初夏(1)

文字数 826文字

 いろいろな場所でいろいろなものが芽吹いていた。いたる所で、何かが生まれようとしていた。

 仕事にも会社の空気にも社会人という身分にも大分慣れてきたとはいえ、まだまだ仕事はルーティンを全てこなす事もままならなかった。

 先輩にいちいち指示を仰ぎながら与えられた事を遂行しつつ学ぶという状態だった。

 時々他の支店の同期も集まって飲んだり会社の保養所に週末に旅行に行ったりして盛り上がった。

 そんな折に同期から話を聞くにつれ私は理解ある先輩に恵まれたんだなと幸運に感謝した。

 同期のほとんどが先輩の愚痴を言っていた。銀座のカウンターの先輩しかり、他の先輩も嫌味っぽかったり陰険だったりわがままで自己中心的だったりした。

 同期の男子の一人などはヒステリーな女性の先輩にファイルで頭をぶたれたと言っていた。他の支店の先輩であまり会った事はなかったが恐ろしくなった。

 ある日の夕方、外出から戻った私は先輩の石原さんに話しかけられた。

「川村さん、今日急いで帰らなきゃいけない用事とかある?」

 特になかったのでそう答えた。もう一人の先輩の山崎さんと飲みに行くのでよかったら来ないかと誘われた。私は喜んで参加させてもらう事にした。

 乾杯した後しばらくは先輩たちの話に適当に合わせながら話をしていた。先輩達は私を仲間に入れいろいろな話をした。恋愛の話にもなった。

 山崎さんは同棲中の彼氏がいるという事だった。

「結婚はしないんですか?」

 と私は聞いた。

「まだ。今はしない。でもそんなに先ではないの。」

 山崎さんは答えた。

「って事は予定はあるって事ですね。いいなぁ。」

 と私が言うと石原さんも

「いいよねぇ。」

 と言った。

「まだわからないよぉ。」

 と山崎さんは言いながらもまんざらではなさそうだ。

「ひとみちゃんだって彼氏いるじゃん。」

 と山崎さんが石原さんの事を言った。

「そうだけど。なんかもう全然だよ。冷めてるっていうか。家族みたいだし。」

 と石原さんは自分と彼氏の事を言った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み