揺らぎ(2)

文字数 563文字

 ディズニーランドの翌朝は辛かった。

 帰宅して入浴するとすぐにベッドに潜り込んだ。何も考える間もなくすーっと眠りに落ちて、ほんの一時しか寝てないような物足りなさで目覚まし時計に起こされた。

 急いで支度をしてトーストとコーヒーで流し込み家を出た。

 電車では眠くて仕方なかった。乗車率は200%超とも思われるほどの混雑でぎゅうぎゅう過ぎて立ったままでも倒れる事なく寝られた。

 東京駅について乗り換える頃になるにつれだんだんと胃が苦しくなってきた。忘れていた事を思い出したからだ。

 支店長の顔はまともに見られなかった。今日ばかりは松屋の角で課長に会っても一緒に会社に入っていく勇気はなかった。

 課長の姿を見つけてもうれしさより不安を感じた。歩きながら

「どうしよう。」

 と課長に言った。

「考えても仕方ないだろ。お前は普通にただ仕事してればいいよ。」

 課長は言った。

「おはようございます。」

 本当に何もなかったように課長に少し遅れて会社に入っていった。

 支店長とは顔を合わさなかった。こわくて恥ずかしくてどんな顔をして支店長に挨拶すればいいのかわからなかった。

 その日一日中いつ呼び出されるかとびくびくしていた。

 課長にもこっそり支店長から何か言われなかったか聞いたが何も言われていないようだった。

 それは私には嵐の前の静けさに思えた。
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