Sweet September(4)

文字数 769文字

 14時20分を過ぎても課長は現れなかった。時間に厳しい課長にはありえない事だ。

 もしかしたら奥さんに感づかれるとか何かマズイ事になって中止せざるを得ないのに私に連絡がつかないとか?

 そんなことを考えているとまた列車がホームに入って来る音がした。この電車で来なければもう・・・

 そう思った時、課長が急いでこちらにやってくるのが見えた。ホッとした。課長は私を見つけるなり

「ごめん、本当、悪い。」

 と謝った。私は

「もう今日は中止って事かといろいろ考えちゃった。」

 と一瞬ふくれてみせたがすぐに

「でも会えて本当によかった。」

 と課長の腕にぶら下がった。

 朝晩は秋らしくなってきているとは言えまだ昼間は残暑が厳しかった。

 この辺りは仕事で毎日のように歩き回っているところだがもちろんいつもとは全然違う。

 街の景色も新しいインクで塗り替えたように色鮮やかに見える。見ている私の気分を投影して魔法で命を吹き込まれたように新鮮に映った。

 ルートは決めないでぶらぶらとウィンドウショッピングをしながら歩いた。表参道で学生時代の友達が今もアルバイトしている珈琲店に入った。

 少し静かな一時を過ごしてから渋谷方面に歩きだした。公園通りでちょっと早いけど飲みはじめようかと話をしていた。

「ミズキ!」

 大きな声で呼びかけられた。びっくりして周りをキョロキョロした。

「ミズキ!こっちこっち。」

 声がする方向をみた。

「ユキちゃん!」

 私は声の方向にユキを見つけてまたびっくりした。ユキは私が今日親へのアリバイに使った学生時代の友達だ。

 ユキが彼氏の加藤くんと一緒に交差点の反対側に立って私を呼んでいた。一瞬親に嘘がバレてユキが知らせにきたような錯覚を起こしたがそんなはずはない。

 どこかで神経過敏になっているのかもしれなかった。しかしすごい偶然があるものだと思った。
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