微風(9)

文字数 925文字

 有楽町まで歩きながらビザ取りの仕事なんて大手旅行会社ならアルバイトがしている仕事だとつくづく思った。

 横浜からの帰りは新橋にある代理店でチケットのピックアップをしてから最後にワールドトラベルで今朝申請した分をピックアップする予定だった。社に戻るのは18時にはなってしまいそうだ。

 他の二人の先輩も同じようなタイトなスケジュールで外出していた。なるべく同じ路線、方面で回れるように3人で相談しながらルートを決めていた。

 横浜韓国領事館が入ると時間が取られて3人とも大変になった。

 無事受領も終わり新橋まで戻った。チケットをピックアップしての帰り際、代理店の担当者に呼びとめられた。

「YTさんの分、もう1件ありますけど一緒にピックアップしていきますか?」

 と言われた。営業から依頼されていた分ではなく銀座支店の2階にある特販チームの分らしかった。

「じゃ、受け取っていきます。」

 私は答えてその分もピックアップして社に戻った。

 帰社したのは18時30分頃だった。既に定時の退社時刻は過ぎていた。最近では退社時刻に帰れる事など全くなかった。

 席につくとすぐに内線がかかってきた。特販チームの先輩、内藤さんだった。

 内藤さんは頭の回転が非常に早く仕事が出来ると評判だったがそれを鼻にかけているところがあった。そして周りにも自分のペースを要求するタイプでとろい事をしていると怒られた。

 内線を受け取るとかけてきた内藤さんに

「川村、お前チケット、アップしちゃっただろ。」

 と急に怒鳴られた。

「今から届けるつもりだったんですけど・・・」

 と恐々言った。

「届けるじゃないよ。頼んでもいないのになんで余計な事するんだよ。」

 (余計な事って・・・)

 良かれと思って一緒にピックアップしてきたのにと内心ムッとしながらも

「すみませんでした。」

 ととりあえず謝った。何がいけなかったのか腑に落ちなかった。

「自分がしたことわかってるのか?それセンディングにかけなきゃいけない分だから滝沢がアップしてその足でセンディングにかけるはずだったのにさ。滝沢がアップに行ったらお前がもうピックアップして帰ったっていうじゃん。」

 私は初めて

 (ああ、そういう事もあるのか)

 とびっくりした。
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