晩夏(1)

文字数 667文字

 仕事上は相変わらず厳しかった。後でやるとか、この程度でいいとか、そういった手抜きは容赦なく叱られた。

 旅行の仕事で一番大切なのは何度も何度も確認する慎重さ。なぜなら安易な大丈夫だろうという考え方は最悪の場合、旅行者が出国出来ないという事態に繋がるから。

 仕事をしていく上での基本姿勢はすべて課長に叩き込まれた。

 サービス業にお盆休みはない。ただ交替で夏休みを取る事は出来た。

 私は夏休みをとったところでどこかに旅行にいくあてもなかったし、ばらばらにわけて平日休みをちょこちょこ入れる事にした。

 長期の休みは課長に会えない事を意味したから取りたくなかった。それに今は先輩の大橋と2人体制で仕事上も私が長期の夏休みを取得しないほうが都合がよかった。

 2人体制はつねに忙しい。それでも外出の時わずかな時間があればアイスコーヒーを飲む位の事はした。

 都内の気温は35度を超えていた。アスファルトの反射熱の中、炎天下に歩き回るのは苦行だった。

 冷たいドリンクを飲んで一息いれた。そんなにのんびりしている時間はない。せいぜい10分が限度。

 バッグからペンとメモを取り出して課長にメッセージを書いた。

「原田課長

 課長が夏休みでいないとさびしいな。ぐすん。
 埋め合わせしてくださいね。
 暑いから、ちょっと休んでマス。もう行かなきゃ。

 金曜日、楽しみにしてます。
 早くあがってね!!」

 ハートマークをいっぱい書いて出来上がり。さて、行かなきゃと立ち上がった。

 (あとの問題はこれをどうやって渡すかだよね・・・)

 私はまた灼熱の日差しの下に出ていった。
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