?」
天道の言葉に班員は驚く。対して天道は涼しい顔だ。
言っている意味が解らない。
情報統制をしてまで班を管理したいのであれば、新上司は天道の新上司と同じ系統になるはず。
倉木がそのまま管理するなら、倉木の系統になるはずなのだ。
この組織がやっていることと真逆を進むこととなる。
「なら、なぜ?」
わざわざ手の内を明かすのは愚の骨頂なはず。なのに、なぜ?
新上司をボコしたいのか??
いや、さすがに率先して異動前に喧嘩を売りに行く事はしないはず…。だが、そうとしか思えない。
能力に制限をかけさせてまでやることか?というか、何で天道が――
そういうことか
。だが、それなら更に意味が解らない。
悩んでいると、天道は伏目がちに発言する。
「……欲しいやろ、そろそろ。
まともな上司
。」「!!」
「……事情は沢山あるし、それを考慮した上での判断や。俺の周囲にはまともなのが
神上司
って言ってはった、「――なぜ、ですか?わざわざ異動前に、これからお世話になる新上司に喧嘩を売りに行くようなことを……??」
「……班を守りたいて、言うとったやろ。いつも。」
戸惑う
他の班員も驚き感謝した。――が、晴野は
ただ1人愕然としていた
。晴野の反応がおかしい。
「――待って!」
「ん?何ぃ?…俺がそんなことするはずないって??」
「違う、
そうじゃない
!!……確かにこの人選はかなりヤバい
っす……。」晴野の発言に、今度は天道が愕然とする番だった。
「――は?調べた限りは
問題ないはず
やねんけど…?新上司やって、問題視しとらんかったで?」晴野は一旦班員に対して説明を始める。
「……あー。みんなー…。裏事情にめっちゃ詳しい…えっと、以前阿久津の件で天道を助ける時に取引した人が居たの覚えてる?」
「ああ、あったな。そのお陰で天道がここにいるわけだが…。」
「私、その人と今でも関わりあるんだけどね?その筋からこいつらの
ヤバめの情報
、わんさか聞いてるんよ……。」「は!?」
この情報には全員が固まった。
「ちな、
去年の8月よりも前から
ね?」「嘘だろ、ヲイ……。」
「1課2係4班の上司の
神上司
なの。――ただ、ここに列挙されてる人は表はめっちゃホワイトだけど、裏はめっちゃ歪んでる
。「ずっと思ってたんだけど…。天道って行動裏目に出ること多くない??」
「天道さん、目的を話してくれませんか。この上司候補になった
跳ねのけるのは容易だが、天道が
わざわざ交渉しに行っている様子
だ。恐らく良心から来ているはずなので、その理由を知っておきたかった。
「……倉木を
6月までに排除したい
。んで、俺が居なくなった後に敵対派閥を入れることで、あんさんらへの手出しを出来なくさせたい。――今日焦っとった
やろ。」確かに倉木は焦っていた。
何かあるんだろうが、
この班を手中に収めることで解決すること
だとしたら――?天道が居なくなった後は倉木のやりたい放題になる。
倉木に従う人が上司になるため、身を守る術がなくなる。
かなり危険だった。
考えていると、晴野が発言する。
「――
あの手帳
が絡んでたりする?」「……手帳??」
天道は不思議な顔をする。知らないようだ。
「――いや、知らないならいいっす。別件か……。でも、
焦ってる
。何か
あった?」「……後で詳しく話せ。そのことを知っとる奴
ヤバい
。」「多分、知ってるのは私だけっす。関わらない判断は
「わかった。後で
ちゃあんと話しぃ
。」「はぁーい。」
真剣な天道に対し、晴野はデスクに突っ伏しながら適当に返事をした。
「…おっ前、晴野。あんさん、本当に
「文句ならこの書類作成したゴミと、過去に情報班員から外した後に理由の開示をしなかった自分を恨んでクレメンス。」
「チッ。」
晴野にあっさり返り討ちにされ、天道は舌打ちした。
その様子を見ていた班員は、天道が出した人選の話題に移る。
「…てことはさ、対倉木兵器としては、
ものすごく最適な人選
ってこと??ある意味正しいってこと??」「あ。」
「確かに。」
晴野もデスクに突っ伏しながら、
「そうなるー……。けど、最後まで
「心理戦が凄そうですね……。」
晴野の発言に乗ってきた雪平に対し、晴野は言葉を返す。
「ゆっきー、【色】のサポート、期待してるよ…。」
「はい!頑張ります!!」
晴野と雪平は団結した。
心理戦はこの2人を主軸に、俺らが前に出て頑張ろう。
「ええっと……。じゃあ、これの中から選んでええねんな??
本当にええねんな
??」「倉木を追いやってくれるなら。対倉木兵器ならもう
仕方ない
っす。……どのみち地獄っす。任せるっすー……。」「……わかった。後で俺の新上司にも伝えとく…。すまん。」
天道は
まさかそんな地雷が、
盲点だったようだ。
「全員、警戒だけはしていこう。」
「はい。」