追い討ち(3)

文字数 499文字

 今までずっと思ってきたこと。

 今まで自分の恋愛を自分の都合のよいように考えていた。形の上では課長は奥さんのものだけれど本当は私のもの。心も身体も課長は私のもの。

 きちんとアイロンがけされたハンカチをみる度に胸に電流が抜けるような激痛が走った。

 その痛みは精神的というよりほとんど肉体的な痛みに感じるほどだった。そのたびに奥さんに感じた嫉妬。

 課長が愛しているのは私なのに何故あなたは存在しているんだろう。ただ先に出会っただけで今課長の心にあなたはいない。

 奥さんさえいなければ一緒になれるのに。課長を喜ばせてあげられるのは私なのに。今、課長に必要なのは奥さんじゃなくて私。だから奥さんは身を引いて私に課長を頂戴。

 見えない奥さんへ向けたやいば。そんな事ができた立場ではなかったけれど、どうしようもなくメラメラと沸きあがる嫉妬。

 それでも私は保険のように盲信していた。

「課長の魂も身体も本当は私のもの」と。

 奥さんといる時の課長はただの抜け殻。心も身体も私が吸い取った後の抜け殻。

 私は今までそう信じてきた。でもそれは真実ではなかった。課長は何一つ私のものではなかった。今や会うことさえ許されない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み