――20XX年11月3日 20時10分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班オフィス
「さぁ、いよいよ始まりました、暴露大会ー!!まずこのあみだくじを引いてもらい、1番の人から順に暴露してもらいます!んで、それについて意見がある人は補足または議論していただいて、わだかまりを解消しましょう!!
天道への不満暴言も一緒にどうぞ!!!暴力以外は何でもあり!全部言っちゃえ!れっつらごー!!…と、いうわけで。好きな棒線選んでクレメンスー。」
晴野に促され、各自線を選んでいく。
その後、各自好きなだけ横棒を足して、複雑なあみだくじを完成させた。
デスクに移り、あみだくじを引く。
「あっみだっくじー♪あっみだっくじー♪引いって楽っしいあっみだっくじー♪」
「え、まって何その歌。謎すぎる。」
「何か昔、小学校の先生があみだくじを引くときいつも歌ってた。私も知らん。」
「変なの。…でも、なんか
晴野らしいや。」
歌う
晴野と
東雲があみだくじの棒の行方を追う。
他の班員はおつまみをミーティングルームのテーブルに広げ、各自の飲み物を作っていた。
「はい、結果発表ー!!1番
嵐山、2番
雪平、3番
雨宮、4番
東雲、5番
霧島、6番
晴野…あ、私か。ラストは
渦雷リーダーね!よろよろ!」
結果の発表と共に、やたらテンションが高い
晴野と
東雲が戻ってくる。
晴野と
東雲が戻ってきたころには、晩酌準備が完了していた。
テーブルの上には大人組が持ってきた酒やジュースが置かれ、おつまみが所狭しと並べられている。
おつまみは焼き鳥、生ハムメロン、生ハム、焼いたベーコン、チーズアソート、ミックスナッツ、ポテチ、ガーリックトースト、ガーリックシュリンプ、アボカドとチーズのサラダ、カプレーゼ、枝豆ペペロン、するめ、クッキー、ゴーフレット、あとは個人で持ってきていたお菓子だ。
霧島はマティーニ(オリーブなし)を作り、
嵐山はミモザを、
雪平はビールを手に持つ。
渦雷と
雨宮はポ〇ジュース、
東雲と
晴野はリンゴジュースを手に持った。
「
渦雷リーダー、よろしくう!」
「ああ。今日は腹を割って班の事いろいろ喋りましょう。乾杯。」
「かんぱーい!!」
「いぇあ!はい、では、暴露大会を始めたいと思います。まずは
嵐山さん!!オナシャス!!」
「
晴野、あなたさっきぶちまけたからかテンション高いわね。…まぁいいわ。私が一番言いたいのは
霧島よ。何であなたがサブリーダーになっているの?結成当初、サブリーダーは――
私の予定だって聞いてたんだけど
。」
「――っえ。」
この暴露には全員が驚いた。
驚きの余り
嵐山以外は目を見開き、口を開けて固まっている。
「ああ、別にやりたいわけじゃないし、元々面倒だなって思っていたから良いんだけど。今の霧島ならサブリーダーで良いと思う。ただ、
初期のあの態度
では、サブリーダーに任命されるっていうのがどうしても理解できなくてね?…ねぇ、
霧島
?――
あんた一体何やったの
?あと、何で性格が丸くなったの?教えて?」
嵐山から
霧島への宣戦布告だった。
場に絶対零度の凍てついた空気が漂う。
――暴露大会は想像以上に重かった。
…一生懸命用意したおつまみ全てが無駄になりそうなくらいに…。
少しでも空気を軽くしようとした
雪平の努力は報われなかった。
「…待ってくれ…。もしかして…事前に役割は、決まって…いた、の、か…?」
困惑した表情で
渦雷が声を絞り出す。
「ええ。
阿久津さんから初顔合わせの前に通達があったのよ。私がサブリーダーだって。なのに、全員集まってみたらサブリーダーは
霧島になってる。それが不思議だったのよ。特に初期の、性格がひん曲がっているのを隠そうともしないあの
霧島が、ね?それがとっても不満だったの。私がやった方が問題を起こさずに
渦雷リーダーのサポートをして、上手く班を回せるってね。サブリーダーだと認めたのは、
霧島が
渦雷をリーダー呼びするようになってからよ。」
「…つい最近じゃねぇかよ。」
霧島が遠い目をする。
この2人の間の独特の空気間は、サブリーダーという役職が大きな原因だった。
「――じゃぁ、
もしかして
、
当初のリーダーは
…。」
「――あー…。僕の番の時に話すわ。うん。
渦雷、ごめん。」
霧島の方を見ながら
渦雷が発言すると、霧島に目をそらされて謝られた。
だから、俺がリーダーを辞めたいと言ったときに「――
天道さんにも何で僕がリーダーじゃないのかって聞きに行ったさ。」と言われたのか。
「Oh…。マジかよ。え、重くねぇ?この采配って私の例もあるし、多分絶対
天道がやってるんだよな??は???」
「あぁ…何てこと…。
私も聞きたいことがありましたけど、何となく答えが分かりましたわ。」
「ろ、
碌なことしませんね…?上司の面々…。
阿久津さんも阿久津さんですし、
天道さんも天道さんですね…?…あれ?え、じゃぁ、
僕も
…?」
晴野、
雨宮、
雪平がそれぞれ口を開いた。
全員がドン引きしていた。
「あー…。詳しくは僕の時に言うけど、僕も
当日になってサブリーダーにされた
。元々は僕がリーダーの予定だった。多分、
阿久津にとって僕は操りやすかったんだと思う。…今は僕がリーダーの器じゃないって、ちゃんと理解してる。リーダーは
渦雷だ。…丸くなった?のは役職の発表の後、
天道さんと色々あったんだ。これも後で話す。…さて、
嵐山さんよ。
阿久津さんの事前情報と
天道さんの発表に差があったことは確かだ。そして、恐らく
自分の役職以外は公表されていない
、そうだろう?」
「ええ。自分の役職だけだったわ。
霧島がリーダーとか、
雪平がオペレーターとかは聞いていないわ。そう……そういうことだったのね。ひとまず
霧島の暴露を待つことにするわね。」
「…僕、初期段階で班に居なくて良かったかも…。多分、更に引きこもってたと思う。…なにこれ怖っ。」
東雲は怯えながらひとりごちた。
「…他には何かありますか
姐さん…。」
晴野は怯えながら、
嵐山に次の話題を催促した。
恐らく絶対零度の空気が怖かったのだろう。
呼び方もおかしくなってる。
「そうね…次。
雪平は…まぁ、いつもの事だし。見える【色】にはいつも助けられているけれど。」
「うっ…すみません……。」
心当たりがあるのだろう。
雪平は素直に謝る。
「
渦雷リーダーは最近やっとリーダーらしくなったかなって思ったわね。
霧島をサブリーダー呼びし始める前は、さっさとリーダー辞めればいいのにって思っていたわ。
阿久津のテロに
天道が巻き込まれた時、リーダーになる代わりにいくつか交換条件出しているって言ってたのに、やる気もないのかってね。」
「うっ…すみません……。精進します。」
渦雷も謝罪した。
渦雷は班の空気もそうだが、上司も上司だったので、ずっとリーダーを辞めたいと思っていた。…辞めさせてもらえなかったが。
その気持ちが見透かされていたのかもしれない。
というか、認められたのが最近過ぎて怖い。
「
東雲と
晴野は特になし。さて、
雨宮。…私の事、苦手でしょ?」
「――…ええ、
今日までは
。…だいぶ性格がわかったので、今はもう平気ですわよ…。」
雨宮は少々ひきつった顔で返答した。
嵐山とは仲がいいわけではなかったらしい。意外だった。
雨宮にとっての
嵐山は、歳の離れたお姉さんポジションだと勝手に思っていた。
「私からはこれくらいかしら。これからもどうぞよろしくね。」
嵐山の挨拶で1人目の暴露が終了した。
「…はーい!
嵐山さん、ありがとうございましたー!!お次は
雪平さんでーす!!
8888」
「…あっ、はい。
雪平です…。」
晴野のテンションと周囲の空気感に怯えながら、
雪平が返事した。
だいぶ挙動不審になっている。大丈夫か。
…俺も人のことは言えないが。
――重い。次は何が出てくるんだ、これ。
各自戦々恐々としながら次の人の暴露を待つ。
「――
晴野さん、誠に申し訳ございません。いつも大変お世話になっております!!」
雪平は席を立ち、
晴野に向き直り、90度に頭を下げた。
最敬礼である。
「ああ、うん。だと思った。大丈夫。これに関しては恨んでいるのは
天道だから、マジで気にしなくていーよ。」
それに対して
晴野はあっさりと返答した。
「…そこにも
天道さんが絡んでくるんですね…。」
「そうそう。詳しくは私の時に話すけどさ?
雪平をオペレーターにした後、これは無理だってなったときに、私にオペ兼
雪平の秘書になれって押し付けられたんだよねー。」
「――え。」
「あ、ちなみに拒否権なかったっすー。だから、気にしないで。てか、
雪平の共感覚を知ってからだいぶやりやすくなったからさ。恨んでいる理由も、
天道の有無を言わせない強引なやり方なんだよ。…今じゃ色々助かってるんだよ。ありがとうね。
雪平。」
絶句する雪平に
晴野が軽く返す。
天道はこの2人にも亀裂を作っていた。
なんだこれ。恐怖しかない。
渦雷はよくこんな中で今までリーダーを務めていられたな、と思った。
亀裂の量が多すぎる。
というか、この飲み会で発言すると、必ず隠された地雷を踏みぬくという有様だった。
俺の順番は最後だが、一体どんな地雷を踏みぬくのだろうか。
恐ろしい。
「――そんな、僕は何も…。」
「ただな、1つだけ言わせてくれ?――迷子になったらgoggle mapで現在地把握して目印になる建物に移動するとか?情報量が多くて【色】がぐちゃぐちゃでマップ見れないなら、せめてコンパスとかでオフィスの方角測って帰巣本能で帰ってこいや!!!!いつもいつも
晴雪コンビで出動するとき、迷子の迷子のゆっきーを拾いに行くのが大変なんだよ!!見つけに行く人間の気にもなりやがれ!!!!8月31日のテロの時は、なぜか
渦雷リーダーと
霧島サブと合流してるし!!?まぁ、あれは【色】による判断だったからむしろ良かったけど!!――移動するならこっちに連絡くらい入れろやぁああぁあ!!!!以上!!!!」
「い、以後気を付けます…。」
至極まっとうな
晴野の意見に
雪平は反省した。
大きい溜息をついた
晴野は、気を取り直して口を開く。
「んで、他は何かありますか?…私とのわだかまり、溶けた?」
「あ、はい!もう大丈夫です!」
「他は何かあるっすかー?」
「いえ、班の空気はこの後の暴露で答えがわかりそうですし、今日でわだかまりが溶けるなら、上司陣以外に不満や文句はありません。」
晴野の問いに
雪平が答えた。
雪平はいつもの穏やかな顔に戻っていた。もう大丈夫そうだ。
「そっか。…なら、次行くか!お次は
雨宮さんでーす!!
8888」
「ええ、
私ですわね。…この流れですし、言っておきます。当初の予定では、私が
オペレーター
でしたのよ。なぜか
雪平が指名され、退けられたら戻ってくるかと思いきや、
晴野が座りましたけれど。」
雨宮は
阿久津からオペレーターに指名されていたようだった。
「あー…元々は
雨宮さんでしたかー…。」
「Oh…。オペレーターの席は泥沼化してんよ…。なんだこれ。」
雪平と
晴野は遠い目をした。
本当に、何だこれ。
阿久津と
天道は一体何がしたかったんだ。
絶対何も考えてなかっただろ。多分。
「オペレーターというものに少々憧れていたのもあって、最初は恨みましたわ。ですが、班員として外に逮捕に行くほうが楽しく思えてきて以降、どうでもよくなりましたわ。…体を動かすほうが、性に合っていたんでしょうね。だから、気にしないでくださいませ。まぁ、そういう点では
天道の采配は大当たりでしょうね。…ぜひ配置換えを行う前に、こちらに一言欲しかったですが。」
「それなー。」
「
禿同禿同。」
「この場に居る全員が思ってるよ。…多分。」
霧島、
晴野、
東雲が
雨宮の意見に肯定した。
「あ、
天道に関してはまだ言いたいことがありますのよ?
私、周囲となじまないから言葉使いを崩せと言われてましたの。だから色々頑張っていましたのに、家でポロっと口に出てしまいまして。そのせいでお父様とお母様に品がないと叱責されましたのよ!?だから、ここ2ヶ月間は言葉を
天道に合う前に戻していますわ。――大切なお客様の前で、うげっとか言う訳にいきませんもの。」
そういえば、この2ヶ月ほどは、
雨宮がしていたまったく似合わない言動は聞いていなかった。
天道由来の言葉使いを、両親に叱られたのが原因らしい。
「他は特には無いですわね。皆さま、どうぞこれからもよろしくお願いいたしますわね。」
雨宮は班員に向きあって頭を下げた。
「…はーい!
雨ちー、ありがとうございましたー!!お次は
雲ちーでーす!!
8888」
「僕の番だね。…苦手が多い僕を、いつも気を使ってくれてありがとう。まずはお礼をいいたい…です…。えっと、気になっていたことは、僕が新たに入ってきて…邪魔じゃなかったのかな、とか、僕が
晴野の情報班員の座を奪ったのかなってこと。…だけど、今みんなとこうして話せているし、
渦雷リーダーと
晴野の話し合いで、誤解だってわかったし。それに、
晴野がアストライアーだって分かったから…逆に同じ班に仲間がいて、嬉しいです。その他はえっと、班の空気感…
雪平と同じだから、この暴露会でだいぶ分かったし、この後たぶん
渦雷リーダーの暴露で完全に分かりそうだから…他はなにもない、かな。…あ。
天道も
阿久津も
天笠も嫌い。ついでに
生天目も。以上。」
「まぁ、最初は思うとこあったけど、今は大事な仲間だよ。これからもよろしくな。」
「まぁ、言ってしまうとそうよね。
霧島と同意見よ。」
「まぁ、そうですわね。同じくですわ。」
「皆さん結構シビアっすなぁ…。まぁ、私もコミュニケーションの取り方には悩んだけど。」
きっぱりとした性格の
霧島、
嵐山、
雨宮の意見に
晴野はためらった。
まぁ、暴露大会だから仕方ないし、今回の場合はむしろ言ったほうがわだかまりも溶けるだろう。
なにせ、ビジネスライクで成り立っていただけで、班の中身はボロボロだったのだから。
阿久津と
天道のせいで。
「うーん、僕は危険な【色】は見えませんでしたし、そうなんだ、くらいの認識でしたね。むしろ初期の
霧島さんと
嵐山さんの【色】が怖すぎましたし…。あ。」
「おっとぉ。…ゆっきー、お酒足りてないんじゃない?暴露も足りてないんじゃない?飲んだらもっと言えるようになるかもよ?」
思わず口を滑らした
雪平に
晴野が酒を勧めた。
「
晴野、それはアルハラだ…。総務や人事行き案件だぞ。」
「チッ。」
渦雷は
晴野を速攻止めた。
「気を取り直して…っとぉ。
雲ちーことヴォイド氏、ありがとうございましたー!!次は問題の
霧島サブっすね。
8888」
霧島は気まずそうに口を開く。
「あー。まず、
渦雷、
嵐山。色々とすみませんでした。
嵐山はサブから追い落としていたみたいだし。…僕は最初、
阿久津からリーダーに指名されていた。だけど、いざ集まってみると僕はサブリーダーになっていた。理由を聞くと…僕は言うほど優秀じゃないが、経歴に期待してサブにしたって言われた。むかついてストライキしてたら
天道に海外に連れ出されて、文字通り死にかけた。1週間のうち2回建物が爆発したし、ヤバいのに尾けられるし、最終日なんて、腰だめで3名からのライフル一斉掃射されながらの
天道との寒中水泳だし。」
「まてまてまて後半内容が濃すぎる。なんだそれ。どこ行ったんだよ。」
晴野が驚きながら切り返す。
「機密扱いで詳しく言うことができないんだ。だから未だにストレスなんだよ。この話…クソが。はぁ。…だけど、この時に色々あって、自分を変えるきっかけになったと思う。僕が変わったのはある意味では
天道のお陰なわけ。僕が
天道を憎んでも憎み切れないのはこの一件からきている。決して
天道の味方になったわけじゃない。けれど…少しだけ感謝しているんだ。」
――感謝、ねぇ…?
訝しみながら、
晴野は問うた。
「
霧島は
天道の送り込んだスパイじゃねぇんだな?いつもちょいちょい味方してるけど?」
「違うわ。
追放には賛成だけど、冤罪で逮捕させるほどじゃないってだけだ。あと、次に来る上司が
生天目な可能性が大きすぎて、
追放が出来ないっていうのもあるが。それに、
生天目じゃなくても、
天笠さんの部下をつけられたら、今より悪化するだろ?」
霧島は即座に否定した。
晴野は口を開き、仮説を提唱した。
「ふーん。ならいいや。…てかさ、
阿久津にさ?初期の激しすぎる性格で、阿久津と似た者同士にカウントされてたんじゃね?あいつら自慢が凄いし。自分凄いだろってうざいし。権力好みまくるし。簡単に蹴落とすし。だからリーダーになって欲しかったんじゃね?阿久津一派。」
「…あれ?まさか…未だに初期の性格のままだと思われていませんか…?」
気付いたように
雪平が言った。
「情報の更新、止まっていらっしゃるの?…あの方のOSはWin●ows95なのかしら?」
雨宮も
阿久津に触れ、品よくディスった。
「マジで…?僕自身を見ていないってことか…?1年半、いやもうじき2年弱くらい経つぞ…?」
霧島は仮説が正しそうな可能性に驚き、絶望した。
「思ってたんだけど…これさ、
阿久津の管理能力の欠如ヤバくないですか?だから
天道が勝手に中身変えた系?いやそれでもまずはこっちに一言言えやゴルァ。」
霧島の発言に晴野が考察を口にした。
場に沈黙が訪れた。
「…あー、
霧島サブ?他何か言いたいことありますか?」
進行役の
晴野が
霧島に問う。
「
嵐山と
渦雷が納得したなら、僕はそれでいい。」
「サブリーダーと性格に関しては納得がいったわ。
天道に上手く取り入って、手下として班のスパイ活動をしているのでなければ問題ないわね。」
「俺は大丈夫だ。
霧島さん、話してくれてありがとう。」
嵐山と渦雷がそれぞれ言葉を返した。
「
嵐山からの僕の評価が酷い。あー…一応訂正しておくと、僕の
秘匿班先の上司の1人が
天道ってだけだ。これ以上は言えない。だからこそ、周囲からは
天道との距離が近く見えてんじゃないのか?あと、この班の調整やってた時期はあるけど、誓ってスパイはしていない。」
「
天道…アイツ、
特捜内に秘匿班まで持ってたのかよ…。なぁ、
秘匿班先の仲間内、ギスギスしてねぇ?」
ドン引きしながら、
晴野は
霧島に問うた。
「…ご存知の通り、
秘匿班に関することは言えないから、ノーコメントで。…マジで
察してくれ
。頼む。」
「Oh…。ジーザス。」
嵐山が口をはさむ。
「
霧島は
天道に
秘匿班されていたのね。…手下じゃないと信用するわ。これからもよろしく。」
「疑惑というか、わだかまりが溶けたのなら良いが…。はぁ。みなさんこれからもよろしくお願いします。」
霧島も班員に向かって頭を下げた。
「…はーい!
霧島サブ、ありがとうございましたー!!お次は私だー!!
8888」
晴野は自分を紹介し、明るい声を出した。
「…いやぁ、既出なんすけどね?班が決まった後のことを言いますと…。
渦雷リーダーに情報班員から追いやられたと思っていたら実は犯人は
天道だった件は、ゆっきーの秘書に有無を言わさずつかされた件と同時期で。しかも入所した際に期待されたスキルが全く使えない仕事環境で人の面倒ばかり見させられてさ?毒親から逃げたと思ったらこれかよっていうプライベートと相まって憎さ倍増でしたし?外見はきれいでも班の中はメチャクチャだし?
秘匿班で情報系に拾ってもらえなかったら多分自殺してた気がするし?…自分の中で折り合いがつくまで結構嫌な感じだったと思う。皆さま本当に申し訳ございませんでした。…特に
渦雷リーダー。強く当たってしまい、申し訳ございませんでした。」
晴野は班員に改めて向き直り、頭を下げた。…特に、
渦雷には丁重に。
「いや、その…。さすがにその状況は俺でも無理だ。俺が
晴野の立場なら相当恨むし、辞めてると思う…。
晴野はよく耐えたし、頑張ったと思うぞ…。本当に。」
晴野の追いやられ方は悲惨だった。
他の班員も、口々に
晴野に謝罪した。
「――やっぱ、
天道、社会的に殺さない?僕、飲み会終わったら寝る前に
天道のスマホハッキングしてみるよ。徹底的に証拠掴んでやる。恥ずかしいネタがあれば尚良し。無いならウイルス仕込んでその状況を作ればいい。会議中にスマホから大音量で萌え系電波なアニソンが流れ出して止まらなくなるとか。スマホの画面に猫とかウサギのケモ耳メイド出現させて、Live2Dで動かしながら〔ご主人様ぁ♡萌え萌えきゅーん♡〕とか言わせるとか。家から出られなくなるほど恥ずかしい目に合わせてやる…!!おすすめのいかれた電波系サウンドトラックも作ってやる…!ネット
厨の恐ろしさを見せてやる…!!」
東雲はブチギレた。
他の班員も東雲に続く。
「いいですね。僕も調査部にゆすれそうなネタが無いか聞いてみますね。あれば迅速に提供します。」
「私も
秘匿班先で情報集めてみるわ。これは酷すぎる。だって、事情何も説明されていなくてこれでしょう?ありえないわよ!」
「
天道さん…ありえん。これはない。あー…僕もちょっと探ってみるわ。」
「
晴野。私は味方ですわ。
秘匿班先で何か情報を得たら、即座に提供致しますわね。」
「わぁ、みんな優しー。あざす。ヴォイドさんよ、私もエグいウイルス作ってぶち込みてぇっす…。」
「オーケー。一緒に作ろう。久しぶりの共闘だね。…よろしく。アストライアー。」
話はまとまったようだった。
「…てなわけで、満を持して最後は
渦雷リーダーでーす!!
8888」
班員全員から半分恐怖、半分期待のまなざしを向けられる。
…言うしかなかった。
「俺は――8月31のテロの一件が終わったら、リーダーを辞めることになっていた。元々、
阿久津さんは俺にリーダーを辞めて
霧島さんに代われと事あるごとに言っていたし、俺自身はリーダーの器ではないと…思っていたから、
阿久津さんに従ってリーダーを交代するはずだった。だが、
天道がその都度俺の訴えを止めていたし、
天道と揉めたときに交換条件を飲ませていたこともあって辞めることができなかった。その後、8月30日のテロのデモンストレーション阻止の失態を理由に、
阿久津さんが俺を外すことにした。だから、事前に
霧島さんにリーダーの交代を打診したんだ。俺が出した交換条件も、できればリーダー業務と一緒に
霧島さんに引き継いでもらいたかった。」
「何そのえぐすぎる裏事情。しかも
霧島の地雷踏みぬくコンボとか…。まぁ、誰かが話す度に、誰かの地雷をピンポイントで踏みぬいてるんですけどね?」
「上司のせいだけど、この踏み抜き方は酷すぎる。」
晴野と
東雲はドン引きしながら発言した。
雨宮と
雪平は死んだ目をしている。
嵐山は驚き、
霧島の顔は引きつっていた。
「俺が限界だったっていうのもある。その…班員にはあまりいい感情を持たれていないようだった…し…。
阿久津は俺の役職を辞めさせたがるけど、
天道はその逆で、いつも班は不安定だったし。それに、
霧島さんの方が、みんなを引っ張って、何でもスマートにこなせていくから、
霧島さんがリーダーになった方が班がまとまると思ったんだ。――今日の話で俺は8月30日に
霧島さんの特大の地雷を踏みぬいた上に、逆鱗に触れるどころか逆撫でしていた訳だったが…。よくあのとき許してもらえたなと…。本当に申し訳ございませんでした。」
「あの、
渦雷?冒頭は知ってたけどさ?…僕、あの日、最後の後半部分しか聞いてないんだけど…?……まさか、自分に落ち度があるという風にして綺麗にまとめて、ヘイトを全て引き受けてから班を渡そうとか思っていたとか…そんな、高度な政治してたとか…言うんじゃねぇだろうな…?」
「…。」
渦雷は無言を決め込んだ。
霧島は途中までは本当にリーダーの座を狙っていたのだから。
リーダー交代の際、自信が無いをメインに言ったほうが角が立たないと――当時の
渦雷は本気でそう思っていたのだった。
「あー…
渦雷氏ー?これ、後々の亀裂になるから、今言えー??ヤバいぞ今の状況。」
「…政治のやり方は
天道さんに倣いました。リーダー研修の一部は
天道さんが担当だったので、その時のやり方を。…理由は、その…
霧島さんはリーダーの座の奪還に動いていたようでしたので…。最後は俺のことを認めて貰えていたようですが、当時は知りませんでした。」
場に本日何度目かわからない沈黙が訪れる。
「…わー。最後に残った
霧島氏のプライドをズタズタにした上に、特大級の地雷踏みぬいてるじゃないですかやだー。HAHAHAHAHAHA」
何も映していない瞳で
晴野は笑った。
霧島は瀕死だった。
「それに、夕方の
晴野の件で恨みも買っていたし…。
霧島さんならその辺綺麗だったので…。」
「あー。私の件ね?一応
渦雷氏から事の経緯を聞いていいかい?超詳しく。」
「
天道さんにリーダーなら班の中を整えろと言われていた。そのうちの一つが
晴野の件だ。
晴野のコミュニケーション能力や調整力を高く買っての事だったらしい。また、
晴野がオペレーターに動くことで、
雪平のサポートをしやすくしたいと言っていた。だから、新たな情報班員を選出することになった。候補者のリストの中で一番実力があったのが
東雲だった。ただ、その…評判は悪かったし、行く先もやばかった。同情と言われればそれまでだが、何とかしたかった。会ってみた感じは…上司陣みたいな問題があるわけじゃなかったので引き抜くことにしたんだ。
天道さんからは、誰にも何も言わず、オペレーター変更の件の裏は墓場まで持って行けと言われました。その後、
東雲の加入に反対する
天道さんをと取引して資料室を改装し、今に至ります。」
「Oh…。」
「誠に申し訳ございません…。」
晴野の発言に
雪平は平謝りだった。
「
天道さんからは【
渦雷が扱いに困りすぎて軟禁確定になった凄腕ハッカーを拾ってきた】としか聞いてねぇぞ…。あのクソ野郎。
渦雷のせいにしやがって。」
「僕は途中参加だからいいけど、みんなは当時地獄だったんだろうなって本当に思うよ。だからこそ、当初は
渦雷リーダー以外信用していなかったんだけどね…。」
霧島と
東雲は当時の自分の状況を重ねて発言した。
「おい、
渦雷。僕はガキに心配されるほど落ちぶれちゃいねぇよ。…今度はちゃんと話してくれてありがとう。以上。」
霧島は
渦雷に対してぶっきらぼうに言い放った。
もしかしたら、この姿が
霧島の本性なのかもしれない。
「残ったプライドは年長者ってだけっすかぁ?あるぇー?もしかして、
霧島って老害?」
「…
晴野、お前、いつか殺す…。」
「おー?いいぞいいぞ?ヴォイドと共闘して社会的に殺してやんよ。――プライドエベレスト野郎。」
晴野は
霧島を煽り、霧島がブチ切れた。
晴野は更に煽り、応戦する。
手こそ出さないがかなり険悪な雰囲気だ。
「こら、そこ喧嘩始めない。」
嵐山が仲裁に入る。
「
霧島。女性に対する暴言はあり得ませんわよ。自業自得ですわ。」
「…殺す発言に対しては、一般的には煽った
晴野が悪い。…と思う。晴…いや、アストライアー。
霧島サブは煽り耐性低いから…。ネット掲示板では生きていけない類の雑魚でしょ?ほっとこう?」
雨宮の発言をうけ、
霧島は怒りを少し抑えた。
だが、
霧島に味方したと思った
東雲が、後半で
晴野に味方し、更に煽った。
「あのー…
東雲君…?これ以上、喧嘩を吹っ掛けないでもらえます…?というか、結構言うんですね?」
雪平は
東雲の煽る姿と、
霧島の発する険悪な【色】に驚き唖然としている。
「おい、ガキども。お前らいつか絶対痛い目に合わせてやる…。」
霧島はグラスに残っていた酒を一気飲みした。
「あー、
渦雷氏ー?他何かあるー?」
「え…。い、や、あとは上司陣に言いたいことがあるだけだから大丈夫だ。」
渦雷は
晴野に発言を促されたが、
阿久津に対する愚痴を言えば、更に燃料投下で大爆発になるだろう。
渦雷は
霧島が怖くてこれ以上は何も言えなかった。
「うん…。ラストにふさわしかったわー。本当、マジで申し訳ございませんでした。」
「…訴えても棄却されていたのね…。
渦雷リーダー。申し訳ありませんでした。…辞めたいけど、言い出さず適当にしているだけだって勘違いしていたわ。それに、
晴野と
東雲の件も。」
晴野は死んだ目をし、
嵐山は
渦雷に向き合い謝罪した。
「いや、みんなの事情が聞けて助かった。…時には腹を割って話してみるものなんだな。特大級の地雷ばっかりだったが…。」
「せめて、
天道が配置換えについて説明してれば…ここまでにはならなかったはずですわよね。」
「やっぱ
〆るか。」
渦雷の回答をうけ、
雨宮が代表して班の意見を言い、
晴野が物騒な提案をするのだった。