初夏(8)

文字数 587文字

 この前と同じように駅に着くと早川さんに電話した。やりかけの仕事がもう少しかかりそうだから先にいつもの店に行っててくれないかという事なので店に向かった。

 私が席に案内されて座ったところで早川さんがやってきた。私を見つけて顔が緩む。早川さんをみて私もホッとして泣きそうになった。

 早川さんが私と一度寝た事で途端に興味が無くなってしまってもう連絡もなかったらどうしようとあれこれ考えていたのだ。

 早川さんが座って乾杯した後で

「もう会ってくれないのかと思った。」

 と軽い口調で言ってみた。

「ごめんね。本当、ごめん。」

「もう私に興味無くなっちゃったのかと思って。」

 と私はすねてみせた。

「ごめん、悪かった。」

 早川さんはまた謝った。

「でも今日電話くれたからすごく、すごくうれしい。本当にうれしい。」

 私がそう言うと

「興味無くなるなんて事ないよ。変な事考えちゃダメだよ。」

 と早川さんは笑いながら言って私の頭にコツンとげんこつをぶつけるまねをした。

 早く二人きりになって目一杯愛しあいたかった。早川さんも考えている事は同じだったらしく飲むのを早々に切り上げるとすぐにホテルに向かった。

 私が早川さんに抱かれたいと切望するのと同じように早川さんも私の身体を貪った。二人とも快感に呻き歓喜して果てた。

 愛する男に抱かれて絶頂を迎えるくらい幸せな瞬間はない。この時私はその幸せの最中にいた。
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