微風(18)

文字数 994文字

 翌日、木曜日の朝、ワールドトラベルから戻り午前中の申請に出かけようとしたところで支店長に呼び止められた。

「川村さん、花束を用意してないでしょ?」

「はい、まだでした。」

「だろうと思って。」

 支店長はこういう細かい所に気がつく女性的な人だった。

「はい、これ。」

 と言ってお金が入った封筒を渡された。

「これで花束を2つ頼んできて。明日の夕方までに用意しておいてって。花屋がわからなければいつも頼む所を総務に行って聞いていらっしゃい。」

「はい、わかりました。聞いてきます。」

「領収書はYT株式会社トラベル事業部銀座支店でね。」

「はい。わかりました。」

 私はその足で5階の人事総務部に行って花屋の場所を聞いてきた。それから外出に出た。

 午前中は予定がタイトだったので午後の外出の際に花屋によって花束を頼んできた。予算とイメージを説明して金曜日の17時までには取りに来るからと伝えた。

 いつもより急いでビザの受領やチケットピックアップなどの用事を済ませ先輩2人に私から贈るプレゼントをさがした。

 転職先でも使うであろうかわいいステーショナリーをいくつか選んでラッピングしてもらった。
 先輩2人が去ってしまうのが実感として沸いて来て切なくなった。

 金曜日の朝礼時、18時に夕礼をする事、19時から送別会をするので全員早めに仕事を切り上げて参加するようにと支店長から話があった。

 先輩達は挨拶回りもあるので出来るかぎり私が外出をした。バタバタと動き回り、昼食も外回りついでに簡単に済ませ夕方早めに社に戻った。

 いったん荷物を置いてから花束を取りに行った。急いで先輩達に見えない所に花束を隠して残りの仕事を片付けた。

 月曜の午前中の申請の準備がほぼ終わる頃夕礼が始まった。支店長が今までの労苦をねぎらい、先輩達が1人ずつ挨拶した。2人とも泣いていた。

 私もつられて涙が出て来た。挨拶が終わり私とマリが2人の先輩に花束を渡した。泣きながら

「ありがとうございました。」

 と言った。

「頑張ってね。川村さんなら大丈夫だよ。」

 と石原さんが言ってくれた。山崎さんにもありがとうございましたと言って握手した。山崎さんも泣いていた。

「じゃあこれで夕礼は終わります。送別会を19時にスタート出来るように、遅刻しないように残りの仕事を片付けて下さい。」

 支店長が言って夕礼は終わった。先輩達は2階や5階にも挨拶に向かった。
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