皮肉な成り行き(2)

文字数 645文字

「デートしたの。」

 飲みはじめてしばらくすると私は言った。

 課長と一緒だった。この前久しぶりのデートの誘いを断った時、課長は何か感じたかもしれない。

 有頂天になると思っていた私が断ったわけだから。その時課長が

「じゃあ来週にしよう。来週の金曜に。」

 と言ったのだ。それが今日だった。

「誰と?あの男か。」

 急に予期せぬ話が始まって面食らったかもしれなかった。

「そう。ここで会った人。」

 私は認めた。

「付き合う事にした。」

 いよいよ言い出さなくてはならない。

 課長が煙草に火をつけた。気詰まりな沈黙の後で課長が口を開いた。

「寝たのか?」

 私は頷いた。課長の方を見る事ができなかった。正面のグラスを見つめたまま言った。

「ごめんなさい。課長とはもう・・・できない。」

 自分勝手なのはわかっていたが言わなければいけなかった。

 課長は煙草をくわえるとふーっと長く煙をはいた。

「俺よりあいつとの方がよかったってことか。」

 そう言った後ですぐに

「なんでもない。」

 と言った。

「そういう問題じゃないって知ってるでしょ。」

 私は苦々しさを滲ませて言った。

「そうだな。」

 堪えられなくなりそうな沈黙。

 課長は黙って煙草をふかし、私は目の前のビールの泡が消えていくのを見ていた。

「出よう。」

 課長が静かに言って席をたつ。私も後についた。会計を済まして賑やかな通りに出た。

 課長はいつものように私の手を取って歩き始めた。

 心がざわめく。

 課長が私の指に自分の指を絡めた。それだけのことでも私の決意はぐらつきそうだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み