微風(15)

文字数 879文字

 私は石原さんと山崎さんの後任が誰になるのかも気になっていた。もう先輩達が退職する日はすぐそこまで迫っていた。

「石原さん達がいなくなった後、誰が来るとか決まってるんですか?」

「それは来週にでも支店長から話があるんじゃないの。」

 課長はそうとだけ言った。もちろんこっそり教えてくれるつもりはないという事だ。

 課長はそういう人だったから私も聞き出そうとして言った訳ではない。ただの話題だった。

 コーヒーも飲み終わりしばらく話した後ナオがそろそろ行くと言い出したので帰る事にした。課長は地下鉄に消え私とナオはいつものように東京駅で反対方向に別れた。

 週末は退屈だった。彼氏とデートしたり友達と出かけたりという行事がなかったから。

 早川さんとのデートはキャンセルになって会えなかったし学生時代の友達は皆、私自身も含め新しい環境に慣れるのでいっぱいで誰かが会いたいねと言ったにしろ誰も積極的に動こうとはしなかった。

 早川さんの存在があったし合コンと言われるものはしなかった。そんな話も周囲になかった。

 もちろん他の学生時代の友達はしていたはずだ。でも私は忙し過ぎてアフター5と言われる時間もなかった。

 毎日仕事を終えて会社を出る頃にはデパートは閉店していたしナオやマリや銀座支店の2階の営業管理にいるサトミなどの同期とご飯を食べようと言っても飲み屋を探した方がいいという時間だった。

 平日は毎日くたくただったので週末は借りてきたビデオを見るくらいで、日曜の午前中は寝溜めを決め込んで寝ていた。

 あっという間に週末も終わりまた憂鬱な月曜の朝が来た。

 月曜の朝、有楽町から銀座通りまで道を歩いて行くと地下鉄の出口から出て来た原田課長とばったり出くわした。

「おはようございます。」

 と出かかったあくびを噛み殺して言うと

「なんだ、元気ないな。眠そうな顔して。週の始まりなんだからしゃきっとしろ、しゃきっと!」

 と喝を入れられた。

「はい。」

 と言ったがどうにも眠かった。眠いなんて言っていられるのも今のうちだ。今日もまた外出の予定がぎっしり詰まっていたから忙しいのは確実だった。
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