追い討ち(8)

文字数 637文字

 さっき課長と乾杯したばかりだ。なんという日だろう・・・

「早川さん。」

 ぎこちない沈黙を破って私が口を開いた。

「私、別の人がいるの。ごめんなさい。」

 早川はビールを一口飲んでから言った。

「いいんだよ。それで。」

 嫌味な風ではなかった。

「俺も全然会えなかったし構ってもあげられなかったから。謝らなくていいよ。俺の方こそごめんね。」

 私は寂しく微笑んだ。本当は切なくて泣きたくて、喉のあたりが苦しかった。

「わかってたんだ。始めから。」

 早川さんは言った。

「始めからわかってる気がした。俺達はうまくいかないって。だからためらってたんだ。」

 私を見て微笑んだ。

「ミズキちゃんみたいな寂しがりで甘えたがりな女の子は俺といてもあまり幸せになれない気がしてた。」

 付き合っている間、早川さんはその心境をほとんど語ってくれなかった。今初めてあの頃の気持ちを打ち明けてくれた。

「ミズキちゃんはかわいいし俺の事を思ってくれてるのも気づいてたから付き合っていきたいと思ったけど無理だったみたいだ。」

 私は早川さんを見つめていた。

「私、やっぱり早川さんがすき。声も、目も、鼻も、唇も、指も。全部好き。なのに・・・どうして・・・」

 涙がまたこぼれそうになる。

「さっきも泣いてたね。俺のためにはもう泣かないで。仕方がなかったんだよ。」

 早川さんはいつも優しかった。

「俺達はきっと縁がなかったんだ。そういう運命だったんだ・・・」

 早川さんは私をいたわるような、寂しげに見えなくもない微笑を浮かべて言った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み