微風(13)

文字数 821文字

 電話を切ると泣きたくなった。涙がこぼれそうになったので急いでトイレにいった。

 戻ってからの時間はやけにのろのろと過ぎた。やっとの事で土曜日の就業時間が終わった。

 時間が空いてしまったので同じく出勤のナオとランチして帰る事にした。いつも帰りにナオが銀座支店まで来てくれた。

「デート、キャンセルになっちゃった。」

 私は泣きまねをしてみせた。

「あらら、かわいそうに。」

 とナオは言った。2人で会社を出ようとしたら原田課長に声をかけられた。

「飯行くの?俺も一緒にいかせてよ。」

 最近では課長とずいぶん気安く会話出来るようになっていた。3人で会社を出た。

 会社から少し4丁目よりに歩いたところのイタリアンに入った。会社帰りに行くようなカジュアルなレストランだがなかなか美味しい店だ。
 とりあえずメニューを決めてオーダーした。

「何時位まで大丈夫なの?」

 と私はナオに聞いた。ナオはこれから地元に帰ってデートだ。

「15時前には出たいかな。」

「そっか。じゃあそんなに急がなくて大丈夫だね。」

 私は確認した。

 ナオの彼は大学時代の同級生で今は外資系のメーカーに勤務しているという。ものすごく束縛するタイプなのはよく聞いていた。

 嫉妬深いのはわからなくもない。ナオはとにかくスタイル抜群で顔もいいから目立つ。

 でも外見によらずガードが固く慎重で隙がないので彼がそこまで心配する必要もないと思う。

 まだ相変わらず怒られたりする事はあったが私の課長への苦手意識はなくなってきていた。

 今はむしろ指導係として仕事への疑問や他の営業の男性への不満なども聞いてもらったり出来るようになっていた。

 ランチの間はそんな職場の人間関係や空気や業務の事などが話題だった。課長がナオの彼の事を聞いたりしても別にセクハラでもなんでもなくただの世間話でしかなかった。

 ナオは始めから課長に対して苦手意識もなくむしろ親しくいろいろ話せる上司という感じだったようで私とは始めから少し違う。
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